福田和代『ヒポクラテスのため息』(実業之日本社) を読む
昨日の読書感想文の日記は中途半端でしたので、今日は、本格的にちゃんと読んだ本を取り上げたいと思います。福田和代『ヒポクラテスのため息』(実業之日本社) です。作者のブログサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
2011-09-15 新刊『ヒポクラテスのため息』本日発売です!
最新刊、『ヒポクラテスのため息』本日発売です!
今回は、なんと倒産間近の病院が舞台です。
医者になんかなるもんか、と反発して家を飛び出し、システムエンジニアの道を歩いていた主人公(風祭翔)が、実家の父の急死にともない、一時的に病院の理事に就任することを頼まれて……。
病院経営青春小説です。
医療崩壊などと叫ばれて久しいですが、医療の現場も頑張ってます!
『TOKYO BLACKOUT』や『迎撃せよ』や『タワーリング』などの大がかりなテロや犯罪を扱っていた作風から、前作の『リブート!』でガラリと身近なトピックに切り換えて、登場人物のキャラをしっかり書くように、そして、キャラ立ちさせることによって感情移入が出来るように、テーマの選び方も含めて大きく方向転換したんですが、まあ、その模索途上の一作ということで理解すべきです。
あらすじは引用した通りで、奈良で病院経営する父親の後を継いで医者になることなく、東京に飛び出した一人息子が父親の死に際して奈良に戻って病院を立て直そうとする物語ですが、少なくとも、フィクションなんですから、この作家のその昔のテロや犯罪ものと同じで、同時に、有川浩さんの『県庁おもてなし課』とも共通して、地方の医療崩壊の現場を描写するノンフィクションと同一視すべきではないと私は考えています。その意味で、登場人物が少ない、特に医者があまり出て来ないのはさて置くとしても、極めて特異なキャラをもった人物ばかりが配されています。その方が書きやすいんだろうと思います。特に女性は、主人公の母親、許嫁、病院の総務課員、と極めて特異なキャラをもった人物ばかりです。少なくともカギカッコ付きの「弱い女性」は登場しません。エンタテインメントとしては面白いのかもしれませんが、文学作品としては少しだけ疑問です。
この作者は基本的に大衆小説の作家だと認識していますので、サラリと純文学的な小説を書くのはムリかもしれませんが、少なくとも、「特異なキャラが特異な事件を引き起こす小説」から、「特異なキャラが日常の生活を営む小説」まで改善されたことは確かです。もうひとがんばりして、必ずしも個性的でない普通のキャラをキチンと書き分けられるようになれば、私もこの作者の本を買いたいと思います。今までは、すべて図書館で借りて読みました。新刊書がこれほどスンナリと借りられる作者から脱皮して欲しいと思います。
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