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2012年10月31日 (水)

Happy Halloween!

Trick or Treat?

今年は青山から引っ越してはじめてのハロウィンでした。その昔は、青山通り商店街が主催してハロウィン・イベントがあって、仮装した幼稚園児や小学生が "Trick or Treat?" と言ってお菓子をもらっていたんですが、我が家の下の子も中学生に上がり、こういった小さい子供向けのイベントとも縁遠くなりました。一応、Naver のまとめサイトにある東京近郊で行われるハロウィンイベント 2012 をチェックしたんですが、我が家の近くでは特段のイベントはないようです。

それでも、やっぱり、
Happy Halloween!

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毎月勤労統計に見る景気局面やいかに?

本日、厚生労働省から9月の毎月勤労統計が発表されました。景気に敏感な所定外労働時間は減少を続けていますが、賃金の低下はストップしました。また、夏季ボーナスについての統計も同時に発表されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

製造業の残業時間4.2%減 9月、2カ月連続マイナス
厚生労働省が31日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報)によると、製造業の残業時間などの所定外労働時間(事業所規模5人以上)は前年同月比4.2%減った。減少は2カ月連続。製造業の所定外労働時間は足元の景気動向を示す。最大の輸出先である中国の景気減速などを背景に、生産活動が縮小していることが響いた。
製造業の所定外労働時間は前月比でも2.4%減った。前月比でマイナスとなるのは3カ月連続だ。中国の景気減速で日本の輸出、生産は弱含んでいる。製造業は新規求人も減少しており、雇用・所得環境の悪化が個人消費の下押し要因となる恐れがある。
残業時間の減少は給与にも表れ始めた。所定外給与は前年同月比0.8%減の1万7764円となった。前年同月の水準を下回るのは、2011年8月以来13カ月ぶり。基本給や家族手当を含む労働者1人あたりの「所定内給与」は24万3502円で、前年同月比で横ばいだった。
同時に発表した12年の夏季賞与(ボーナス)は前年比1.4%減の35万8368円だった(従業員5人以上の事業所)。夏としては2年連続で前年を下回った。冬も含めると、10年の冬季賞与以降4回連続で前年実績を下回った。最も減少幅が大きかったのが建設業で、12.5%減の33万9109円だった。

次に、いつもの所定外労働時間と賃金のグラフは以下の通りです。上のパネルは2005年=100となる所定外労働時間指数の季節調整値をプロットしています。影をつけた部分は景気後退期です。下は季節調整していない原系列の現金給与総額指数とそのうちの所定内賃金指数のそれぞれの前年同月比上昇率をプロットしています。

毎月勤労統計の推移

上のグラフの所定外労働時間を見ている限り、昨夜のエントリーの続きですが、所定外労働時間の下降線が1年ほど続けば景気後退期と見なすべきだという気がします。2008-09年のサブプライム・バブル崩壊の際の期間ほどではなくても、2001年ITバブル崩壊のころくらいの期間の下降線が続けば、景気後退期と考えるべきでしょう。2004-05年の踊り場とはハッキリ違います。そのひとつの分かれ目は来年1-3月期だろうと私は考えています。来年1-3月期に景気が盛り返せば、今年2012年の停滞は「踊り場」でいいような気もします。下降期が12か月に達するかどうかがひとつの目安と私は考えています。来年9月までに総選挙があるハズなんですが、政治的な観点から恣意的な判断が下されるべきではありません。

2012年産業別夏季ボーナス

本日の毎月勤労統計では今年の夏季ボーナスの結果も公表されています。産業別の統計は上のグラフの通りです。調査産業計でわずかに前年比マイナスとなりました。注目すべきは電気・ガス業です。電気代の値上げが取りざたされていて、メディアの報道にも見受けられるところ、電気・ガス業の夏季ボーナスは前年比で増加しており、水準的にも調査産業の中でもっとも高く70万円を超えています。この統計は値上げを目論んでいる電力会社の他にも含まれている業種があるんでしょうが、電力会社におけるコスト引下げの余地がまだまだ大きいと受け止める向きも少なくないと私は想像しています。

雇用や賃金については、ライシュ教授の『暴走する資本主義』にもある通り、民主主義を支える市民としては正規雇用を増やして賃金を上げる方向が望ましいんですが、資本主義の中で生き残りを図る投資家や消費者としては非正規雇用を余儀なくし低賃金を求めがちになってしまいます。悩ましいところです。

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2012年10月30日 (火)

生産統計と雇用統計から現下の景気局面を考える

本日、経済産業省から鉱工業生産指数が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ発表されました。いずれも9月の統計です。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産4.1%低下 9月、3カ月連続マイナス
経済産業省が30日発表した9月の鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整値)は86.5と、前月比4.1%低下した。3カ月連続で低下した。欧州や米国向けの自動車が減少したほか、反日デモが広がった中国向けの自動車部品が落ちこんだ。経産省は基調判断を「低下傾向にある」と前月から引き下げた。
判断の下方修正は2カ月連続となる。前月は「弱含み」としていた。
生産指数は全16業種のうち15業種で悪化した。輸送機械は12.6%減と5カ月連続でマイナス。中国では9月中旬から拡大した反日デモで日系企業の自動車生産が止まり、中国向けの部品供給が落ちこんだ影響が出ている。国内でもエコカー補助金の終了による生産調整も響いた。
鉄鋼は5.3%減った。米国と中国向けの自動車用鋼材が減少した。一方、電子部品・デバイスは2.4%増と3カ月ぶりにプラス。中国向けのスマートフォン(高機能携帯電話)用の集積回路が増えたためだ。鉱工業生産全体の出荷は4.4%低下した。
同日発表された製造工業生産予測調査は10月の生産が前月比1.5%マイナス、11月が1.6%のプラスだった。前月時点での10月の予測は横ばいだったが、下方修正された。鉄鋼が自動車向けの需要悪化を受けて計画を引き下げている。輸送機械は10月に1.7%増を見込んでいる。
有効求人倍率3年2カ月ぶり低下 9月0.81倍、失業率は横ばい
厚生労働省が30日発表した9月の有効求人倍率(季節調整値)は0.81倍で前月から0.02ポイント悪化した。前月を下回ったのは2009年7月以来、3年2カ月ぶり。製造業の新規求人数が大きく減った。総務省が同日発表した9月の完全失業率(季節調整値)は4.2%で前月比横ばいだったが、完全失業者は1万人増えた。景気の減速が雇用にも波及し始めた。
雇用の先行きを映すとされる新規求人倍率は、1.24倍で前月比0.09ポイント低下した。産業別に新規求人数をみると、医療・福祉や情報通信業は前年同月比で2ケタ増で堅調だったが、製造業は11.3%の大幅減だった。
自動車や電子機器などの製造業は就業者数でも前年同月と比べ32万人減り、1005万人だった。中国の景気減速を背景に、自動車を中心に国内製造業の生産活動が低下していることが背景にあるとみられる。厚労省は「雇用情勢は持ち直しているが、依然として厳しい」との基調判断を維持した。
失業率は景気動向が遅れて反映されることもあり、9月は前月比横ばいだった。ただ9月の完全失業者(季節調整値)は273万人で、前月に比べ1万人増えた。先行指標の有効求人倍率や新規求人倍率が悪化したため、総務省は「来月以降の動きを注意深く見る必要がある」と指摘した。
職探しをしていない「非労働力人口」は前月に比べ9万人減の4554万人。一方で就業者数は6269万人と前月比6万人増えており、非労働力人口からの流入がみられた。ただ就業者数は男性が14万人増えた一方、女性は8万人減り、男女差が広がった。男性は東日本大震災からの復興需要などで堅調な建設業に就いたとみられる。

