石持浅海『玩具店の英雄』(光文社) を読む
石持浅海『玩具店の英雄』(光文社) を読みました。ゴールデンウィーク期間中の読書については、4月30日付けのエントリーで取り上げた経済書に加えて、昨日のエントリーで読書感想文を明らかにしたリベラル・アーツ系の本の他にも、エンタテンメント系の本もいっぱい読みました。今夜取り上げるのは、ミステリにやや超常現象的な要素を加え、結構な作品数を出版している作者さんですが、誠に申しわけないながら、私はこの「座間味くん」シリーズの『月の扉』と『心臓と左手』を別にすれば、この作者の作品は『ガーディアン』しか読んだことがありません。まず、出版社のサイトから作品概要の紹介を引用すると以下の通りです。
玩具店の英雄
ひょっとしたら、事件は、まだ終わっていないのかもしれません
科学警察研究所の職員・津久井操は、事件を未然に防げるかどうか、の「分かれ目」について研究をしている。
難題を前に行き詰まった操が、大学の大先輩でもある大迫警視正にこぼすと、ひとりの民間人を紹介された。
「警察官の愚痴を聞かせたら日本一」と紹介された彼は、あの『月の扉』事件で活躍した"座間味くん"だった――。
「座間味くん」シリーズは『月の扉』が長編、『心臓と左手』とこの『玩具店の英雄』が短編集となっています。『心臓と左手』は大迫警部だけが「座間味くん」の相手をして新宿西口近辺の飲食店の個室で過去の事件に対する「座間味くん」の解釈を聞くというスタイルでしたが、場所は新宿で変わりないものの、この『玩具店の英雄』では大迫が警視正という警視庁幹部に昇進しており、引用にある通り、語り手は科学警察研究所の津久井となります。警察の見方とはまったく異なる「座間味くん」の推理、というか、解釈を軸にしていることは同じですし、大迫の専門分野が警備ですから、刑事畑とは異なる警備分野の事例がほとんどを占めるのも変わりありません。マンネリを防ぐために語り手を変更していると私は見ているんですが、成功したかどうかは疑わしいと受け止めています。
刑事分野の殺人事件を含み、さらに、警備分野からいわゆる左翼や右翼の過激派の活動に絡む事件も提示され、一風変わったミステリですが、事件の現在進行形で謎解きがなされるわけではなく、後日談のような形で過去の事件が別の側面から「座間味くん」に解き明かされる形を取っていますので、緊迫感はなくリラックスした飲み会のノリでストーリーは進みます。いわゆるアームチェア・ディテクティブを主人公に据えたミステリらしい落ち着いた展開です。もちろん、結末も警察の結論と異なっているだけが売り物であり、「座間味くん」の説が正しいと実証されるわけではありません。まあ、警察に対して新たな視点を提供するというのが「座間味くん」の趣旨なのかもしれません。
私が読んだ範囲で典型作は『ガーディアン』なんですが、この作者の作品は超常現象が頻出します。「座間味くん」シリーズの初作である『月の扉』も超常現象は現れませんが、作品の、というか、ハイジャックのモチーフになっています。しかし、短編集の『左手と心臓』やこの『玩具店の英雄』には宗教団体こそ現れるものの、超常現象はほとんど関係ありません。従って、あまり読んでいないながら、この作者の作品の中では読みやすい方ではなかろうかと想像しています。
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