財政・金融政策は円高にいかに対応するか?
対米ドルで80円を大きく割り込むような猛烈な円高が進んでいる中、本日の午前中に財務省が為替介入に踏み切りました。なお、ここ2年ほど、すなわち、民主党による政権交代後の期間における対米ドル為替レートの推移は以下のグラフの通りです。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のサイトからデータを引いています。
今週号の「週刊 エコノミスト」では、「強固な円高」と題する巻頭特集が組まれており、為替動向を決定する理論的な背景として、マンデル・フレミング効果、バラッサ・サムエルソン効果、経常収支の3点から解説が加えられていますが、私はその昔に流行った「ソロス・チャート」の含意も含んだマンデル・フレミング効果が基本的に短期の為替を説明する有力な仮説であると考えています。もちろん、長期には購買力平価仮説が成り立つ可能性はもちろん排除しません。要するに、国内通貨と外貨の需給で為替が決まると考えるのが標準的な理論であると考えています。米ドルをはじめとする外貨の供給に比較して、相対的に国内通貨、すなわち、円が過小にしか供給されておらず、希少性が高いのが円高の原因と考えるべきです。ひいては、円は国内における交換対象である財と比較しても相対的に希少性を高めていますから、通貨が過大評価される、すなわち、国内ではデフレが生じています。円高とデフレは表裏一体であり日銀の金融政策の必然的な帰結と考えるべきです。ここ数か月の我が国における経済政策では、諸外国と比較して相対的に金融政策の緩和が進まず、逆に、政権交代後の財政支出拡張的な財政運営と震災の影響もあって財政政策は緩みっぱなしなものですから、変動為替相場制下におけるマンデル・フレミング的な効果により円高が大きく進んでしまっている可能性があります。財政・金融政策が為替を円高方向にすすめるように運営されていますから、政府が為替介入というかなり暴力的な手段に訴えることになりました。日銀も今日の金融政策決定会合を1日で切り上げ、小出しに金融緩和を進める姿勢を見せましたが、これだけデフレが続いているにもかかわらず、米国の連邦準備制度理事会 (FED) や欧州中央銀行 (ECB) に比較して、追加の金融緩和には及び腰で、政府の財政支出拡張的かつ増税に否定的な財政政策も目先のところ改められる方向にはないようですから、為替介入のボリュームにもよりますが、変動相場制下のマンデル・フレミング効果からすれば、市場の期待にどれだけ影響するかも不明で、為替介入は円高トレンドを転換させるほどではなく、効果は短期間かつ限定的である恐れがあります。理由は日本の単独介入だからではなく、為替相場を経済政策のターゲットに入れるのであれば、財政・金融政策をかなり根本的に見直さねばなりませんが、現在の政府と日銀にそのようなリーダーシップを期待するのは難しい可能性がウワサされているからです。財務大臣が「現在の為替水準は日本経済のファンダメンタルズを反映していない」旨の発言をしていると報じられていますが、日本の政策当局のスタンスを反映している可能性があります。なお、単独介入になった点に関しては、クルーグマン教授の表現を借りれば、政府の財政赤字削減努力や日銀の金融緩和といった宿題をちゃんとやっていないんですから、さしもの優秀な財務官僚も各国の賛同を取り付けるのは難しかったと見えます。
日銀金融政策決定会合と為替介入に関する感想だったんですが、これだけではやや物足りない感がありますので、誠についでながら、最近の経済に関する話題をいくつか拾っておきたいと思います。まず、アジア開発銀行 (ADB) から Asia 2050: Realizing the Asian Century と題する本が出版されました。10年以上も前に、同じアジア開発銀行からよく似たタイトルで China 2020 という出版物が出されて、私はジャカルタで読んで「いいセン行っている」と考えていたことを覚えています。それはともかく、この Asia 2050 では中国やインドを中心に今後アジアの経済力が世界で高まり、GDPシェアが2050年には50%を超えると予測しています。他方、我が国は大きく世界シェアを低下させるとも見込まれています。上のグラフは Executive Summary の p.3 Figure 1 Asia's share of global GDP, 1700-2050 から引用しています。
経済的な重要性を低下させる日本の典型例のひとつは余暇活動の経済規模に現れます。上のグラフは日本生産性本部の『レジャー白書2011』の「巻頭要約」 p.2 余暇市場の推移を引用しています。必需品市場よりも景気動向を強く反映しそうな気がします。
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