集中発表された政府統計から我が国の景気をどう見るか?
本日、政府統計が集中的に発表されました。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数が、総務省統計局の失業率、厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局から消費者物価指数が、それぞれ公表されています。いずれも7月の統計です。まず、日経新聞のサイトからそれぞれの統計に関する記事を引用すると以下の通りです。
7月の鉱工業生産、1.2%低下 市場予想は1.7%のプラス
経済産業省が31日発表した7月の鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整値)は91.5と、前月比1.2%低下した。マイナスは2カ月ぶり。中国などアジアで生産される携帯電話向けの電子部品などが落ち込んだ。8-9月の予測もエコカー補助金の終了を控えて自動車の生産が減る見通し。経産省は基調判断を「横ばい傾向」と前月から据え置いた。
エコノミストの予想は1.7%のプラスだった。6月の生産指数が確報段階で上方改定された影響もあるが、「海外経済の減速に伴う輸出向け出荷の鈍化や在庫の積み上がりなど下振れリスクが高まっている」(大和総研)との声が出ている。
生産指数は全16業種のうち12業種で低下した。電子部品・デバイスは6.5%低下。半導体集積回路などアジア向けの携帯電話部品が減った。7月は先月時点で生産増を計画していたが、「予想外の減少」(経産省)で在庫も積み上がっている。一般機械も6月に発電設備用の蒸気タービン部品が増えた反動が出て3.6%低下した。
鉱工業全体の出荷指数は3.6%低下と3カ月連続のマイナス。7月は輸送機械が北米向けの自動車輸出の減少などで8.3%減った。在庫を出荷で割った在庫率も7月は初めて東日本大震災の直後を上回り、09年6月以来の水準となった。
同日発表された製造工業生産予測調査は8月の生産が前月比0.1%プラス、9月が3.3%マイナス。自動車など輸送機械は9月に13%減と大幅に落ち込む見通しだ。エコカー補助金が9月中にも終了して自動車の販売が減ることを警戒し、生産を調整する。
完全失業率、7月4.3% 有効求人倍率は0.01ポイント上昇0.83倍
総務省が31日発表した7月の完全失業率(季節調整値)は前月と同じ4.3%だった。厚生労働省が同日発表した7月の有効求人倍率(同)は0.83倍で前月を0.01ポイント上回り、14カ月連続で改善した。人材を求める企業がある一方、職を探す人の希望する職種との条件が合わない雇用のミスマッチがあり、失業率改善の動きは足踏みを続けている。
仕事がなく、働く意欲もない「非労働力人口」は団塊世代の退職の影響を受け、前月より5万人増えて4543万人となった。一方、女性の非労働力人口は2月以来の減少に転じた。
医療・福祉分野に加えて宿泊・飲食のサービス分野など、女性が働きやすい職場で採用の動きが広がっている。職探しをする女性が増えたことで、女性の失業率は前月比0.1ポイント上昇し4.1%となった。男性は横ばいの4.5%だった。
完全失業率は15歳以上の働く意欲のある人のうち、職に就いていない人の割合を示す。完全失業者数は282万人で前月より1万人増えた。内訳を見ると、新たに仕事探しを始めた人を含む「その他の者」が12万人増えた。就業者数は6269万人で3万人減った。
労働市場の先行きを映す新規求人倍率は1.31倍となり、2カ月連続で低下した。雇用の裾野が広い製造業で新規求人数が減っており「今後の動きを注意深くみる必要がある」と総務省は指摘している。
消費者物価、3カ月連続下落 7月0.3%下げ
総務省が31日発表した7月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きが激しい生鮮食品を除いたベースで99.5となり、前年同月比0.3%下落した。下落は3カ月連続。ガソリン価格が下がったほか、薄型テレビなどの落ち込みが続いた。
ガソリンは前年同月比6%下落し、6月より下落幅が拡大した。テレビは4%下落。昨年7月は地上デジタル放送への移行に伴う需要増でテレビ価格が上がっていたため、その反動が出た。電気冷蔵庫など家庭用耐久財は9%下がった。
ただ、先行指標となる東京都区部の8月のCPI(中間速報値)には足元の原油価格上昇の影響が出ている。生鮮食品を除く物価指数は前年同月比0.5%下落の99.1だったが、マイナス幅は前月より0.1ポイント縮んだ。ガソリン価格の落ち込みが鈍化したためだ。
