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2012年2月29日 (水)

供給制約からのリバウンドを終えた生産に為替の影響を考える

本日、経済産業省から1月の鉱工業生産指数が発表されました。季節調整済みの前月比で見て+2.0%の増産と、タイ洪水などに起因する供給制約からのリバウンドにより大きな伸びを示しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の鉱工業生産2.0%上昇 「持ち直しの動き」
経済産業省が29日発表した1月の鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整済み)速報値は95.3と、前月に比べて2.0%上昇した。2カ月連続のプラス。タイ洪水による部品不足が解消したことを受け、自動車や電機で減産分を取り戻す増産が続いた。同省は基調判断を前月までの「横ばいの傾向」から「持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。
生産指数は市場の事前予測の中央値(1.5%の上昇)を上回った。基調判断の上方修正は11年5月に「停滞している」を「回復しつつある」に引き上げて以来。「持ち直しの動き」との表現は東日本大震災前の11年2月以来となる。経産省は「大震災前の97%の水準まで回復した」と分析している。
1月は12業種がプラスだった。輸送機械工業は3.3%上昇。北米向けの普通乗用車などが堅調だった。情報通信機械工業も12.0%上昇。タイ洪水で影響を受けたデジタルカメラの部品不足が解消したほか、カーナビゲーションでは国内での代替生産が進んだ。自動車の生産増を受け、鉄鋼業も5.9%上昇した。
一方、電子部品・デバイス工業は1.3%低下し、3カ月ぶりのマイナス。パソコンなどの需要が弱く、液晶素子などがさえなかった。
同日発表した2月の製造工業生産予測調査によると、2月は1.7%、3月も1.7%の上昇を見込む。予想通りなら3月の生産指数は98.5となり、大震災前の11年2月(97.9)を上回る見込み。

次に、いつもの鉱工業生産指数のグラフは下の通りです。上のパネルは2005年=100となる鉱工業生産指数そのもので、下は財別の出荷指数のうち、輸送機械を除く資本財と耐久消費財の出荷です。いずれも季節調整済みの指数であり、影をつけた部分は景気後退期です。

鉱工業生産指数の推移

1月実績の生産統計とともに2-3月の製造工業生産予測指数を併せて先行き生産について考えると、ほぼ、1月までにタイ洪水などの供給制約からのリバウンド局面を終えて、緩やかな持直しから回復局面を続けることが期待されます。引用した記事にもある通り、2-3月が生産予測指数の動き通りになれば、3月の生産は震災前の水準を回復します。ただし、グラフの通り、1月統計でも出荷が伸びているわけではありません。特に資本財の出荷は伸び悩んでおり、生産が回復に向かう前提となるのは輸出です。現下の海外需要と為替に対応した輸出を考えると緩やかな回復が望めますが、欧州のソブリン危機の深刻化や円高修正局面にある為替の動向によっては生産が大きな影響を受ける可能性も排除できません。
ここで昨夜のエントリーを少し修正すると、昨夜は自動車に対するインセンティブ政策により「ものつくり」が支えられている部分を少し強調し過ぎた、とやや反省しています。メディアを賑わす最近の話題、すなわち、テレビをはじめとする家電メーカーの冴えない決算やエルピーダ・メモリの倒産などは、実は、円高に起因している部分が小さくありません。もちろん、盛上りに欠ける消費などの内需に原因がある部分も少なくないんですが、日本の「ものつくり」が左前になった大きな要因は為替であると私は考えています。さらに、昨年の震災から電力の制約が大きくなり、電力については価格的にも量的にも製造業の比較優位を蝕んでいると受け止めるべきです。製造業の歴史に残るところで、電力料金のために比較優位を失ったアルミ精錬業が1980年代半ばに日本から消滅した事実を思い浮かべることができるかもしれません。

現在の為替動向が続けば輸出の貢献も見込め、生産が回復する中で雇用も改善を示し、内需主導の景気拡大に向かう条件は整いつつあるように感じています。もっとも、生産の回復が非正規雇用ばかりではなく、decent な雇用を生み出すよう願っています。

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2012年2月28日 (火)

ほぼ震災前の水準に戻った消費からインセンティブ政策を考える

本日、経済産業省から1月の商業販売統計が発表されました。販売側から見た統計ながら、消費に直結する指標として注目していますが、卸売りは少し置いておいて小売販売で見て、季節調整していない原系列の前年同月比が+1.9%増、季節調整した販売額指数の前月比が+4.1%増といずれも順調な伸びを示しています。昨年暮れから再開されたエコカー補助金が自動車の売上げに貢献しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

小売業販売額1.9%増 1月、エコカー補助金復活など効果
経済産業省が28日発表した1月の商業販売統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比1.9%増の11兆3410億円となり、2カ月連続で増加した。業種別では自動車小売業が同24.3%の大幅増。昨年末からのエコカー補助金の復活に加え、2010年9月の自動車の買い替え補助制度終了に伴う反動減が一巡した。
大型小売店の販売額は同0.1%増の1兆7426億円と2カ月連続の増加。百貨店は春物衣料の不振などから同0.8%減、スーパーは鍋物関連の食料品の販売が増え、同0.6%増だった。
コンビニエンスストアの販売額は同7.1%増の7382億円。たばこ値上げの影響などで4カ月連続で増えた。

次に、商業販売統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは季節調整していない卸売と小売の販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整済みの販売額指数そのものを、それぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期です。

商業販売統計の推移

小売については、昨年12月から今年1月にかけては順調に推移していると私は認識しています。特に、1月の初売りは好調だったと報道されています。しかし、1月中旬以降は寒波の到来で大雪が降った地方もあり、天候不順から必ずしも消費が伸びたという実感はありません。消費者マインドとしては、供給側の景気ウォッチャーが1月は低下した一方で、需要側の消費者態度指数は上昇しています。天候不順などで出歩けなかった事情もあり、消費者側からの購買意欲は衰えていない一方で、販売側から見れば客足が鈍った印象があるような気がします。雇用が緩やかながら改善を示す中で、雇用の改善に従って所得が増加すると仮定すれば、これはかなり強い仮定ですが、所得が増加する限り天候の安定とともに客足も戻り、消費は順調な経路に復する可能性が十分あると私は受け止めています。

自動車小売業の推移

1月の小売販売統計が増加した要因はいくつかありますが、最大ではないとしても大きく貢献したひとつの要因は復活したエコカー補助金です。環境性能のいい乗用車への買換えを促進するという目的が明らかにされているものの、実は、このエコカー補助金は特定の財に対する需要振興策の面があることは多くの国民が認識していると思います。もちろん、みずほ総研のリポート「エコカー補助金復活の効果を考える視点」のように、抑制された需要の顕在化を促進し、生産波及効果も大きいと評価することも出来ますが、市場の歪みを大きくし需要の先食いによる反動減を招くとの批判もあることは事実です。私自身も批判的な考えを持っており、こういった特定の財に対する補助金が、第1に中長期的かつネットのマクロの消費喚起につながるかどうかは疑問ですし、第2にインセンティブを付与されていない競合財をクラウドアウトするリスクがあり、第3に耐久財の買換え時期を集中させることによる消費サイクルの不安定化をもたらすリスクも考える必要があることから、控え目に言っても乱発することは好ましくありません。特に、第3の点は家電エコポイントと地デジ移行を終えたテレビの売上げがどうなっているかを見れば明らかだと思います。自動車小売業の販売額の推移は上のグラフの通りですが、同様に、エコカー補助金のあるなしによって売行きがスウィングしているのが見て取れます。いずれにせよ、内需の拡大や消費の振興のためには、インセンティブ政策よりも雇用の改善という地道な政策を中心に据えるべきだと私は考えています。非正規の求人などが多くて、ホントに decent な職が提供されているかどうか大いに疑わしい現状では、なおさら雇用政策にも一定の目配りが必要です。

家電エコポイント終了後のテレビ・メーカー各社の決算といい、昨日のエルピーダ・メモリの倒産といい、ホントに日本がものづくりに比較優位があるかどうかは、私はもう一度検証すべきだと考えています。やたらと補助金で支えられている「ものづくり大国」を国民が望むかどうかはやや疑問です。

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2012年2月27日 (月)

ダンカン・ワッツ『偶然の科学』(早川書房) を読む

ダンカン・ワッツ『偶然の科学』(早川書房)

ダンカン・ワッツ『偶然の科学』(早川書房) を読みました。著者のワッツ教授はコロンビア大学の気鋭の社会学教授であり、「スモールワールド理論」や「6次の隔たり」などで注目されていることは周知の通りです。まず、かなり長くなりますが、出版社のサイトから本の概要を引用すると以下の通りです。

なぜ「あんな本」がベストセラーになるのか? なぜ有望企業を事前に予測できないのか? 人間にとって最大の盲点である「偶然」で動く社会と経済のメカニズムを、あの「スモールワールド」理論の提唱者がわかりやすく説き語る。

人間に未来予測はできない。
リアルタイムで偶発性に対処せよ――。

この世界は私たちの直感や常識が示すようには回っていない。人間の思考プロセスにとって最大の盲点である「偶然」の仕組みを知れば、より賢い意思決定が可能になる――。
あのスモールワールド理論の提唱者が、いま最も注目される複雑系社会学の真髄を説き尽くした話題の書、待望の日本語版。

  • アップルの復活劇は、ジョブズが偉大だったこととは関係がない。
  • VHS対ベータ戦争で敗れたのも、MDの失敗も、ソニーの戦略ミスではない。
  • 給料を上げても、社員の生産性はかならずしも上がらない。
  • JFK暗殺も9.11も、可能性が多すぎて、事前の予測は不可能。
  • 歴史は繰り返さない。したがって歴史から教訓を得ることはできない。
  • フェイスブックやツイッターの大流行は、人々のプライバシー観が変わったからではない。
  • ヒット商品に不可欠とされる「インフルエンサー」は、偶然に決まるため特定できないし、実のところ彼らの影響力も未知数である。
  • 売れ行き予測を立てないアパレルブランド、ZARA。その成功の秘訣とは?
  • 偶然による過失をめぐる倫理的難問。司法はどう裁くべきか?

私が手に取ったのは、ややタイトルに引かれたことがあるんですが、原題は Everything is Obvious* Once You Know the Answer すなわち、「いったん分かってしまえば、すべては明らか」ということになります。以下の10章から成っています。最初の6章が第1部、残りの4章が第2部を構成しています。出版社のサイトからの引用の箇条書き部分がどの章に当てはまるかが理解出来ると思います。

  1. 常識という神話
  2. 考えるということを考える
  3. 群衆の知恵 (と狂気)
  4. 特別な人々
  5. 気まぐれな教師としての歴史
  6. 予測という夢
  7. よく練られた計画
  8. 万物の尺度
  9. 公正と正義
  10. 人間の正しい研究課題

読んでいて、最初の方は少しアテが外れたように感じていたんですが、真ん中あたりの「予測」に関する部分から急速に面白く読めるようになりました。私が官庁エコノミストとして役所で最初に計量経済モデルを担当したのはバブル真っ盛りの1980年代終わりころで、そのころまで、私は経済予測はより正確になると信じていました。変数を増やしてモデルを複雑にし、変数間の相互関係をより正確に反映するパラメータを与えれば、データを増やすことができる限り、モデルは将来の経済を正しく予測することが出来ると信じていました。要は、量的にデータやパラメータが足りないだけだと考えていたわけです。例えば、天文学が惑星の運航について極めて正確な予想を導けるのは、対象が経済動向よりも単純でありモデルのデータやパラメータが少なくて済むからであると見なしていました。しかし、その後、私は考えを改めました。決して、ルーカス批判のようにパラメータが変化するからではなく、もっと単純に、過去と未来に対する認識の非対称性、過去のイベントは認識が記憶として残るが、未来を認識し記憶することはできない、という意味で予測はアテにならない、と考えるようになりました。
しかし、著者のワッツ教授は本書の最後の方のパートで、私の昔の認識に立ち返るような見方を提示します。すなわち、社会事象はモデル化して実験室に持ち込むことはおろか、すべてを観察・測定することすら不可能であり、それを偶然で説明するしかなたっかものが、メール、Twitter、Facebookなどなど、事実上、何億、何十億という人々の情報の流れを追跡しているシステムがインターネット上にバーチャルに成り立っており、歴史上初めて、社会の構成員のリアルタイムの行動をかなり正確に観察できるようになった可能性を示唆しています。最後の最後で、「自分たちの望遠鏡を手に入れた」とうそぶき、「さあ、革命をはじめるとしよう……」で本書を締めくくっています。とても暗示的です。
大きな歴史の流れについて、基本的に微分方程式に沿いつつも、何らかのランダムなシフトが生じると私が考えていることは、すでに何度か書いたことがります。このシフトは政治学の用語では革命と称されたり、社会学や経済学などではレジーム転換とか、パラダイム・シフトと呼ばれます。物理学の特異点やカタストロフィー、生物学の突然変異などもよく似た概念を表す言葉だと私は受け止めています。このシフトがなくても経済などの予想は難しいんですが、大きな要因は時間を系に取り込んでいないからであると私は考えています。ですから、速度や加速度などの形も含めて、時間を明示的な要素として系に取り込んでいる物理学では、100年後の惑星の運行をかなり正確に予測できるのに対して、経済学では来年の成長率すら予測が覚束ないわけで、大きな差があると考えなければなりません。さらにこれにランダムなシフトが加わります。本書でも「ブラック・スワン」としてテイル・ファットな確率が論じられています。それにしても、ランダムなシフトの一種と私が考える「革命」でこの本を締めくくっているのは、極めて大きな偶然の一致かもしれません。

経済学を専門とするエコノミストだけでなく、社会科学一般にとっても、極めて興味深い説を展開した本です。唯一、不満に思うのは何かのイベントに対してパラメータが突然変化する可能性、すなわち、ルーカス批判にどう耐えるか、さらに、それに対する人々の期待の役割を捉え切れていない点ですが、20ページ余りに渡って詳しい参考文献も付されており、学術的な要求にも応える内容となっています。私は近くの区立図書館で借りましたが、多くの方が手に取って読むことを願っています。

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2012年2月26日 (日)

第146回芥川賞受賞作品を読む

円城塔「道化師の蝶」

ようやく、第146回芥川賞受賞作品、すなわち、円城塔「道化師の蝶」と田中慎弥「共喰い」を読みました。前者はとても読みにくい作品で、どうしてかというと、パートごとに視点を提供する話者の「わたし」が異なっているからです。実験的かもしれませんし、前衛的かもしれません。ある意味で、将来が楽しみな気もしますので、石原慎太郎などの一部に反対意見があろうと、この作品に芥川賞を授賞した選考委員の方々に敬意を表します。

田中慎弥「共喰い」

後者は芥川賞の受賞作としては標準的かやや標準を下回る程度の作品で、「もらっといてやる」と作者がうそぶくほどのレベルには達していません。悪いですが、下関弁でごまかしたところが感じられなくもありませんし、いずれにせよ、今後に期待します。もっとも、この作者は「文藝春秋」のインタビューで最近の読書を問われて、川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』を上げていました。さすがに、文学的なセンスはいいのだろうという気がします。早く作品が川上未映子のレベルに達するよう期待しています。なお、私のこのブログでは昨年11月15日付けのエントリーで『すべて真夜中の恋人たち』を取り上げています。

Chick Corea: Now He Sings, Now He Sobs

どうでもいいことながら、いつもの通り、「文藝春秋」の3月号で選評とともに音楽を聞きながら読んでいて、私のウォークマンはアルバム・タイトルのアルファベット順に進むんですが、「道化師の蝶」を読んでいる時は、宮野寛子の昨年の新譜 Notes of Comfort からチック・コリアの Now He Sings, Now He Sobs を聞いていました。同じピアノ・トリオの演奏なんですが、チック・コリアの演奏に入った途端に読むスピードが格段に速くなった気がしました。私の勘違いかもしれませんが、以前にも同じような経験をした記憶があります。

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2012年2月25日 (土)

国公立大学入試2次試験の前期日程が始まる!

