榊原英資『公務員が日本を救う』(PHP研究所) を読む
大蔵省OBで青山学院大学教授である榊原英資の『公務員が日本を救う』を読みました。論旨は極めて明確で、表紙を見れば明らかです。まず、出版社のサイトから解説を引用すると以下の通りです。
解説
「東日本大震災」という戦後最大の危機に直面しながら、対応が遅れる日本政府。日本の危機をしっかりと認識すらできず、この期に及んでなおパフォーマンスばかりが目立つ「政治主導」が続くことを考えれば、政治家が官僚を含む公務員を使いこなし、公務員がしっかり活躍する体制のほうがどれほど安心か――と国民は思いはじめているのではないか。
実際、今般の被害に際して、地方公務員、自衛隊員・消防隊員たちの活躍・献身ぶりは多くの日本国民の心をとらえ、これまでマスメディアやポピュリズム政治家たちによって煽られてきた「公務員バッシング」を反省すらしている感がある。
元公務員である著者は、「そろそろ誰かが、日本の公務員が優秀で、平均的には大変いい仕事をしていること、問題はむしろ政治家にあるのだというこをしっかりと発言すべきではないでしょうか」と主張する。さまざまな資料や知られざるエピソードとともに綴る、公務員へのエール。
繰返しになりますが、論旨はとても明確です。なお、章別構成は以下の通りです。これを見れば、さらに論旨は明快になります。
- 第1章
- 日本の公務員は「少数精鋭」
- 第2章
- 日本で法律をつくっているのは誰か
- 第3章
- 「エリート」なくして「国」立たず
- 第4章
- 政治家たちこそ「改革」が必要だ
- 第5章
- 日本のメディア報道が社会を歪める
- 第6章
- あるべき「地方分権」のかたち
- 第7章
- 何でも「民営化」の愚
- 第8章
- 「天下り」がどうして悪いのか
まず、著者が公務員OBとはいえ、現在の政権与党にかなり近いとウワサされている人物であることを認識しておく必要があります。その上で、現政権の政治主導を強く批判し、公務員の行政運営を高く評価していることは、大きな前提条件として確認しておくべきでしょう。すなわち、決して、現政権に反対する前政権寄りの公務員OBの主張ではないことを頭において読み進む必要があります。しかし、物足りない部分や誤解ではないかと思われる記述も少なくありません。例えば、本書で主として取り上げている対立軸が、公務員 vs 政治家、であったり、公務員 vs メディア、であったりするので、本来の日本経済の主役である民間企業がまったく出て来ません。ですから、日本が先進国で豊かな国であるのは、政治家やメディアのおかげではなく、公務員のおかげという結論になっているのは疑問が残ります。実は、勤勉に働く日本国民の多くが勤めている民間企業のおかげだと私は考えています。本書で指摘されている通り、我が国の公務員は欧米先進国に比べて人口当たりで圧倒的に少ないんですから、逆に、多くいる民間企業従業員と民間企業が日本経済を豊かな先進国に押し上げたと見なす方が自然ではないでしょうか。数少ない公務員が効率的に働いているというわけではなく、公務員が少ないがために民間企業の効率的な経営を妨害するまで手が回らなかった可能性もあります。また、エリートに関する著者のお考えも公務員制度とは切り離して議論すべきかもしれません。
勤労世代である公務員の給与を削減して、引退世代の年金財源にしようという動きがあり、私の従来からの主張とは真逆だったりするんですが、政治家からもメディアからもややムチャな公務員バッシングが見受けられなくもない世の中ですから、バランスを取るために読んでおいてよかったと、公務員のひとりとして受け止めています。一応、読書感想文の日記に分類しておきます。
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