続いて、いつもの鉱工業生産指数のグラフは以下の通りです。上のパネルは2005年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済の系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

鉱工業生産指数の推移

鉱工業生産指数は季節調整済みの前月比で▲4.1%減と3か月連続の減産となりました。▲3%程度の減産との市場の事前コンセンサスを下回り、生産の停滞はかなり大きいと考えるべきです。9月の生産統計では16業種のうち15業種で減産となり、特に、押下げ寄与が大きかったのは輸送機械、一般機械、鉄鋼となっています。輸送機械とはいわずと知れた自動車なんですが、国内的にはエコカー補助金の終了、国際的には中国に起因する部分が大きいと考えています。すなわち、そもそも中国経済の減速に加え、尖閣諸島の領土問題に伴うデモや不売運動なども影響していると受け止めています。加えて、引用した記事にもある通り、10-11月の生産も決して強いとはいえず、引き続き、中国をはじめとする海外経済の停滞に伴って生産は弱い動きを示すと見込まれます。

雇用統計の推移

生産で減産が続くことから雇用も弱い動きとなっています。遅行指標である失業率こそ先月から横ばいでしたが、先行指標の新規求人数と一致指標の有効求人倍率は悪化しました。上のグラフの通りです。9月調査の日銀短観でも、大企業では過剰感の払拭にブレーキがかかりましたし、生産の低下に伴って徐々に労働市場でも需給バランスが悪化に転じ始めている可能性があります。

在庫循環図

ということで、本日発表の鉱工業生産統計から在庫循環図を書くと上の通りです。2012年7-9月期は黄色の左向きの矢印にまで下がって来ており、45度線を越えて、x軸も突き破って大きく進んでしまいました。内閣府のサイトにある「鉱工業の在庫循環図と概念図」に従えば、この景気局面はすでに山を越えて在庫調整・在庫減らし局面に入っていることになります。この点については、本日発表の雇用統計でも裏付けられているといえます。すでに、このブログの10月17日付けのエントリーで取り上げていますが、以下のように、シンクタンクや金融機関のリポートでも、すでに景気後退局面に入ったとする見方が広がっていることも確かです。私自身は現時点で景気後退局面にすでに入っているとの確信はありませんが、その逆の材料もなく、何とも判断に窮するところです。ただ、年明けくらいから景気が上向くとすれば「踊り場」で済ませていいと思うんですが、年が明けても景気が下降ないし停滞したままだと今年3-4月くらいを谷に「景気後退局面」に入っていた、と後付けで判断することになろうかと思います。どうしても景気判断は遅れがちになります。

日銀政策委員の大勢見通し

最後に、本日の日銀金融政策決定会合にて資産買入等基金の規模を11兆円増やし91兆円とするなど、追加の金融緩和が決定されるとともに、「展望リポート」の基本的見解部分が公表されています。リポート p.18 にある日銀政策委員の大勢見通しは上の表の通りです。成長率見通しも物価見通しも軒並み下方修正されています。特に、2014年度のコア消費者物価上昇率が、消費税率引上げの影響を除いて、1%に届かない点は注目すべきと受け止めています。また、日銀総裁と経済財政大臣・財務大臣との連名による「デフレ脱却に向けた取組について」との連名文書を明らかにしています。日銀白川総裁の記者会見要旨を読んでも、この文書の趣旨が私には判然としません。そのうちに情報収集したいと思います。

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2012年10月29日 (月)

商業販売統計から消費と景気を占う!

本日、経済産業省から9月の商業販売統計が発表されました。純粋なサービスを別にして商品の消費に相当する小売販売について、季節調整していない原系列で見ると前年同月比で0.4%増の10兆6150億円でしたが、季節調整済みの指数では前月比▲3.6%減でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の小売業販売、2カ月連続プラス 残暑で夏物好調続く
経済産業省が29日に発表した9月の商業販売統計(速報)によると、小売業の販売額は10兆6150億円と前年同月に比べて0.4%増えた。増加は2カ月連続。残暑が厳しかったため、飲食料品や日焼け止め、衣料品など夏物商材の販売が好調に推移し全体を下支えした。
ただ、エコカー補助金終了に伴い自動車小売業が1.6%減と12カ月ぶりにマイナスに転じた。機械器具小売業もテレビや録画再生機の販売不振が続き、1.5%減と14カ月連続マイナスだった。
百貨店とスーパーを含む大型小売店は0.1%減の1兆4707億円で、既存店ベースは1.0%減と6カ月連続のマイナス。うち百貨店はほぼ横ばい、スーパーは1.5%減だった。秋物衣料が不調だったほか、中旬の3連休や月末の土日に台風が直撃し客足が伸びなかったことが影響した。
経産省は日中関係悪化の影響について「百貨店の免税品販売が一部で減っており、10月はもう少し影響が出てくる」とみている。
コンビニエンスストアの販売額は2.7%増の7975億円。総菜類が好調だった。一方、既存店ベースはイベントチケット販売などサービス売上高が減少し、1.7%減と4カ月連続のマイナスだった。

次に、いつものグラフは以下の通りです。いずれも卸売販売と小売販売の推移なんですが、上のパネルは季節調整していない原系列の前年同月比を、下は2005年=100となる季節調整指数を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期です。

商業販売統計の推移

9月の小売販売は前年同月比ではかろうじてプラスでしたが、季節調整済みの指数では大きな前月比マイナスを記録しました。引用した記事にもある通り、猛暑・残暑による一時的な夏物の売上に伴う消費拡大があったと見られ、8月統計でも同じことを書きましたが、9月統計でも小売販売の増加はあくまで一時的な現象と評価するべきです。消費はまだまだ底堅いと私は考えていますが、エコカー補助金が終了した自動車販売は極めて正直に下降線をたどっていますし、季節調整済みの指数などはグラフに見られるように今年2月を直近のピークにして国内景気の停滞とともに小売売上も減少を続けています。ただし、繰返しになりますが、消費は先行きも底堅い推移を示し、大きく崩れることはないと私は見込んでいます。もっとも、日本版「財政の崖」が来ない、すなわち、赤字公債法案が適切な時期に成立するという前提は不可欠です。

本日の商業販売統計に続いて、明日は生産統計と雇用統計が、明後日は賃金が明らかになる毎月勤労統計が、それぞれ発表されます。ついでながら、明日は日銀から「展望リポート」も明らかにされます。エコノミストの間では景気後退期を過ぎたかどうかで説が分かれていますので、経済指標を見極めたいと思います。

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2012年10月28日 (日)

京都大学にて恩師の傘寿を祝う会に出席

昨日、午後から我が母校の京都大学で恩師の傘寿を祝う会がありました。大学の恩師には結婚式の仲人をお願いしており、私も卒業生の1人として馳せ参じました。第1部は時計台北側の法経第7教室にて卒業生からの発表に恩師がコメントを付け、その後、第2部は時計台ホールでのパーティでした。京都大学での行事を終え、海外から駆けつけた同窓生も交えて同期生だけで夜の2次会に行きました。我が期は元々7人だけなんですが、4名が出席でした。東京の役所に入った国家公務員の私以外にも、私の同級生には地元の自治体に就職した地方公務員がいて、すべてを取り仕切ってくれました。そうそう母校に立ち寄る機会もないので、私は時計台下の生協にてネクタイとマグカップを記念に買い求めました。
以下の写真は昨日のものです。上から順に、まず、我が母校京都大学のシンボルである時計台、法経第7教室における第1部でコメントを付ける我が恩師、3枚目からは第2部の時計台ホールのパーティに移って、恩師夫妻を前に我が同期生4人で記念写真、なお、私は後列向かって左端です。最後はお開きの際に花束贈呈を受ける恩師夫妻です。

京都大学時計台

京都大学法経第7教室にて我が恩師

京都大学時計台ホールにて恩師夫妻と我が同期生

花束贈呈を受ける恩師夫妻

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2012年10月27日 (土)

京都に向けて出発!