今日から国公立大学入試2次試験の前期日程が始まりました。一昨年まではこの時期のもっとも重要な業務のひとつながら、東京に戻ってからはすっかり忘れていますが、報道を見る限り、就職に有利か不利かで入試倍率は「文低理高」となっているようです。東大や我が母校の京大をはじめ、事実上、前期日程で勝負という大学も少なくありません。私は2-3日前から花粉症が始まって大いに体調を崩していますが、受験生の諸君には奮闘を期待します。

がんばれ受験生!

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映画「はやぶさ 遥かなる帰還」を見に行く

はやぶさ 遥かなる帰還

今日は朝から冷たい雨だったこともあり、室内競技を目指して、映画「はやぶさ 遥かなる帰還」を見に行きました。昨年10月22日付けのエントリーで取り上げた「はやぶさ/HAYABUSA」に続く第2弾で、来月には第3弾の「おかえり、はやぶさ」も公開の運びとなっています。
ロケット発射から地球の重力を使ったスウィングバイによる加速、イトカワへのタッチダウン、帰路の通信途絶と回復などの大筋は前の映画と同じだったんですが、今日見た映画では特に最後の異なるエンジンのイオン源と中和器を組み合わせて使う「クロス運転」が大きくクローズアップされていました。また、「はやぶさ/HAYABUSA」はJAXA研究員の視点でしたが、「はやぶさ 遥かなる帰還」は朝日新聞記者の視点です。でもまあ、基本は事実に基づいたフィクション、それこそ、「人間ドラマ」として見るべきなのかもしれません。もちろん、相変わらずCGの画像は美しく、音楽も含めて迫力満点です。液晶の大画面になったとはいえ、テレビではこうは行きません。
それにしても、フィクションの範囲内なんでしょうが、10月に見た「はやぶさ/HAYABUSA」では中和神社が、今日の「はやぶさ 遥かなる帰還」では飛不動が登場しました。人智を超えて神仏にすがる気持ちは最先端技術の世界のトップクラスの科学者でもあり得るような気がします。経済学なんかは不確実な科学なんですから、景気回復や雇用拡大などのためにもっと宗教に頼ってもいいのかもしれない、などと詰まらぬことを考えてしまいました。

実は、2月に入ってから、JAXAの川口教授を講師にお招きした講演会、というか、人事院の主催する課長級の研修に参加する機会があった際、10月に見た映画「はやぶさ/HAYABUSA」のポスターにある宣伝文句の「真実のドラマ」は矛盾した表現だとか、今日見た「はやぶさ 遥かなる帰還」にはやたらとかりんとうを食べるシーンが多いとか、いろいろと聞いていたので、その点にも思わず注目してしまいました。

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2012年2月24日 (金)

今さらながら、長岡弘樹『傍聞き』(双葉社) を読む

長岡弘樹『傍聞き』(双葉社)

誠に、今さらという気もしますが、長岡弘樹『傍聞き』(双葉社) を読みました。文庫に収録されてベストセラー街道を驀進中、といったところですが、私が読んだのは上の表紙の単行本で、図書館で借りました。まず、出版社のサイトから本の内容を引用すると以下の通りです。

本の内容
有栖川有栖氏や山田正紀氏をはじめ、選考委員の圧倒的な支持を得て、日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「傍聞き(かたえぎき)」を収録。巧妙な伏線に緊迫の展開、そして意外な真相。ラストには切なく温かな想いが待ち受ける。珠玉のミステリー短編集。

おそらく、文庫本も同じだと思いますが、私が読んだ単行本では以下の4編の短編が収録されていました。

  1. 「迷い箱」
  2. 「899」
  3. 「傍聞き」
  4. 「迷走」

主人公というか、物語の中心をなす人物は、短編の上の順で更生施設の責任者、消防署員、警察の刑事、救急車の隊長となっています。公共の安全を支える「縁の下の力持ち」といった人々です。それから、この4編の短編に一貫したテーマを考えると、本のタイトルにもなっているので3番目の短編である「傍聞き」が中心をなす物語なんですが、この主人公の女性刑事の小学生の娘がいうところの「時間差攻撃」が4編に共通するテーマだという気がします。どの短編も極めてよく構成されていて、プロットにはすきがなく、巧妙なトリックや手に汗握るラストとは無縁ですが、読み終えれば心理的にほのぼのとした「なるほど感」に浸ることができます。ただし、厳しい見方をすれば、前2編と後2編に差があります。前2編は、読んでいてかなりの程度に結末が想像出来るんですが、主人公がまったく気付かずに鈍感に過ぎる気もします。後2編の出来はかなりいいと思います。初出を見ると単純に出版順に並べてあるだけなんですが、生意気な言い方をすれば、作品を発表しながら作者が成長した証かもしれません。

さて、「文藝春秋」の芥川賞収録号を買ったんですが、田中慎弥「共喰い」は読んだものの、円城塔「道化師の蝶」がなかなか読み進みません。これほど私が読むのに時間がかかる小説もめずらしい気がします。

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2012年2月23日 (木)

家計の貯蓄に関する雑感

昨日、日銀の金融広報中央委員会から「家計の金融行動に関する世論調査」が発表され、昨年の金融資産の非保有世帯比率が大きく上昇したことなどがメディアで報じられています。今夜のエントリーではこの調査とともに、先週金曜日に総務省統計局から発表された家計調査の2011年平均も併せて、家計の貯蓄の統計を確認しつつ、私なりの雑感を記しておきたいと思います。まず、日経新聞のサイトから「家計の金融行動に関する世論調査」に関する記事を引用すると以下の通りです。

金融資産なしの世帯、最大の28% 11年
保有額平均は19万円減の1150万円

金融広報中央委員会(事務局・日銀情報サービス局)は22日、2011年の「家計の金融行動に関する世論調査」を公表した。家計の金融資産の保有額は1世帯当たり平均1150万円となり、前年より19万円減った。欧州債務問題を背景にした相場下落で保有する有価証券が値下がりしたことが響いた。
調査は昨年10月7日-11月14日、全国8000の2人以上世帯を対象に実施し、3802世帯から回答を得た。
金融資産が減少したと答えた世帯に理由を聞いたところ、「株式・債券価格の下落で評価額が減少した」と答えた割合は29%と、質問項目を設けた1989年以来最大。調査実施期間はギリシャ問題などを巡り株価の下落が続いていた局面だった。
貯蓄を取り崩す高齢者世帯の増加などから、金融資産を保有していないと答えた世帯の割合は全体の28.6%と過去最大になった。

まず、上の引用した日経新聞をはじめ、いろんなメディアに注目された金融資産非保有世帯比率のグラフは以下の通りです。2000年から2003年までジワジワと上昇した後、2010年まではほぼ横ばいで推移していたんですが、2011年になって大きく上昇したように見受けられます。何らかの理由で金融資産を使い尽くした世帯が増加したことは明白ですが、その理由でもっとも蓋然性が高いのは震災の影響です。震災による直接の影響で金融資産が滅失した、例えば津波にさらわれた、というより、その後の経済の停滞が主因だという気がしますが、この世論調査の結果だけからでは推察の域を出ません。

金融資産非保有世帯比率の推移

次に、先週の金曜日に発表された家計調査の2011年平均の統計から、家計調査で黒字率と定義されている貯蓄率の推移は以下のグラフの通りです。統計の対象は勤労者世帯ですから、年齢階級での区分ではないものの、大雑把に60歳以下の年齢層が多いと考えるべきです。このグラフを見る限り、大きな貯蓄率の変動は観察されません。安定して20%台後半で細かな変動を続けていると見受けられます。

貯蓄率 (黒字率) の推移

大雑把に60歳以下の勤労世帯で貯蓄率の低下が生じていないとすれば、それよりも高齢の家計での貯蓄率が低下、あるいは高齢者の家計で金融資産の消尽が生じているの可能性があるのではないかと推測するのは突飛なことではありません。ということで、下のグラフは家計調査の2011年平均のリポートの p.5 図9 高齢無職世帯の家計収支から引用しています。高齢無職世帯では実収入181,921円から税金や社会保障負担などを除いた可処分所得が158,522円なんですが、消費支出の202,973円に対して44,451円が不足し貯蓄を取り崩している、という平均的な姿が示されています。金融資産を使い尽くしたのも高齢無職世帯が多くを占める可能性は否定できません。

高齢無職世帯の家計収支

高齢化の進展による貯蓄率の低下、ないし、金融資産非保有比率の上昇とともに、所得動向も貯蓄に影響を及ぼします。すなわち、通常のケインズ的な経済理論では限界貯蓄性向は平均貯蓄性向よりも低いと考えられており、所得が増加すれば貯蓄率は上昇し、逆に、所得が減少すれば貯蓄率は低下します。この関係を表したのが下のグラフであり、家計調査の2011年平均のリポートの p.3 図6 実質可処分所得と平均消費性向の関係の推移を引用しています。横軸は実質可処分所得、縦軸は貯蓄率ではなく消費性向が取られており、明確な負の相関が読み取れます。すなわち、所得と貯蓄率では正の相関ということになります。ただし、この関係は平成8-10年、すなわち、1996-99年を境にして左方下方にシフトしているように見えます。2005年から2006年にかけてのシフトは理由がよく分かりませんが、2010年から2011年にかけての可処分所得の減少と平均消費性向の低下は震災の年の特異な動き、要するに、いずれも震災に起因する所得の減少と将来不安に備えた消費の減少が生じたと考えることができます。

実質可処分所得と平均消費性向の関係の推移

いずれにせよ、昨年2011年は所得や貯蓄もはじめとして震災により通常のトレンドラインから外れた動きを示した可能性が否定できません。メディアで盛んに取り上げられた金融資産非保有世帯比率の上昇もそのうちのひとつであり、格差の拡大と直接の関係があるかどうか疑わしいという気がしないでもありません。

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2012年2月22日 (水)

携帯電話はどこまで増えるか、固定電話はどこまで減るか?

昨日、総務省から昨年12月時点の「電気通信サービスの加入契約数等の状況」について発表があり、いろいろなメディアで携帯電話が人口を上回った旨がキャリーされています。果たして、携帯電話はどこまで増えるのか、逆に、固定電話はどこまで減るのか。今夜のエントリーでは基礎となる統計的な事実だけでも簡単に振り返っておきたいと思います。まず、日経新聞の記事を引用すると以下の通りです。

携帯、1人1台超す スマホ普及で「2台持ち」増
12月末、総務省調べ

総務省は21日、2011年12月末時点の携帯電話(PHSを含む)加入契約数が1億2986万8000件になったと発表した。日本の人口を初めて超え、1人1台を上回る台数を保有している計算になった。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)の急速な普及で、1人で複数台持つ人が増えたことが背景にあるようだ。
携帯の加入契約数は前年同月比7.6%の増加。国勢調査の人口をもとに算出する人口普及率をみると、07年3月末にはおよそ8割にとどまっていたが、10年3月末に9割を超え、昨年9月末で99.4%と100%突破が目前に迫っていた。一方、昨年12月末の加入電話の契約数は3681万4000件で前年同期比8.9%減となった。

引用した記事にある通り、要するに、一昨年来のスマートフォンの普及もあってPHSを含む携帯電話が大幅に増加しているわけで、携帯電話台数が日本の人口を上回り、1人1台から1人2台の時代に入りつつあります。他方、報道ではほとんど注目されていませんが、固定電話はジリジリと減少を続けています。グラフで見たのが以下の通りです。上のパネルはISDNを含む固定電話の加入件数、下はPHSを含む携帯電話の台数です。携帯電話は右肩上がりで1億台を超え、固定電話は右肩下がりで4000万台も割り込みました。データは基本的に各年度末3月時点の数字ですが、2011年だけは12月時点となっています。

正規・非正規比率の推移

固定と携帯の別ではなく、インターネットを使ったIP電話の伸びも大きくなっています。下のグラフはIP電話全体の利用件数であり、上のグラフと同じでデータは基本的に各年度末3月時点の数字ですが、2011年だけは12月時点となっています。050番号と0AB-J番号の単純合計ですが、軽く想像される通り、前者が減少傾向にあるのに対して、後者は大きな増加を続けており、2008年度から逆転しています。今後とも、両者の差は広がるんだろうと私は受け止めています。

IP電話利用数の推移

携帯電話がどこまで増加を続けるかは私には分かりかねます。ひょっとしたら、1人2-3台くらいまで売れに売れる可能性も否定できません。しかし、固定電話は少なくともゼロにはならないのではないかと直感的に感じています。例えば、私の行動半径の周辺から公衆電話はかなり減りましたが、ターミナル駅などでまだまだ見かけますし、これだけ減少して希少価値を高めれば、次の大きな技術革新まで、ひょっとしたら、生き残りも可能なのではないかという気がします。

