やや旧聞に属する話題ですが、東京で開催される来週のIMF・世銀総会を前に、先週9月27日に、国際通貨基金 (IMF) から「世界経済見通し」 World Economic Outlook の 分析編 Analytical Chapters の第3章と第4章が公表されています。第3章で政府赤字を、第4章で新興国経済を、それぞれ取り上げています。タイトルは以下の通りです。
- Chapter 3
- The Good, the Bad, and the Ugly: 100 Years of Dealing with Public Debt Overhangs
- Chapter 4
- Resilience in Emerging Market and Developing Economies: Will It Last?
実は、昨日、世銀から「世界開発報告」 World Development Report も公表されているんですが、今夜のところは IMF「世界経済見通し」分析編の第3章と第4章につき、図表を中心にして簡単に取り上げたいと思います。世銀「世界開発報告」については日を改めて取り上げるかもしれません。もっとも、取り上げないかもしれません。
まず、上のグラフはリポートの Figure 3.1. Public Debt in Advanced Economies を引用しています。上のパネルから明らかなように、先進国のグロスのGDP比で見た債務残高は2011年で第2次世界大戦直後の水準にかなり近づいています。平時としては最近100年余りで例を見ない水準といえます。特に、リーマン・ショック後はさらに急ピッチで債務残高が累増しています。下のパネルでは国別に見ていますが、ソブリン危機にあるギリシアを凌駕し、我が日本の債務残高はGDP比で200パーセントを超え、先進国の中でも飛び抜けていることが読み取れます。当然ながら、政府財政のサステイナビリティに対して強い疑問が生じ始めています。
次に、上のグラフはリポートの Figure 3.6. Debt-to-GDP Dynamics after Crossing the 100 Percent Threshold を引用しています。最近100年でGDP比100パーセントを超える債務残高を記録した国は IMF のデータベースにある限りで22か国のうち14か国に上りました。上のグラフはそのうちの6か国についてプロットしています。第1次世界大戦後の英国を超える最大の債務残高を記録したのは現在の日本だったりします。もはや政府債務残高がGDP規模を超える現象はめずらしくもないといえるかもしれません。上のグラフに取り上げられた国のいくつかについて簡単に見ると、1920年代の英国では財政において大きなプライマリー・バランス黒字を志向したにも関わらず、緊縮財政と金融引締めを政策的に追求したため、経済の縮小から債務問題の悪化を招いています。1980年代のベルギーと1990年代のカナダでは構造的・制度的な政策が効果を上げた一方で、1990年代のイタリアでは経済成長なしで赤字の縮小に成功しています。日本に対しては金融セクターの脆弱性に配慮せず、日銀が財政赤字削減をサポートするような金融政策を取らなかったことから、1997年からの財政再建策が失敗したと結論しています。その結果、ということで、リポートの Figure 3.9. Japan: Lost Decade を引用すると以下の通りです。
次に第4章に入り、新興国経済の分析を振り返ります。なお、以下のいくつかのグラフでは国別グループとして、AEs = advanced economy; EMDEs = emerging market and developing economy; EMs = emerging market economy; and, LICs = low-income country の略語を用いています。念のため。
まず、上のグラフはリポートの Figure 4.5. Along Which Dimensions Has Emerging Market and Developing Economy Growth Improved? を引用しています。戦後の約60年で時を経るに従って、特に1990年代以降は、先進国がほぼ一貫して景気拡大期が短くなり、景気拡大期の平均成長率が低下し、景気後退の規模が大きくなっているのに対して、新興国・途上国では特に1990年代以降で見て景気拡大期が長くなり、成長率は先進国を上回り、景気後退の規模は小さくなっています。世界経済の主役が1990年ころを境にして先進国から新興国・途上国に入れ替わったように見受けられます。
同じことはリポートの Figure 4.6. Why Have Emerging Market and Developing Economies Become More Resilient? を引用した上のグラフでも確認でき、新興国・途上国では平均的な成長率 (Steady-State Growth) は1990年以降に大きく高まり、成長率のばらつきは減じて、従来に比べて安定的な成長が達成されるようになっています。
続いて、上のグラフはリポートの Figure 4.9. Emerging Market and Developing Economies: Effects of Structural Characteristics on Expansion Duration and Speed of Recovery を引用していますが、新興国・途上国の景気拡大期と回復期における特徴的な構造要因を分析しています。見れば明らかなんですが、拡大期と回復期を通じて直接投資が景気をけん引し、拡大期には所得の不平等性が低下する一方で、回復期には新興国・途上国間での輸出や資本勘定の開放性などが景気回復の要因として上げられています。
最後に、上のグラフはリポートの Figure 4.13. Contribution of Shocks, Policies, and Structure to the Length of Expansions in Emerging Market and Developing Economies を引用しています。新興国・途上国の景気拡大の期間の長さに寄与した要因を定量的に分析し、政策立案能力の向上と政策遂行の余地の拡大が新興国・途上国の経済パフォーマンスの改善の大きな要因と分析しており、次いで、ショックの頻度の減少が上げられています。
今回の分析編では特に目新しい分析結果が提示されたわけではなく、従来から多くのエコノミストのコンセンサスに近い共通認識が定量的に分析された、と私は受け止めています。金融危機に関する分析が一段落して、地に足着いた落ち着いた分析編であると評価できるのかもしれません。
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