京都大学ロゴ

今日は午後から我が母校の京都大学で恩師の傘寿を祝う会があり、そろそろ新幹線に乗るべく出かけます。久し振りに同級生と会い、京都に一泊して来ます。お伴に冲方丁『光圀伝』を新幹線の車中に持ち込みます。明日の夕方くらいに写真を整理して、京都へのお出かけのようすをアップできるんではないかと思います。

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2012年10月26日 (金)

消費者物価は基調変わらずデフレが続く!

本日、総務省統計局から消費者物価指数が発表されました。9月の全国と10月の東京都区部です。生鮮食品を除く総合のコアCPIで見て、全国が▲0.1%、東京で▲0.4%のそれぞれ下落でした。デフレが続いています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、5カ月連続下落 9月は0.1%
デフレ基調変わらず

総務省が26日発表した9月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きが激しい生鮮食品を除いたベースで99.8となり、前年同月比で0.1%下落した。下落は5カ月連続。マイナス幅は前月より0.2ポイント縮まったものの、電気代の値上げやガソリン高が影響している。テレビなど耐久消費財は大幅な下落が続いており、デフレ基調は変わっていない。
日銀は30日に開く金融政策決定会合で14年度にもCPI上昇率が1%に届かないとの見通しを示すとともに、追加金融緩和に踏み切る見通し。9月のCPIは物価の上昇基調が見通しにくい現状を再確認した形で、デフレ脱却の道筋はなお不透明だ。
9月はテレビが4.7%、プリンターが46.1%それぞれ下落し、教養娯楽用の耐久財全体でみると9.9%のマイナスだった。耐久消費財のほか外国パック旅行が11.6%下落するなど、幅広い品目でマイナスが続いている。
電気代は東京電力の値上げを反映して7.3%上昇し、ガソリンも1.8%上昇と5カ月ぶりにプラスになった。物価動向の基調をみるために食料とエネルギーを除いたベースでみると、前年同月比0.6%の下落で、マイナス幅は前月から0.1ポイント拡大した。
このほか生鮮食品は前年同月比で6.0%下落した。マイナス幅は前月から2.0ポイント拡大した。レタスやキャベツ、キュウリが値下がりしている。生鮮食品も含めた総合でCPIをみると0.3%のマイナスで、前月から下落幅を0.1ポイント縮めた。
全国分の先行指標となる東京都区部の10月のCPI(中間速報値)は、生鮮食品を除く総合指数が99.3となり、前年同月に比べて0.4%下がった。マイナス幅は前月から横ばいで、物価の基調は10月も変わっていない。前月と比べるとガソリンの上昇幅が拡大した一方、電気代が値下がりした。

いつもの消費者物価上昇率の推移のグラフは以下の通りです。青い折れ線グラフが全国のコアCPI上昇率を、赤が全国の食料とエネルギーを除くコアコアCPIを、グレーが東京都区部のコアCPIをそれぞれプロットしており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率の寄与度を示しています。色分けは凡例の通りです。

消費者物価上昇率の推移

ここ数か月変わり映えなく、消費者物価(CPI)はデフレが相変わらず続いています。また、先月も書いた通り、エネルギー価格にけん引される物価変動であり、金融政策よりも商品市況の影響を強く受ける形になっています。逆にいえば、金融政策は何もしていないに等しい効果しか及ぼしていないとも考えられます。金融政策から物価へのトランスミッションのチャンネルが切れているのか、金融政策の変更幅が小さいのか、いずれかではなかろうかと考えるのが普通でしょう。
ですから、我が国の消費者物価の先行きは金融政策ではなく、商品市況を占うことになります。さらに、商品市況は原油価格をはじめとして、新興国、中でも中国の景気動向に大きく左右されます。資源多消費型の経済構造をしているからです。足元では、9月に上昇した原油価格も10月には再び下げており、なかなかに複雑なランダム・ウォークを示していますが、少なくとも、中国経済については政府の景気対策もあって今年の春先から年央にかけて底を打ったと、多くのエコノミストの間でコンセンサスがあります。繰返しになりますが、短期的には複雑なランダム・ウォークをたどりながら、原油価格などの商品市況は新興国経済の持直しとともに上昇する可能性が高いと考えるべきです。要するに、目先はデフレが続く可能性が高いものの、日本の消費者物価は新興国経済の回復とともにゆっくりと上昇ないしマイナス幅を縮小させる方向に動くと私は見込んでいます。同時に、新興国経済が回復すれば日本経済も輸出の拡大を通じて現在の停滞局面を脱する可能性が強く、かなり先のお話ながら消費者物価の上昇ないしマイナス幅縮小が新興国経済の復活を通じた商品市況に起因するものか、日本経済の回復に基づくデフレ・ギャップの縮小に起因するのか、しっかりとした分析が必要になると私は考えています。その際に、金融政策当局たる中央銀行が何らかのポジション・トークに基づく政策判断を下さないように注意すべきであるとも言えなくもありません。

来週に示される日銀の景気見通しは全般的に下方修正され、CPI上昇率が+1%に達するのは今年4月時点の見通しの2014年年央から1-1.5年後ズレし、2015年年央から年末くらいの大勢予想が示される可能性が高いと私は考えています。先月にも書きましたが、いずれはエネルギー価格にけん引された消費者物価の上昇が始まります。その際の政策対応に誤りなきを期すこともエコノミストの重要な役割のひとつと私は考えています。

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2012年10月25日 (木)

プロ野球ドラフト会議におけるタイガースの指名やいかに?

ドラフト会議ロゴ

本日夕刻からグランドプリンスホテル新高輪にてプロ野球のドラフト会議が開催されました。我がタイガースは1巡目で大阪桐蔭高校の藤浪投手を競合する他球団を尻目に交渉権を獲得した後、甲子園の高校野球で藤浪投手と決勝を争った相手チームの4番打者北條内野手を指名するなど、高校・大学・社会人から合わせて6選手を指名しました。以下の通りです。来シーズンがとても楽しみです。

阪神タイガース選択選手

来年こそ優勝目指して、
がんばれタイガース!

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2012年10月24日 (水)

宮部みゆき『ソロモンの偽証』第2部と第3部 (新潮社) を読む

宮部みゆき『ソロモンの偽証』第2部と第3部 (新潮社)

宮部みゆき『ソロモンの偽証』第2部と第3部 (新潮社) を読みました。作者の久し振りの現代ミステリと話題満載で、『ガリレオ8 禁断の魔術』などとともにベストセラー街道まっしぐらの3部作完結です。まず、出版社の特設サイトから第2部と第3部のあらすじを引用すると以下の通りです。

第2部 決意
もう大人たちに任せておけない――。保身に身を窶す教師たちに見切りをつけ、一人の女子生徒が立ち上がった。校舎を覆う悪意の雲を拭い去り、隠された真実を暴くため、学校内裁判を開廷しよう! 教師による圧力に屈せず走り出す数名の有志たち。そして他校から名乗りを上げた弁護人の降臨。その手捌きに一同は戦慄した……
第3部 法廷
8月15日。遂に開廷日となり、5日間にわたる裁判が始まった。柏木卓也の家族、警察、不明だった告発状の差出人をはじめとする様々な証人が登場し、事件の謎の解明は二転三転する。同時に、生前の柏木卓也像がどんどん浮き彫りになる。しかし、最後の、あまりにも意外すぎる証人の登場に、法廷は震撼した。この裁判は仕組まれていたのか――。証人の口から明かされる前年のクリスマスイヴの知られざる状況とは……。驚天動地の完結編!