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2012年2月21日 (火)

労働力調査詳細集計に見る雇用の非正規化と失業の長期化

本日、総務省統計局から2011年の労働力調査詳細集計が発表されています。毎月の失業率などの統計だけでなく、四半期単位で雇用の構造面が明らかにされています。この統計でいつも私が着目しているのは雇用の非正規化と失業の長期化なんですが、ともに、着実に進んでしまっているようです。それ以外も含めていくつかの論点で簡単に振り返りたいと思います。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

非正社員最高の35% 11年、失業1年以上109万人
総務省が20日に発表した2011年の労働力調査(詳細集計、平均)によると、雇用者のうちアルバイトや派遣などの非正規が占める割合は35.2%となり、前年に比べ0.8ポイント上昇した。非正規の比率は2年連続で過去最高を更新した。失業期間が1年以上の完全失業者も109万人と依然として高水準で、厳しい雇用環境を反映している。
調査は東日本大震災の被災3県を除いた全国ベース。10年の数値も3県を除いて算出した。企業から雇われた雇用者(役員除く)は前年比23万人増の4918万人。非正規が1733万人で48万人増えた一方で、正規は3185万人と25万人減った。
非正規を雇用形態別でみると、パート・アルバイトが33万人増の1181万人、派遣社員も27万人増の340万人となった。企業が人件費を減らすために、正社員の採用を抑え、パートなどに切り替える傾向が続いている。
完全失業者の総数は284万人となり、33万人減った。ただ、失業期間別にみると、1年以上失業状態にある長期失業者は、1年未満の失業者に比べて改善は限られた。「長期失業者は08年のリーマン・ショック以降に急増し、その後も高水準で推移している」(総務省)といい、労働市場での失業者の長期滞留が深刻化している。

まず、雇用者の正規・非正規比率なんですが、引用した記事にもある通り、雇用者全体は増加したものの、正規雇用が減少した一方で非正規雇用が増加し、相変わらず非正規比率は上昇しています。下のグラフの通りです。2002年には30%を下回っていた非正規比率は2011年には35.2%に達しました。雇用は量的には拡大しているんですが、質的に ILO の提唱する decent work が増加しているかどうかは極めて疑わしいと考えるべきです。ただし、2011年の統計は被災3県を除いていますので、厳密な比較は困難であることに注意が必要です。

正規・非正規比率の推移

また、失業は減少しているものの、失業者の中では1年以上失業者の比率が高まっています。下のグラフの通りです。ただし、2011年の統計は被災3県を除いていますので、実線は2010年までの47都道府県ベース、破線が2010-11年の間だけ被災3県を除く44県ベースの統計となっています。赤い折れ線グラフの失業者総数は2011年に減少し、青い折れ線の1年以上失業者数も減少しているんですが、減少の度合いを表す傾きが違いますので、緑色の折れ線の1年以上失業者比率は上昇しています。こちらも2002年には1年以上失業者比率は30%を下回っていましたが、2011年には被災3県を除いたベースで40%近くになり、長期失業者の割合が高まっています。なお、緑色の折れ線グラフの1年以上失業者比率のみ右軸に対応し、それ以外は左軸に対応しています。

1年以上失業の推移

最後に、私が注目したのは下のグラフの教育・年齢階級別の失業率です。中学・高校等卒と短大・高専卒と大学・大学院卒の教育別年齢計級別の失業率です。大学・大学院卒で15歳というのはおかしいので、この教育区分で15-24歳の年齢階級は統計的にあてにならないように見受けられますので、これを別にすれば大雑把に、ほとんどの年齢階級で高学歴な方が失業率が低くなっています。同様に、失業率は年齢が高くなるほど低くなっており、年齢を重ねてスキルがアップすると仮定すれば、教育と年齢のどちらもスキルが高いほど失業率が低いという仮説が成り立ちそうな気がします。ただし、大学・大学院卒の55歳以上だけは35-44歳や45-54歳よりも失業率が高くなっています。学歴からも年齢からもスキルが高そうに見えるんですが、失業率も高くなっており、どのように考えるべきか悩ましいところです。

教育・年齢階級別完全失業率

私は官庁エコノミストですから雇用を重視します。働きたい国民が decent な職に就ければ、対外収支や株価などは今ほど注目される必要もないと考えています。しかし、景気は回復過程にあるとはいえ、まだまだ日本には decent な職が不足しているのかもしれないと思わざるを得ません。

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2012年2月20日 (月)

貿易赤字は定着するか?

本日、財務省から1月の貿易統計が発表されました。季節調整していない原系列で見て、統計のヘッドラインとなる輸出は4兆5102億円、輸入は5兆9852億円となり、差引き貿易収支は1兆4750億円の赤字を記録しました。単月では過去最大の赤字となります。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の貿易赤字、過去最大の1兆4750億円
赤字は4カ月連続

財務省が20日発表した1月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆4750億円の赤字となった。赤字は4カ月連続で、単月では過去最大。円高に加え欧州債務危機などによる世界経済の減速で輸出が前年同月比9.3%減った。一方で原油価格の高止まりや火力発電用の液化天然ガス(LNG)の需要増で輸入は9.8%増えた。
輸出額は4兆5102億円となり、4カ月連続で減少した。アジア向けは13.7%減。欧州市場向けの生産が減った影響が大きく、鉄鋼や半導体、プラスチックなどの減少が目立った。このうち中国は1月下旬の春節(旧正月)で現地工場が休暇に入った影響も重なって20.1%減。2009年8月(27.6%)以来の大幅な落ち込みとなった。台湾は28.3%減。洪水で生産設備に打撃を受けたタイは8.5%減だった。
債務危機がなお続く欧州への輸出も振るわず、欧州連合(EU)向けは7.7%減と4カ月連続で縮小した。一方、米国は自動車を中心に底堅く、0.6%増と3カ月連続で増えた。
1月の輸出は数量ベースでも9.7%減。価格を押し下げる円高よりも、海外需要そのものが落ち込んだ影響が大きい。
輸入は9.8%増の5兆9852億円となり、2年1カ月連続で増えた。原油輸入は数量ベースでは2.1%減ったものの、価格の上昇で金額では12.7%増の1兆376億円となり、16カ月連続で増加した。火力発電用のLNGは28.2%増えた。
これまでの最大の貿易赤字は、世界金融不況後の海外需要の低迷で輸出が急減した09年1月(9679億円)だった。財務省は「1月は正月など季節要因で輸出が落ち込みやすいが、輸入はしばらく増加傾向が続く。アジアや欧州向け輸出の動向を注視していく」(関税局)としている。

続いて、まず、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも毎月の輸出入とその差額たる貿易収支をプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列、下は季節調整済みの統計を取っています。となっています。

貿易統計の推移

1月単月の統計では、輸出が春節効果により減少した上に、次々と止まる原発のために火力発電向けの燃料輸入が増加し、上に引用した記事の通り、過去最大の貿易赤字を記録しています。季節調整していない原系列では4か月連続の赤字ですが、季節調整済みの系列で見ると震災直後の昨年4月から10か月連続の赤字となりました。季節調整済みの系列をプロットしたグラフを見る限り、貿易赤字が定着した感すらあります。春節による輸出の伸び悩みは一時的な特殊要因と見なせるものの、これほど大幅な貿易赤字ですから投資収益収支の黒字があるものの、1月の経常収支は赤字に転落する可能性が十分あります。

輸出の推移

上のグラフは金額ベースの輸出について2種類の要因分解をした結果を示しています。いずれも季節調整していない原系列の輸出の前年同月比を取っていて、上のパネルは価格と数量のそれぞれの貿易指数で寄与度分解し、下のパネルは地域別に要因分解しています。上のパネルを見れば明らかですが、価格の影響はほとんどなく、数量の減少が輸出を減らしていることが読み取れます。さらに、下のパネルでは地域別で圧倒的にアジア向けの輸出が減少しています。引用した記事にもある通り、1月の輸出金額は前年同月比で▲9.3%減少していますが、アジアの寄与は▲7.5%に上ります。

地域別貿易収支の推移

輸出入の結果としてGDP成長率に影響する経常収支のコンポーネントたる貿易収支について、地域別の推移を年単位で見たのが上のグラフです。青い折れ線グラフが世界全体に対する貿易収支であり、その地域別の内訳が棒グラフで示されています。色分けは凡例の通りです。2011年の貿易収支の赤字化は3つの要因があり、すなわち、中東との貿易赤字の拡大、アジアとの貿易黒字の縮小、中国との貿易赤字の拡大、の3点です。最初の中東との貿易赤字拡大は原発停止に伴う火力発電向けの燃料輸入の増加に起因しています。アジアとの貿易黒字縮小と中国との貿易赤字拡大は、いずれも、私は円高の影響だと受け止めています。逆にいえば、雇用統計を引合いに出すまでもなく米国経済はそこそこ堅調ですし、欧州諸国も債務危機は一息ついていますから、欧米との貿易収支はまずまずの結果を残しており、足元の円安傾向が続けば新興国との貿易収支は改善する可能性が高いと考えるべきです。すなわち、中国やアジア各国をはじめとして、ドルペッグしている新興国向けの輸出に関しては、特に為替の影響を無視できないと私は受け止めています。さらに、円安に伴って輸入燃料価格が引き上げられて、価格メカニズムが働くと仮定すれば燃料消費に歯止めがかかることが期待されます。炭素税と同じ効果を持ちますから、地球温暖化の防止などにも役立ちます。

1月の貿易統計は一時的な特殊要因を強調すれば楽観的に見ることができ、逆に、経常収支まで赤字化させるほどの大きな赤字幅に着目すれば悲観的な見方となります。英語的に言うと、Half Empty, Half Full. だという気がしますが、いずれにせよ、円相場とともに貿易の今後の動向が注目されます。

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2012年2月19日 (日)

今年のサラリーマン川柳やいかに?

毎年、この時期恒例の第一生命サラリーマン川柳の今年のベスト100が発表されました。まず、とても長くなりますが、第一生命のサイトから全て引用すると以下の通りです。コピペで済ませており間違いがないように注意しているつもりですが、正確性は無保証です。念のため。

作品NO雅号
1女子会と 聴きいて覗けば 六十代ビート留守
2災害を 心の絆で 助けあい天下大平
3管理職 仕事ふやすの 得意ですサラ川マン
4超難問 歴代総理 列記せよちょびっと
5父に聞き その後必ず 母に聞く癖になりそう
6キレやすい 部下を替えたい LED寅次郎
7『総選挙』 もちろん行ったよ! 武道館サラリーマンONE
8叱らずに 育てた部下に 怒鳴られるやなぎびと
9便座さえ オレに冷たい 会社内節電係長
10スマートフォン 妻と同じで 操れず妻ーとフォン
11震災で 人と人との 絆増す地球大好き
12韓流と 子供にたよる テレビ界一句笑福
13今年こそ 誓ったはずが もう師走忙が師
14「内定です」 返った言葉が 「マジッスカ!」絵文字
15節電で 早く帰ると なげく妻クールファミリー
16震災に 使命と絆 奮い立ち天童ラ・フランス
17定年後 田舎に帰れば 青年部フミヤ フレンドリー クラブ
18円高だ! 海外行くぞ 円が無い縁結び人
19「もう、ステキ!」 モテ期終われば もう捨て期セカンド俳人
20妻が言う 「承知しました」 聞いてみたい大魔神
21総選挙 うちの会社も やってくれ!!無糖派
22おとうさん 胃酸でるけど 遺産なしサイタ
23タバコやめ メタボになって 医者通い辰ヤニ
24俺知らぬ 妻のつぶやき 世界知る芝竜
25風物詩 年に一度の 首相決め一応社員
26被災地に あきらめないを 教えられふくだるま
27うちの娘も ねだる時だけ 芦田愛菜たまご王子
28何気ない 暮らしが何より 宝物考えボーイ
29携帯に やっと慣れたら 皆スマホまめまろ
30オレ子守り 子供マルモリ 妻大盛り菜野人
31これほしい 娘のプレゼン ジョブズ並みりんごほっぺパパ
32最近は 忘れるよりも 覚えないてくてく
33天下り こちら女房に へり下りオニガワラ
34つい言った 無口な僕も ツイッターネットオタク
35再生紙 2度のお勤め 羨ましい一社員
36我が家にも なでしこ四人 俺アウェイサッカー王子
37ノー残業 形ばかりで 猛残業サイキョーマン
38士気がない 当たり前でしょ 指揮がないソフトモヒカン
39AKBに 負けるなパパも 48蚊注射
40節電を してみて分かった 使い過ぎやまぼうし
41リビングは 妻がセンター 総占拠渡り老化走りたくない
42省エネと 言って動かぬ 我が女房チビおやじ
43増税の 火種はいつも タバコから湘南ジイジ
44「マルモリ!」と 思わず告げた 牛丼屋吟華
45毛虫いる さわげば娘の つけまつげ凡人
46日よう日 妻は女子会 おれじゃまかい語楽
47TPP タバコ パチンコ パパ止めて!毎月赤字ママ
48ありがとう 澤やかジャパン 世界一なでしこ
49今やります どれだけ待ったら 今になる?伸び太
50「あー」言えば 「こう」言う「部下」達 A・K・B課長48才
51オレ流を 通して職場 戦力外わが道
52胃カメラじゃ 決して見えない 腹黒さレントゲン
53頼んでも "こだまでしょうか"と かわす妻昔なでしこ
54叱れない 自分に似すぎた 我が息子可児 助太郎
55「おーい飯!」 こだまでしょうか 「おーい飯!」夫婦共働き
56電光板 流れる文字は 節電中節電王子
57欧州で きれいに咲いた なでしこがかめおとこ
58がんばろう 日本とあんた 妻が言うしがないサラリーマン
59スマホより トクホが先と 妻が言うメタボパパ
60資格とれ 言った上司が 不合格火の車
61想定外 言い訳する時 よく使う読み人知られたがらず
62娘に言う 君かわウィーね しかとされサゲポヨ
63エコ給与 ハイブリッドな 仕事量アッカンベー
64娘たち 禁煙しても 煙たがる下水道博士
65エコ製品 節電するのに 高くつき節約ママ
66ラブでなく イヤミ注入 うちの妻無知キング
67嫁の趣味 昼間は寝入る 夜ネイルアイロンの友
68雑用も スーパーサブと おだてられ読み人知らず
69高寿命 LEDと 我が女房愛太鼓
70Kポップ 踊ってみたけど KARAまわり熟女時代
71勤務中 つぶやいてたら 左遷なうポポポポーン太郎
72散歩して わかったポチの 顔広い後輩
73夏時間 始発電車で 遅刻する自称都会人
74忙しい それでも集まる 喫煙所魚群探知機
75イケメンも 飼い慣らされて 今イクメン多面族
76震災で 絆と優しさ 思い出す四六四九四
77「宝くじ 当たれば辞める」が 合言葉事務員A
78ツイッター 軽い気持ちで 重い罪しんちゃんの母
79モテ期きた? おごる時だけ やってくるスッチー
80我家では 「ママのおきて」が すべてです読み人知らず
81元カノに 名前聞かれる 同窓会メタボリアン
82組織力 なでしこ並の 妻娘目指すは家庭一!
83テレビ局 子役頼みの 視聴率猿だんご
84KARAブーム おれの財布も からブームトミボン
85酒やめた 健康診断 終るまでマスオさん
86アイウォンチュー いつでも君は iPhone中営業ガールズ
87復興を 祈る気持ちで 電気消すハナちゃん
88多過ぎる 「でかした」よりも 「しでかした」猪突猛進
89妻がした 計画停電 オレの部屋絶望的
90地図アプリ ひらいてなやむ ここはどこアナログ派
91マジやばい!! 良いの悪いの どっちなの五十路母
92よろしくね 言ってた上司が 忘れてる・・とっつぁん
93メルマガに 祝ってもらう 誕生日メタボックリ
94仮病部下 ツイートするな! 旅行なうthsハル
95図書館で FaceBookを さがす父IT難民
96オレの指 スマホも部下も 動かせず不器用ですけん
97鍋奉行 仕事に活かせ その仕切りすぎどん
98立ち上がり 目的忘れ また座る健忘術数
99「少女時代」 唄ってはしゃぐ 熟女時代ノリー
100EXCELを エグザイルと 読む部長怪傑もぐり33世