全国のCPIはガソリン価格の影響がより強く表れるため、8月以降は押し上げ要因になる可能性がある。総務省は「東京都区部では原油値上がりの影響が出ており、今後は注意が必要」としている。
次に、いつもの鉱工業生産指数のグラフは以下の通りです。上のパネルは2005年=100となる指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財です。いずれも季節調整済の系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。
市場の事前コンセンサスでは前月比で1.5-2.0%くらいの増産でしたので、7月の生産が季節調整済みの前月比で▲1.2%減と減産に転じたのは少しびっくりしました。製造工業生産予測指数で見ると、8月は前月比+0.1%増とかすかにリバウンドするものの、9月は▲3.0%減と再び減産に入ると見込まれており、足元も先行きも生産はかなり弱い動きを示しています。予測指数を基にすると、7-9月期の減産は前期比で▲3%程度に達し、4-6月期の減産幅が拡大する見通しです。7月については季節調整済みの前月比で見て、生産が▲1.2%減となったほか、出荷が減少して、在庫と在庫率が増加する形になっており、意図せざる在庫増に起因する在庫調整が始まる可能性を否定し切れません。この生産の弱い動きは国内のエコカー補助金などの政策効果の剥落や反動とともに、欧州や中国などの世界経済の動向が輸出を通じて生産に影響を及ぼしていると受け止めています。
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。遅行指標の失業率、一致指標の有効求人倍率、先行指標の新規求人数をプロットしています。すべて季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。生産に比べて相対的に底堅い動きとなっていますが、先行指標の新規求人数が低下しているのが気がかりです。また、有効求人倍率が改善している一方で失業率が改善しないのは、一致指標と遅行指標のラグも考えられるものの、引用した記事にもある通り、求人と求職のミスマッチが生じている可能性があります。ミスマッチには地域、給与、職種、産業などが考えられますが、正規・非正規のミスマッチの可能性もあると私は受け止めています。雇用の受け皿となっている医療・福祉に就職するに際して、何らかのミスマッチがあるのかもしれません。もちろん、ミスマッチとともに、生産が減産を続けることから、雇用にも何らかの影響が出る可能性が高いと覚悟すべきです。
政府統計の最後に、消費者物価上昇率の推移は上のグラフの通りです。いつものお断りですが、CPI上昇率や寄与度は統計局では端数を持った指数で計算されていますが、一般には公表されていませんので、下のグラフでは端数を持たない指数から計算しております。従って、微妙に統計局発表の計数に基づくグラフと異なる可能性があります。デフレが続いていることに変わりはないんですが、エネルギーのプラス寄与度の幅が小さくなった分、7月はマイナスが大きくなりました。しかし、原油価格はすでに反転上昇を始めていると私は受け止めていますので、我が国の消費者物価も先行きはゼロからプラスを目指すんではないかと見込んでいます。
統計を離れて、広く報じられている通り、本日の閣議において来年2013年度から2015年度を対象とする「中期財政フレーム」が閣議決定されています。上のグラフは内閣府の試算になる「経済財政の中長期試算」から引用しています。見れば分かると思いますが、2023年度まで試算されています。消費税率を引き上げても、青い折れ線の慎重シナリオでは基礎的財政収支は黒字にならず、公債残高のGDP比は上昇を続け、2020年度までに軽く▲200%を超えるようです。何度も、このブログで主張している通り、高齢者向けの社会保障支出の削減が必要です。
最後に、雇用統計は別にして、弱い生産とマイナス幅を拡大させた消費者物価を見る限り、金融政策に対して追加緩和を要求する意見が強まることが予想されます。国内的にはエコカー補助金による効果の失速、世界的には欧州や中国をはじめとする新興国の景気の減速などが明らかになる一方で、原油をはじめとする商品価格は今後上昇する可能性を残しています。金融政策の運営が注目される局面といえます。
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