次に、これも出版社の特設サイトから人物相関図を引用すると以下の通りです。宮部作品らしく、極めて複雑で錯綜した多数の登場人物の関係を一覧で分かりやすく示しています。ものすごく厳密なチェックをしたわけではありませんが、書籍のカバーの裏側にあるのと同じだと思います。第1部の事件直後の相関図から、当然ながら、第2部と第3部は少し発展しています。

『ソロモンの偽証』人物相関図

第1部のダメな担任教師、情報隠蔽に走る校長などの教育現場の荒廃とメディアの先走りした取材の対立から、第2部と第3部では一転して生徒が主体的に活動するスタイルに切り替わります。教師により濃淡は当然ながらあるものの、新たな体制の中学校も積極的あるいは消極的に生徒の裁判活動をサポートし始めます。ものすごい迫力でグイグイと読者に迫ります。超長編ですから登場人物も多く、相互の関係が錯綜する中、宮部作品らしく細部までゆるがせにせず、ディテールまでしっかりと描き切ります。ミニマリスト的な表現とはまったく反対であり、私の知る限り、この点で宮部みゆきに匹敵するのは国内では見かけず、スティーヴン・キングくらいのものです。
ただし、これも宮部作品らしく、ラストに「アッと驚くどんでん返し」が用意されているわけではありません。その意味で、先に引用した第3部の「驚天動地」はやや誇張した表現かもしれません。予定調和的とまではいいませんが、多くの慧眼なる読者の予測した通りの結末に至ります。しかし、そこは作者の筆力の賜物であり、「なあんだ」や「やっぱり」で終わるんではなく、「なるほど」と読後感はとっても素晴らしいものがあります。現時点で早急な評価は控えますが、私は今まで宮部作品の原題ミステリのうちの最高峰は『模倣犯』であると当然のように見なして来ましたが、ひょっとしたら、何年か後には『ソロモンの偽証』が取って代わる可能性があると思っています。

『ソロモンの偽証』ダビデの星

第1部の読書感想文をアップした9月14日付けのエントリーでは、2点疑問を取り上げました。タイトルの「ソロモン」と1990-91年のバブル期の時代背景の必然性です。この2点は解消しました。ついでながら、本のタイトルが「ソロモン」なのに、ソロモンの五芒星ではなく、上の画像のダビデの六芒星が表紙などに現れる点も理解しました。すなわち、第2部の帯に「史上最強の中学生か、それともダビデの使徒か」と弁護人の神原和彦が紹介されています。告発状を書いた三宅樹里が偽証をするソロモンに、神原和彦がそのソロモンを上回る父ダビデに、それぞれ擬されているわけです。続いて、バブル期の時代背景ですが、別にバブル期でなくてもよかったんでしょうが、多くの中学生が携帯電話を持っている現在では不適当だった、ということなんだろうと思います。もっといえば、公衆電話からの連絡が大きな役割を果たすということです。

読書熱心な我が家では往々にしてあることですが、この作品については家族の中で奪い合いが生じました。私が退いて、おにいちゃんが先に読み始めたんですが、中間試験に入ってしまい、私に回ってくるのが少し遅れました。その昔、ハリー・ポッターの最終話『死の秘宝』は調整がつかずに上下巻とも2冊ずつ買った記憶があります。この『ソロモンの偽証』も一家に2冊ずつあっておかしくない値打ちがある、と見なす読書子も少なくないだろうと私は受け止めています。もっとも、3冊とも700ページを超えますから、それなりに重くて収納スペースも必要です。

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2012年10月23日 (火)

上野泰也『「為替」の誤解』(朝日新聞出版) は何を「誤解」しているのか?

上野泰也『「為替」の誤解』(朝日新聞出版)"

上野泰也『「為替」の誤解』(朝日新聞出版) を読みました。著者はみずほ証券所属で主に債権を見ている人気のマーケット・エコノミストです。また、昨年暮れか今年に入ってから、このブログで取り上げなかったものの、佐々木融『弱い日本の強い円』(日経プレミアシリーズ) と安達誠司『円高の正体』(光文社新書) の2冊の新書も読みました。前者は日銀理論を展開し、後者はリフレ派理論を展開していますが、今夜取り上げた上野泰也『「為替」の誤解』は分かりやすいものの、ややこの2冊より落ちます。分かりやすいので評価する向きもあり、例えば、東洋英和女学院大学の中岡教授が「東洋経済」のサイトにて実に明快な書評を明らかにされています。私のこんなマイナーなブログを読むよりも、以下のサイトをご覧になった方がいいかもしれません。

中岡教授の書評のエッセンスとして2センテンスだけ引用すると、「本書の面白味は『円高そのほかの経済情勢にまつわる表層的な議論の間違いを指摘しつつ、日本にとって真に必要な経済政策』を分析し、"極論"や"暴論"を排して、あるべき政策を説いている点にある。奇をてらうことなくバランスの良い分析を展開している。」という点に尽きます。しかし、本書でほとんど政策論は展開されていませんので、念のために申し添えます。
これまた、念のために明らかにしておくと、著者は為替の動向に対してオーソドックスな理解を有しています。すなわち、本書の pp.172-73 では「およそ為替市場は、日常的に貿易による実需取引や投資による資本取引の影響を受けるし、中期的には中央銀行による金融政策の見通しに左右され、長期的には購買力平価に収れんしやすい部分もある。」と指摘されており、極めて標準的かつ教科書的な為替の理解を著者は多くのエコノミストと共有しています。私が役所に入ったころ、変動相場制下で為替はランダム・ウォークすると考えられていました。Meese and Rogoff の一連の研究成果の影響です。今では古典派の第2の過誤ではないかと見なされています。他方、本書の著者は中期の為替に金融政策の動向に起因する影響を認め、さらに、部分的かもしれませんが長期の為替に物価の影響を認めます。いうまでもなく、物価動向に責任を持つのは金融政策当局であり、中長期の為替には金融政策の影響を肯定しているわけです。しかしながら、本集の記述はこのうちの短期に集中しているような気がするのは私だけでしょうか。

最後に、本書の最終章で作者がすべてに否定的な回答を用意している6つの「極論」や「暴論」です。短期の為替売買の現場の見方としては否定されるのかもしれませんが、「為替」とは関係の薄いテーマもあり、同時に、「金融立国」のようにいかなる観点からも疑問が多い議論もありますが、中長期的な観点からは肯定的な見方の出来る論点も少なくないと私は考えます。

  1. 紙幣をすれば円安になる?
  2. 円安になれば日本経済は復活する?
  3. 経済成長すれば消費増税は必要ない?
  4. 「埋蔵金」をもっと活用したら?
  5. 日本は金融立国を目指すべき?
  6. もっと金融規制を強化すべき?

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2012年10月22日 (月)

貿易赤字とエネルギー政策の関係やいかに?