当然ながら、毎年の通例通り、川柳の内容だけでなく雅号も含めて流行に敏感です。AKBやKポップなどのアイドル系、スマホに Twitter や FaceBook、さらに、公共広告機構のコマーシャルで使われた金子みすゞさんの詩の「こだまでしょうか」まで、幅広く流行りモノが取り入れられています。また、家庭や職場を皮肉った内容が多いのはいつもと同じですが、今年のひとつの特徴は、震災を受けて絆や人と人とのつながりの大切さを真面目に詠み込んだ内容の川柳も少なからず見受けられます。

先週2月16日から投票の受付が始まっており、締切りは3月15日までです。確定申告と時期が重なっている気もしますが、トレード・オフの関係にはないんでしょう。どの句が票を集めるんでしょうか?

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2012年2月18日 (土)

ハル・ビュエル『ピュリツァー賞受賞写真全記録』を見る

ナショナルジオグラフィックから出版されたハル・ビュエル『ピュリツァー賞受賞写真全記録』を拝見しました。その名の通り、ピュリツァー賞を受賞した作品を収録しています。もっとも、ややタイトルは大げさで、あくまで「全記録」であって「全作品」を収めているわけではありません。我が国からの受賞作品は、あまりに有名な山口二矢に刺殺される瞬間の社会党浅沼稲次郎書記長、沢田教一の「安全への逃避」などです。前者は長尾靖の作品ですが、日本人ピュリツァー賞の第1号だとは、不勉強にして知りませんでした。『ピュリツァー賞受賞写真全記録』では「舞台上の暗殺」と名付けられています。

長尾靖「舞台上の暗殺」
沢田教一「安全への逃避」

上の長尾靖「舞台上の暗殺」は毎日新聞のサイトから、下の沢田教一「安全への逃避」は読売新聞のサイトから、それぞれ引用しています。『ピュリツァー賞受賞写真全記録』では p.57 と p.71 に収録されています。

『ベスト・アンド・ブライテスト』のハルバースタムが序文を書いています。ジャーナリストですから報道写真への理解も深い気がします。取りあえず、私は写真をだけながめて、まだ、文章部分は読んでいなかったりします。

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2012年2月17日 (金)

自転車の増加はブームなのか、震災の影響か?

世の中で、自転車が増えています。自転車が増えているので、歩道で歩行者とトラブルになったりして、警察で抜本的な対応を考えつつあるところだと私は認識しています。特に、昨年はブームなのか、震災の影響で見直されたのか、自転車が大きく増加しています。昨年2011年の国内向けの自転車は生産に在庫増減を加味し、輸出に回した分を差し引いて輸入を加えると、何と1000万台を軽く超え前年比で2ケタ増を記録しました。ここ数年の国内向け自転車の推移は、下のグラフの通りです。なお、データソースは自転車産業振興協会自転車生産動態・輸出入統計です。

国内向け自転車 (出荷・在庫・輸入)

一昨年2010年まで国内向け自転車は減少を続けて来たんですが、昨年になって急に2ケタ増を記録しています。スポーツ自転車のブームや、震災後の自転車に対する見直しも進んでいるんだろうと思いますが、実は、パーソナルな移動手段として、自転車と乗用車は都市部と地方で極端な普及の差があります。大雑把に言って、自転車は都会的な乗り物であり、乗用車は公共交通機関の少ない地方の移動手段と言えます。例えば、統計は2008年に終わっているんですが、2008年時点の都道府県別の自転車保有台数をグラフにすると以下の通りです。なお、データソースは自転車産業振興協会自転車生産動態・輸出入統計です。データソースは自転車協会の統計なんですが、現在は自転車産業振興協会のサイトにと統計表が移動しています。

10人当たり自転車台数

2008年の統計とやや古いながら、私の方で、10人当たりの自転車台数を都道府県別に算出して、多い県から順にプロットしたのが上のグラフです。何と、埼玉県を筆頭にして、みごとに首都圏の一都三県と関西圏の京阪神が上位7位までを占めます。ほぼ誰の目からも都会であると認められる都府県だと考えてよさそうです。

世帯当たり乗用車普及台数

つぎに、同じくパーソナルな移動手段である乗用車について、昨年2011年3月時点での都道府県別自動車保有台数は上のグラフの通りです。データソースは自動車検査登録情報協会マイカーの世帯当たり普及台数です。自転車が人口10人当たりで、乗用車は世帯当たりですから、微妙にベースが異なっていて、厳格な比較は困難ですが、あえてベースが異なるとの認識を忘れずに比較すると、乗用車については東京と大阪がもっとも少ない1位と2位を占め、神奈川、京都、兵庫とともにボトムの5都府県となっています。当然ながら、都市部では公共交通機関が発達しており、乗用車の必要性が小さいことが背景にあると私は考えています。

自転車とマイカーの相関

データを見て明らかなのは、上のグラフの通り、人口あたりの自転車台数と世帯あたりのマイカー普及はある程度の負の相関を示します。公共交通機関の発達に逆相関して乗用車が広く普及し、パーソナルな移動手段として乗用車を必要とする度合いの小さい都市部では自転車が好まれるという、極めてコントラストの大きい結果を示しています。私は交通経済学はまったく専門外もはなはだしく、そもそも、交通経済学のテーマかどうかも怪しいんですが、興味深い統計だと受け止めています。

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2012年2月16日 (木)

深田祐介「さらば麗しきウィンブルドン」を読む

深田祐介さんの「さらば麗しきウィンブルドン」を読みました。中編といえるくらいの長さで、文庫本で160ページ余りあり、同じくスポーツに関する他の2編とともにこの作品と同じタイトルの文庫本に収められています。小説ではなく、ノンフィクションとされています。深田さんは私の海外勤務地を先回りして、いくつか小説を出版されていて、チリについては『革命商人』、インドネシアについては『神鷲商人』が有名です。なお、「神鷲」には「ガルーダ」とルビが振ってあります。『革命商人』にはトヨタ車を取り扱っていた三井物産の現地採用の日本人が登場するんですが、私がサンティアゴで外交官をしていた時、すでに三井物産を退社されていて日本食のレストランを経営されていましたので、毎晩のように夕食に行っていた記憶があります。

ウィンブルドンでプレーする佐藤次郎

それはともかく、「さらば麗しきウィンブルドン」は佐藤次郎選手に焦点を当てたノンフィクションです。昭和1ケタ、1930年代前半に活躍したテニス・プレーヤーで、世界ランキング3位まで上り詰め、おそらく、現時点までは空前絶後の日本最高のテニスプレーヤーと認識されています。上の写真は1932年のウィンブルドン全英選手権大会でプレーする佐藤選手です。日本テニス協会のアーカイブから引用しいています。どうして、図書館で借りてまで読んだのかと言うと、軽く想像される通り、錦織圭選手の活躍に触発された面が多分にあります。
日本のテニスが世界で認められるようになったのは、1920年代前半の大正末期です。4年前の北京オリンピックの際、このブログの2008年7月29日付けのエントリーで取り上げたように、1920年のアントワープ・オリンピックで熊谷一弥選手や柏尾誠一郎選手などが銀メダルを取り、また、チルデン選手とウィンブルドンで名勝負を繰り広げた清水善造選手などとともに、1920年代前半から日本のテニスは急速に世界で頭角を現わします。「さらば麗しきウィンブルドン」で取り上げられている佐藤次郎選手は熊谷選手や清水選手から約10年後の1930年代前半に活躍します。そして、1934年4月に欧州遠征途上のマラッカ海峡にて投身自殺をしています。27歳でした。遺体は発見されませんでしたが、船室に遺書が見つかり、覚悟の自殺と考えられています。
「さらば麗しきウィンブルドン」では昭和初期の史料をたんねんに当たって、その当時の我が国テニス界の実情をテニスを取り巻く諸事情などとともに浮き彫りにしています。すなわち、キーワードのひとつとなるデビス・カップに選手団を送り出して思わぬ収入がテニス協会に転がり込み、当時の国威発揚の雰囲気の強い国内世論とともに、個人的な参加となるウィンブルドンの全英やローラン・ギャロの全仏よりも、テニス協会内でデビス・カップへの傾斜が大きくなった事情、佐藤次郎選手が在学していた早稲田がテニス協会の中で派閥としてのし上がっていく様子、佐藤選手は国家として威信をかけたデビス・カップの試合を控えて神経性の胃腸病に苦しんだ一方で、個人参加のウィンブルドンなどでは体調もよく素晴らしい成績を残した戦績、などなど、ノンフィクションとして読みごたえのある内容となっています。佐藤次郎選手をいわば「看板」や「商品」として酷使し、死に追いやった形になったテニス協会に批判的な論調となっていることはいうまでもありません。

この「さらば麗しきウィンブルドン」は清水善造選手の生涯を描いた『やわらかなボール』とともに、1920年代から30年代、大正から昭和初期にかけての我が国テニス界の黄金期を描いた基本文献と見なされています。錦織選手を押し立てて、日本テニスは第2の黄金期を迎えることが出来るでしょうか。とても楽しみです。

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2012年2月15日 (水)

榊原英資『公務員が日本を救う』(PHP研究所) を読む

榊原英資『公務員が日本を救う』(PHP研究所)

大蔵省OBで青山学院大学教授である榊原英資の『公務員が日本を救う』を読みました。論旨は極めて明確で、表紙を見れば明らかです。まず、出版社のサイトから解説を引用すると以下の通りです。

解説
「東日本大震災」という戦後最大の危機に直面しながら、対応が遅れる日本政府。日本の危機をしっかりと認識すらできず、この期に及んでなおパフォーマンスばかりが目立つ「政治主導」が続くことを考えれば、政治家が官僚を含む公務員を使いこなし、公務員がしっかり活躍する体制のほうがどれほど安心か――と国民は思いはじめているのではないか。
実際、今般の被害に際して、地方公務員、自衛隊員・消防隊員たちの活躍・献身ぶりは多くの日本国民の心をとらえ、これまでマスメディアやポピュリズム政治家たちによって煽られてきた「公務員バッシング」を反省すらしている感がある。
元公務員である著者は、「そろそろ誰かが、日本の公務員が優秀で、平均的には大変いい仕事をしていること、問題はむしろ政治家にあるのだというこをしっかりと発言すべきではないでしょうか」と主張する。さまざまな資料や知られざるエピソードとともに綴る、公務員へのエール。

繰返しになりますが、論旨はとても明確です。なお、章別構成は以下の通りです。これを見れば、さらに論旨は明快になります。

第1章
日本の公務員は「少数精鋭」
第2章
日本で法律をつくっているのは誰か
第3章
「エリート」なくして「国」立たず
第4章
政治家たちこそ「改革」が必要だ
第5章
日本のメディア報道が社会を歪める
第6章
あるべき「地方分権」のかたち
第7章
何でも「民営化」の愚
第8章
「天下り」がどうして悪いのか

まず、著者が公務員OBとはいえ、現在の政権与党にかなり近いとウワサされている人物であることを認識しておく必要があります。その上で、現政権の政治主導を強く批判し、公務員の行政運営を高く評価していることは、大きな前提条件として確認しておくべきでしょう。すなわち、決して、現政権に反対する前政権寄りの公務員OBの主張ではないことを頭において読み進む必要があります。しかし、物足りない部分や誤解ではないかと思われる記述も少なくありません。例えば、本書で主として取り上げている対立軸が、公務員 vs 政治家、であったり、公務員 vs メディア、であったりするので、本来の日本経済の主役である民間企業がまったく出て来ません。ですから、日本が先進国で豊かな国であるのは、政治家やメディアのおかげではなく、公務員のおかげという結論になっているのは疑問が残ります。実は、勤勉に働く日本国民の多くが勤めている民間企業のおかげだと私は考えています。本書で指摘されている通り、我が国の公務員は欧米先進国に比べて人口当たりで圧倒的に少ないんですから、逆に、多くいる民間企業従業員と民間企業が日本経済を豊かな先進国に押し上げたと見なす方が自然ではないでしょうか。数少ない公務員が効率的に働いているというわけではなく、公務員が少ないがために民間企業の効率的な経営を妨害するまで手が回らなかった可能性もあります。また、エリートに関する著者のお考えも公務員制度とは切り離して議論すべきかもしれません。

勤労世代である公務員の給与を削減して、引退世代の年金財源にしようという動きがあり、私の従来からの主張とは真逆だったりするんですが、政治家からもメディアからもややムチャな公務員バッシングが見受けられなくもない世の中ですから、バランスを取るために読んでおいてよかったと、公務員のひとりとして受け止めています。一応、読書感想文の日記に分類しておきます。

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2012年2月14日 (火)

「子どもの学習費調査」に見る学費負担を格差の観点から考える!

