毎月勤労統計に見る雇用は改善に向かうが、所得はまだ増加しないのか?
本日、厚生労働省から1月の毎月勤労統計調査の結果が発表されました。この統計で私が注目しているのは景気に敏感な所定外労働時間と消費の基となる所得を形成する賃金なんですが、どちらも震災やタイ洪水などの供給制約を脱して、ゆっくりと改善にあるように受け止めています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
1月の所定内給与、0.3%増 13カ月ぶりプラス
厚生労働省が6日発表した1月の毎月勤労統計調査(速報)によると、基本給や家族手当などを含む労働者1人当たりの「所定内給与」は前年同月比0.3%増の24万2642円となり、13カ月ぶりに増加に転じた。厚労省は、製造業の生産回復など東日本大震災の影響が一巡し、賃金下落に歯止めがかかったとみている。
残業代などの所定外給与は1.2%増の1万8432円で、5カ月連続で前年同期を上回った。ただ、ボーナスなどの「特別に支払われた給与」が大幅に落ち込み、現金給与総額は27万3318円と前年同月と同じ水準となった。
所定内給与を産業別にみると、製造業が1.0%増の26万6602円。震災で寸断されたサプライチェーン(供給網)の復旧に伴い、自動車メーカーを中心に生産が回復してきたことが背景にある。医療・福祉は23万5223円となり、1.8%増えた。「就業者が多い産業で伸びが大きく全体をけん引した」(厚労省)という。
現金給与総額は一般労働者では前年同月と同水準だったが、パートタイム労働者では0.9%増となり、10年12月以来の高い伸びとなった。
総労働時間は前年同月比0.1%増の136.6時間となり、2カ月連続増加。残業などの所定外労働時間が9.9時間と1.0%増え、全体を押し上げた。景気との連動性が高い製造業の所定外労働時間は1.5%増の13.3時間と、5カ月連続で前年同期を上回った。
調査は厚労省が常用労働者5人以上の約180万事業所から、約3万3000事業所を抽出して実施した。
まず、私が注目している賃金指数と所定外労働時間のグラフは以下の通りです。上のパネルは季節調整していない賃金指数の前年同月比をプロットしており、下のパネルは季節調整した所定外労働時間指数をプロットしています。賃金は動きの激しいオレンジが現金給与総額で、黄緑は所定内給与となっています。上下のパネルとも影をつけた部分は景気後退期です。
グラフとは順序が逆になりますが、所定外労働時間については震災の影響やタイ洪水に起因する供給制約などの影響から脱して、生産の増産とともに残業も順調に増加に転じたと私は受け止めています。当然ながら、ラグを伴いつつ所定外給与を通じて所得に反映されるハズです。賃金は現金給与総額とともに所定内給与も1月統計で1年振りにプラスに転じたのは景気回復の賜物だと考えるべきです。しかし、引用した記事の最初のパラにあるように、「賃金下落に歯止めがかかった」かどうかは疑わしいと見なしています。
すなわち、上のグラフは所定内賃金を年データでプロットしたものですが、見れば明らかな通り、2000年のピークから2011年まで下がり続けています。2000年平均の指数水準が104.0であったのに対して、2011年平均は97.2まで低下しています。加えて、2012年1月の指数は96.6であり、季節要因を考慮する必要があるとはいえ、決して高い水準とは考えられません。所得と消費の関係は単純ではなく、恒常所得仮説が正しいとしても、毎月勤労統計でいうところの「所定内給与」なのか、所定外給与を含めた「きまって支給する給与」なのか、また、ボーナスも含めた現金給与総額はどうか、などは実証的な問題と私は考えていますが、いずれにせよ、1月の毎月勤労統計調査の所定内給与が前年同月比でプラスになった結果を見て、「賃金下落に歯止めがかかった」とまで拙速な結論に飛び付くエコノミストは少ないのではないか、と私は受け止めています。
最後に、国家公務員給与の7.8%削減法案が可決されました。4月からこの先2年間の雇用者所得に何らかのネガティブな影響を及ぼすものと私は予想しています。なお、私は本省課長ですから報道によれば削減率は▲10%を超えそうなんですが、東京新聞のサイトから引用した上の画像では、民主党が検討している国会議員の歳費削減案では、議員特権のひとつとして批判されていて、使途の報告義務のない文書交通滞在費まで含めると▲9%程度の削減率になるそうです。本来のテーマから外れてつまらぬことを書いてしまいましたが、いずれにせよ、毎月勤労統計には教員などの例外は別にして、いわゆる役所に勤める公務員は調査対象にしていませんので、統計には公務員給与の削減はほとんど現れません。
| 固定リンク
コメント