私立中学校への進学から教育について考える
朝日新聞で東京23区の区立中学校の進学率が7割であると記事を見かけました。当然ながら、我が国では中学校まで義務教育ですから、逆算して、残り3割の大半が区立以外の私立・国立か公立でも中高一貫制の中学校に進学しているということになります。まず、少し長くなりますが、私が見かけた朝日新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
東京23区、区立中学進学は7割
東京23区の中学1年生のうち、区立中に通っている生徒は7割にとどまることが分かった。残りの大半が私立・国立中や公立中高一貫校を選んだとみられる。全国平均では92%が公立中に通っており、東京都心の突出した受験熱がうかがえる。区立小に通う割合も全国平均を下回り、7割台にとどまる区もあった。
朝日新聞は23区の各教育委員会に、区内に住む小1・中1の児童生徒数と、区立小中の入学者数(いずれも昨春時点)を尋ねた。区立に進まなかった子の中には、インターナショナルスクールに進んだケースなどもある。外国籍や特例で区外から通学する子どもの数を含むかどうかなど、各区の回答に違いはあるが、中学の場合、23区全体で区立中入学者は概算値で71%。60%未満が8区あった。
割合が最も低かったのは港区で、生徒1259人のうち区立は590人(47%)にとどまった。区の人口は約21万人だが、区立全10校のうち4校は1年生が1学級のみだ。区教委の担当者は「23区内でも交通の便が良いため私立に通いやすく、受験に積極的なのではないか」とみる。
この区立中学校進学比率を23区別の地図に落としたのが以下の画像です。当然ながら、上と同じ朝日新聞のサイトから引用しています。
極めて大雑把に、区立中学校進学率が半分を割り込んでいる港区から順々に遠くなるに従って区立中学校進学比率が高くなっているように見受けられます。引用した朝日新聞の記事は淡々と客観的な事実を報じており、区立中学校進学率が高い方がいいのか、低い方がいいのかについての価値判断は下していません。個人というか、各家庭の自由な選択ですから、ある意味で、当然なのかもしれません。
他方、多くのエコノミストの間でのコンセンサスとして、「教育投資はハイリターン」という実証分析結果があります。もっとも、この場合の「ハイリターン」の意味は、教育投資の中でも、多くの場合、高等教育に対する投資、そして、リターンは個人的な報酬の増加というよりは社会全体の税収増や社会保障の負担減などと考えられています。例えば、OECD の Education at a Glance 2009 の Summary of key findings (Japan) によれば、「男子学生一人が大学などの高等教育を終了するためには、政府はOECD平均で27,936 ドル投資する必要があるが、それが社会にもたらす経済的リターン(所得税の増加、社会保障費用の低下に伴うものなど)はその2倍以上の79,890ドルに達する」と政府の教育投資のリターンが高いとの分析結果を示しています。もちろん、ある程度は、中学校のような初等中等教育にも、さらに、社会全体ではなく、個々の個人や家庭に属すべきリターンにも当てはまる部分があると私は受け止めています。
上のグラフはOECD東京センターが明らかにしている「図表で見る教育2009: 関連資料」の p.5 表B1.2: 教育支出(対GDP比、2006年)を引用していますが、公的な財政からの教育支出の対GDP比、特に初等中等教育への財政支出は米欧やOECD平均に比べて日本はかなり見劣りします。従って、個人負担、というか、各家庭の私的な負担による教育費の追加支出は、かなり容易に格差を生み出してしまいます。しかも、この格差は親の世代の経済力の格差が子の世代の教育水準に、そして、子の世代の経済力に容易に受け継がれる可能性が高いという意味で、格差を固定させる要因になりかねません。
教育は「国家100年の大計」のひとつであり、社会保障で将来世代に対する大きな世代間格差がもたらされようとしている現実に照らし合わせれば、若い世代の命綱とさえいえます。しかも、小中高生の全員と大学生のほぼ半分は選挙権を持ちません。人口が多くて投票率も高い高齢者に偏った政府支出を見直し、選挙権をもたない若い世代にも目を向けた政策の必要性については、このブログで何度も何度も繰り返し取り上げて来た論点ですが、あくまで現在の選挙権を持つ人々の支持率を重視するのか、将来も含めた国家としての最適化を考えるか、現在の日本は岐路に立たされているのかもしれません。
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