柴田哲孝『中国毒』(光文社) を読む
柴田哲孝『中国毒』(光文社) を読みました。上の画像は著者ご本人のブログサイトから引用しています。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
中国毒
絶対にないと言い切れるか?
徐々に明かされる事実から目が離せない!!
厚生労働省健康局疾病対策課の尾崎裕司が轢き逃げにあい死亡した。その三日後、東京医学大学教授・小野寺康夫が自宅で殺害される。
二人はともに、近頃激増しているクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の 特別調査研究班のメンバーだった。
CJD問題を追う週刊誌記者・奈村由美子は、二つの事件のつながりを疑う。
一方、警察庁の外事情報部国際テロリズム対策課刑事・間宮貴司は、入国が伝えられるテロリスト・毒龍を追っていた。同じ手口での殺しが続く。
一連の事件は、毒龍の仕業なのか? 毒龍の背後には、誰がいるのか? 目的は?
国民の気づかないところで、何かが進行している。CJD大流行の原因はいったい・・・!?
本のタイトルからは判然としないんですが、中国からの安価な輸入食品によりクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、もしくは、これに類似したクールーと呼ばれる異常プリオンに起因する病気が我が国で激増するというストーリーです。異常プリオンに起因する病気とは、ヒトの場合はクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)や擬似CJD、ウシの場合は俗称で狂牛病などです。この小説では、純粋に医学・生理学的な観点だけでなく、国民の健康よりも友好国への外交的配慮を優先する外務官僚と厚生官僚、潜入したテロリストを追い詰める警察官、などの社会的な側面も重視されています。もっとも、最後のテロリストとの対決場面は尻切れトンボですし、テロリストが登場して厚生労働事務次官を狙うのかは、まったく私の理解の範囲を超えていました。
ということで、このところ、読書感想文は抑えて書いていたんですが、以下、ネタバレを含みます。未読の方が読み進む場合は自己責任でご注意ください。
結論は何かというと、中国においてトランスジェニックの操作によりヒトの遺伝子を持つブタが食用に供され、日本のスーパーが輸入したことがクールー多発の原因となった、というストーリーです。それを解明するのが医師グループと週刊誌のジャーナリストです。後者は母親をクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)で亡くしています。これは別の医療行政の怠慢に起因しています。また、テロリストの毒龍を追う警察庁の刑事の妻がこの中国から輸入された食品に起因したクールーに罹患していたりします。また、テロリスト本人と家族はチェルノブイリ原発事故の犠牲者だったりします。最後は、ヒトの場合、異常プリオンの摂取でなくても、ヒト遺伝子を持った食肉の摂取、平たく言えば、「共食い」によりクールーが発病する可能性が示唆されています。あらすじにも「絶対にないと言い切れるか?」とあるんですが、もちろん、すべてフィクションです。
繰返しになりますが、すべてフィクションながら、非常に読みごたえのある小説です。部分的にせよ、ノンフィクションと読み違えない読解力が要求されますし、かなりショッキングな内容を含みますので、必ずしもすべての読書子にオススメ出来るとは考えていませんが、ご興味のある方も少なくないと思います。
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