沼田まほかる『ユリゴコロ』(双葉社) を読む
正午過ぎの北朝鮮金正日総書記死亡のニュースから、韓国ウォンが急落して、日本でも東証の日経平均株価が反落しており、いくつかの政府部門ではバタバタの対応が続いているようです。例えば、月例経済報告閣僚会議は延期されました。他方、私の課は何の影響もありません。政府の中枢部局に含まれていないことの証しなのかもしれません。といった世間の話題とは何の関係もなく、今夜は読書感想文です。
沼田まほかる『ユリゴコロ』(双葉社) を読みました。純粋なホラーでもなく、一般的なミステリでもなく、何やら不思議なサスペンス小説をものにする作者ですが、この本もそんなカンジです。まず、出版社のサイトから本の紹介を引用すると以下の通りです。
本の紹介
亮介が実家で偶然見つけた「ユリゴコロ」と名付けられたノート。それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。創作なのか、あるいは事実に基づく手記なのか。そして書いたのは誰なのか。謎のノートは亮介の人生を一変させる驚愕の事実を孕んでいた。圧倒的な筆力に身も心も絡めとられてしまう究極の恋愛ミステリー!
私のこのブログでこの作者を取り上げるのは初めてなんですが、短編集を別にすれば、一応、私はこの作者のかなりの作品を読んでいます。すなわち、デビュー作の『9月が永遠に続けば』、『彼女がその名を知らない鳥たち』、『猫鳴り』、『アミダサマ』といった中編ないし長編の作品です。短編集の『痺れる』だけはまだ読んでいません。ですから、ほぼ私は沼田まほかるファンと言っていいと思うんですが、なぜか、このブログで取り上げるのは初めてになってしまいました。
この作品『ユリゴコロ』は、直感的に、1986年の第96回直木賞を受賞した逢坂剛さんの『カディスの赤い星』を思い起こさせました。本の紹介にあるように「殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文」の部分はフォントを変えてあり、この部分を中心に読めばホラー小説ともいえますし、タイトルになっている「ユリゴコロ」と名付けられたノートの作者を推理すると考えればミステリともいえます。そして、このノートの作者は最後に明らかにされます。最後まで緊張感が途切れることなく、一気に読ませてくれます。そして、ラストでびっくりするような事実が明らかにされます。このあたりは『9月が永遠に続けば』と似ている気がします。ホラー小説としては『アミダサマ』に通じる部分もありますが、『アミダサマ』では住職の母親が段々とおかしくなって行くのに対して、この作品では「ユリゴコロ」と名付けられたノートの作者は最後の殺人の後には極めてノーマルになります。そのあたりは大きく違います。
いずれにせよ、短編集『痺れる』は読んでいないながら、この作者の作品はかなり水準が高く、作品数は少ないとはいえ、ハズレの作品は目につきません。それから、私はこの作者の作品はすべて図書館で借りて読みました。申し訳ないながら、作者の印税には貢献していません。待ち行列は長そうですが、ほとんどの公立図書館に所蔵していることと思います。他の作品とともに多くの方が手に取って読むことを願っています。
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