福田和代『スクウェア』I、II (東京創元社) を読む
福田和代『スクウェア』I、II (東京創元社) を読みました。大阪の府警薬物対策課の刑事とお初天神のデッドエンドストリートにあるショットバーのバーテンダーなどを登場人物にした作者の最新作です。テーマは覚せい剤やコカインなどの薬物撲滅です。ごく短いものですが、まず、出版社のサイトから内容紹介を引用すると以下の通りです。
内容紹介
薬物対策課の刑事・三田が〈スクウェア〉で出会った、清潔そうなバーテンダーの青年。この男と長いつき合いになるとは、三田は想像していなかった──。福田和代の新境地。
東京創元社の「ミステリーズ」に掲載された短中編に書下ろしを加えて単行本にした作品です。最初に書いた通り、大阪府警の薬物対策課の刑事である三田を中心に据えつつ、三田の行きつけのシュットバーのバーテンダーであるリュウ、リュウの同級生で元世界ランカーのプロボクサーにして今はスポーツ店経営の宇多島の3人を中心に、短中編くらいの読切りのミステリの謎を解きつつ、もちろん、シリーズとして長編の各章にもなっていて、実は、リュウと宇多島の2人が警察から独立して薬物撲滅に取り組む、別の意味で、組織暴力団に立ち向かう姿を描いています。本のタイトルの「スクウェア」はリュウがバーテンダーを務めるショットバーの名前であり、三田や宇多島は客だったりもします。
私はこの作者の単行本化されている作品はすべて読んだつもりなんですが、作者の今までの作品と比べて、いくつか趣向が凝らされています。第1に、警察ミステリは初めてではないかという気がします。あえて言えば、『怪物』の主人公は定年間近の刑事なんですが、警察ミステリというよりも刑事が個人で動いている印象が強かった作品です。本作では、主人公の三田をはじめ、桜井、大迫、中本などキャラが明確な大阪府警薬物対策課の刑事が組織的に事件を解決に導きます。第2に、読切りの短中編を各章に見立てた長編というのは初めてだと思います。東野圭吾の『新参者』や宮部みゆきの「ぼんくら同心・井筒平四郎」シリーズと同じ趣向と言えます。第3に、基本的に三人称で書かれているんですが、間接話法の主語が短編ごとに微妙に違う場合があります。例えば、ホントはカギカッコなしで「俺は何を考えているんだ」といった趣旨の表現があるんですが、この場合の「俺」は三田だったり、宇多島だったり、ひょっとしたら、リュウではないかと思われる部分もあったりします。実は、私も十分に読みこなしている自信はありません。単に作者が混乱しているだけならば未熟としか言いようがないんですが、意図的に何らかの効果を狙っているとすれば、現時点で成功しているとは言い難いですが、将来的に興味深い趣向と言えます。
薬物撲滅という極めて社会派のテーマを扱っていて、その点では大いに評価できるんですが、残念ながら、この作品をミステリとして評価すると、それほどの高得点は望めません。個々の短中編をキャラのたった登場人物による人間ドラマとして読むと、それなりの質の高さは認めますが、同じような話が並んでいて単調ですし、何よりも、この作者の過去の作品と同じように謎解きとしてはムリがあると言わざるを得ません。加えて、ハードボイルドっぽく構成しているにしては、大阪という土地柄で仕方ない部分もあるものの、妙にユーモラスな場面があったりして一貫性に欠けます。読みやすいのはいいんですが、2冊ともすぐに読み切ってしまうのでヒマ潰しにはなりません。
最後に、繰返しになりますが、動機も含めて謎解きの部分が弱いのが、いつもながら、この作者の作品の最大の弱点です。特に舞台を大きくしてしまっているので、その欠点がクローズアップされて、ラストに「なるほど」と大向こうをうならせるよりも、「何だそりゃ」の尻すぼみで終わっている印象です。ミステリの弱さを考え併せると、せいぜい好意的に見て4ツ星くらいの評価ではないかと思います。
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