やや旧聞に属するトピックですが、先週金曜日2月10日に文部科学省から平成22年度「子どもの学習費調査」の結果が発表されています。報道資料概要資料がそれぞれpdfでアップされています。教育や医療については専門外なんですが、エコノミスト的な効率と公平を考える上で興味がありますので、私の分かる範囲で取り上げたいと思います。ということで、まず、調査結果の要約を報道資料 p.1 から引用すると以下の通りです。

調査結果の概要
1) 「学習費総額」は、高等学校を除く各学校種ともほぼ横ばいで推移しています。今回、大幅に減少となった高等学校については、公立高校の授業料無償制及び高等学校等就学支援金の効果と思われます。
2) 学習費総額の公私間の差については、最も差が大きい学校種は小学校で、私立が公立の4.8倍、次いで中学校の2.8倍となっています。
3) 公立学校における「補助学習費」は、高等学校進学が近づくにつれて支出額が多くなる傾向があり、中学3年生が最も多くなっています。一方、私立学校では、中学校進学が近づくにつれ、支出額が多くなる傾向にあり、小学校6年生が最も多くなっています。
4) 今回の調査結果によれば、幼稚園3歳から高等学校第3学年までの15年間において、すべて公立に通った場合では約504万円、すべて私立に通った場合では約1,702万円となります。(約3.4倍)
5) 「世帯の年間収入別」の補助学習費は、世帯の年間収入が増加するほど、多くなる傾向が見られます。

いくつかのメディアを私が見た限り、引用した上の4番目のポイント、すなわち、公立と私立の学費の格差がもっとも注目されて報道されていたような気がします。下のグラフの通りであり、報道資料 p.14 図9 幼稚園3歳から高等学校第3学年までの15年間の学習費総額から引用しています。

幼稚園3歳から高等学校第3学年までの15年間の学習費総額

幼稚園から高校まですべてを公立に通う場合が504万円、逆に、すべて私立に通う場合が1,702万円となります。引用にある通り、オール公立とオール私立の差は3倍を超えます。なお、我が家の場合、上のおにいちゃんが小学校に入学した時は海外在住でしたので現地の日本人学校の小学部に入りました。これは公立に分類されるのかどうか、私には不明です。

世帯の年間収入段階別の「補助学習費」

次に、引用した第5のポイント、すなわち、所得階層別の補助学習費も格差の観点から興味あるところで、上のグラフの通りです。報道資料 p.12 図7-1 世帯の年間収入段階別の「補助学習費」(公立) と図7-2 世帯の年間収入段階別の「補助学習費」(私立) から引用しています。一部に逆転現象も見られますが、当然ながら、大雑把に所得が高いほど補助学習費も多い結果が得られています。ただし、統計的に有意な差なのかどうかは明らかにされていません。

公財政教育支出の対GDP比(2006年)

補助学習補の所得に基づく格差を重視するのは、我が国では公財政からの教育費支出が先進国の中では小さく、このため、私的に支出される補助教育費により、極めて容易に教育成果に差がつきやすいからです。上のグラフは、OECD東京センター「図表で見る教育2009: 関連資料」の p.6 表 B2.1: 公財政教育支出の対GDP比(2006年)を引用していますが、日本は欧米諸国に比較して初等中等教育段階での公財政からの教育費支出が大きく見劣りします。GDP比で1%ほどの差があり、金額に換算すると4-5兆円くらい欧米諸国より少ないと言えます。逆から見て、公財政からの教育費で十分な教育が受けられるようにしないと、親の所得に相関する形で補助教育費が上乗せされることにより、もしも、教育成果の格差が所得に反映されると仮定すれば、格差が世代を超えて継承されることになりかねません。

中学入試偏差値と合格実績

もっとも、この見方には反論もあります。例えば、『経済分析第182号(ジャーナル版)』に収録されている小塩・佐野・末冨「教育の生産関数の推計 - 中高一貫校の場合」に従えば、入学から卒業までの教育の付加価値で見て大きな差はなく、国立と私立の6年制中高一貫校の中学校入学時の偏差値と大学の合格実績をプロットすると、かなり強い正の相関があり、いわゆる進学校と称されている国立や私立の6年制中高一貫校は、いわば、偏差値の高い子を入学させて、そのまま大きな教育の付加価値をつけるわけではなく、偏差値の高い大学に送り出している、という構図であると分析されています。よい友人に囲まれて中学・高校という青春時代を過ごすというピア効果は測りがたいものの、数量化できるいろんな教育条件、例えば、生徒と教師の人数比とか、1クラスの生徒数とかは教育の付加価値には有意に相関せず、唯一、かなりの正の相関を示したのは授業時間数であったとの結論を得ています。要するに、長時間勉強して、努力すれば偏差値の高い大学に入れるということです。なお、上のグラフは小塩・佐野・末冨論文の p.61 図4-1. 中学入試偏差値と合格実績から引用しています。

教育や医療などに関しては、先日取り上げた故宮展もそうですが、市場経済的な視点だけで問題を解決するのはムリだろうと私は考えています。そういう意味で、私は市場原理主義的なエコノミストではないと勝手に自分を位置付けています。もちろん、エコノミストは公平を無視して効率だけに着目するわけではありませんが、市場経済的な解決方法は効率的な一方で、公平かどうかは疑問が残ります。教育と医療については、通常の経済問題と異なり、トレードオフの関係にありがちな効率と公平がともに重視されて然るべき分野であると私は考えています。

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2012年2月13日 (月)

昨年10-12月期GDP速報のマイナス成長は憂慮すべきか?

本日、内閣府から昨年10-12月期のGDP速報、エコノミストの業界で1次QEと称されている重要な経済指標が発表されました。ヘッドラインとなる季節調整済みの実質成長率は前期比で▲0.6%、前期比年率で▲2.3%のマイナス成長を記録しました。ついでながら、2011年暦年の通年のGDPは実質で506兆8333億円、前年比で0.9%のマイナス成長となりました。まず、長くなりますが、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP実質2.3%減 10-12月、2期ぶりマイナス
円高・タイ洪水で輸出低迷

内閣府が13日発表した2011年10-12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.6%減、年率換算で2.3%減となった。マイナス成長は2四半期ぶり。円高や世界景気の減速にタイの洪水が重なり、輸出が低迷した。先行きについては、震災からの復興需要の本格化に伴い、緩やかな回復軌道に戻るとの見方が多い。
全体で前期比0.58%減となった実質GDPの増減にどれだけ影響したかを示す寄与度をみると、個人消費など内需はGDPを0.06%分押し上げたが、輸出の大幅な落ち込みを背景に外需が0.64%分の押し下げ要因になった。海外需要の落ち込みがマイナス成長の主因となった。
輸出は前期比3.1%減少した。欧州債務危機の影響が波及し、新興国の需要が伸び悩んだ。タイの洪水で自動車メーカーなどの部品が不足し、生産にブレーキがかかった。
輸入は1.0%増えた。鉄鋼製品の調達が増えたほか、スマートフォン(高機能携帯電話)など電子通信機器の輸入が増えた。
そのほかの需要項目別の内訳では、GDPの6割近くを占める個人消費は0.3%増加した。飲食・サービス消費が持ち直した。住宅投資は住宅エコポイント制度が昨年7月末で終了した反動などで0.8%減った。
設備投資は1.9%増え、5四半期ぶりにプラスに転換した。自動車メーカーが全体をけん引した。復興需要でブルドーザーなど掘削機械の投資も伸びた。
公共投資は2.5%減と2期連続で減少した。仮設住宅の建設が昨年夏でほぼ終了したためだ。本格的な復興経費を盛った11年度第3次補正予算の執行は、今春以降となる。
総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期を1.6%下回った。9期連続の下落。前期比は0.2%下落にとどまったが、物価が持続的に下落する緩やかなデフレ基調が続いている。
同時に発表した2011年暦年のGDPは実質で506兆8333億円となった。前年比で0.9%の減少。生活実感に近い名目は468兆738億円で前年比2.8%減で、ともに2年ぶりマイナスとなった。東日本大震災などが影響した。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。

需要項目2010/
10-12
2011/
1-3
2011/
4-6
2011/
7-9
2011/
10-12
国内総生産GDP▲0.1▲1.8▲0.4+1.7▲0.6
民間消費+0.0▲2.1+0.3+1.3+0.2
民間住宅+4.0+1.6▲2.5+4.5▲0.8
民間設備▲1.6▲0.5▲0.2▲0.0+1.9
民間在庫 *+0.0▲0.9+0.1+0.2▲0.3
公的需要▲0.2▲0.1+1.8▲0.0▲0.2
内需寄与度 *▲0.0▲1.6+0.6+0.9+0.1
外需寄与度 *▲0.1▲0.2▲1.0+0.8▲0.6
輸出▲0.3▲0.3▲6.2+8.6▲3.1
輸入+0.4+1.0+0.3+3.4+1.0
国内総所得GDI▲0.3▲2.5▲0.7+1.4▲0.6
名目GDP▲0.7▲1.9▲1.5+1.5▲0.8
雇用者報酬+0.3+0.5+0.1▲0.2+0.6
GDPデフレータ▲1.9▲1.9▲2.3▲2.1▲1.6
内需デフレータ▲1.3▲1.0▲1.0▲0.7▲0.3

さらに、テーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年10-12月期の最新データでは、赤の民間消費と水色の企業設備がプラスに寄与している一方で、黒の外需が大きくマイナスに落ち込んでいるのが見て取れます。

GDP前期比成長率と需要項目別寄与度の推移

先週月曜日2月6日にこのブログで取り上げた1次QE予想のほぼ下限に近いマイナス成長でしたが、それほど悪い姿ではないと私は受け止めています。ですから、東証の日経平均株価は上昇したりしています。極めて大雑把に言って、民需のプラスを公的需要のマイナスで帳消しにして、国内需要はほぼゼロ、厳密には極めて小さいプラス、そこに大きなマイナスの外需が乗っかって、全体のGDP成長率はマイナス。ということで、要するに、堅調な消費や設備投資などの民需を、遅れに遅れた復興需要が足を引っ張り、欧州の債務危機やタイ洪水などの海外経済と円高がマイナス成長を決定的にした、と考えるべきです。在庫もマイナスに寄与していますが、在庫調整の進展による前向きの動きと考えられます。先行きについて考えると、エコカー補助金による消費の押上げ、遅れに遅れた復興需要も公共投資に寄与するでしょうから、国内需要がけん引する形で現在進行形の1-3月期はプラス成長が見込めます。ただし、欧州債務危機をはじめとする海外要因は相変わらず不透明ですし、国内要因では電力の不足や値上げも景気の足をひっぱる可能性がありますが、何と言っても、最大の先行きリスクは円高です。

公的固定資本形成の推移

ということで、遅れに遅れている公共投資、GDPコンポーネントとしては公的固定資本形成、の推移は上のグラフの通りです。昨年4-6月期に仮設住宅の建設でハネ上がってから、第4次までの補正予算を組みながら、年央以降は一向に復興需要が出ていないのが見て取れます。「コンクリートから人へ」のマニフェストが活かされているとは思いませんが、まったく専門外の私の実感でも1995年の神戸に比較して、今回の東北の復興は確かに遅いと感じています。誠に残念ながら、その原因は私には不明です。

デフレータ上昇率の推移

もうひとつのトピックとして取り上げた上のグラフはデフレータの上昇率です。伝統に従って、季節調整していない原系列のデフレータの前年同期比を取っています。円高に伴う輸出入デフレータのかく乱のため、GDPデフレータはやや不規則な動きを示していますが、民間消費デフレータと国内需要デフレータは確実にマイナス幅を縮小させています。このデフレータ上昇率の正常化の動きは2001年のITバブル崩壊からの景気回復期よりも鮮明であると私は受け止めています。デフレ脱却が近づいているのかもしれませんが、従来からこのブログで主張している通り、私はデフレ脱却の十分条件は賃金の上昇であると考えていますので、必要条件である一定程度の安定的なプラスの物価上昇率とともに、この十分条件まで満たされるのはまだ先になるような気がします。

GDP統計を離れて、一昨日のエントリーで取り上げたチョコレートの販売促進について、私の主張の「友チョコ」だけでなく、朝日新聞のサイトで「チョコ+野菜・ラーメン… 消費者離れに製菓各社提案」という記事を見かけました。私のこのブログをご覧いただいたのかもしれませんが、いろいろと努力されているようです。

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2012年2月12日 (日)

パット・メセニー What's It All About を聞く

善良なる一般市民にはまったくどうでもいいことなんですが、今日、近くの図書館からの帰り道でイアホンが壊れました。何をどうしたわけでもないんですが、左が聞こえなくなりました。ひょっとしたら、イアホンではなくてウォークマンが壊れたのではないかと心配して、別のイヤホンで聞いてみるとちゃんと聞こえたので、大きく安心しました。修理するようなものでもないので新しいのと取り替えました。ということで、今日は音楽の話題です。

Pat Metheny: What's It All About

パット・メセニーの What's It All About を聞きました。アコースティック・ギターによるソロ・アルバムです。パット・メセニーの場合、ソロ・アルバムとはいわゆるグループでなくトリオの演奏なども指すケースがありますが、このアルバムはホントの一般的な意味でのソロであり、前作の Orchestrion とも違って、パット・メセニーのギター演奏だけのアルバムです。その意味で、One Quiet Night と同じなんですが、大きな違いは選曲にあって、すべてカバーでありオリジナルは含まれていません。ということで、曲目は以下の通りです。

  1. The Sound of Silence
  2. Cherish
  3. Alfie
  4. Pipeline
  5. Garota de Ipanema
  6. Rainy Days and Mondays
  7. That's the Way I've Always Heard It Should Be
  8. Slow Hot Wind
  9. Betcha by Golly, Wow
  10. And I Love Her
  11. 'Round Midnight
  12. This Nearly Was Mine

サイモン&ガーファンクルの名曲に始まって、カーペンターズやバートバカラック、ヘンリー・マンシーニにカーリー・サイモン、ビートルズからセロニアス・モンクの作曲になるジャズの名曲まで、日本でも耳にしたことのあるポピュラー・ソングやジャズの名曲のオンパレードという気もします。しかし、パット・メセニー流の解釈が施されていたりして、聞き慣れた曲がとても新鮮に感じられるものも少なくありません。リスナーの受け取り方にもよりますが、単にリラックスして聞くだけでなく、緊張感を持った聞き方も出来ます。超一流のミュージシャンにかかれば、この選曲でもいろんな聞き方の出来るアルバムに仕上がるということを実感しました。なお、ライナー・ノーツは我が国を代表するジャズ・ギタリストの渡辺香津美さんが書いています。最後に、このアルバムからネットにアップされている動画のうち、5曲目の「イパネマの娘」は以下の通りです。

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2012年2月11日 (土)

バレンタインデーの「友チョコ」はどうして登場したのか?