本日、財務省から9月の貿易統計が発表されました。季節調整していない原系列で見て、ヘッドラインとなる輸出額は前年同月比10.3%減の5兆3598億円、輸入額は4.1%増の5兆9183億円、差引き貿易収支は5586億円の赤字となりました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すれば以下の通りです。

貿易赤字額、9月では過去最大 対米輸出伸び悩む
財務省が22日発表した9月の貿易収支は5586億円の赤字だった。赤字は3カ月連続で、赤字額は9月では過去最大だった。特に対中国は景気減速や尖閣問題を巡る日中関係の悪化などに伴い、3295億円の赤字と同じく過去最大だった。米国向けは貿易黒字を維持したものの、輸出が0.9%増と急速に伸び悩んだ。
輸出額は前年同月比10.3%減の5兆3598億円と4カ月連続マイナス。自動車や船舶、電子部品が減った。うち対中国は14.1%減と大幅に落ち込んだ。4カ月連続の減少で、主に重機用エンジンなどの原動機(48.7%減)、乗用車を中心にした自動車(44.5%減)、自動車関連部品(17.5%減)の落ち込みが目立った。「反日デモの影響がどの程度出ているかわからない」(財務省関税局)という。
輸入額は4.1%増の5兆9183億円で2カ月ぶりのプラス。主に原粗油や通信機、LNGが増えた。
財務省関税局は先行きについて「EUや中国向けの輸出減が継続していくか見ていく必要がある。輸入面も燃料の価格動向を注視する」としている。

次に、いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフでプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

貿易統計の推移

輸出の鈍化ないし減少と輸入の増加を受けて、定義式で決まる貿易収支は赤字を続けています。特に、輸入については原油価格の上昇から貿易赤字が拡大しています。ドバイ原油価格の我が国への影響はほぼ2か月から1四半期ですので、当然ながら、足元の原油価格より遅れて我が国の貿易収支に影響します。日本は小国ではありませんから、原子力発電を止めて火力発電に切り換えると世界の燃料価格は上昇します。貿易赤字の裏側には電力政策が微妙な影を落としています。どのような電力構成にするかは国民の選択ですが、単にイメージだけで選択するのではなく、裏側のコスト構造にも十分な情報を得て選択すべきです。原子力の比率を下げて自然エネルギーの比率を高めようとするのであれば、それなりのコスト負担が必要です。どこにもフリーランチはありません。

輸出の推移

輸出の金額指数を数量と価格で、また、主要な地域別に、2種類の寄与度分解を行ったグラフは上の通りです。特に、地域別の輸出を見ると、欧州向けとアジア向け輸出が減少を続けています。アジア向けについては中国向け輸出が前年同月比で▲14.1%減となり、尖閣諸島の国有化に反発する反日デモが9月中旬から拡大したことが影響していると受け止めています。もちろん、国境問題だけではなく、中国経済の減速がマクロで中国の輸入を鈍化させていることも見逃すべきではありません。しかしながら、10月統計では尖閣諸島の影響がさらに大きく出る可能性も否定できません。中国以外では、欧州向けはソブリン危機のために落ち込んでおり、唯一、北米向けは前年同月比で増加を続けていますが、伸び率はかなり鈍化し、9月はわずかに前年同月比で+0.1%に過ぎません。

直接の影響として、7-9月期GDPの外需はマイナス寄与となる可能性が高まったと多くのエコノミストは考えていますが、間接的にも、輸出がコケれば、生産がコケて、当然のように雇用に波及しますから、景気への波及は大いにあります。景気局面が後退期入りしたとの議論もあり、かなり微妙な段階に差しかかって来ました。リーマン・ショックの後には輸出の大幅な落ち込みが景気後退の振幅を大きくしたことも記憶に新しく、今後とも貿易動向を注視したいと思います。

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2012年10月21日 (日)

Romantic Jazz Trio の The Beatles in Jazz 2 を聞く

Romantic Jazz Trio The Beatles in Jazz 2

John Di Martino 率いる Romantic Jazz Trio の The Beatles in Jazz 2 を聞きました。当然ながら、その2があるんですからその1も出ています。Let It Be や Yesterday、また ジャズでもよく取り上げられる Norwegian Wood、あるいは、山中千尋が最近のアルバムのタイトルにした Because などはその1に収録されており、今日のブログで取り上げるその2には以下の曲が収められています。

  1. For No One
  2. Mother Nature's Son
  3. Something
  4. You Never Give Me Your Money
  5. If I Fell
  6. She's Leaving Home
  7. Till There Was You
  8. Hey Jude
  9. I'll Follow the Sun
  10. Girl
  11. You've Got to Hide Your Love Away
  12. Oh! Darling
  13. Why Don't We Do It in the Road
  14. Imagine

その1の方をこのブログでは取り上げずに、いきなり、その2に注目してしまいましたが、まあよく似たものです。John Di Martino が昨年あたりからポピュラーソングを取り上げて、精力的に新しいアルバムをいくつか出しているのは知っていましたし、9月2日のエントリーで取り上げた Michael in Jazz のように、中には聞いたのもあるんですが、私もジャズ・ピアノを聞く能力が落ちたのか、ほとんど同じに聞こえるようになってしまいました。私の知り合いに「50歳を過ぎてしまえばAKB48はみんな同じに見える」とうそぶいているエコノミストがいますが、まさか、私がジャズ・ピアノを聞いて同じに聞こえるとは思いもよりませんでした。もちろん、有名なビートルズの曲ですから、何の曲かは分かりますが、およそ平板に聞こえるようになってしまいました。同じようなテンポで同じようなメロディラインですから、BGMで聞く分にはいいのかもしれませんが、ジャズらしい緊張感は皆無です。その意味でオススメしません。しかし、イージーリスニング的にBGMとして流す分にはいいかもしれません。音楽を聞く目的によります。その昔に、前夜によく寝て体調を整えて電話線を抜いてまでしてから、コルトレーンを聞いていた私なんかには物足りません。私の一方的な好みではなく別の表現をすれば、好き嫌いの評価は分かれそうです。

実は、役所の建物に入っていた書店が3月いっぱいで閉鎖されました。私は Jazz Japan を定期購読していたりしたんですが、ここ半年近くジャズの情報にうとくなってしまっていて、「坂道のアポロン」なんかもまったく知りませんでした。ネットの情報は検索のキーワードを知らなければ必ずしも十分ではなく、こういった月刊誌はマイナーな音楽の情報を得るには必要だと実感しました。10月23日発売の第27号は買いたいと思います。

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2012年10月20日 (土)

三谷幸喜『清須会議』(幻冬舎) を読む

三谷幸喜『清須会議』(幻冬舎)

三谷幸喜『清須会議』(幻冬舎) を読みました。日本史では「清洲会議」と表記されることも多いと思いますが、固有名詞である書籍の名称としては、今夜のエントリーのタイトルの漢字です。まず、電子書籍版の本書を紹介する出版社のサイトからあらすじを引用すれば以下の通りです。

清須会議
信長亡きあと、清須城を舞台に、歴史を動かす心理戦が始まった。
猪突猛進な柴田勝家、用意周到な羽紫秀吉。
「情」と「利」の間で、どちらに付くか迷う、丹羽長秀、池田恒興ら武将たち。
愛憎を抱えながら、陰でじっと見守る、お市、寧、松姫ら女たち。
キャスティング・ボートを握るのは、誰なのか?
歴史の裏の思惑が、今、明かされる。

清須会議とは、本能寺の変の後で明智光秀も滅ぼされ、織田家の棟梁を決め、かつ、所領の分配を決めた会議です。その名の通り、清須城で開かれています。日本史にも出て来るような、柴田勝家、羽柴秀吉、丹羽長秀、滝川一益、明智光秀、池田恒興、前田利家、黒田官兵衛といった安土桃山時代の武将に加えて、お市の方、寧、松姫らの女性が、本書ではモノローグで本音を語っていたりします。なかなかのエンタメ度でした。昨年のNHK大河ドラマ「江」に登場人物が重なるので理解しやすかった面もあります。
この作品は、当然のように、作者ご本人の監督で映画化されることとなります。来秋公開の予定だそうです。どういったキャスティングになるんでしょうか。とっても興味があります。この作品と映画の関係だけは、トールキンとローリングの法則を打ち破りそうな気もします。なお、トールキンとローリングの法則とは、その世界のゴドウィンの法則ほど有名ではありませんが、「どんなに原作に忠実に作られた映画でも、元の本ほど面白い作品に仕上がることはない」というものです。この法則にかかわらず、『清須会議』を原作にした映画は面白くなりそうな予感です。

