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2011年11月14日 (月)

7-9月期GDP速報は予想通りの高成長を記録

本日、内閣府から7-9月期のGDP速報、エコノミストの間で1次QEと称されている重要な経済指標が発表されました。季節調整済みの実質成長率は前期比で+1.5%、前期比年率で+6.0%の高い伸びを記録しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。


内閣府が14日発表した2011年7-9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比1.5%増、年率換算で6.0%増となった。プラス成長は4四半期ぶり。東日本大震災後の自動車生産の回復で輸出が伸びたほか、個人消費も増えた。日本経済は震災前の水準を取り戻したが、先行きは円高や海外経済の減速で回復力が鈍りそうだ。
実質GDPは年率換算で約542兆円と、震災前の10年10-12月期(約540兆円)を上回った。前期比伸び率は10年1-3月期(2.5%増)以来の大きさ。生活実感に近い名目GDPは1.4%増、年率で5.6%増だった。
古川元久経済財政担当相は「サプライチェーン(供給網)の立て直しが急速に進んだが、足元では海外景気の回復が弱まり、景気の持ち直しテンポが緩やかになっている」と強調した。
全体で前期比1.46%増となった実質GDPの増減にどれだけ影響したかを示す寄与度をみると、個人消費など内需が1.04%分、外需が0.42%分押し上げた。
需要項目別では、個人消費が1.0%増。自動車購入が伸びたほか、旅行やレジャーなどサービス消費が持ち直した。住宅投資は5.0%増加。
設備投資は1.1%増。自動車メーカーが投資に動き出したほか、復旧・復興需要で建設用クレーンの投資が伸びた。民間の在庫動向も成長率を0.2%分押し上げた。公共投資は仮設住宅の建設が増えた前期の反動で2.8%減少した。
外需では、自動車が急回復した輸出が前期比6.2%増加。輸入は国内の生産回復や火力発電用の液化天然ガス(LNG)の調達増で、3.4%増えた。
総合的な物価の動向を示すGDPデフレーターは前年同期を1.9%下回った。8期連続の下落。前期比では0.1%下落にとどまったが、物価が持続的に下落する緩やかなデフレ基調がなお続いている。

ということで、いつもの通り、ほぼ適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。

需要項目2010/
7-9
2010/
10-12
2011/
1-3
2011/
4-6
2011/
7-9
国内総生産GDP+0.7▲0.7▲0.7▲0.3+1.5
民間消費+0.9▲0.6▲0.5+0.5+1.0
民間住宅+1.1+2.1+1.4▲1.1+5.0
民間設備+0.6▲0.1▲1.1▲0.5+1.1
民間在庫 *+0.4▲0.0▲0.2+0.2+0.2
公的需要▲0.0▲0.6+0.6+1.2▲0.1
内需寄与度 *+0.9▲0.6▲0.5+0.5+1.0
外需寄与度 *▲0.2▲0.0▲0.2▲0.8+0.4
輸出+0.1▲0.5+0.2▲5.0+6.2
輸入+1.5▲0.2+1.7+0.1+3.4
国内総所得GDI+0.8▲0.7▲1.5▲0.8+1.3
名目GDP+0.1▲0.9▲1.1▲1.5+1.4
雇用者報酬+1.1▲0.1+0.1+0.5+0.0
GDPデフレータ▲2.3▲1.7▲1.9▲2.2▲1.9
内需デフレータ▲1.6▲1.1▲0.9▲0.8▲0.4

テーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7-9月期の最新データでは公的需要を除いて、すべての需要項目がプラスの寄与を示しています。赤の消費と黒の外需が特に大きいことが読み取れます。

GDP前期比成長率と需要項目別寄与度の推移

プラスの寄与度の大きい消費と外需についてもう少し詳しく見ると、まず、消費は下のグラフの通り耐久財の伸びが大きくなっています。政策効果の最後の駆込みで、エコポイントは3月でとっくに終わっているんですが、被災3県を除く7月の地デジ完全移行に伴うテレビが寄与しているんではないかと受け止めています。また、外需については震災の影響によるサプライ・チェーンの毀損からの復旧に伴う輸出の増加が寄与しており、確かに前期比でプラスなんでしょうが、正常化の範囲内と考えるべきです。いずれにせよ、7-9月期の特殊要因であったり、年央まで続いた震災からの復旧に伴う「ゲタ」に基づくものであり、サステイナビリティには大きな疑問が残ります。

形態別の消費の伸び率

消費についてはもちろん、輸出は欧州を震源とするソブリン・リスクの顕在化によって世界経済が大きく失速する中で、円高も加わって、先行きに明るい展望が持てるわけはありません。消費も雇用者報酬が底堅く推移していることから、一定の景気を下支えする効果は見込まれますが、少なくとも現段階では、景気をけん引するだけの力強さには欠ける可能性が大きいと私は考えています。さらに、ゆくゆくは復興需要が見込めるとはいえ、7-9月期に公的需要はマイナスを記録しています。近日中に第3次補正が国会を通過したとしても、執行は年明けになる可能性が高いと考えられます。ということで、下のグラフは、7-9月期までの実績値に経済企画協会のESPフォーキャストのデータを継ぎ足してプロットしていますが、7-9月期の高成長の後、10-12月期は成長率が大きく鈍化する点については多くのエコノミストの間にコンセンサスがあるといえます。なお、私は10-12月期もギリギリでプラス成長と見込んでいますが、マイナス成長との見方を示すエコノミストも少なくありません。しかし、年明け1-3月期については第3次補正予算の執行も始まり、足もとの10-12月期より成長率を高めるのではないかと期待しています。

GDP前期比年率成長率の推移

何度もこのブログで繰返しましたが、足もとから来年年明けころの景気は復興需要のプラス要因と世界経済の失速に円高が加わったマイナス要因の綱引きになります。10-12月期については第3次補正予算の執行に至らず世界経済の失速ばかりが目立つことになり、来年1-3月期には第3次補正予算の執行が始まって復興需要が本格化します。ただし、その時点における円高や世界経済の動向は不透明極まりありません。

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