伊坂幸太郎『夜の国のクーパー』(東京創元社) を読む
伊坂幸太郎『夜の国のクーパー』(東京創元社) を読みました。人気作家の書下ろしの最新長編です。我が家では私の前に子供達が2人とも回し読みをしていました。まず、出版社の特設サイトから本の内容紹介を引用すると以下の通りです。
内容紹介
この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。 はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。
人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからない──。
これは猫と戦争と、そして何より、世界の秘密のおはなし。
どこか不思議になつかしいような/誰も一度も読んだことのない、破格の小説をお届けします。
ジャンル分け不要不可、渾身の傑作。伊坂幸太郎が放つ、
10作目の書き下ろし長編。
いろいろな見方が出来るとは思うんですが、1人称で物語を語っている主人公はトムという名の猫です。このトムに2種類の人間が関係します。1人は現代人と思われ、市役所に勤務する公務員で、最近、妻に浮気をされています。その他は、引用にあるような町の人間とその敵国である鉄国の人間です。この2種類の人間のうち、猫のトムとコミュニケーションを交わせるのは前者だけです。村上春樹『海辺のカフカ』の中田さんや星野君を思い出してしまいました。なお、妻に浮気をされて家にいづらくなり、釣りのために仙台から船に乗ったら時化にあって小島に着くと、案山子ならぬ猫がしゃべる、というのは、作者の初期の作品『オーデュボンの祈り』を思い起こさせます。サキの「トバモリー」思い浮かべる人もいるかもしれません。
我が家の子供達は面白く読んだみたいですが、そもそも伊坂幸太郎の作品に馴染みがないと、この本の進み方は理解できない可能性があります。すなわち、戦争に負けたトムの国に敵の鉄国の兵士が来て国王を殺害し国の実効支配を始め、伝説として、クーパーと戦って透明になった兵士が国に戻って、危機を救うという救国伝説が最終的には叶えられる、というハッピーエンドのストーリーなんですが、戦争に負けて占領されるという極めて重くて過酷な現状を、サラリとコミカルにさえ筆を進める作者の力量に脱帽させられます。特に、終盤の展開と最後の謎解きは見事です。力強ささえ感じました。また、いかにも伊坂作品らしく、アチコチにばらまかれていた伏線が一気に回収されます。
現在の日本を代表する人気作家の1人による書下ろしの最新長編です。我が家のように伊坂ファンがそろっていれば当然でしょうが、そうでなくても読んでおいて損はありません。ほとんどどこの本屋さんで入手できるでしょうし、待ち行列は長そうですが、多くの公立図書館にも所蔵されていることと思います。
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