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2011年12月 9日 (金)

GDP統計の基準改定から何を読み取るべきか?

本日、内閣府から景気の総合的な指標のひとつである四半期別GDP統計が発表されました。我がエコノミストの業界で2次QEと呼ばれている指標です。季節調整済みの前期比実質成長率は+1.4%と、1次QEの+1.5%から少し下方修正されました。ほぼ、12月6日の火曜日のエントリーで取り上げたのに近い結果と受け止めています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

実質GDP、年率5.6%増に下方修正 7-9月
内閣府が9日発表した2011年7-9月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比1.4%増、年率換算で5.6%増となった。速報値と比べ年率で0.4ポイントの下方修正。速報値でプラスだった設備投資がマイナスに転じた。海外景気の減速や円高で輸出の回復が鈍っており、11年度の政府経済見通し(0.5%増)の達成は困難な情勢だ。
内閣府は7-9月期改定値からGDP統計の基準年を2000年から05年に変更。統計の基礎となる国勢調査や産業連関表をより実勢に近い05年分に切り替えた。銀行利ざやの加算など推計方法も見直した。
従来統計でマイナス成長だった10年10-12月期が0.03%とプラス成長に転じたため、11年7-9月期のプラス成長は3四半期ぶりとなった。伸び率は改定値でも10年1-3月期(6.5%)以来の大きさ。生活実感に近い名目では前期比1.2%増、年率換算で5.0%増となった。速報値から年率で0.6ポイントの下方修正となった。
前期比1.4%増となった実質GDPを寄与度でみると、内需は0.8%分、輸出から輸入を差し引いた外需は0.6%分だった。
下方修正の主因は設備投資の減速。伸び率は速報値の1.1%増から0.4%減に落ち込んだ。円高や海外経済の変調などから企業の慎重姿勢が強まった。
個人消費も0.7%増と、速報値(1.0%増)から下方修正。自動車購入の伸びが鈍ったほか、「基準年変更も押し下げ要因になった」(内閣府)という。輸出は基準年変更の影響で上方修正された。
古川元久経済財政担当相は9日の閣議後記者会見で「海外景気の回復が弱まっている」と述べ、日本経済の下振れリスクを注視する姿勢を強調した。
政府経済見通しでは、11年度の実質GDPは前年度比0.5%増。達成には11年10-12月期、12年1-3月期にそれぞれ前期比1.4%増の伸び率が必要になる。10-12月期から成長率は減速するとの見方が多く、政府見通しの達成は難しい状況になっている。

まず、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。

需要項目2010/
7-9
2010/
10-12
2011/
1-3
2011/
4-6
2011/7-9
1次QE2次QE
国内総生産(GDP)+0.5+0.0▲1.7▲0.5+1.5+1.4
民間消費+0.8+0.2▲2.1+0.0+1.4+1.1
民間住宅+0.6+2.9+1.8▲2.0+5.0+5.2
民間設備+0.5▲0.7▲0.9▲0.5+1.1▲0.4
民間在庫 *+0.3▲0.0▲0.7▲0.0+0.2+0.3
公的需要+0.3▲0.4+0.1+1.9▲0.1+0.0
内需寄与度 *+0.6+0.1▲1.5+0.5+1.0+0.8
外需寄与度 *▲0.1▲0.0▲0.2▲1.0+0.4+0.6
輸出+0.7▲0.1▲0.0▲5.9+6.2+7.3
輸入+1.7+0.2+1.1+0.4+3.4+3.5
国内総所得(GDI)+0.5▲0.2▲2.4▲0.8+1.3+1.1
名目GDP+0.1▲0.8▲1.7▲1.6+1.4+1.2
雇用者報酬+0.8+0.6+0.3+0.3+0.0▲0.3
GDPデフレータ▲2.0▲1.9▲1.9▲2.4▲1.9▲2.2
内需デフレータ▲1.4▲1.3▲1.0▲1.1▲0.4▲0.7

テーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7-9月期の最新データでは水色の棒グラフの民間設備投資を除いて、すべての需要項目がプラスの寄与を示しています。赤の消費と黒の外需が特に大きいことが読み取れます。他方、復興需要をはじめとする公的需要は成長にサッパリ貢献していないことが明らかです。

GDP前期比成長率と需要項目別寄与度の推移

1次QEからの修正は設備投資の下方改定が中心です。1次QEの時点ではプラスと出ていた設備投資が、法人企業統計を受けて2次QEではマイナスに改定されました。しかし、12月6日のエントリーで書き留めておいたように、供給サイドの資本財出荷などとの整合性には私は疑問を持っています。意地の悪い見方をすれば、法人企業統計から抜け落ちている可能性もなしとはしません。将来、別の統計ソースを用いた推計を行えば、もう一度プラスに改定される可能性も排除できません。

平均消費性向の推移

2次QEとしての評価は以上として、93SNAへのより本格的な対応として、いくつかの改定が実施されたんですが、特に私が重視している項目として、FISIMの導入に伴う修正の影響を考えたいと思います。内閣府から11月18日付けで発表された「国民経済計算における平成17年基準改定の概要」 p.3 に従えば、基準改定の概要は資産推計の充実・改善、財政推計の充実・改善、「間接的に計測される金融仲介サービス(FISIM)」の導入、の3点に取りまとめられています。特に、FISIMの導入については金融仲介業の産出の一部が家計等の最終消費支出に配分され、それだけGDPは増加すると解説されており、2000年基準と2005年基準の平均消費性向をプロットすると、上のグラフの通りになります。ここでは、「平均消費性向」は単純に個人消費をGDPで除した比率で計算しています。分母も分子も実質値です。グラフから明らかに、2005年基準の国民経済計算の方が平均消費性向が高くなっています。1-2%くらいの乖離があり、時を経てこの幅は大きくなっています。逆から見ると、実は、2005年基準を導入すると我が国の貯蓄率はかなり低かったといえます。この議論が何に波及するかといえば政府債務問題です。実は、国債発行が国内の貯蓄でファイナンスされる余地がかなり小さかった、あるいは、財政サステイナビリティの条件がより厳しかった可能性が示唆されていると私は受け止めています。すなわち、現在の国債発行を続けていると、我が国の財政が破綻する時点はそんなに先のことではなく、実はもっと早かった可能性があると覚悟すべきです。

FISIMの導入に伴って、GDPの規模そのものがやや膨らんだこととともに、この財政のサステイナビリティに関する議論についても、かなりのエコノミストは気付いています。しかし、政府債務問題はハードランディングする可能性が大きいと悲観的に見るエコノミストも少なくありません。エコノミストの専門知識である経済学の理論が政策に活かされるんでしょうか?

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