本書にはなかったんですが、あの世から清須会議を見ている信長のモノローグがあれば、さらに面白かったんではないか、という気がしています。映画にそういうシーンが入らないものでしょうか。

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2012年10月19日 (金)

特例公債法案が成立しないと何が起こるのか - 大和総研のリポートから

昨日10月18日、大和総研から「特例公債法案の早期成立を望む」と題するリポートが公表されています。副題は「日本版『財政の崖』を回避せよ」となっており、現在の財政支出の状況や特例公債法案について分析を加えています。執筆したエコノミストのうちのおひとりは、このブログの昨年2011年10月20日付けのエントリーで取り上げた内閣府の「経済成長と財政健全化に関する研究会」のメンバーだったこともあり、私も何度かお会いしてお話を伺った記憶があります。まず、リポートの p.1 の[要約]にある6つのポイントから第2-4のポイントを引用すると以下の通りです。

[要約]
  • 特例公債法案が不成立のまま従来通りの歳出が行われた場合、11月にも一般会計の財源は枯渇する見込みである。政府は異例の措置として予算執行の抑制を閣議決定し、地方交付税の交付を遅らせるなどの手段を講じている。
  • 予算執行の抑制によって、一部の地方公共団体では借り入れが増加して金利負担が発生するなど、国民や住民の負担が増加している。特例公債法案の不成立によって、景気への負荷が強まり、また、人々の税負担が増加しているということを、認識すべきだ。
  • 予算執行の抑制が行われても、特例公債法案が成立しない場合、12月中には財源の枯渇が避けられない。その場合、社会保障給付や自衛隊、警察等の活動などの行政サービスに影響が及ぶ可能性がある。また、国債の発行スケジュールに変更が迫られることも考えられ、市場の不安定さが増す懸念がないとはいえない。

そもそも、特例公債法案が成立しない場合に直接的な帰結として何が起こるかというと、リポートでは、政府は特例公債の発行が許されないため、実質的に歳出は特例公債を除く歳入金額の範囲に制限されると指摘しています。予算が成立している以上、政府が支出することを国会が認めているわけなんですが、他方で財政法第12条が「各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない」と定めていますから、歳入がなければ経費の支出が出来ないというわけです。常識的な結論だという気がします。ということで、まず、今年度の一般会計の歳入のシェアは以下のグラフの通りです。リポートの p.2 図表1: 平成24年度予算一般会計の歳入構造を引用しています。

平成24年度予算一般会計の歳入構造

すなわち、本年度予算では一般会計歳出総額90.3兆円のうち、44.2兆円が公債発行の財源でまかなわれることとなっており、その大部分を占める38.3兆円が特例公債、いわゆる赤字国債によるものです。特例公債発行と建設国債5.9兆円を除く歳入は、税収とその他収入を合わせた46.1兆円だけであり、逆にいうと、歳出が46.1兆円に達すると公債収入を除くすべての財源を使い果たすことになります。今年度の半分、すなわち9月末までで累計の歳出は約39兆円に達しており、10月以降の残りの財源は約7兆円だけとリポートでは指摘しています。

政府部内行政経費 (庁費・旅費・諸謝金等)毎月、予算額を12で除した額の50%以下に支払を抑制。
独立行政法人等向け独法運営費交付金等3ヶ月毎に、予算額を4で除した額の50%に相当する額以上の交付を留保。
国大運営費交付金等
地方公共団体向け地方交付税道府県分の普通交付税については、当面9月交付分について、9-11月について月割りの交付。
裁量的補助金新たな交付決定は行わず、決定済みでも可能な限り執行を留保。
民間団体等向け裁量的補助金新たな交付決定は行わず、決定済みでも可能な限り執行を留保。
法令で支払時期が定められていない負担金等できる限り支払いを延期。
特別会計繰り入れ一般会計からの繰入金を財源とする経費について、一般会計に準じた対応。
一般会計からの繰入れ時期の延期について、一層の取り組み。

このため、9月7日の閣議で予算執行の抑制を閣議決定しており、リポートの p.4 図表4: 予算執行抑制の内容をテキストで引用すると上の表の通りです。特に大きな抑制は地方交付税交付金であり、財務省が発表している「財政資金対民間収支」の実績では、今年9月の地方交付税交付金の収支尻実績は▲2.7兆円であり、当初見込み時点の▲4.1兆円と比べて1.4兆円改善しているとリポートは指摘しています。

平成24年度予算一般会計の歳出計画

上のグラフは、リポートの p.3 図表3: 平成24年度予算一般会計の歳出計画を引用していますが、当初の支出計画から執行抑制しても、11月末には財源が枯渇する可能性が高いリポートは指摘しています。また、たとえ11月末の財源枯渇が回避されたとしても、12月には公務員のボーナス支給があります。

米国の「財政の崖」 Fiscal Cliff については、米国議会予算局 (CBO) が5月に発表した "Economic Effects of Reducing the Fiscal Restraint That Is Scheduled to Occur in 2013" と題するリポートの中で、2012-13年の現行法の下では歳出削減と増税を合わせて $560bil. に上る財政調整が行われると、概略の中身まで含めて明らかにしています。我が国ではこのレベルまでの詳細な情報は利用可能ではないものの、常識的にも軽く想像される通り、「国の一般会計を通じて行われる歳出がすべて停止し、社会保障給付や自衛隊、警察等の活動などの行政サービスに大きな影響が及ぶ公算が大きい」リポートは指摘しています。実態面で国民生活に及ぼす影響はかなり大きいと考えるべきです。さらに、金融面の影響も無視できません。国債の借換えは国債整理基金特別会計を通じて行われるため、直ちに滞る可能性は低いと考えられますが、安定的な国債発行ができなくなってマーケットが不安定になり、場合によっては長期金利に何らかの影響が出る可能性をリポートは示唆しています。ということで、「特例公債法案の早期成立を強く要望したい」と締め括られています。

とっても常識的で、エコノミストでなくても直感的に理解でき、広範な合意を得られそうな内容を含むすぐれたリポートです。特に、私なんかは直接的にお給料が特例公債法案の成立にかかっていますので、大いに気になって一気に読み切ってしまいました。

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2012年10月18日 (木)

ピュー・リサーチ・センターの Global Attitudes Project 調査結果を読む

一昨日10月16日に、ピュー・リサーチ・センターから今年春調査の Pew Global Attitudes Project の結果が発表されています。私のこのブログで7月14日付けで取り上げた調査結果とかなり重複しますが、今回の調査では今秋の共産党大会における人事を控えた中国に焦点が当てられています。基になる調査は同じであろうと受け止めています。今夜のエントリーでは図表を中心に、特に中国に限らず幅広く取り上げたいと思います。

Leading Economic Power

まず、世界の経済大国として最近では「G2」とすら称される米中2国ですが、市場価格のGDP規模ではまだまだ米国が大きいものの、どちらがより経済大国かという観点では、すでに中国が米国を抜いているという評価が高まっています。特に、G7クラスかそれに次ぐくらいの先進国では、中国が米国をリードしているとの評価が定着しつつあるように見受けられます。ただし、なぜか、中国自身はまだ米国の方が中国をリードしていると考えているようです。

Compared to Five Years Ago, Are You Financially …

次に、5年前と比較して、finacially にせいかつ水準が改善しているかどうかを各国別に問うた質問に対する回答は上のグラフの通りです。当然のことながら、いわゆる新興国が「改善」の割合が高くなっています。ブラジル、中国、インドなどです。「悪化」が過半数を占めるのは3か国だけで、パキスタンは経済的な要因は私は把握していませんが、ギリシアとスペインについてはソブリン危機の影響が大きいことが容易に想像されます。我が国も「失われた20年」の中で、「改善」の割合が低くて、「悪化」の割合が高くなっています。今年春の時点での調査ですから、秋の現時点では多くの国でさらに「改善」の割合が下がって、「悪化」が上がっている可能性があります。

Are Most Better Off in a Free Market Economy?

