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2011年12月 8日 (木)

大きく崩れた機械受注と経常収支、2か月振りに悪化した景気ウォッチャー

本日、内閣府から設備投資の先行指標となる機械受注統計が、また、財務省から経常収支などの国際収支が、さらに、内閣府から景気ウォッチャー調査結果が、それぞれ発表されています。景気ウォッチャーは11月、それ以外の機械受注と経常収支は10月の統計です。各統計のヘッドラインを簡単に振り返ると、機械受注は船舶と電力を除く民需が2か月連続で大幅に減少し、経常収支も貿易赤字の影響で大きく黒字幅を縮小させています。景気ウォッチャーも現状判断DIが2か月振りに悪化しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、10月6.9%減 欧州危機や円高で2カ月連続減に
内閣府が8日発表した10月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需(季節調整値)」は6874億円となり、前月に比べて6.9%減った。9月は8.2%減少しており、2010年1、2月以来の2カ月連続減少となった。欧州債務危機や円高などを背景に先行きへの不安が強まり、企業は投資に対して一段と慎重になっている。
機械受注統計は機械メーカーから、工場の生産設備などの受注額を聞き取り算出する。船舶・電力を除くベースの民間需要は、3カ月から半年ほど先の民間設備投資の先行指標とされる。
受注額が7000億円を下回るのは10カ月ぶり。内閣府は機械受注の判断を「一進一退で推移している」と据え置いたが、「足元で弱い動きになっている」との見方も示した。
業種別に見ると、製造業は5.5%増加。一般機械や自動車が工作機械などを発注し全体を押し上げた。一方、情報通信機械は3割減。国内外でのパソコンなどデジタル家電の販売不振を受け、9月の4割減に続く大幅なマイナスだった。
非製造業は7.3%減少した。運輸業・郵便業が3割減った。農林漁業も東日本大震災後の復旧投資が一巡し、2割弱落ち込んだ。通信業はスマートフォン(高機能携帯電話)用の基地局増設で4%増えた。
タイの大洪水は日本の生産にも一部影響を及ぼしているが、「機械受注への影響は今のところ見られない」(内閣府)という。10-12月期の機械受注見通しは前期比3.8%減。この見通しを達成するには、11、12月に前月比5.7%ずつ増加する必要がある。
10月の経常黒字62%減、8カ月連続縮小 輸出落ち込み
財務省が8日発表した10月の国際収支速報によると、モノやサービス、配当、利子など海外との総合的な取引状況を示す経常収支は5624億円の黒字となった。前年同月に比べ62.4%減り、黒字幅は8カ月連続で縮小した。世界的な景気減速の影響で半導体・電子部品などの輸出が大きく落ち込み、輸出から輸入を差し引いた貿易収支が2カ月ぶりの赤字に転落したことが響いた。
貿易収支は前年同月比で1兆1098億円減少し、2061億円の赤字となった。輸出は5兆2642億円で2.7%減った。10月の貿易統計によると、世界的に需要が低迷している半導体など電子部品が20.8%減と大きく落ち込んだ。船舶も32.4%減った。自動車は東日本大震災後の減産の反動で、6.1%増えた。
輸入は21.3%増の5兆4703億円。22カ月連続で増加した。石油価格の上昇などを受けて原粗油が33.4%増、液化天然ガス(LNG)は63.8%増と大きく伸びた。
旅行や輸送などの動向を示すサービス収支は2754億円の赤字。福島第1原子力発電所の事故の風評被害などで、日本を訪れる外国人の数が大きく減った。
企業が海外投資から受け取る利子や配当などを示す所得収支の黒字額は20.3%増の1兆1215億円だった。証券投資で得た配当金が増え、黒字幅は7カ月連続で拡大した。
貿易収支の赤字傾向は11月も続いている。財務省が同日発表した11月上中旬(1-20日)の貿易統計速報によると、貿易収支は3666億円の赤字となった。
輸出は前年同期に比べて7.2%減の3兆3923億円。半導体や電子部品などの輸出減が重荷となった。輸入は3.9%増の3兆7589億円。火力発電所用のLNGの輸入が引き続き高水準だった。
11月の街角景気、2カ月ぶり悪化 基調判断据え置き
内閣府が8日発表した11月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は前月比0.9ポイント低下の45.0と2カ月ぶりに悪化した。気候の影響による販売不振に加え、タイの洪水が悪影響を及ぼした。
現状判断は指数を構成する家計、企業、雇用の全てで悪化した。小売業では「月前半は高気温により冬物衣料が不調だった」(東海の百貨店)ことが響いた。製造業では「円高による業績悪化が続くなか、値引き要請がきたりしている」(中国の輸送業)という。
加えて、タイの洪水被害も実際に表れ始めている。北陸の自動車販売店からは「売上予定車の入荷が遅れ、売り上げが大幅に下がっている」との声が出たほか、製造業でも「タイの洪水の影響が出てきて部品が取り合いになり、調達できない」(北関東の電気機械器具)といったコメントが並んだ。
先行き判断指数は1.5ポイント低下の44.7と5カ月連続で悪化。「欧州の信用不安や過度な円高、タイの洪水による環境の悪化で、雇用情勢にも悪影響が出る」(近畿の職業安定所)など先行きの不透明感は根強い。
一方で、東日本大震災からの復興が本格化するのに伴って、被災地では「来客数と売り上げの好調が続いている」(東北の都市型ホテル)との声もある。タイの洪水についても「復旧メドは立っており、年明けには元の生産水準に回復する」(輸送用機械器具)と明るい声もある。
内閣府は月前半の気温上昇など一時的な要因の影響が大きかったとみて、景気の現状に対する基調判断を「円高の影響もあり、持ち直しのテンポが緩やかになっている」で据え置いた。

