よしもとばなな『スウィート・ヒアアフター』(幻冬舎) を読む

よしもとばなな『スウィート・ヒアアフター』(幻冬舎) を読みました。あとがきの2パラ目で作者は「とてもとてもわかりにくいとは思いますが、この小説は今回の大震災をあらゆる場所で経験した人、生きている人死んだ人、全てに向けて書いたものです。」と記しています。ホントに分かりにくい気がします。そして、朝日新聞の書評欄ではこの作品と高橋源一郎『恋する原発』(講談社) を並べて、「震災文学」と称し、現在社会への違和感をモチーフにしている共通点を指摘しています。
この小説のあらすじを簡単に書くと、小夜子という東京の女性を主人公に、結婚まで秒読みの彼女の恋人が京都で運転する自動車が事故に遭い、お腹に鉄の棒が貫通して臨死体験を経験しながらも、彼女は生還した一方で、即死した恋人とは亡きがらも見ないまま死に別れ、結果、幽霊らしき存在が見えるようになり、行きつけのバーにいる長い髪の女や引っ越した取り壊し寸前のアパートでいつも笑っている小柄な女の人が見え、沖縄バーのマスターや同じアパートのゲイの青年との交流を深めて行く、というものです。
タイトルの「ヒアアフター」は hereafter であって、私は副詞でしか使ったことはありませんが、名詞で「来世」とか「あの世」といった意味を持たせているんだと思います。また、高橋源一郎『恋する原発』は読んだことがありませんので何ともいえませんが、朝日新聞のように「震災文学」と呼ぶかどうかは別にして、生死を超越して知り合いと交流したり、「人は死ねば終わり」という単純な人生観とは異なり、死者とも何らかの関係性を保つことが出来る可能性を表現しようとしたことは私は評価したいと思います。もっとも、古くからの一向門徒として、死ねば極楽浄土に行けるという我が家の宗教観とは深刻な齟齬を来たします。そのあたりは無視しています。
よしもとばななは基本的にバブル期の作家ですが、数年前の『ムーンライト・シャドウ』に通じる作品です。特に強くオススメはしませんが、一部に話題作と受け止められているかもしれません。多くの図書館に所蔵されていることと思いますので、ご興味ある方はどうぞ。
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