大江健三郎『定義集』(朝日新聞出版) を読む
大江健三郎『定義集』(朝日新聞出版) を読みました。2006年4月から今年2012年3月までに、毎月1回朝日新聞朝刊の文化面に連載されたコラム「定義集」が加筆修正されてエッセイとして単行本化されています。まず、かなり愛想なしなんですが、出版社のサイトからこの本の概要を引用すると以下の通りです。
定義集
ノーベル賞作家の評論的エッセイの到達点。源氏物語、ドストエフスキー、レヴィ=ストロース、井上ひさしなど、人生のさまざまな場面で出合った忘れがたい言葉を、書き写し、もう一度読み直す。朝日新聞好評連載の単行本化。
出版社の紹介文に出て来ない有名人が1人います。伊丹十三さんです。大江健三郎先生の義理の兄に当たります。すなわち、大江先生は伊丹さんの妹と結婚しています。といったようなことはさて置いて、戦争や沖縄、広島や原爆、そして原発問題と、専門の仏文学もさることながら、文化人としての、というか、左翼文化人としての大江先生の本領発揮です。憲法9条を守ること、核兵器を廃絶すること、そして、脱原発を進めること、私のような京都大学出身の人間には共感できる部分が多いんですが、もちろん、そうでないという人も多そうな気がします。
ノーベル賞受賞作家にふさわしく、名著の紹介も注目されます。東大の恩師筋に当たる渡辺一夫教授の翻訳をはじめ、エドワード・サイードと井上ひさしが頻出しますし、私には馴染みの少ない仏文学もたくさん紹介されています。仏文学ではありませんが、一昨年のノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス・リョサについて、池上彰さんをやや皮肉っている部分も興味深く読みました。私は南米での大使館勤務の経験がありますから、専門分野が違っても何となく耳に残っていたりするんですが、やっぱり、フランスに比べて南米は日本人には知られていない部分がまだまだ残されていると実感しました。
私は朝日新聞連載中のコラムはほとんど読んだ記憶がなく、この本で新鮮に読見ましたすでに。コラムで熟読している人にはどのように映るのか分かりませんが、我が国を代表する文化人のエッセイです。多くの図書館に所蔵されているでしょうし、読んでおいて損はないと思います。
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