米国大統領選挙の争点を探る
10州で予備選や党員集会が開催された米国共和党のスーパー・チューズデーを先週3月6日に終えて、昨日、ピュー・リサーチセンター Pew Research Center から Romney Leads GOP Contest, Trails in Matchup with Obama と題する米国大統領選挙に関する世論調査結果が発表されています。日本政府に勤務する官庁エコノミストとして、どうしても、お仕えする自国政府に対しては筆が鈍るんですが、ヨソの国については比較的自由にモノが言えます。専門外の政治については引用元のリポートを参照いただくとしても、主として経済面から簡単に振り返っておきたいと思います。
まず、上のグラフはオバマ政権の支持率の推移です。リポートの p.3 Obama Back at 50% Job Approval を引用しています。日本の内閣支持率は発足直後を別にすれば20%とか30%台が常態になって、私の感覚もやや麻痺しつつありますが、取りあえず、オバマ大統領に対する支持率は50%を回復し、一時の最悪期を脱しているように見えます。表やグラフは引用しませんが、例えば、この調査でも2010年ヘルスケア法案への支持が広がっている結果が指摘されています。
オバマ政権の支持率回復のひとつの要因は景気回復だと私は受け止めています。上のグラフはリポートの p.30 No Improvement in Views of Current Economic Conditions と Economic Optimism Levels Off を引用しています。上のパネルでは、まだまだ、Excellent/Good の比率は小さくて、Only fair や Poor が圧倒的なんですが、下のパネルでは、以前に比べて Worse の比率がやや低下し、Better が大きく増加しています。米国経済に関して楽観論が広がっている点が強調されています。
ただし、楽観的と言っても、経済のすべてが好調に向かっているわけではなく、雇用はいいとしても、物価が心配、という現状のようです。上のグラフはリポートの p.31 Job Concerns Ease, But More Worry about Rising Prices を引用しています。財政赤字と住宅・金融資産市場への懸念はそれほど変化は見られない一方で、雇用への懸念は大きく低下し、逆に、物価への懸念が上昇しています。引用はしませんが、同じページの別のグラフで、特にガソリン価格への懸念が大きくなっていることが示されています。ですから、どちらかと言えば、景気過熱に伴うインフレではなく、商品市況の高騰の影響を受けた物価上昇なんですが、いずれにせよ、米国では雇用の重要性が極めて大きいので、物価もさることながら、雇用でポイントを上げることは大統領選のためには不可欠となります。
ついでながら、上の表は現職のオバマ大統領と共和党はロムニー前知事との対比で、性別・年齢別などの支持率と特に強い支持層を取り上げています。リポートの p.14 Obama Has More Strong Supporters を引用しています。オバマ大統領がロムニー前知事に水を開けているのは、性別では女性、人種別では白人よりも非白人、学歴別では大卒以上、となりますが、特に私の目を引いたのは年齢別で64歳以下の勤労世代の支持、もっと顕著には、29歳以下の若い世代の支持でオバマ大統領がロムニー前知事を圧倒していることです。私のこのブログで何度も強調したところですが、日本ではシルバー・デモクラシーが猛威をふるっている一方で、勤労世代や若い世代の支持が高い大統領がいて、しかもそれなりの支持率を保っている米国の政治情勢は日本と大きく異なることが示唆されていると受け止めています。
20年前の1992年の米国大統領選挙では、"It's the economy, stupid." をスローガンに取り入れたクリントン元大統領が選挙戦を制しました。日本ではリーマン・ショックの翌年の総選挙で政権交代が実現しました。大きな選挙で経済の占める重要性は無視できないことを理解すべきです。
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