三浦しをん『舟を編む』(光文社) を読む
三浦しをん『舟を編む』(光文社) を読みました。言うまでもなく、今年の「本屋大賞」第1位に輝いたベストセラーです。私はいくつかの区立図書館で予約し、長い長い待ち行列に並んでいたんですが、とうとう買い求めました。実は、この作者の作品は直木賞を授賞された『まほろ駅前多田便利軒』と『木暮荘物語』しか私は読んでおらず、我が家のおにいちゃんが課題図書で買った『仏果を得ず』が積んであるだけです。ベストセラー作家の作品にもかかわらず、東野圭吾や伊坂幸太郎と違って、やや手が伸びない印象があります。決して女性作家だからというのではないと思います。宮部みゆきや湊かなえは読んでいる方だと自覚しています。ということで、まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
舟を編む
言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる三浦しをん最新長編小説。
【辞書】言葉という大海原を航海するための船。
【辞書編集部】言葉の海を照らす灯台の明かり。
【辞書編集者】普通の人間。食べて、泣いて、笑って、恋をして。
ただ少し人より言葉の海で遊ぶのがすきなだけ。
玄武書房に勤める馬締光也。
営業部では変人として持て余されていたが、人とは違う視点で言葉を捉える馬締は、辞書編集部に迎えられる。新しい辞書『大渡海』を編む仲間として。
定年間近のベテラン編集者、日本語研究に人生を捧げる老学者、徐々に辞書に愛情を持ち始めるチャラ男、そして出会った運命の女性。
個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。
言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく――。
しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか――。
引用したあらすじにある通り、辞書を編纂する出版社の編集者が主人公に据えられた物語です。最初に、荒木という辞書編集のために生まれて来たような人物が登場するんですが、アッという間に定年退職し、あらゆる意味で一風変わった馬締という編集者が引き継ぎます。板前の香具矢との結婚生活もそこそこに、馬締は脇目もふらずに辞書の編集に邁進します。物語は馬締の20代後半から40歳くらいまで一気に13年飛んで、さらに2年を要して計15年で『大渡海』が出版に漕ぎ着けます。単に辞書の内容だけでなく、印刷用紙の発注までいろいろと辞書の出版に関するウンチクも得ることが出来ます。
辞書を編集する荒木や馬締はもちろん、監修の松本、早い段階で辞書編集部から宣伝広告分に異動したチャラ男の西岡、最後の段階で辞書編集部に加わった岸辺、等々、この『舟を編む』ではキャラが立っている登場人物ばかりで、とてもよく書き分けられているんですが、先月3月11日のエントリーで取り上げた久坂部羊『第五番』と逆で、極めて爽やかで好感の持てる人物がいっぱい登場します。最後の最後に、『大渡海』出版の1か月ほど前に監修の松本先生が亡くなりますが、それ以外は、極めてハッピーエンドです。そして、この小説は『大渡海』の出版記念パーティーで終わります。読後感も爽やかで、とってもオススメの5ツ星です。
どうでもいいことかもしれませんが、「本屋大賞」の第2位には高野和明『ジェノサイド』(角川書店) が入っています。本屋さんとは思考パターンが異なるんでしょうし、まったく違う趣向の本ながら、私の趣味では『ジェノサイド』の方が面白かった気がします。
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