文部科学省「学校基本調査速報」に見る大学卒業者の就職の現状やいかに?
昨日、文部科学省から2012年の「学校基本調査速報」が発表されています。大学教員だったころから注目している大学卒業生の就職ですが、正規職員への就職率はわずか60%にとどまっているとの結果が明らかにされています。少し長くなりますが、まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
新卒「ニート」3万人 働き手減少に拍車
教育・就職 橋渡し欠く
大学を今春卒業した約56万人のうち6%にあたる約3万3千人が、進学も就職の準備もしていないことが27日、文部科学省の調査で分かった。大半が「ニート」とみられ、学校から職場へのスムーズな移行が難しいという若年層の課題が浮き彫りになった。ニートへの対応が遅れれば質と量の両面で日本の労働力の劣化を招き、生活保護受給者の増大なども懸念される。抜本的な対策が急務だ。
文科省の学校基本調査速報によると、今春の大卒者は昨年比1.2%増の55万9千人で、このうち35万7千人が就職した。就職率は63.9%で2.3ポイント増え、2年連続で改善した。同省は大企業志向が強かった学生が中小企業に目を向けた影響が大きいと見ている。
ただ就職も進学もしなかった約8万6千人の現状を初めて調べたところ、就職や進学の準備をしている人は約5万3千人にとどまった。残り約3万3千人はどちらの活動もしていない。男性が約1万8千人、女性が約1万5千人で、家事手伝いやボランティア従事者なども含まれるが、いわゆるニートが大半を占めるとみられる。
全国に約60万人といわれるニートは高卒者や学校中退者が多いとみられていた。大学の新卒者でも数万人規模に上ることが分かり、問題の深刻さが鮮明になった。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの横山重宏主任研究員は「就業しないまま年を重ねると、職探しがより難しくなる」と指摘する。都内の30歳男性は大学卒業後に勤めた会社をやめて7-8年がたつ。収入はなく親と同居。「働きたい気持ちはあるが、仕事を長く離れ、他人との会話が不安」と打ち明ける。
企業などで職業訓練を受けないニートが増えると、日本の労働力全体の質が下がる懸念がある。就職した同世代との経済格差が拡大し、いずれ生活保護受給者になりかねない。結婚や子育てが困難な人が増え、少子化が一段と深刻になる可能性も指摘されている。
政府は専門の相談員がニートなどの若者の自立を支援する「地域若者サポートステーション」の拡充を急いでいる。2011年度は全国110拠点に約37万6千人が来所したものの、就職などの進路が決まった人は約9700人にとどまった。
横山氏は「研修の場の提供など民間企業を巻き込んだ支援を進めるべきだ。成長産業の育成などで雇用を生み出すことも重要」と言う。
調査では約2万2千人が契約社員や派遣などの非正規雇用になっていることも分かった。正社員を希望したものの内定を得られず、契約社員などを選んだ人も多い。アルバイトなど一時的な仕事に就いた人も含めると、新卒者のほぼ4人に1人の12万8千人が安定した仕事に就けていない。
新卒者の進路を学部系統別にみると、文系で無職やアルバイトの割合が多かった。人文科学は25.2%、社会科学は21.8%だった。理学と工学は4割前後が大学院に進学しており、無職や非正規雇用の割合は10%台で比較的低かった。
ということで、今夜のエントリーでは「学校基本調査速報」の報道発表資料から、いくつかグラフを紹介して大学(学部)卒業生の就職について考えるとともに、根本的に、大学生などの若年層に政府のリソースが回らない原因についても、併せて、最近の調査から高齢層の反対が強いことを示したいと思います。
まず、上のグラフは「学校基本調査速報」の報道発表資料の p.7 から引用しています。大学(学部)卒業者の就職率の推移をプロットしています。赤い折れ線の就職率はリーマン・ショック後のボトムである一昨年から着実に上昇していますが、今年から始まった調査に従えば、63.9%の就職率のうち3.9%が正規の職員ではないとされていますので。逆算すれば、下のグラフの通り、正規職員に就職したのは60%ちょうどということになります。
次に、上のグラフは同じ「学校基本調査速報」の報道発表資料の p.8 から引用しています。今年の大学(学部)卒業生の就職状況です。大学院等への進学の13.8%も就職難で止むなくという面がありそうな気もしますが、それを別にしても、「① 正規の職員等でない者」と「② 一時的な仕事」、「③ 進学も就職もしていない者」を合算すると128千人、卒業者に占める安定的な雇用についていない割合はほぼ4人に1人の22.9%に上ります。グラフは引用しませんが、性別で見て、この不安定雇用の割合は男性22.0%、女性24.1%に上ります。
続いて、上のグラフも同じ「学校基本調査速報」の報道発表資料の p.8 から引用しています。学部別の卒業者の状況を示しています。理系の理学、工学、農学系で大学院等への進学割合が高いのは実感通りで、その分だけ就職率は低くなっています。逆に、文系の人文科学と社会科学は進学率が低くて正規の職員比率は高いんですが、他方、「一時的な仕事に就いた者」及び「進学も就職もしていない者」の割合も高くなっています。特に、人文科学系では「正規の職員ではない」を加えると30%超の卒業生が不安定な非正規雇用についていると考えられます。
マクロ経済的な成長の促進の必要を別にしても、この大学生の就職を見る上でのインプリケーションは2つあります。第1に、大学、すなわち、教育現場の対応です。私は大学が就職だけを準備する機関ではないと考えている一方で、同様に、多くの大学で教養教育的な面ばかりが重視され、実学的な面が軽視されて来たとも考えていませんが、企業の職業訓練負担が行き届かないのであれば、大学において専門学校のように実践的な要素をより多く取り入れる可能性も残されています。しかし、大学教育の現場を経験した者として、少なくとも非正規雇用に対応した大学教育はあり得ません。第2に、引用した日経新聞の記事にも見える通り、我が国の労働市場の質の劣化を招きかねないという危惧です。もはや、新卒一括採用や長期雇用はドミナントではないとはいうものの、大学卒業生の2-3割がOJTの不十分な職場で働くことを余儀なくされている点は軽視できません。自然単位で若年人口が減少する上に、質が劣化すれば効率単位ではさらに大きな労働力の減少に帰結しかねません。これまた、OJTといった企業内の職業訓練が不十分であるなら、大学ととともに政府も何らかの対策を考える必要がありますが、高齢層の反対が強いためにシルバー・デモクラシーのパワーで実現が難しい面があります。下のグラフは「高齢者への社会保障支出を減らし、若い世代に回す」ことに対する賛否を問うた世論調査結果です。年代別の比率になっています。朝日新聞の世論調査結果を引用しています。40代ではトントンですが、50代から先の高齢層では反対が賛成を上回っているのが見て取れます。
8月19日付けの朝日新聞の社説「社会保障改革 - 孫の顔を思い描けば」では、かなり大きな勘違いもあるんでしょうが、制度的ではなくもっぱら高齢者の情に訴える方法で高齢者向けの社会保障の削減を主張しています。圧倒的なシルバー・デモクラシーの下で、もはやそれしか方法がないのかもしれません。
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