来週火曜日の2月14日はバレンタインデーです。我が家では昨年まで小学生だった下の子がチョコをいっぱいもらって来ていたんですが、昨春から男子単学の中学校に進学しましたので、今年は望み薄のような気がします。

チョコレートの年間消費支出に占める2月の比率

エコノミストの端くれとしてデータを調べたことがあるんですが、世間一般でバレンタインデーにチョコを贈る習慣は1970年代後半から始まっていると私は理解しています。上のグラフがその根拠です。何をプロットしているかと言えば、総務省統計局の「家計調査年報」のデータを取って、1世帯当たりチョコレートの年間消費額のうち、月別で2月のシェアを計算しています。1975年くらいまで2月のチョコレート消費額のシェアは年間総消費額に対して10%前後で、特に多くもなかったんですが、グラフに見られる通り、1970年代後半からグングンと比率を上昇させ、バブル直後の1992年には、チョコレートの年間消費額のほぼ1/3が2月に集中して支出されるようになります。その後、バブルの崩壊とともに、このチョコレート消費の2月集中度は10年かけてゆっくりと低下し、2002年には1/4を割り込んだ後、今世紀に入ってほぼ1/4である25%前後で推移しています。

チョコレートの年間消費額

チョコレートは必需的消費というよりも、どちらかと言えば選択的消費に入ると私は考えているんですが、同じく総務省統計局の「家計調査年報」から取った1世帯当たりの年間消費額は上のグラフの通りで、生活実感に近い名目消費額は景気循環に従って少し波を持ちつつも、着実に増加していますが、何せ原料がカカオという国際商品市況に伴う価格変動の激しい農産物ですから、物価上昇率で調整した実質消費額は最近数年で低下傾向にあるのが見て取れます。決して陰謀史観の影響が強いわけではないものの、私だけでなく、直観的に、バレンタインデーにチョコレートを贈る習慣はチョコレート業界の宣伝の賜物であると理解している人は少なくないと思いますが、この販売不振を挽回する手段として「友チョコ」なるものがチョコレート業界の販売戦略のひとつとしてクローズアップされているんではないか、という解釈も可能ではないでしょうか。また、もうひとつのターゲットは、世間でまったく注目されていない「父チョコ」なんですが、コチラは人数も限られるし、すでにかなり広まっていて、先行きの成長性は「友チョコ」に劣るような気もします。「友チョコ」の次は「自分チョコ」である、と大胆に予想しておきます。ということで、楽天リサーチ「バレンタインに関する調査」を引用して、「友チョコ」の伸びを見ると以下の表の通りです。

誰にチョコレートを贈るか

私は国際派のエコノミストですから海外勤務の経験もあり、キリスト教国のチリやイスラム教国のインドネシアに住んだことがありますが、バレンタインデーにチョコを贈る習慣は見かけたことがなく、日本だけの特殊な風習めいたものである気がします。今年のバレンタインデーやいかに?

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2012年2月10日 (金)

高橋源一郎『恋する原発』(講談社) を読む

高橋源一郎『恋する原発』(講談社)

高橋源一郎『恋する原発』(講談社) を読みました。昨年下半期最大の話題の書のひとつだと思います。まず、出版社のサイトから本の内容紹介を引用すると以下の通りです。

内容紹介
大震災チャリティーAVを作ろうと奮闘する男たちの愛と冒険と魂の物語!
世界の非情を前に無力な人間ができるのは、唯一、笑うことだ。

いままででいちばん書きたかった小説でした。――(高橋源一郎)

作者は我が国のいわゆるポストモダン文学のリーダーの1人ですし、何より、よしもとばなな『スウィート・ヒアアフター』を昨年2011年12月30日付けのエントリーで取り上げていますが、いずれも震災文学の小説の代表的な作品に入ると受け止めています。しかし、しかしですよ、誠に残念ながら、この作品を私の感性で十分に理解したと言い切る自信はありません。p.199 からの震災文学論も含めて、私の理解を超えているかもしれません。従って、読書感想文の日記は1回休みとします。

本日発売の「文藝春秋」を買い求めましたので、近いうちに、芥川賞受賞作品2作を選評とともに読みこなして、改めて、次の読書感想文を書きたいと思います。

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2012年2月 9日 (木)

先月の大幅増から反動減の機械受注と改善する消費者態度指数

本日、内閣府から昨年12月の機械受注統計と今年1月の消費者態度指数が発表されました。コア機械受注と称される船舶と電力を除く民需の機械受注は季節調整済みの統計で前月比7.1%減の7332億円となり、市場の事前コンセンサスを少し下回りました。消費者態度指数は2か月連続で上昇し、基調判断が「持ち直し」に上方修正されています。まず、いつもの日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

12月の機械受注、前月比7.1%減 2カ月ぶりのマイナス
内閣府が9日発表した2011年12月期の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶、電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は、前月比7.1%減の7332億円だった。マイナスは2カ月ぶりとなる。製造業が7.1%減、非製造業が6.0%減でいずれもマイナスだった。
製造業は3カ月ぶりのマイナス。電子計算機や通信機などの電気機械、工作機械などの一般機械からの受注が減った。非製造業は2カ月ぶりのマイナスで、通信機などの通信業や農林用機械など農林漁業からの受注が落ち込んだ。内閣府は「いずれも前月に伸びた反動減」とみている。
外需は5.6%増と3カ月のプラス。大型案件が続いたほか、タイの洪水を受けて工作機械などの受注も増えた。
官公需は50.7%増の高い伸び。防衛省関係の航空機や通信機、東日本大震災の被災地自治体向けの焼却炉や下水ポンプなどの受注があった。
内閣府は機械受注の基調判断を「一進一退で推移している」に据え置いた。
1月の消費者態度、2カ月連続改善 判断は4カ月ぶり上方修正
内閣府が9日発表した1月の消費動向調査によると、一般世帯の消費者心理を示す消費者態度指数(季節調整済み)は前月比1.1ポイント上昇の40.0だった。改善は2カ月連続。内閣府は基調判断を「ほぼ横ばいとなっている」から「このところ持ち直しの動きがみられる」へと4カ月ぶりに上方修正した。
1月は指数を構成する4つの項目全てが上昇。有効求人倍率の上昇など雇用環境の改善を受けて、消費者心理に明るさが戻った。年初は初売りが好調だったほか、ホテルの予約、旅行が増え、「暮らし向き」は同1.4ポイント上昇した。
タイの洪水被害からの挽回生産に伴う残業増加によって、製造業では現金給与の総額が増加。「収入の増え方」も同1.2ポイント上昇した。エコカー補助金の復活のほか、家電では価格の下落傾向が続いたため、「耐久消費財の買い時判断」は前年同月と比べてもプラスに転じた。
一方で、消費者態度指数を水準で見た場合、東日本大震災が発生する前である昨年2月(41.2)には届かなかった。
1年後の物価見通しについては、寒波襲来による生鮮野菜の価格上昇などを受けて、「上昇する」と答えた消費者の割合は63.1%と前月(61.3%)から上昇した。しかし、「低下する」との答えも8.1%と前月(7.4%)から上昇し、消費者物価指数(CPI)の低下など「長期的な傾向」(内閣府)が影響したとみられる。
調査は全国の6720世帯が対象。今回の調査基準日は1月15日で、有効回答数は5035世帯(回答率74.9%)だった。

次に、いつもの機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需の機械受注、いわゆるコア機械受注とその6か月後方移動平均をプロットしており、下のパネルは需要者別の機械受注です。折れ線グラフの色分けは凡例の通りとなっています。いずれも季節調整済みの系列で、影を付けた部分は景気後退期です。

機械受注の推移

12月のコア機械受注の落ち込みはすべてが「反動減」であるとは考えませんが、基本的に統計作成官庁の内閣府と同じで、私も楽観的に受け止めています。というのは、第1に、前月11月+14.8%増に比べて、減少率で半分に満たないわけですし、コア機械受注の外数ですが、反動で同じようにマイナスに入ると見込まれていた外需はプラスを維持しました。第2に、何よりも、同時に発表された1-3月期見通しが前期比で、内需+2.3%増、外需+23.8%増と堅調だからです。もっとも、コア機械受注は10-12月期に+2.3%減でしたから、10-12月期と1-3月期をならして横ばいですが、出荷側の統計も併せて考えると、緩やかなテンポながら、徐々に設備投資は増勢に向かうと見込んでよさそうです。

消費者態度指数の推移

消費者態度指数は上のグラフの通りです。引用した記事にもある通り、震災前の2011年2月の指数には届きませんでしたが、震災後でもっとも高い水準に達しました。昨日発表の景気ウォッチャーで1月は大雪などで下げたのに私は少しびっくりしたんですが、供給サイドのマインドを代表する景気ウォッチャーと需要側のマインドを代表する消費者態度指数では少し相異があるのかもしれません。雇用の改善に従って消費意欲はまだ高まる可能性があると私は受け止めています。

欧州の債務危機が解決に向かい、米国経済は引き続き堅調となれば、わが国経済でも少しずつながら景気拡大に向けた動きが見られるようになるものと期待を膨らませています。

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2012年2月 8日 (水)

経常収支の先行き見通しと景気ウォッチャー調査

本日、財務省から12月の国際収支が発表されました。ヘッドラインとなる経常収支は季節調整していない12月の統計を見ると、前年同月からほぼ1/4に減少したものの3035億円の黒字、他方、貿易サービス収支は7002億円、うち貿易収支は5851億円のそれぞれ赤字を記録しました。2011年通年の経常収支は前年比ほぼ半減の9兆6289億円の黒字、貿易収支は1兆6089億円の赤字と、必ずしも同じベースで比較できないものの、1963年以来の赤字に転落しました。10-12月期のGDP統計で外需がマイナスになるのは確実ですが、第一生命経済研の今日のリポートでは一昨日にこのブログで紹介した1次QE予想を微妙に下方修正しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

経常黒字43.9%減 11年、過去最大の減少率
48年ぶり貿易赤字

財務省が8日発表した2011年の国際収支速報によると、モノやサービス、配当、利子など海外との総合的な取引状況を示す経常収支は9兆6289億円の黒字にとどまった。前年比43.9%減で、1985年以降の現行方式で最大の減少率となった。円高などで輸出が減る一方、原子力発電所の停止で燃料輸入が急増。輸出から輸入を差し引いた貿易収支が赤字に転落したことが主因だ。
経常黒字額は15年ぶりの低水準となった。財務省は「(世界経済の低迷による輸出の減少など)貿易赤字は全てが一時的要因とはいえない」としたうえで、「所得収支の黒字が堅調に推移すれば、ただちに経常赤字になることはない」との見方を示した。
貿易赤字は1兆6089億円だった。現行方式では初めての赤字。単純比較はできない旧基準のデータまで遡ると、63年以来48年ぶりの貿易赤字となる。
輸出額は62兆7234億円で、1.9%減少した。東日本大震災によるサプライチェーン(供給網)寸断で生産がストップし、輸出に響いた。年後半は欧州債務危機の深刻化や歴史的な円高が輸出の重荷となった。11年の為替相場は平均で1ドル=79円77銭と、前年に比べ8円ほど円高・ドル安で推移した。
輸入額は64兆3323億円で15.0%増えた。原発停止を受け、火力発電に使う液化天然ガス(LNG)の需要が膨らんだ。通関ベースでLNGの輸入は金額・数量ともに過去最高を記録した。
旅行や運送などのサービス収支は1兆6407億円の赤字となった。赤字額が前年より2264億円増えた。震災後の放射能不安などで、訪日外国人旅行客が3割近く減ったためだ。
所得収支は、経常収支を構成する4つの収支のうち、唯一黒字を確保。黒字額は19.9%増の14兆296億円となり、4年ぶりに拡大した。アジア新興国を中心に、海外子会社から受け取る配当・利子が増えたためだ。
同日発表した11年12月の経常黒字は前年同月比74.7%減の3035億円だった。震災が発生した昨年3月以降、10カ月連続で黒字額が前年同月の水準を下回った。

次に、いつもの経常収支のグラフは以下の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を、棒グラフはその内訳を経常収支のコンポーネント別に、それぞれ示しています。積上げ棒グラフの色分けは凡例の通りです。

経常収支の推移

メディアの論調に合わせるわけではないんですが、今夜のエントリーでは通年の経常収支統計を中心に、先行き見通しに焦点を当てて考えたいと思います。特に、いくつかのシンクタンクや金融機関では2020-25年度くらいまでの中期経済見通しを昨年12月から今年1月にかけて発表していますので、その中から私の実感に合致する結果などをいくつかピックアップしたいと思います。まず、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「日本経済の中期見通し」 p.28/49 図表24から経常収支の見通しのグラフを引用すると以下の通りです。

経常収支の見通し (三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

上のグラフの経常収支見通しは、私を含めて、かなり多くのエコノミストのコンセンサスに近いんではないかと受け止めています。2011年度は震災やタイの洪水などの特殊要因に起因する供給制約から輸出が振るわず、さらに、原発停止の影響で火力発電向けの燃料輸入が増加し、貿易収支が赤字に落ち込んだため、経常収支も大きく黒字幅を縮小すると予想されています。これら一時的な要因が解消される来年度は貿易収支は黒字に戻ると考えられるものの、2010年代半ばで経常収支の黒字拡大はピークを付け、その後、貿易収支が赤字化するに従って経常収支もゆっくりと黒字幅を縮小すると見込まれています。もっとも、投資収益収支の黒字が大きいため、2020年度くらいまでの中期では経常収支の黒字幅は縮小するものの赤字に転落することは予想されない、との結論です。なお、図表の引用はしませんが、ニッセイ基礎研「中期経済見通し」の p.10 [図表-8]経常収支の推移を見ると、2011年度から2021年度まで経常収支の黒字幅は回復することなく、一貫して縮小すると見込まれている点で、上の三菱UFJリサート&コンサルティングや下の大和総研と異なるものの、最終年度の2021年度まで何とか経常黒字を維持するという結論は変わりありません。

