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2012年10月17日 (水)

短期の景気局面と中長期の経済見通し - シンクタンクのリポートを読む

今年年央くらいから、世界経済とともに日本経済も変調を来たしつつある実感がありましたが、先週から今週にかけて、いくつかのシンクタンクから興味深いリポートが発表されています。短期的に足元で日本経済はすでに景気後退局面に入っていることを示唆するリポートと、この先10年くらいの中期的な日本経済に見通しに関するリポートであり、今夜のエントリーで取り上げるのは以下の通りです。包括的に引用元を示しておきたいと思います。

まず、第一生命経済研究所のリポートは、タイトル通りに、今年2012年3月を景気の山として日本経済がすでに景気後退局面に入っている可能性が高いと主張しています。その根拠のひとつは以下のグラフであり、採用系列が当面落ち込むと仮定し、特に、営業利益は今年7月から悪化していると仮定して試算されたヒストリカルDIです。

ヒストリカルDIの推移

第一生命経済研究所の試算に基づくヒストリカルDIは今年2012年4月に50を割り込み、単純に考えれば、3月が景気の山だった可能性が高いことになります。もしそうだと仮定すれば、すでに日本経済は景気後退局面に入っており、リーマン・ショック後の2009年3月を谷とする景気拡張局面はちょうど36か月となります。リーマン・ショック前の景気拡張期が長かっただけに、やや短い気がしないでもありませんが、戦後の平均景気拡張期間が36.2か月であることを考えると、決してあり得ない期間ではありません。ただし、たとえ現時点で日本経済が景気後退局面にあるとしても、長く続いたり深い不況に陥るわけでもなく、景気後退局面か単なる踊り場かを問わないとすれば、多くのエコノミストの間には、来年2013年が明けるころには緩やかな持直しに転じる、との大雑把なコンセンサスがあることも確かです。

乗用車販売台数

ただし、第一生命経済研究所のリポートでは、年明けの景気持直しに対するリスクは国内の自動車販売と対中国輸出と指摘しています。多くのエコノミストのコンセンサスとして、典型的には先のIMFの「世界経済見通し」のように、欧州の金融危機と米国の「財政の崖」を年明けのリスクとして上げる意見が多いんですが、国内的には自動車販売もエコカー補助金の政策効果による需要の先食いの影響を受ける可能性が指摘されています。リポートでは家電エコポイントによる需要の先食いのダメージが大きかったテレビと比較して、自動車の需要の先行きをリスクと捉えています。また、国境問題に端を発する中国との関係悪化もリスクとして認識すべきであるとの指摘はもっともです。

世界のGDP構成比

次に、ニッセイ基礎研究所のリポートは、今年度2012年度から2022年度までの約10年間を視野に、世界経済の動向から解き明かしています。上のグラフはリポートから「世界のGDP構成比」を引用しています。デモグラフィックな要因などから、新興国でも成長率が鈍化するものの、先進国より高成長を維持するのは明らかで、先進国のシェアは落ち続けます。予測期間末の2022年ころには先進国と新興国・途上国のGDPシェアはほぼ拮抗すると見通されています。また、我が国のGDP規模はすでに中国に抜かれた後、2020年代初頭にはインドにも抜かれると見込まれています。ついでながら、中国のGDPは2020年代初めに米国も上回ると予想されています。

消費税率1%引き上げの影響

先行き日本経済に大きな影響を及ぼす要因として消費税率の引上げが考えられます。現時点ではリスク・シナリオと捉えるエコノミストが少なくなく、メイン・シナリオにはなり切れていない気もしますが、2014年4月から8%に、2015年10月から10%に引き上げる法律が国会で可決していることは事実です。上の表は、その消費税率の引上げの影響をリポートから引用しています。ベースラインからの乖離率ですから、成長率の下振れはこれよりも小さくなりますが、当然ながら、無視できない影響を日本経済に及ぼすと見込まれています。

実質GDP成長率の推移

リポートから引用した2022年度までの我が国の成長率見通しは上のグラフの通りです。2014年度の消費税率引き上げ直前の2013年度に駆込み需要が発生し、2014年度は逆にマイナス成長と見込まれています。このため、2015年度半ばからの第2弾の消費税率引上げは2019年度に後ズレすると想定され、同じように2018年度の駆込みと2019年度の成長率落ち込みが予想されています。予測期間内の平均成長率は+1.1%と見通されています。

第一生命経済研究所のリポートのように、現状ですでに我が国が景気後退局面に入っているかどうかは議論がありますし、ニッセイ基礎研究所のリポートが想定するように、消費税率の10%への引上げが2019年度の後ズレするかどうかも何ともいえませんが、まずまず、多くのエコノミストのコンセンサスに近い主張を含んでいると私は受け止めています。最後に、ニッセイ基礎研究所のリポートの pp.9-10 にある「企業に滞留する余剰資金を家計部門に還元することが個人消費回復の近道であり、このことが経済状況の好転、デフレ脱却にもつながるのではないだろうか。」との見方は、消費をフォローしている官庁エコノミストとして大いに賛成です。

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