国際通貨基金 (IMF) の「改定世界経済見通し」World Economic Outlook Update はいかに下方修正されたか?
昨日、国際通貨基金 (IMF) から「改定世界経済見通し」World Economic Outlook Update が発表されています。副題は極めて適切にも Global Recovery Stalls, Downside Risks Intensify とされています。世界経済は失速し、下振れリスクが強まる、といったところでしょうか。なお、いつものことながら、pdf ファイルで全文リポートがアップされていますし、さらに、10ページ足らずのリポートですので、要約ではなく、日本語の全文リポートもあります。まず、IMF のサイトから成長率見通しの総括表を引用すると以下の通りです。表の画像をクリックすると、より詳細な見通し総括表が参照できます。すなわち、全文リポート p.2 Table 1. Overview of the World Economic Outlook Projections の1ページだけの pdf ファイルが別タブで開くように設定してあります。
我が日本は、昨年2011年に▲0.9%とマイナス成長を記録した後、2012年+1.7%、2013年+1.6%と、潜在成長率近傍のプラス成長に復帰すると見込まれていますが、上の表から明らかな通り、昨年9月時点の見通しから2012年▲0.6%ポイント、2013年▲0.4%ポイントの下方修正となっています。ユーロ圏諸国よりは下方修正の幅は小さいものの、先進国平均とほぼ同水準の下方修正となっています。先進国だけでなく、中国やインドをはじめ、多くの新興国や途上国でも見通しが下方修正されており、貿易と直接投資の両面を通じて、世界経済全体の減速が見込まれています。言うまでもなく、この世界経済の減速や見通しの下方改定はユーロ圏諸国に起因する部分が大きくなっています。全文リポート p.1 のサマリー部分で、簡潔に、"This is largely because the euro area economy is now expected to go into a mild recession in 2012 as a result of the rise in sovereign yields, the effects of bank deleveraging on the real economy, and the impact of additional fiscal consolidation." と表現されています。すなわち、国債金利の上昇、銀行のレバレッジ解消、財政再建の推進の結果として、本年中にユーロ圏諸国は緩やかな景気後退に入ると見込まれています。
困ったことに、経済見通しが昨年9月から下方修正されただけでなく、さらなる下振れリスクも指摘されています。下振れシナリオについて、全文リポート p.5 Figure 4. WEO Downside Scenario のグラフを引用すると上の通りです。この下振れリスクもこれまたユーロ圏経済に起因し、全文リポート p.5 で、"The most immediate risk is intensification of the adverse feedback loops between sovereign and bank funding pressures in the euro area" と指摘されています。すなわち、ユーロ圏諸国における政府と銀行の資金調達圧力の間で負のフィードバック・ループが拡大する可能性です。このため、標準的なシナリオからGDPが世界経済全体で約▲2%、ユーロ圏諸国に限れば▲4%ほど下振れするリスクがダウンサイドのシナリオとして提示されています。これらに対する政策対応として、IMF では以下の4点を強調しています。第1点の財政調整は政府の、第2点の流動性供給は中央銀行の、第3点の銀行のレバレッジ解消は民間金融セクターの、それぞれの課題となっており、最後の第4点の金融調整はみんなで取り組むほかないんだろうと思います。
- Fiscal adjustment
- Liquidity
- Bank deleveraging
- Financial adjustment
なお、誠についでながら、IMF は「改定世界経済見通し」とともに、昨日、Fiscal Monitor Update も公表しており、全文リポート p.3 において、日本政府の財政政策に関する評価があり、最初に、震災からの復興需要があるとはいえ、"the only large advanced economy to implement a fiscal expansion in 2012" と、やや厳しい出だしで始まり、最後に、"the government is to submit a tax reform bill, including its proposal for doubling the consumption tax rate to 10 percent by 2015, but this will not be sufficient in itself to put the debt ratio on a downward path." と、2015年までに消費税率を10%に引き上げる法案は と酷評しています。
この財政見通しに関連して、昨夜は見当たらなかった内閣府のサイトに「経済財政の中長期試算」がアップされました。p.5 の基礎的財政収支と公債残高の推移を引用すると上のグラフの通りです。一番下のパネルが公債残高のGDP比なんですが、IMF のご指摘の通り、消費税率引上げと成長シナリオを組み込んだ赤い折れ線グラフでも、一向に債務残高比率は低下しないように見えます。政権交代後の2010年6月に、財政健全化に関しては慎重シナリオを基本とする旨が閣議決定されていますが、その慎重シナリオの青い折れ線グラフでは公債残高のGDP比は、消費税率引上げを盛り込んでもなお上昇を続けます。しかも、この試算には復旧・復興対策の経費及び財源は含まれていません。このグラフを見る限り、日本の財政は発散のパスに入ったと見なすエコノミストがいても不思議ではありません。
最後に、IMF の「世界経済見通し」ともやや関連して、本日、財務省から貿易統計が発表されています。輸出入と貿易収支のグラフは上の通りとなっており、12月は輸出5兆6237億円、輸入5兆8288億円、差引き貿易収支が2051億円の赤字と3か月連続の貿易赤字となりました。さらに、2011年は通年でも、震災に起因する供給制約、原発停止に伴う燃料輸入増、円高の3要因で31年振りに2兆4927億円の貿易赤字を計上しました。財政のサステイナビリティと TPP に関する議論に何らかの影響を及ぼす可能性は否定できません。
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