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2011年8月26日 (金)

消費者物価上昇率の計算方式変更について考える

本日、総務省統計局から消費者物価が発表されました。7月の全国と8月の東京都区部です。今回の公表から201年に基準改定された指数に基づく結果となります。全国のコアCPIは前年同月比で+0.2%の上昇、東京都区部の8月は▲0.2%の下落となりました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7月の消費者物価0.1%上昇 2年7カ月ぶりプラス
総務省が26日発表した7月の全国消費者物価指数(cpi、2010年=100)は、値動きが激しい生鮮食品を除くベースで99.8となり、前年同月比0.1%上昇した。ガソリン高の影響で2年7カ月ぶりのプラスとなった。ただ薄型テレビなどデジタル家電の価格は大きく下落しており、需要不足によるデフレ圧力はなお根強い。
生活必需品の価格が資源高を背景に上昇し、消費者物価を押し上げた。エネルギーでは、ガソリンが10%、電気代が3%上昇した。小麦の国際価格の上昇をうけ、食パンが2%上がった。
耐久財の価格は下落基調が続いている。食料とエネルギーを除いたcpi(欧米型コア)は0.5%下落した。下落率は6月の0.8%より縮まった。ただ、薄型テレビの価格が3割低下し、ノート型パソコンやエアコンも値下がりするなどデフレの流れは続く。大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは「海外経済の減速などで家計の所得が悪化すれば、再びデフレ圧力が強まる可能性がある」と指摘する。
CPIは7月分から基準年を05年から10年に切り替えた。最近の消費動向を反映した結果、新製品が相次ぐ薄型テレビの値下がりの影響が大きくなった。
総務省が同日発表した東京都区部の8月のCPI(中旬速報値)は、生鮮食品を除くベースで0.2%下落した。

次に、いつものグラフは以下の通りです。全国のコアCPI上昇率とその寄与度についてエネルギー・食料・その他に分解したもの、コアコアCPI上昇率、東京都区部のコアCPI上昇率です。なお、詳しくは後に書きますが、発表されている指数とウェイトを基に私が計算した結果をグラフにしています。黄色い棒グラフで示したエネルギーに引っ張られた物価上昇といえます。

消費者物価上昇率の推移

次に、全国7月のコアCPI上昇率はほぼ2年半振りにプラスを記録しましたが、東京都区部の8月は再びマイナスに転じています。この現象をとっても分かりやすく表現したのが以下のグラフです。2009年からの東京都区部のコア消費者物価指数を月別にプロットしています。もちろん、全国と東京都区部で同じ動きをしていると主張するつもりはありませんが、昨年7月の指数がポコンと下げているのが見て取れます。今年7月のプラスのCPI上昇率は昨年7月の指数に起因するようです。従って、東京都区部と同じように全国8月の消費者物価上昇率も再びマイナスに戻る可能性が大いにあります。特に、たばこが値上げされた10月には前年の指数がハネ上がっていることから、今年の上昇率はマイナスになる可能性がかなりあると受け止めるべきです。

消費者物価指数の推移

タイトルにした重要な点を後回しにしましたが、今回の基準改定から指数と上昇率の間に不整合を生じるような計算方法に変更されています。総務省統計局の消費者物価指数のサイトにある利用上の注意から引用すると以下の通りです。第2点目です。

利用上の注意
変化率、寄与度及び寄与率は、平成17年基準までは、端数処理(四捨五入)後の小数第1位の指数値を用いて計算していたが、平成22年基準からは、端数処理前の指数値を用いて計算しているため、公表された指数値を用いて計算した値とは一致しない場合がある。

8月12日付けのこのブログで「謎」としていた点は引用した通り、計算方法が変更されているために生じています。上に引用した文言を平たく言えば、物価指数は2通りあって、小数点1ケタで丸めて公表される指数と、丸めずに端数を持っていて上昇率を計算する基礎となっているが公表されない指数、の2通りです。ちなみに、後者が何ケタの端数を持っているのかは不明です。
ですから、結果として、指数を基に計算した上昇率、前月比であれ、前年同月比であれ、「発表された指数を基に計算した上昇率」は「上昇率として発表された上昇率」と一致する保証はありません。上昇率はそれ自体として発表されますので、まだ許容範囲なのかもしれませんが、統計局で個別に発表される例外を除いて、上昇率の寄与度は我々エコノミストを含めたユーザには概算でしか計算できないことになります。
そもそも、端数を持った指数で計算した上昇率の方が正確であるという、かなり疑わしい統計局の信念で計算方法が変更されたことと推測していますが、この統計局の信念の疑わしさはひとまず不問に付すとして、私は上昇率を計算する基となっている端数を持った指数を公表すべきであると考えています。そうでなければ、統計局が偶然にも公表する寄与度でしか物価を分析できない可能性も排除できず、エコノミストとしては職業放棄にもつながりかねないからです。
ただし、この私の主張に対して、同業者のエコノミスト諸氏は驚くほど冷静に対応している可能性があります。私個人は何人かの知り合いからカギカッコ付きの「不満の声」を直接聞きましたが、ニューズレターやメディアの記事などで大っぴらなエコノミストからの「不満」は見かけません。いつもは日銀、財務省、あるいは、内閣府などの主張を右から左にタレ流しているエコノミストもいたりするんでしょうが、この点に関して目立った批判を私は目にしておらず、逆にいえば、日銀や官庁も黙認しているのか、と受け取れなくもありません。私だけが他のエコノミストと異なる主張をすることはありがちなんですが、我が国エコノミストは一般国民と同様に「ガバナビリティ」が高くて官庁には逆らえないのか、あるいは、誠に失礼ながら、分析のレベルがその程度であったのか、はたまた、最も可能性が高く見えるのは、これから「不満」がドッと噴き出すのか、私には不明です。3番目の最も可能性の高い見通しに関して言えば、計算方法を端数なしの指数を基にする旧来の方法に戻すとの主張よりは、現在発表されている上昇率算出の根拠となっている端数ありの指数を公表すべき、との私に近い意見が出て来ることを期待したいと思います。もっとも、それはILOマニュアルに反しているのかもしれません。おそらく、あくまでおそらくですが、統計局の統計担当者の方がILOマニュアルには詳しいんでしょう。

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