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2012年9月29日 (土)

最近話題の短編集を読む

舞城王太郎『短篇五芒星』(講談社) とイーユン・リー『黄金の少年、エメラルドの少女』(河出書房新社)

内外で話題の短編集を2冊読みました。上の通り、舞城王太郎『短篇五芒星』(講談社) とイーユン・リー『黄金の少年、エメラルドの少女』(河出書房新社) です。
私は舞城王太郎の作品は初めて読んだんですが、芥川賞の候補作品ということで、それなりに力量は感じました。この作品も純文学作品、ミステリっぽい短篇、まるでSFのようなファンタジーと、バラエティにとんだ作品を収録していて興味深いものがありました。私の知り合いに従えば、舞城作品としてはややおとなしめ、という評価もあるらしいんですが、そのあたりは私には不明です。各作品を通じて全体を見通すと、とてもシュールなパントマイムを見ているようです。何となく分かるような、分からないような、捉えどころのない不思議な作品ばかりです。でも、とても読みやすく、一気読みが出来ます。文句なく芥川賞かといえばそうでもなく、私も今後とも新しい作品が出るごとに読むかといえばそうでもなく、ものすごく感動したということでもないような気がします。そのあたりは、まだまだ、我が国を代表する売れっ子作家である東野圭吾、伊坂幸太郎、宮部みゆきなどの諸先生とは差があるのかもしれません。他方、作品ごとに細かくフォントを変更したりして、文学作品をトータルに仕上げようとする姿勢は、昨今の電子書籍の普及などのデジタル化が進む世界ですから評価できます。
初めて読んだ舞城作品と違って、イーユン・リー作品はデビュー作の『千年の祈り』を読んだことがあります。やっぱり、短編集です。中国は北京生まれのネイティブの中国人で米国在住、英語で作品を書いています。翻訳はデビュー作も本作も篠森ゆりこです。なお、タイトルの『黄金の少年、エメラルドの少女』は中国語で理想の男女を意味する「金童玉女」に由来しているそうです。ドメスティックな中国を舞台にした物語とともに、作者の人生体験からか米国に移住した中国人を主人公にする短編も含まれていますが、すべて中国を向いた作品ばかりです。日本人などからすれば風変りな風習や考え方も少なくありません。でも、そういった舞台や主人公や背景にかかわらず、すべての人々に共通する喜怒哀楽をきわめて巧みに表現しています。原文は英語かもしれませんが、英語のネイティブよりも漢字を理解する日本人の方が作品をよりよく理解できそうな気もします。しかし、誠に残念ながら、この『黄金の少年、エメラルドの少女』はデビュー作の『千年の祈り』よりかなり落ちます。この作者をよりよく理解しようとすれば、この作品ではなく『千年の祈り』を読むべきです。

イーユン・リーには『さすらう者たち』という長編作品があり、やっぱり、篠森ゆりこの翻訳です。さらに、訳出されていない作品もいくつかあるようです。今後の活躍が楽しみな作家のひとりです。

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