社会保障給付と全国消費実態調査に見る手厚い高齢層への給付
先週金曜日、10月28日の政府統計の集中発表日に、コッソリと、というわけでもないんでしょうが、国立社会保障・人口問題研究所から「平成21年度社会保障給付費」が発表されています。国立社会保障・人口問題研究所のサイトには全文リポートもアップされていますが、まずは、概要メモからポイントを3点引用すると以下の通りです。
平成21年度社会保障給付費(概要)
(1) 平成21年度の社会保障給付費は99兆8,507億円であり、対前年度増加額は5兆7,659億円、伸び率は6.1%である。
(2) 社会保障給付費の対国民所得比は29.44%となり、前年度に比べて2.70%ポイント増加している。
(3) 国民1人当たりの社会保障給付費は78万3,100円で、対前年度伸び率は6.3%である。
上の(1)と(3)で明らかなように、成長率がほぼゼロであるにもかかわらず、社会保障給付費は6%を超える伸びを記録しており、その結果、(2)にある通り、社会保障給付費の対国民所得比、あるいは、対GDP比でもほぼ同じだと考えられますが、この比率はかなり大きくなっています。従って、次の調査では100兆円を超えるのがほぼ確実と考えられます。もちろん、これには高齢化の進展が大きな要因となっているわけですが、社会保障給付に歯止めがかからない現状がよく表れています。他方、保険料については少子化の影響も決して無視できませんが、日経新聞の報道にある通り、前年比で▲3.5%減となっています。
上のグラフは国際比較について、「平成21年度社会保障給付費」全文リポートの p.40 のデータを少し私なりに整理してグラフにプロットしたものですが、実は、基準年が2007年ですので昨年11月16日付けのエントリーとまったく同じグラフとなっています。ですから、私の感想も同じなんですが、日本の社会保障給付は世界的に見ても圧倒的に「高齢」分類に割り当てられており、「家族」分類が極めて貧弱になっています。「高齢」分類に振り向けられる社会保障給付はGDP比で見て北欧の高福祉国であるスウェーデンを上回っている一方で、「家族」分類は低福祉国と目される米国をわずかに上回っているに過ぎないのが統計で確かめられます。「高齢」分類と「家族」分類が10倍の開きを持っているのは世界でもめずらしいのかもしれません。
例えば、上のグラフは本日発表された全国消費実態調査の各種係数及び所得分布に関する結果について要約リポートの p.4 から引用していますが、年齢階級別に所得の不平等度を表すジニ係数が所得の再分配でどのように改善されたかを示しています。30歳未満や30-49歳の勤労世代では改善幅は極めて小さく、逆に、65歳以上の引退世代では所得再分配効果が極めて大きいことが読み取れます。しかも、1999年から2004年にかけて65歳以上引退世代の所得再分配効果は強化されています。どの階層に社会保障給付が回されているかを如実に表していると考えるべきです。先週10月24日付けのエントリーで「日を改めて」と先送りしてしまいましたが、同日付の日経新聞経済教室の白波瀬教授の「現役世代の再配分強化を」と題する論考もまったく同じ問題意識に基づいていると私は受け止めています。
本日最後のグラフは日経新聞のサイトから引用していますが、このサイトにアクセスするためには何らかの無料の登録を要求されるようです。悪しからず。それはともかく、グラフが何を表しているかというと、前の自民党と公明党の連合政権下で、デフレに伴う物価調整をしなかった結果、年金が6年間で15兆円もの過払いになっている実態があり、その結果、年金の給付水準が所得代替率で見て、政府の見通しとは逆に上昇してしまっていることが読み取れます。小泉内閣での2004年度の年金改革がまったく反故にされています。
当然ながら、ここまで高齢の引退世代を優遇する背景はシルバー・デモクラシーです。そもそも人口が多い引退世代がさらに投票率が高いんですから、選挙における得票に対する影響力は圧倒的です。政治家が勤労世代よりも引退世代からの得票を期待した政策を取れば、このような結果になるというお手本のような政策です。時間を通じたダイナミックな最適化に明らかに失敗している「政府の失敗」を回避する方法は現時点で私にも考えつきません。
最後に、社会保障給付から離れて、本日午前、政府は為替介入を実施しました。何度もこのブログで主張している通り、タイトな金融政策とルーズな財政政策の組合せによってもたらされた円高を暴力的な市場介入により是正しようとするものですが、最後に2点だけ主張しておきたいと考えます。第1に、介入前までの円高は安住財務大臣の発言にあったような「投機」に基づくものかどうか私は疑問に感じています。金融市場での実に素直な取引に基づく結果のように見えますから、この均衡点を修正したいのであれば何らかの強力な政策が必要です。介入という解答なのかもしれません。第2に、「中央銀行の独立」を履き違えたため、タイトな金融政策がどうしようもないなら、大規模な介入と非不胎化政策の組合せが、介入の規模にもよるものの、金融緩和と同じ効果を持つ可能性があります。これは「中央銀行の独立」を誤解した政府のコストです。ですから、「中央銀行の独立」を正しく理解していれれば、このコストは不要だった可能性があります。
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