今夜取り上げる最後のグラフは上の通り、市場経済で生活は改善するか、という問いに対する回答です。時系列で結果が示されており、経済がやや停滞する中で、肯定派が減少して否定派が増加していますが、まだまだ市場経済の肯定派が否定派を大きく凌駕しています。世界の現況はこの通りなんですが、日本については状況が異なります。7月14日付けのエントリーでグラフを示した通り、生活水準を向上させることに関しては、我が国では市場経済否定派が60パーセントに上り、メキシコとともに調査対象国の中でもっとも否定派が占める割合が高くなっています。

今回発表で焦点を当てられた中国を特に注目しなければ、7月14日付けのエントリーと大差なくなって重複感が大きいんですが、ピュー・リサーチ・センターの opinion poll はそれなりに参考になると受け止めています。

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2012年10月17日 (水)

短期の景気局面と中長期の経済見通し - シンクタンクのリポートを読む

今年年央くらいから、世界経済とともに日本経済も変調を来たしつつある実感がありましたが、先週から今週にかけて、いくつかのシンクタンクから興味深いリポートが発表されています。短期的に足元で日本経済はすでに景気後退局面に入っていることを示唆するリポートと、この先10年くらいの中期的な日本経済に見通しに関するリポートであり、今夜のエントリーで取り上げるのは以下の通りです。包括的に引用元を示しておきたいと思います。

まず、第一生命経済研究所のリポートは、タイトル通りに、今年2012年3月を景気の山として日本経済がすでに景気後退局面に入っている可能性が高いと主張しています。その根拠のひとつは以下のグラフであり、採用系列が当面落ち込むと仮定し、特に、営業利益は今年7月から悪化していると仮定して試算されたヒストリカルDIです。

ヒストリカルDIの推移

第一生命経済研究所の試算に基づくヒストリカルDIは今年2012年4月に50を割り込み、単純に考えれば、3月が景気の山だった可能性が高いことになります。もしそうだと仮定すれば、すでに日本経済は景気後退局面に入っており、リーマン・ショック後の2009年3月を谷とする景気拡張局面はちょうど36か月となります。リーマン・ショック前の景気拡張期が長かっただけに、やや短い気がしないでもありませんが、戦後の平均景気拡張期間が36.2か月であることを考えると、決してあり得ない期間ではありません。ただし、たとえ現時点で日本経済が景気後退局面にあるとしても、長く続いたり深い不況に陥るわけでもなく、景気後退局面か単なる踊り場かを問わないとすれば、多くのエコノミストの間には、来年2013年が明けるころには緩やかな持直しに転じる、との大雑把なコンセンサスがあることも確かです。

乗用車販売台数

ただし、第一生命経済研究所のリポートでは、年明けの景気持直しに対するリスクは国内の自動車販売と対中国輸出と指摘しています。多くのエコノミストのコンセンサスとして、典型的には先のIMFの「世界経済見通し」のように、欧州の金融危機と米国の「財政の崖」を年明けのリスクとして上げる意見が多いんですが、国内的には自動車販売もエコカー補助金の政策効果による需要の先食いの影響を受ける可能性が指摘されています。リポートでは家電エコポイントによる需要の先食いのダメージが大きかったテレビと比較して、自動車の需要の先行きをリスクと捉えています。また、国境問題に端を発する中国との関係悪化もリスクとして認識すべきであるとの指摘はもっともです。

世界のGDP構成比

次に、ニッセイ基礎研究所のリポートは、今年度2012年度から2022年度までの約10年間を視野に、世界経済の動向から解き明かしています。上のグラフはリポートから「世界のGDP構成比」を引用しています。デモグラフィックな要因などから、新興国でも成長率が鈍化するものの、先進国より高成長を維持するのは明らかで、先進国のシェアは落ち続けます。予測期間末の2022年ころには先進国と新興国・途上国のGDPシェアはほぼ拮抗すると見通されています。また、我が国のGDP規模はすでに中国に抜かれた後、2020年代初頭にはインドにも抜かれると見込まれています。ついでながら、中国のGDPは2020年代初めに米国も上回ると予想されています。

消費税率1%引き上げの影響

先行き日本経済に大きな影響を及ぼす要因として消費税率の引上げが考えられます。現時点ではリスク・シナリオと捉えるエコノミストが少なくなく、メイン・シナリオにはなり切れていない気もしますが、2014年4月から8%に、2015年10月から10%に引き上げる法律が国会で可決していることは事実です。上の表は、その消費税率の引上げの影響をリポートから引用しています。ベースラインからの乖離率ですから、成長率の下振れはこれよりも小さくなりますが、当然ながら、無視できない影響を日本経済に及ぼすと見込まれています。

実質GDP成長率の推移

リポートから引用した2022年度までの我が国の成長率見通しは上のグラフの通りです。2014年度の消費税率引き上げ直前の2013年度に駆込み需要が発生し、2014年度は逆にマイナス成長と見込まれています。このため、2015年度半ばからの第2弾の消費税率引上げは2019年度に後ズレすると想定され、同じように2018年度の駆込みと2019年度の成長率落ち込みが予想されています。予測期間内の平均成長率は+1.1%と見通されています。

第一生命経済研究所のリポートのように、現状ですでに我が国が景気後退局面に入っているかどうかは議論がありますし、ニッセイ基礎研究所のリポートが想定するように、消費税率の10%への引上げが2019年度の後ズレするかどうかも何ともいえませんが、まずまず、多くのエコノミストのコンセンサスに近い主張を含んでいると私は受け止めています。最後に、ニッセイ基礎研究所のリポートの pp.9-10 にある「企業に滞留する余剰資金を家計部門に還元することが個人消費回復の近道であり、このことが経済状況の好転、デフレ脱却にもつながるのではないだろうか。」との見方は、消費をフォローしている官庁エコノミストとして大いに賛成です。

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2012年10月16日 (火)

内館牧子『十二単衣を着た悪魔』(幻冬舎) を読む

内館牧子『十二単衣を着た悪魔』(幻冬舎)

内館牧子『十二単衣を着た悪魔』(幻冬舎) を読みました。21世紀の現代人の大学を卒業したばかりのフリータの男性が『源氏物語』の中にスリップしてしまうというストーリーです。なかなかのエンタメ度でした。まず、出版社のサイトから簡単にあらすじを引用すると以下の通りです。

あらすじ
光源氏を目の敵にする皇妃と、現代から源氏物語の世界にトリップしてしまったフリーターの二流男が手を組んだ……。著者の偏愛の全てを込め、女性の本質を描き切った源氏エンターテインメント。

タイトルはワイズバーガー『プラダを着た悪魔』The Devil Wears Prada に由来し、ズバリ「十二単衣を着た悪魔」とは『源氏物語』の中の登場人物である弘徽殿女御のことです。その他も含めて、設定はまことに面白いです。スリップするフリータは眉目秀麗かつ成績優秀な弟にコンプレックスを持っており、光源氏という弟に比較して見劣りする弘徽殿女御の実子である一宮、後の朱雀帝との対比もなかなかの趣向です。フリータが21世紀の現代から『源氏物語』そのものではなく、「あらすじ」を持って物語にスリップし、高麗で修業した陰陽師と称し、物語の先行きをズバリと言い当てたり、製薬会社のアルバイトの現場から持ち出した薬で平安時代の登場人物の病気を治したりして、弘徽殿女御の絶大なる信頼を得て、専属の陰陽師となるあたりはムリなく読み進めます。なお、『源氏物語』全54帖のうち、第12帖「須磨」、第13帖「明石」のあたりで主人公は現代に戻って来ます。
もちろん、『源氏物語』にスリップして物語の中に入り込んでしまうというのは今までもいくつか試みられていますし、特に新規な設定ではないですし、加えて、『源氏物語』的な平安時代の人物からすれば、確かに、弘徽殿女御は現代的かつ戦略的な人生観を持っているのは確かですが、現代人的な観点からそれほどびっくりする考え方とも見受けられません。もっと極端でエゲツない生き方や処世術を取り上げてもいいんではないかという気もします。というのは、私自身は円地文子現代訳の新潮文庫で『源氏物語』を読んでいるんですが、この作品を読んで『源氏物語』に対する見方は変化ありませんでした。私の想像ですが、『源氏物語』に対する見方が変わるのは、読んでいない人ではないでしょうか、という気がします。でも、『源氏物語』にスリップするという試みの中ではもっとも成功した作品のひとつではないかと思わないでもありません。