貯蓄投資バランスの見通し (大和総研)

上のグラフは、大和総研「日本経済中期予測」 p.21/57 図表1-20から貯蓄投資バランスの見通しのグラフを引用しています。海外部門の黒字が経常収支に相当しますが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「日本経済の中期見通し」の経常収支の見通しのグラフとほぼ同じシェイプと言えます。また、図表の引用はしませんが、野村證券「中期経済見通し」 p.19 図表23に示された日本の経常収支の先行き試算でも、2025年までGDP比1%程度の経常黒字を保つことが見込まれています。ただし、当然ながら、円高は経常収支を悪化させます。具体的な例を示すと、大和総研「日本経済中期予測」 p.26/57 図表2-4において5%の円高ドル安となった場合の日本経済への影響が大和中期マクロモデルにより試算されており、2年目以降はGDP比で▲0.2%程度の経常収支悪化要因となることが示されています。

経常収支と国債の海外投資家比率

どうして経常収支の先行き見通しを取り上げるかといえば、GDPのコンポーネントである外需の需要項目であるだけでなく、膨大な政府債務を積み上げた我が国財政のサステイナビリティに関係するからです。ということで、上のグラフは野村證券「中期経済見通し」 p.12 図表15から経常収支と国債の海外投資家比率を引用しています。とても少なくて恣意的なサンプル選択の中で引かれているトレンド・ラインながら、直感的に、経常収支と国債の海外投資家比率の間にはマイナスの相関があることは理解できます。これは必ずしも因果関係を示すものではありませんが、経常収支が赤字になれば海外投資家から国債の資金調達をする必要が大きくなることは明らかであり、財政のサステイナビリティの観点からも経常収支の動向には関心が払われて然るべきです。もっと言えば、経常収支が黒字をキープできている間に財政再建に成功しないと、財源調達を海外に頼ることにもなりかねず、極端な場合、財政破綻の確率が高まる可能性すら排除できません。

景気ウォッチャー調査の推移

最後に、本日、内閣府から今年1月の景気ウォッチャー調査結果が発表されています。現状判断DIは低下し、先行き判断DIが上昇する結果となっています。円高と大雪がマインドを悪化させたと分析されているようで、少なくとも後者の大雪については、先行き判断DIのスコープである2-3か月のうちに解消されることは明らかです。

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2012年2月 7日 (火)

IMFリポートの「ユーロ圏危機の深刻化で中国経済失速」は日本にも当てはまるか?

国内の多くのメディアに北京発の共同電でキャリーされていますが、昨日、2月6日に国際通貨基金 (IMF) 北京事務所から「中国経済見通し」China Economic Outlook が発表され、ユーロ圏の債務危機により世界経済の成長率が1¾%ポイント低下するというダウンサイド・シナリオが実際のものとなれば、このブログでも1月25日に取り上げた「世界経済見通し」で2012年8.2%、2013年8.8%と見込まれていた中国の成長率が2012年に4%ポイントほど落ち込む可能性があると指摘されています。
今年の経済見通しについては、何となくの「ダボス・コンセンサス」で、出典をメモしておくのを忘れたんですが、そう悪くない not so bad というのをどこかで見かけました。メルケル独首相はオープニング・スピーチで緊縮財政と経済自由化の必要性を強調し、ユーロ圏の債務危機も何とか乗り切って、米国は先週の雇用統計で示されたように、まずまずの回復を示しており、やや悲観シナリオが後景に退いた印象を持っていたんですが、世界経済の成長エンジンである新興国の、そのまた、ど真ん中に位置する中国経済に関する悲観論を惹起しかねない論調ですし、このブログは国際機関のリポートを取り上げるという特徴もあることですから、簡単に見ておきたいと思います。
日本国内で注目された中国経済失速の結論をリポート p.5 パラ9から引用すると、"In the downside scenario outlined in the WEO Update - which would see global growth falling by 1¾ percentage points relative to the baseline - China's growth would fall by around 4 percentage points." ということになります。日経新聞の記事など、国内メディアの報道はこの中国経済失速までだったんですが、Wall Street Journal の記事などで触れられているように、リポートでは、さらに続きがあります。すなわち、中国の財政にはまだ財政政策による景気浮揚 fiscal stimulus の余地があるとして、2012-13年にかけてGDP比3%くらいの景気浮揚策を準備しておく必要性を示唆しています。リポートでは、"China should be prepared to tolerate modestly lower growth in the near term while cushioning the impact on the most vulnerable through targeted transfers and unemployment benefits. A fiscal package - of around 3 percent of GDP - should be the principal line of defense." ということになります。要するに、リポートの p.6 から引用している下のグラフの通りです。ダウンサイド・シナリオの際の中国のGDPについてベースラインからの乖離率をプロットしていて、赤い波線はダウンサイド・シナリオそのもの、青い実線はダウンサイド・シナリオなるも財政政策による景気浮揚を図った場合です。

Effect on China Output

ここで、ユーロ圏の債務危機に起因するダウンサイド・シナリオの顕在化による世界需要の下振れリスクは同様のショックを日本にももたらす可能性が十分にあります。当然です。ですから、今夜のエントリーのタイトルに対する答えは、当然、"Yes, it does." ということになります。中国と日本の相違点は、日本の場合は確実に成長率がマイナスにまで悪化するということと、何よりも、財政余力がないことです。

Change in Gini Index, Last Two Decades

また、外的ショックが中国の国内リスクを顕在化させる可能性を指摘し、特に、資産価格低下のリスクを上げています。早い話がバブル崩壊が生じる、というか、外的ショックに伴って、より早期にバブルが崩壊するリスクです。その場合に、住宅の1次取得者や低所得層への影響も勘案する必要があるとし、リポートでは p.8 に上のグラフを掲げて、中国における格差の拡大がアジアの中でも大きい点を指摘しています。

景気動向指数の推移

最後に、本日、内閣府から12月の景気動向指数が発表されました。上のグラフの通りです。耐久消費財出荷指数や鉱工業生産財出荷指数が上昇に寄与しており、内閣府は一致指数の基調判断を「下げ止まり」から「上方への局面変化」に変更しています。

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2012年2月 6日 (月)

来週13日に発表される10-12月期GDP速報1次QEはマイナス成長か?

来週2月13日に2011年10-12月期GDP速報が内閣府より発表されます。明後日の経常収支を除いて、推計に必要な経済指標がほぼ出尽くし、各シンクタンクや金融機関などから2011年10-12月期の1次QE予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。可能な範囲で、足元の10-12月期以降の先行き見通しを拾いました。先行き見通しについては特に長々とフォローしていますが、そうでなければアッサリと取り上げてあります。もちろん、いつもの通り、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別画面が開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.1%
(▲0.5%)
2012年1-3月期以降を展望すると、タイの洪水の影響が薄れるなか、復興需要の本格化により、高めの成長となる公算。もっとも、企業を取り巻く環境は依然、厳しい状況。海外経済の減速や円高が引き続き景気下押しに作用するほか、核開発疑惑を巡るイランと欧米の対立による原油価格への影響も懸念材料。
みずほ総研▲0.5%
(▲2.1%)
昨年10-12月期はマイナス成長となったが、タイの洪水による部品不足の影響を受けた輸出の減少という一時的な要因によるところが大きく、日本経済の回復基調自体は崩れていない。
ニッセイ基礎研▲0.3%
(▲1.4%)
2012年1-3月期は補正予算の執行に伴い公的固定資本形成が増加に転じること、雇用・所得環境の持ち直しを背景に民間消費が伸びを高めることなどから、プラス成長に復帰する可能性が高い。
第一生命経済研▲0.4%
(▲1.6%)
高成長から一転してマイナス成長に陥る見込みであり、日本経済が踊り場局面入りしていることを改めて印象付けることになる可能性が高い。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券▲0.2%
(▲0.8%)
景気の足踏みも、地デジ化完全移行前の特需の反動やタイの洪水など、一時的押し下げ要因の影響によるところが大きい。こうした影響はすでに一巡しており、11年12月には輸出や個人消費の関連指標が持ち直している。
三菱総研▲0.4%
(▲1.6%)
震災からの復旧が夏場で一服し、海外経済の減速などを背景に景気が踊り場局面に入ったことを裏付ける結果となろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.5%
(▲1.8%)
世界経済の減速などの影響で、景気のけん引役である輸出が減少に転じたことが主因である。
みずほ証券リサーチ&コンサルティング▲0.5%
(▲1.8%)
サプライチェーンの復旧など、震災による大幅な経済活動の落ち込みからの持ち直しの動きが一巡するなか、海外経済の減速や円高の進行、さらにはタイの洪水の影響などを受けて、足元にかけて日本経済の回復に向けた動きが足踏みしていることを示す結果になるとみられる。
伊藤忠経済研▲0.5%
(▲2.2%)
内需の拡大が外需による押し下げを上回り、マイナス成長は10-12月期の1四半期で終わり、1-3月期以降は小幅のプラス成長へ復帰するというのがメインシナリオである。日本経済は2011年の1%程度のマイナス成長から、復興投資などを梃子に2012年は1%台半ばのプラス成長へ転じると見込まれる。

当然のことながら、見通しに幅はありますが、最大で年率2%を少し上回るくらいのマイナス成長が見込まれています。クローズな形で届くニューズレターも含めて、私が目にした範囲で、プラス成長を予想する意見は見られませんでした。
昨年12月の7-9月期2次QEが公表された時点では、私自身の関心はFISIMの導入をはじめとする基準改定に向いていたんですが、大雑把に、エコノミストの間で私のような楽観的な見方をする場合は、10-12月期はゼロ近傍なるもプラス成長という意見もありました。もっとも、プラス成長がコンセンサスだったわけではありません。2か月足らずで10-12月期はマイナス成長がコンセンサスになってしまいました。大きな変化は外需の見通しです。11月のタイ洪水のが我が国の輸出に及ぼした影響に多くのエコノミストは少しびっくりし、今回の予想でも外需が大きくマイナスに寄与するという見方がほとんどです。加えて、公的資本形成、すなわち、公共投資もマイナスに転じることが予想されています。12月9日付けのエントリーで7-9月期の2次QEを取り上げた際、「復興需要をはじめとする公的需要は成長にサッパリ貢献していない」と書きましたが、10-12月期には貢献どころか足を引っ張る結果になると見込まれています。復興需要の遅れは単に経済成長面からだけでなく、より深刻な内容を含んでいることは言うまでもありません。
先行きについては、1-3月期がプラス成長に復帰するという見方はほぼコンセンサスがある一方で、その先については見方が分かれました。基本的に、私はみずほ総研や三菱UFJモルガン・スタンレー証券、伊藤忠経済研などと同じで、基本は日本経済が回復過程にあると考えていて、一時的な足踏み状態をそろそろ脱するんではないかと見込んでいます。他方、第一生命経済研のように、この足踏み状態はタイの洪水などに起因する一時的なものではなく、踊り場局面と考えるべきであるという意見もあります。いずれにせよ、先行きリスクは下振れ要因の方が大きくて多いことは確かです。

下振れリスクの中で、最大限避けたいイベントは欧州の財政破綻です。いつの時点で、どこの国が、によりますが、リーマン証券の破綻と同じか上回るくらいの大きなインパクトを世界経済に及ぼす可能性を否定できません。

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2012年2月 5日 (日)

山田詠美『ジェントルマン』(講談社) を読む

山田詠美『ジェントルマン』(講談社)

ようやく図書館の予約の順番が回って来て、山田詠美『ジェントルマン』(講談社) を読みました。久し振りに素晴らしい小説に巡り会えた気がします。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

内容紹介
ぼくの愛したその男、罪人(つみびと)につき。
非の打ちどころのない優しさを持つ青年、漱太郎。紳士の顔に隠された、道徳の汚れを垣間見たそのときから、夢生は彼の"告解の奴隷"となった――。
哀切極まる衝撃の結末に、あなたは耐えられるか。
圧倒的熱量で紡がれる生と性の残酷さ、ままならない恋の究極。

眉目秀麗、文武両道、才覚溢れるジェントルマン。その正体――紛うことなき、犯罪者。
誰もが羨む美貌と優しさを兼ね備えた青年・漱太郎。その姿をどこか冷ややかに見つめていた同級生の夢生だったが、ある嵐の日、漱太郎の美しくも残酷な本性を目撃してしまう。それは、紳士の姿に隠された、恐ろしき犯罪者の貌だった――。その背徳にすっかり魅せられてしまった夢生は、以来、漱太郎が犯す秘められた罪を知るただひとりの存在として、彼を愛し守り抜くと誓うのだが……。
比類なき愛と哀しみに彩られた、驚愕のピカレスク長篇小説。

さすがに素晴らしい小説です。久々にこの山田詠美さんらしい作品を読んだ気がします。耽美的と言うか、背徳的と言うか、この作者の作品らしく、カギカッコ付きの「ある種の狂気」を感じさせました。読者によっては漱太郎に、貴志祐介『悪の教典』の蓮実を重ね合わせる人がいるかも知れません。でも、私は違うと感じました。京都の人間的な感性からすると、漱太郎は明らかに裏表があります。京都人と同じです。しかし、蓮見は裏も表もありません。蓮見の行動は同じ次元で首尾一貫していますが、漱太郎の表と裏は次元が異なります。漱太郎は仮面をつけていると表現してもいいかもしれません。その裏と表が、京都人のように一定の伝統的なルールに則っているわけではないだけです。しかも、京都人のように洗練されているわけでもなく、合法的でもありません。それにしても、私にも妹がいますが、漱太郎の妹に対する感性はとりわけ強烈でした。ラストよりも、そちらのほうが「衝撃的」でした。
ストーリーもさることながら、山田詠美さんらしい飛びっ切りの表現力に触れた気がします。例えば、漱太郎について「下卑た本性」 (p.100) と夢生に言わしめたり、恋愛に関する秀逸な定義を「どんなに聡い人間にも見えないものがある。それは、体験したことのない愚鈍どもの幸福。それを他者によって与えられる時、ぼくたちは、恋に落ちた、と形容するのだ。」 (p.134) として与えたりしています。私はそれほどメモ魔ではないんですが、思わず書き留めておきたくなる名文句だという気がします。特に、私が気に入った表現は「幸せに退化して行く」 (p.172) という言い回しです。ストーリーというか、プロット、特にラストの「切り取り」の部分は衝撃的ではありますが、展開を追うだけでなく、文体の素晴らしさとともに、細かな表現力も十分に読み取って味わいたい小説です。

