夏川草介『神様のカルテ 3』(小学館) を読む
かなり新刊書を買い込んで少しずつ読んでいますが、やや遅れ気味な気もします。話題の『光圀伝』や『ソロモンの偽証 第2部』なんかも買いましたが、期限のある図書館から借りた本があって、買った本を読むのは少し先になりそうです。ということで、シリーズ3冊目で第1部の完結編となった夏川草介『神様のカルテ 3』(小学館) を読みました。読み終えて下の倅のところに回しています。まず、出版社のサイトから書籍の内容を引用すると以下の通りです。
自己満足で患者の傍にいるなんて偽善者よ。
栗原一止は、信州にある「24時間365日対応」の本庄病院で働く内科医である。医師不足による激務で忙殺される日々は、妻・ハルの支えなくしては成り立たない。昨年度末、信濃大学医局からの誘いを断り、本庄病院残留を決めた一止だったが、初夏には恩師である古狐先生をガンで失ってしまう。夏、新しい内科医として本庄病院にやってきた小幡先生は、内科部長である板垣(大狸)先生の元教え子であり、経験も腕も確かで研究熱心。一止も学ぶべき点の多い医師だ。
しかし彼女は治ろうとする意思を持たない患者については、急患であっても受診しないのだった。抗議する一止に、小幡先生は「あの板垣先生が一目置いているっていうから、どんな人かって楽しみにしてたけど、ちょっとフットワークが軽くて、ちょっと内視鏡がうまいだけの、どこにでもいる偽善者タイプの医者じゃない」と言い放つ。彼女の医師としての覚悟を知った一止は、自分の医師としての姿に疑問を持ち始める。そして、より良い医者となるために、新たな決意をするのだった。
全5話から成る構成は以下の通りです。第1話を除いて書下ろしです。
- 第1話
- 夏祭り
- 第2話
- 秋時雨
- 第3話
- 冬銀河
- 第4話
- 大晦日
- 第5話
- 宴
病院の医師を主人公にする物語ながら、このシリーズ3冊目にして初めてだと思うんですが、誰も死にません。前作では本庄病院の内科副部長の古狐先生が亡くなって、やや私はショックを受け、こんなプロットで先が続くのかと心配しましたが、さすがに作者か編集者か、どちらかお考えになったようです。少なくとも前作よりは出来がよくなっています。すなわち、第1作より第2作、第2作より第3作がよくなっていると私は受け止めています。
人は死にませんが、いわば、人事異動はあります。これは第2作でも進藤医師が本庄病院に加わっていますから、決して初めてではありません。ネタバレなんですが、出版社のサイトから引用した内容紹介の最後は、栗原一止自身が本庄病院を離れて大学病院に戻ることを意味しています。どうしてかといえば、新任の先輩内科医である小幡先生から医師にとって最新の知識と情報を持っておく必要性について、あるいはその哲学について大きな影響を受けたからです。私の専門である経済学を含めて、科学というのは常に最新の知識と情報を必要とするものですが、特に人命を預かる医学には高い専門性と先進性が必要とされます。そして、小幡医師は患者にも同時に生命を大切にする態度を求めます。そのあたりの病院内部での角逐を見事に表現しています。前作までの単に心暖まる医療現場という印象だけでなく、厳しい面を見せつけてなおかつ人が死なないという難しい綱渡りを見事に描き切ったと受け止めています。
最後に、どうでもいいことですが、いまだに芥川賞受賞作品である鹿島田真希「冥土めぐり」を読んでいません。いろいろと事情はありますが、「文藝春秋」の9月号は手元にありますので、なるべく早めに読みたいと思っています。
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