川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』(講談社) を読む
川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』(講談社) を読みました。『ヘヴン』の読書感想文を書いたのが2009年9月23日付けのエントリーでしたから、ほぼ2年振りの新刊ということになります。前作の『ヘヴン』は「初の長編」という触込みでしたが、今回の『すべて真夜中の恋人たち』は「初の長編恋愛小説」というキャッチフレーズです。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
あらすじ
入江冬子、34歳はフリー校閲者。人づきあいが苦手で孤独を当たり前のように生きてきた彼女の唯一といっていい趣味は、誕生日に真夜中のまちを散歩すること。友人といえるのは、仕事でつきあいのある大手出版社社員で校閲局勤務の石川聖。ふたりの共通点は、おない年で出身県が一緒であること。ただ、それだけ。冬子は、ある日カルチャーセンターで初老の男性と知り合う。高校の物理教師という、その男性の「今度は、光の話をしましょう」という言葉に惹かれ、冬子は彼がときを過ごす喫茶店へ向かうようになる。少しずつ、少しずつ、ふたりの距離は縮まってゆくかにみえた。彼に触れたいという思いが高まる冬子には、高校時代に刻みつけられたある身体の記憶があった――。
中学2年生の少年少女を主人公にした前作『ヘヴン』では、私は「どうして時代背景を1991年にしたのか」という疑問を呈しました。要するに、作者と同じ世代の主人公を描き出しているのだろうか、というのがひとつの仮説でしたが、今回の作品は30代半ばの女性と60歳前の初老の男性の恋愛諸説ですから、やっぱり、主人公は作者と同世代ということになります。
私の詰らない仮説はさておき、やわらかな文章の恋愛小説です。単純にひらがなが多いのもそうした印象を与えているのかもしれません。そういう意味で、一昔前の表現ですが、「女性らしい文章」ということもできるかもしれません。30代半ばの女性である作者が「恋愛とは何か」について考えているのであろうと読者に想像させるに十分な表現力と構成力を持った作品です。登場人物について、石川聖以外はサラっとした性格で、アクも強くないんですが、読んでいて理解が進むというか、感情移入が出来そうなキャラに仕上がっています。あらすじにはないんですが、主人公が勤めていた会社の女性が石川聖の陰口をいう場面とか、主人公の高校のころの友人が家族でディズニーランドに来た際の会話とか、よく考えられた文章だと受け止めています。構成にしても、最近の安直な小説は一直線で進む展開もめずらしくないんですが、この作品はちゃんとサイクルがあり、登場人物のいろんな面を見せてくれます。その昔は「起承転結」と表現していたのかもしれません。また、ある意味で、女性向けの小説ではないかという気がしないでもないんですが、私のような中年のオッサンにも十分に楽しめる一級品の小説、純文学に仕上がっていると思います。もともと、私は期待が大きいだけに、この作者の作品の評価は甘いんですが、一応、5ツ星としておきます。
作者のブログ「純粋悲性批判」では、この作品は「すべまよ」と略称されていたりします。もっとも、出版社の特設サイトのディレクトリは "mayonaka" で作成されています。どちらに親近感を覚えるかは受け手によって違うのかもしれません。
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