回復テンポが鈍化した生産と震災からの反動で前年比上昇した賃金
本日、経済産業省から鉱工業生産指数が、また、厚生労働省から毎月勤労統計が、それぞれ発表されています。いずれも4月の統計です。まず、いつもの日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を引用すると以下の通りです。
4月の鉱工業生産、0.2%上昇 市場予想は下回る
経済産業省が31日発表した4月の鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整値)速報値は95.8と、前月比0.2%上昇した。プラスは2カ月連続。好調な国内販売を背景にした自動車の生産増が全体の持ち直しをけん引する構図が続いている。ただ4月は事前の市場予想(0.5%)を下回り、市場では回復ペースの鈍化を懸念する声もある。
経産省は全体の基調判断を「持ち直しの動きで推移している」と据え置いた。主力の輸送機械工業は6.5%のプラス。自動車の国内販売や北米輸出が好調なほか、エコカー補助金による堅調な需要を見込んだ在庫の積み増しも目立った。
ただ全16業種のうちプラスだったのは9業種で前月(12業種)から減った。電子部品・デバイス工業は7.8%のマイナスだった。アジア向けのスマートフォン(高機能携帯電話)用半導体集積回路などが落ち込んだためだ。情報通信機械工業も19.5%と大幅なマイナスだった。
同日発表された製造工業生産予測調査は5月がマイナス3.2%、6月は2.4%のプラスだった。5月のマイナス幅は前回調査から0.9ポイント縮小した。経産省は5月の落ち込みについて「4月に好調だった輸送機械の反動減が大きい」と分析している。
大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは生産の先行きについて「夏場の電力供給不安を見据え、短期的な在庫積み増しの動きも出る」と指摘。一方で、エコカー補助金の効果が一巡するなど下振れリスクには注意が必要としている。
4月の現金給与総額、0.8%増 3カ月連続プラス
厚生労働省が31日発表した4月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、従業員1人当たり平均の現金給与総額は前年同月比0.8%増の27万3871円と、3カ月連続のプラスだった。昨年4月に製造業の残業代などが東日本大震災の影響で落ち込んだ反動が出た。
基本給や家族手当などの所定内給与は0.3%増の24万6170円と、2カ月連続のプラス。残業代などの所定外給与は4.9%増の1万9334円だった。所定外給与は、昨年4月にサプライチェーン(供給網)の寸断で生産が滞った製造業が17.6%増と大幅に伸びたほか、卸売業・小売業も7.2%増えた。
総労働時間は0.5%増の150.6時間と3カ月連続の増加。製造業の所定外労働時間は16.0%増の15.1時間と、11カ月連続のプラスだった。
次に、いつもの生産のグラフは以下の通りです。上のパネルは鉱工業生産指数、下は輸送機械を除く資本財出荷です。いずれも2005年を100とする季節調整済の指数であり、影を付けた部分は景気後退期です。

引用した記事にもある通り、生産は季節調整済の系列で前月比+0.2%の増産を記録したものの、市場の事前コンセンサス+0.5%を下回り、やや弱い数字と認識しています。いずれも季節調整済みの前月比で出荷が+0.9%増に比較して、在庫が+2.0%増と上回りましたので、増産ペースが鈍化し始めた可能性があると考えるべきです。グラフを見ても明らかな通り、昨年3月の震災からの急回復の時期はとっくに終わり、一進一退を続けています。特に、先行きも5月は減産が見込まれています。6月は回復するものの、輸送機械の見通しが弱くなっており、欧州のソブリン危機とエコカー補助金終了後の反動の影響が懸念されます。

生産統計に続いて、毎月勤労統計の結果は上のグラフの通りです。上のパネルは景気動向に敏感な所定外労働時間指数、下は賃金給与総額の前年同月比上昇率です。生産の増加幅が小さかったことに対応して、残業時間は前月より減少しているものの、震災に起因するサプライチェーンが寸断されていたころよりは賃金は上向いています。昨年の震災直後と比較すれば強い数字ですが、最近の足元で見れば回復の鈍化が観察されるのは、当然ながら、生産動向と同じです。
多くの経済指標で観察される事実ですが、昨年の震災の反動がまだ残りますので、季節調整していない原系列による前年同月比の比較では大きなプラスを記録しても、季節調整済の系列で足元の動向を見れば明らかに鈍化している指標が少なくありません。今日発表された鉱工業生産指数や毎月勤労統計は典型です。動きの速い昨今の世界経済において、1年前と比較する意味が不明なだけに、私は後者の足元の動きに着目しています。
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