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2012年3月 8日 (木)

2011年10-12月期GDP速報2次QEは法人企業統計に引っ張られて上方改定

本日、内閣府から昨年2011年10-12月期のGDP速報改定値、エコノミストの業界で2次QEと呼ばれる指標が発表されました。先月発表された1次QEから上方改定され、実質成長率は前期比で▲0.2%、前期比年率で▲0.7%となりました。主たる要因は1次統計である法人企業統計の設備投資に合わせた民間設備投資の上方改定です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

実質GDP、年率0.7%減に上方修正 10-12月 設備投資が上振れ
内閣府が8日発表した2011年10-12月期の実質国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質で前期比0.2%減、年率換算で0.7%減となった。1月に公表した速報値(0.6%減、年率2.3%減)を上方修正した。東日本大震災からの復旧投資などで設備投資が上振れした。
改定値は速報値の公表後に明らかになった法人企業統計などのデータを使って推計し直した。日経グループのQUICKがまとめた民間調査機関の予測値(年率換算0.7%減)と同じだった。
生活実感に近い名目GDPは前期比で0.5%減。年率換算では1.8%減となり、内閣府は速報値の3.1%減を上方修正した。
項目別にみると、設備投資は実質で4.8%増と、速報値(1.9%増)から大きく上振れした。自動車や化学などが生産設備を補修。震災による先行き不安で見送っていた投資を再開する動きも出た。個人消費も0.4%増と、速報値(0.3%増)を上回った。
内閣府の大串博志政務官は記者会見で「2四半期ぶりのマイナス成長だが、総合的に見ると景気は緩やかな回復基調にある」との認識を示した。
2012年1-3月期は震災からの復興需要の本格化に伴い、2四半期ぶりにプラス成長に戻るとの見方が大勢を占める。ただ足元では原油価格が上昇している。市況が企業収益や消費を圧迫すれば景気の持ち直しに水を差すリスクもある。

いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で内閣府のサイトからお願いします。

需要項目2010/
10-12
2011/
1-3
2011/
4-6
2011/
7-9
2011/10-12
1次QE2次QE
国内総生産(GDP)▲0.2▲1.8▲0.3+1.7▲0.6▲0.2
民間消費▲0.0▲2.1+0.3+1.3+0.3+0.4
民間住宅+4.0+1.6▲2.4+4.5▲0.8▲0.7
民間設備▲1.9▲0.6▲0.1+0.3+1.9+4.8
民間在庫 *+0.3▲0.0▲0.7▲0.0+0.2+0.3
公的需要+0.1▲0.9+0.1+0.2▲0.3▲0.3
内需寄与度 *▲0.1▲1.6+0.7+1.0+0.1+0.5
外需寄与度 *▲0.1▲0.2▲1.0+0.8▲0.6▲0.6
輸出▲0.3▲0.3▲6.2+8.6▲3.1▲3.1
輸入+0.3+1.0+0.3+3.4+1.0+1.0
国内総所得(GDI)▲0.3▲2.5▲0.7+1.4▲0.6▲0.2
名目GDP▲0.7▲2.1▲1.2+1.4▲0.8▲0.5
雇用者報酬+0.3+0.6+0.1▲0.2+0.6+0.7
GDPデフレータ▲1.9▲1.9▲2.3▲2.1▲1.6▲1.8
内需デフレータ▲1.3▲1.0▲1.0▲0.7▲0.3▲0.5

さらに、テーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年10-12月期の最新データでは、赤の民間消費と水色の企業設備がプラスに寄与している一方で、黒の外需が大きくマイナスに落ち込んでいるのが見て取れます。

GDP前期比成長率と需要項目別寄与度の推移

今週月曜日に、2次QE予想を取り上げたエントリーの最後のパラで、「年率で▲1%を下回るくらいのわずかなマイナス成長」と書きましたが、ど真ん中のドンピシャ的中でした。記者会見で内閣府政務官は復興需要の遅れに反論したと日経新聞のサイトで報じられていますが、公的固定資本形成、すなわち、公共投資の最近の推移を実額と前期比伸び率で見たのが下のグラフです。私の目には、仮設住宅が一段落した年後半は復興需要の遅れが目立っているようにしか見えません。もっとも、第1に、復興需要は震災被災地の復興に資するものであり、GDP成長率をターゲットに運用されているわけではないこと、第2に、ここまで復興需要が遅れると、逆にこの先に復興需要が本格化するのが楽しみとも言えなくもないこと、などはそれなり強調しておきたいと思います。いずれにせよ、今年に入って景気は順調に回復を示しており、1-3月期はプラス成長が期待されます。

公的資本形成の推移

民間設備投資のほかは大きな改定はなかったので、別の経済指標に目を転じると、財務省から経常収支などの国際収支が発表されています。1月の統計です。輸出が振るわず、エコノミストの中では、1月の経常収支は赤字に転落するのではないかと予想されていましたが、季節調整しない原系列で見て1985年以降で最大の経常赤字を記録しました。タイ洪水の供給制約もさることながら、円高の影響が大きいと受け止めています。もっとも、季節調整済みの系列で見る限り、サービス収支の赤字幅が縮小したこともあって、1月の経常収支は黒字を維持しました。ただし、現時点で利用可能な2月上中旬の日上気統計で再び貿易収支は赤字を記録しています。すぐに赤字に転落することはないとしても、経常収支がいつまでも黒字を続けると期待することは出来そうもありません。特に現在の円高の水準が続けば、かなり早期の赤字転落はあり得ます。下のグラフは季節調整済みの経常収支をプロットしています。青い折れ線グラフが経常収支の推移であり、その内訳のコンポーネントが積上げ棒グラフで表わされています。色分けは凡例の通りです。

経常収支の推移

さらに、内閣府から2月の景気ウォッチャー調査の結果も発表されています。現状判断DIも先行き判断DIもかなり上昇しました。先行き判断DIは久し振りに50を超えました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「円高の影響が続く中で、緩やかに持ち直している」から「依然として円高の影響が残るものの、緩やかに持ち直している」に表現を変更しています。明確な意図は推し量るしかないんですが、半ノッチの上方修正という意図かもしれません。下のグラフは景気ウォッチャー調査の結果ですが、上のパネルは現状判断DIと先行き判断DIの推移を、下のパネルは地域別の現状判断DIについて震災の発生した昨年3月と最新時点の今年2月を、それぞれプロットしています。昨年3月時点では全国でも最低レベルだった東北が、最近時点ではほぼ全国平均レベルに達したのが読み取れます。

景気ウォッチャーの推移

さまざまな経済指標を見渡して、やっぱり、為替を含めた外需が目先の最大のリスクであるものの、日本経済は割合と順調に回復基調に乗っているように見受けられます。この回復パスから外れず、早く雇用に、そして賃金に反映されるような拡大局面に到達することを願っています。

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