まず、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルはいわゆるコア機械受注といわれる船舶と電力を除く民需の系列とその後方6か月移動平均をプロットしています。下のパネルは需要者別の機械受注です。いずれも季節調整済みの月次系列であり、縦軸の単位は兆円です。影を付けた部分は景気後退期です。

機械受注の推移

機械受注は大きく減少しました。9月に続いて2か月連続での大幅減少です。市場の事前コンセンサスは9月の▲8.2%減の反動もあることから、10月は微増ないし横ばいという予想でしたので、やや意外な結果が出た印象です。業種別では9月に減少した製造業が10月はプラスに転じた一方で、逆に、9月プラスだった非製造業が10月は減少に転じました。しかし、業種単位のメゾスコピックな集計は最適化行動とは関係ないので、株価などを見る上では有益かもしれませんが、マクロ経済を見るエコノミストには重視されていない気がします。それはともかく、従来からの私の主張では、この10-12月期は復興需要のプラスと失速しつつある世界経済や円高の影響に伴う外需のマイナスのどちらがドミナントかによって景気動向が左右されると考えて来ましたが、内閣が交代しても遅々として進まない復興需要に対して、世界経済は着実に失速感を強めており、ほぼその通りの結果が機械受注やその先にある設備投資に出ていると私は受け止めています。このまま増税路線ばかりが強まれば、さらに停滞感や先行き不透明感が強まる可能性もなしとしませんが、今度こそ来年の年明けから復興需要が本格化すると思いますので、基本的には、10-12月期の弱い動きは一過性のものであろうと、私なりに期待を込めて楽観視しています。

経常収支の推移

次に、経常収支も貿易収支が赤字化した影響から、上のグラフの通り、黒字幅が大きく縮小しています。上のグラフは青い折れ線の経常収支に対して、棒グラフの各収支の寄与をプロットしています。色分けは凡例の通りです。もっとも、上のグラフは季節調整済みの系列でプロットしていますので、季節調整する前の原系列で論じている引用記事と少し印象が違う可能性があります。いずれにせよ、まだ少し残っているタイの洪水による供給面からの影響とともに、欧州発の債務危機に端を発する世界経済の大きな失速に起因する需要面からのマイナス効果、さらに円高に伴う価格面からのマイナス効果と、幾重にもネガティブな要因が重なっています。上に引用した記事にもある通り、11月の上中旬の貿易統計でも貿易収支は赤字を続けているようですし、日本の経常収支が黒字を維持するのは所得収支に頼る部分が大きくなっています。そして、経常収支の黒字幅、あるいは、経常収支の赤字転落が財政赤字のサステイナビリティの議論に直結しかねないことは周知の事実です。

景気ウォッチャーの推移

景気ウォッチャーの結果は上のグラフの通りです。折れ線グラフで現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。色分けは凡例の通りです。影を付けた部分は景気後退期です。3月の震災後のV字型の回復期を終えて、マインドは緩やかな下り坂と見えなくもありません。タイの洪水もあり、復興需要の出遅れと世界経済の急速な失速が強く表れ、データにも反映されているていると受け止めています。

景気動向指数の推移

最後に、昨日、内閣府から発表された景気動向指数を1日遅れでグラフを書きました。上の画像の通りです。一致指数が前月比1.3ポイント上昇して90.3に達しました。4か月振りの上昇でした。

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