最後に、ラストがあっけなかったと受け取る読者もいるかもしれませんが、私はふくらみと余韻をもたせたこのラストに感動しました。こと細かに何でも描写すればいいというものではありません。文句なしの5ツ星です。私も近くの図書館で借りましたが、ほとんどの公立図書館に所蔵されていると思います。多くの方が手に取って読むことを願っています。

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2012年2月 4日 (土)

米国雇用統計のグラフィックス

昨日、米国の労働省から1月の米国雇用統計が発表されました。ヘッドラインとなる非農業部門雇用者数は前月より24.3万人増加し、失業率も0.2%ポイント改善して8.3%になりました。いずれも季節調整済の系列の数字です。フェイスブックの株式公開なのか、この雇用統計なのか、私にはよく分かりませんが、NY証券取引所のダウ平均株価は3年振りの高値で今週を終わりました。米国雇用統計は何と言っても注目の指標ですし、私のブログでもグラフを中心に簡単に取り上げておきたいと思います。まず、New York Times のサイトから記事の最初から5パラを引用すると以下の通りです。

U.S. Jobless Rate Falls to 8.3 Percent, a 3-Year Low
The United States economy gained momentum in January, as employers added 243,000 jobs, the second straight month of better-than-expected gains.
And in a separate measure, the unemployment rate fell to 8.3 percent, giving a cause for optimism as the economy shapes up as the central issue in the presidential election.
Measured by both the unemployment rate and the number of jobless - which fell to 12.8 million - it was the strongest signal yet that an economic recovery was spreading to the jobs market. The last time the figures were as good was February 2009, President Obama's first full month in office.
The report sent stocks up by over 1 percent in trading on Wall Street.
The White House used the new numbers as a platform to appeal for an extension of the payroll tax cut and unemployment benefits. President Obama, speaking at a Washington-area firehouse to promote a jobs initiatives for veterans, and warned that more help was needed and called on Congress to aid with the economic recovery.

次に、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減とそのうちの民間部門の増減をプロットしています。下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。なお、失業率は別にして、今回の雇用統計の発表ではかなり以前にさかのぼって計数が改定されています。私が見た範囲でも、ラクに20年以上に渡って改定されているようです。

米国雇用統計の推移

さらに、戦後の景気後退期における雇用の喪失とその後の回復をプロットしたグラフは以下の通りです。2001年のいわゆるITバブル後の景気回復局面は Jobless Recovery と呼ばれましたが、2009年から始まる今回の回復局面はさらに雇用の改善が遅れていることが読み取れます。

Jobless Recovery

雇用統計の改訂に従って、賃金統計も改定されています。先月時点では、緩やかながらも雇用の改善に伴って、賃金も上昇傾向を取り戻しつつあり、デフレの危険は少し遠のいたと考えていましたが、1月統計ではまたしても賃金上昇率は鈍化しています。金融政策当局の舵取りが難しいところです。

時間あたり賃金上昇率の推移

最後に、New York Times のブログのひとつである Economix のサイトにある最新の経済指標を集めたフラッシュに直リンしておきます。ヨソさまのフラッシュに直リンするのは私のブログのひとつの特徴かもしれません。

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2012年2月 3日 (金)

大学生の人気の就職先と職業やいかに?

これまた、昨夜に続いてやや旧聞に属する話題なんですが、就職支援大手のダイヤモンド・ビッグ&リード社から1月31日の火曜日に「就職先人気企業ランキング2012」が発表されています。男女別かつ文系・理系別の就職先人気企業ランキングのトップテンは以下の通りです。

文系・男子
順位企業名
201220112010
111三菱商事
2313住友商事
363三井物産
422三菱東京UFJ銀行
5156伊藤忠商事
645東京海上日動火災保険
787丸紅
874三井住友銀行
9514みずほフィナンシャルグループ
101010三菱UFJ信託銀行
理系・男子
順位企業名
201220112010
111東芝
244日立製作所
335三菱商事
423ソニー/td>
5520住友商事
6112パナソニック
7824NTTデータ
876三井物産
9189東日本旅客鉄道 (JR東日本)
102225伊藤忠商事
文系・女子
順位企業名
201220112010
121東京海上日動火災保険
212三菱東京UFJ銀行
3145ジェイティービー (JTB) グループ
4321みずほフィナンシャルグループ
5164三井住友銀行
6714住友商事
787明治グループ (2010年は明治製菓)
8129オリエンタルランド
9915三菱UFJ信託銀行
10186三井物産
理系・女子
順位企業名
201220112010
111明治グループ (2010年は明治製菓)
223ロッテ
342資生堂
4125森永製菓
5-22日清製粉グループ
6--NTTデータ
7810カゴメ
896花王
958サントリー
1034味の素

とても直観的には商社が強いという印象です。30年ほども前の私の学生時代には、当時の東京海上火災が常に文系男子のトップだった気がするんですが、今ではトップテン半ばに交代し、東京海上以外では商社とメガバンクが文系男子のトップテンを占めています。もっとも、人気投票ですから、実際に内定をもらったり、入社したりする会社とは大きな違いがあるのかもしれません。

就職したい(あるいは、就職したかった)職業

ということで、インターネット調査大手のメディア・インタラクティブから1月30日に「就職活動に関する意識調査」が発表されており、企業別ではありませんが、職業別に「就職したい(あるいは、就職したかった)職業」の調査結果は上の通りです。また、同じ調査結果から、実際に、「就職する予定の(あるいは、就職した)職業」の割合は下のグラフの通りです。いずれもメディア・インタラクティブのリポートの p.3 から引用しています。

就職する予定の(あるいは、就職した)職業

希望と実際の差が大きい職業を両者の回答差から見ると、公務員やクリエイティブ・マスコミ関連などが希望しても実際にはなれず、逆に、営業関連職や技術関連職(電気、電子、機械、半導体)などが希望していないにもかかわらず実際には就職予定となっています。ありがちなこととは言え、希望と実際の差は決して小さくないのかもしれません。
岩波書店が2013年 社員募集要項に「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」と明記して、縁故採用に限る旨を内外に明らかにして話題になっています。学生諸君の就活はますます厳しさを増しているように見受けられます。

がんばれ就活生!

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2012年2月 2日 (木)

所得格差は生活習慣にどのような影響を及ぼすか?

やや旧聞に属する情報ですが、おととい1月31日に厚生労働省から「平成22年 国民健康・栄養調査結果の概要」が発表されています。あくまで概要なんですが、pdf の全文リポートもアップされています。後日公表の詳細な報告書にはマグネシウム摂取量などの細かな情報があり、エコノミストでは太刀打ちできないんですが、今回発表された概要版では、第1部の循環器疾患に関する状況と第2部の基本項目に加えて、第3部 その他の中に第1章所得と生活習慣等に関する状況が明らかにされています。昨年までは世帯の所得階級別の統計は見かけなかったんですが、今年の結果は格差を考える上で非常に興味深い情報ですので、私のブログでも簡単に取り上げたいと思います。
調査では、世帯所得を200万円未満、200万円以上600万円未満、600万円超の3階級に分け、男女別に以下の7項目について、それぞれの割合をパーセントで算出しています。ただし、野菜摂取量だけは割合ではなく絶対値の平均グラム数となっています。なお、世帯数ベースのシェアで、200万円未満世帯は23パーセント、200-600万円世帯は56パーセント、600万円超世帯は21パーセントをそれぞれ占めています。

  1. 肥満者の割合
  2. 習慣的な朝食欠食者の割合
  3. 野菜摂取量
  4. 運動習慣のない者の割合
  5. 現在習慣的に喫煙している者の割合
  6. 飲酒習慣者の割合
  7. 睡眠の質が悪い者の割合

さらに、単純に割合や野菜摂取量を算出しただけでなく、600万円超世帯を基準とする多変量解析を実施し、統計的に有意な差があるかどうかを検定しています。帰無仮説の棄却水準は明示されていませんが、通常の統計的な検定では5パーセントが用いられる場合が多いと私は認識しています。上の7項目の調査結果で、統計的に有意な差がかなり認められる5項目についてプロットしたのが以下のグラフです。単純に上の7項目のうち、上から順に5項目を抜き出してプロットしています。データソースは全文リポートの p.32 です。なお、最後の2項目である「飲酒習慣」と「睡眠の質」については大きな差がなく、特に、男性の「飲酒習慣」については、所得が多いほど割合が高くなっていたりします。

所得と生活習慣等に関する状況

グラフの世帯所得階級にアスタリスクを付した結果が600万円超の世帯と統計的に有意な差が見られる結果です。ですから、男性はそうではありませんが、女性は世帯所得が多いほど肥満者の割合が有意に小さくなっています。朝食欠食の割合も、必ずしもすべてが統計的に有意ではありませんが、所得が多いほど朝食の欠食割合は低いとの結果が見られます。野菜摂取量、運動習慣、喫煙習慣については、ほぼすべての所得階層で統計的に有意な予想される差が観察されます。すなわち、所得が高いほど、朝食を欠食せず、野菜摂取量が多く、運動習慣があり、喫煙割合が低い、逆から見れば、所得が低いほど、朝食を欠食し、野菜摂取量が少なく、運動習慣がなく、喫煙割合が高い、という結果が示されています。例外的に、600万円超世帯と統計的に有意な差がないのは、200-600万円世帯の男性の運動習慣と女性の朝食欠食だけです。
繰返しになりますが、男性の肥満、飲酒習慣、睡眠の質については統計的に有意な差があまりなく、男性の飲酒習慣については所得が多いほど割合が高くなっていて、世界的な常識とやや不整合な結果も見られますが、上のグラフに見られる通り、所得格差と生活習慣についてはかなり密接な相関関係があることがデータとして実証されたと私は受け止めています。ただし、注意すべきポイントはこの調査結果が示すのは相関関係であって、因果関係ではないという点です。一例として喫煙習慣を取り上げると、所得と喫煙割合には負の相関があるわけですが、どちらが原因でどちらが結果かは不明です。誤解を恐れずに平たく言えば、所得が低いから喫煙するのか、喫煙するから所得が低いのかは、この調査だけからでは分かりません。

社会保障の再分配効果

因果関係はともかくとして、所得の低い階級が一般的に好ましくない生活習慣を持つ割合が高いことは明らかです。例外は飲酒習慣だけです。では、生活習慣の観点からも、どうすれば所得格差を是正できるかといえば、市場にその機能が備わっていないのですから、政府が所得の再分配を行う必要があります。しかしながら、我が国の社会保障は圧倒的に引退世代に向かっており、勤労世代の格差是正機能が極めて貧弱であることは今までも何度かこのブログで論じて来た通りです。上のグラフは昨年のエントリーで使ったグラフを合体させたものですが、上のパネルは12月8日付けの「経済協力開発機構 (OECD) の格差リポート Divided We Stand」で、下は10月31日付けの「社会保障給付と全国消費実態調査に見る手厚い高齢層への給付」で、それぞれ、お示ししたものです。上のパネルはOECDのリポートから引用しており、勤労世代の格差是正がどの程度なされているかについて、社会保障による再分配前後のジニ係数の差で計測しており、日本の社会保障はOECD平均をかなり下回る格差是正機能しかなく、低福祉国と見なされている米国よりも弱い結果となっています。下のパネルは総務省統計局の全国消費実態調査のリポートから引用しており、年齢階級別に所得の再分配でジニ係数がどのように低下したかを計測しています。勤労世代における格差是正は極めて限定的な一方で、引退世代で高齢になるほど手厚い格差是正がなされていることが一目瞭然です。

シルバー・デモクラシーに基づく現在の我が国の社会保障の格差是正は国際的に見て極めて歪んだ形になっていることが理解できます。勤労世代は格差是正されず、恩恵は引退世代だけが得ています。税と社会保障の一体改革ではこの歪みを是正することは議論されるんでしょうか。それとも、さらに大きな財政リソースを投票行動の活発な引退世代に振り向けることを目指しているんでしょうか。従来から、私はこのブログで引退世代への財政リソースを削減すべきであると強く主張しています。

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2012年2月 1日 (水)

東京の私立中学校入試が始まる!

東京の私立中学校の入試が始まりました。
すでに、1月8日付けのエントリーで取り上げましたが、我が一家が住んでいる港区の区立中学校進学率は50パーセントを下回ります。過半の小学校卒業児童が私立や国立の中学校、あるいは、公立でも6年制一貫校などに進学するわけです。インターナショナル・スクールへの進学もあるかもしれません。我が家では上のおにいちゃんも下の子も、入試のため今日からしばらくお休みです。どうでもいいことですが、私の母校の中学校で当時は入試に体育実技があったため、運動部に所属している在校生が何人か手伝いに行くのが慣例となっていて、私は体育の先生が部長をしている運動部に所属していましたので、当然のように指名されて入試の体育実技に狩り出されました。今ではその母校の中学校・高校の運動部も、私の2年下の後輩の生物の教師が顧問をしていて、全国大会出場でイソイソと応援に行ったのは昨年8月15日付けのエントリーの通りです。大きく話がそれてしまいましたが、一応、私の中学校入試の思い出です。もっとも、私は関西の出身ですので、東京の私立中学校受験にはうとくて、御三家がどこを指すのかも知らなかったりします。

何はともあれ、
がんばれ受験生!

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プロ野球のキャンプが始まる!

12球団キャンプ地

今日からプロ野球のキャンプが始まり、我が阪神タイガースは沖縄の宜野座村でキャンプインしました。上の画像は Yahoo Sports Navi のサイトから引用しています。今年は高知県安芸市には移動せず、2月いっぱい沖縄でのキャンプです。昨年のシーズン終了から今年の1月まで、ドラフトくらいしかタイガース情報はフォローしていないんですが、開幕に向けてキャッチアップしたいと思います。取りあえず、今年のユニフォームはかなりカッコイイと感じました。なお、下の画像は今年のチームスローガンだそうです。トラッキーの表情が年々険しくなって行くように見えるのは私だけでしょうか?

2012年阪神タイガース ロゴ

今年こそ、リーグ優勝と日本シリーズ制覇を目指して、
がんばれタイガース!

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