我が国の女性作家は年齢とともに『源氏物語』か『枕草子』に親しんで行く、という仮説を持った知り合いがいます。ひょっとしたら、そうなのかもしれないと思わせる作品です。ほぼ万人にオススメ出来ますが、誠に失礼な見方ながら、『源氏物語』を通読していない人の方が面白く読める可能性があります。

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2012年10月15日 (月)

「スポーツマーケティング基礎調査」に見るスポーツ参加市場は3兆円近くに拡大!

やや旧聞に属する話題ですが、毎年この時期に実施されるマクロミルと三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「スポーツマーケティング基礎調査」が今年も10月11日に公表されています。スポーツ市場は拡大したようですので、図表を中心に簡単に見ておきたいと思います。まず、かなり長くなりますが、リポートから調査結果概要を引用すると以下の通りです。

【調査結果概要】
◆ スポーツ参加市場規模は約3.0兆円に増加。「観戦」「施設利用・会費」市場が増加に転じる。
◆ スタジアム観戦の支出額: 一回あたり7,818円、年間では25,769円に増加。
◆ 24.4%がスポーツ関連メディアへ支出。スポーツ関連メディア市場は約2,918億円に増加。
◆ 最も好きなスポーツは野球。よく観るスポーツでは、サッカーが野球を抜く。
◆ スポーツブランドでは、ナイキ、アディダスの海外ブランドが人気。
◆ 好きなスポーツ選手は9年連続でイチロー選手が1位。体操の内村選手が2位へ躍進。
◆ ロンドンオリンピックで銀メダルを獲得した、なでしこジャパンのファンは4,074万人に増加。
 一方、サッカー日本代表チームのファンは4,418万人に減少。
 日本のプロ野球ファンは3,216万人に、Jリーグファンは1,245万人にともに減少。
◆ 東京でのオリンピック開催に賛成が6割。

次に、下のグラフは「スポーツの位置づけ」の質問に対する回答結果です。2012年の結果で見て上から順に、ピンクは「することにも見ることにも大きな関心はない」、青は「見ることの方が好き」、緑は「見ることの方が好き」、紺は「することも見ることも好き」となっています。

スポーツの位置付け

今年はオリンピックの年でした。ロンドン五輪ではかなり日本人選手はよくがんばって、獲得したメダルも多くて盛り上がったような気がしていたんですが、スポーツへの関心度合いはわずかながら減退しているとの結果です。しかし、表は引用しませんが、「スタジアム観戦費用」が前年から2ケタ増となり、スポーツ参加市場規模は昨年から拡大して2兆9,514億円と推計されています。また、たスポーツ関連メディア市場規模も2,918億円と前年から2ケタ増と推計されています。スポーツへの関心は低下したものの、市場規模は拡大しているわけです。「最も好きなスポーツ」、「よく観るスポーツ」、「スポーツブランド」、「好きなスポーツ選手」などは上に引用した【調査結果概要】の通りです。

日本のプロ野球、サッカー日本代表、なでしこジャパン、Jリーグチームのファン人口の推移

人気スポーツ、すなわち、日本のプロ野球、サッカー日本代表、なでしこジャパン、Jリーグチームのファン人口の推移は上のグラフの通りです。Jリーグとプロ野球は長期低落傾向にあり、サッカー日本代表も今年はなでしこジャパンに押され気味というところでしょうか。なお、プロ野球の球団ごとのファン人口も推計されており、ジャイアンツ788万人、タイガース572万人、ドラゴンズ351万人等となっています。

情報入手先の比較

最後に、上のグラフはスポーツ情報全般とロンドン・オリンピックの情報の入手先を比較しています。相変わらず、テレビが圧倒的なんですが、インターネットは新聞とほぼ互角の位置づけとなっています。特に、ロンドン・オリンピックの情報に関してはインターネットが高い比率を示しているのは興味深いところです。

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2012年10月14日 (日)

Bill Evans Live at Art D'Lugoff's Top of the Gate を聞く

Bill Evans Live at Art D'Lugoff's Top of the Gate

Bill Evans Live at Art D'Lugoff's Top of the Gate を聞きました。私が聞いたのはCD2枚組ですが、レコード3枚組やCD2枚とレコード3枚を組み合わせたボックスなども発売されているようです。まずは、パーソネルと曲の構成は以下の通りです。

  • Bill Evans (p)
  • Eddie Gomez (b)
  • Marty Morell (ds)

  • Disc-1
    1. Emily
    2. Witchcraft
    3. Yesterdays
    4. Round Midnight
    5. My Funny Valentine
    6. California Here I Come
    7. Gone with the Wind
    8. Alfie
    9. Turn out the Stars
  • Disc-2
    1. Yesterdays (alternate version)
    2. Emily (alternate version)
    3. In a Sentimental Mood
    4. Round Midnight (alternate version)
    5. Autumn Leaves
    6. Someday My Prince Will Come
    7. Mother of Earl
    8. Here's That Rainy Day

収録はすべて未発表曲で、録音日時は1968年10月23日、場所はニューヨークのビレッジ・ゲイトの2階です。2セッションまるごと、そのままの曲順でCDに収録しています。2枚とも40分ほどの収録時間で、音質は悪くないと思います。ビル・エバンスは今を去ること32年前の1980年9月に亡くなっていますが、ジャズ・ピアニストとして今でもトップの人気を誇っているうちの1人だと思います。死後数年で発表された Consecration が死の直前のレコーディングで、私もいくつかのバージョンをすべて聞いたと自負していますし、最後の音源と考えられていましたが、ここまで良質な録音が演奏から50年近くを経てまだ残っていたとは想像も出来ませんでした。上の曲目を見れば一目瞭然で、別テイクがあるのは3曲だけで重複感はそれほどありません。
日本人だけではないと思いますが、ビル・エバンスのトリオの演奏では、ベーシストにスコット・ラファロが入っているのが珍重されるんですが、1961年に亡くなっていて、このトリオではもっとも長くエバンスとコンビを組んだエディ・ゴメスのサポートを受けています。ドラムスは可もなく不可もなくですが、一部の曲でやややかましく感じないでもありません。曲の並びとして、私はジッターバグ・ワルツが欲しいと感じましたが、選曲はかなりいいんではないでしょうか。もっとも、いかにもエバンス的なスローでリリカルなバラードは少なく、1枚目の最後の曲なんかはスローに演奏することもあるんですが、かなり早めのアップテンポでアレンジしてある気もします。演奏はもとより、音質、選曲ともかなりレベルのいい録音です。ビル・エバンスの演奏が好きなら当然、自分をジャズ・ファンと考えているのであれば聞いておくべきアルバムです。

演奏の本筋とは関係ないところで、ビル・エバンスのライブにしては、とても拍手が少ないと感じました。エディ・ゴメスのソロからエバンスが弾き始めても2-3人しか拍手がありませんし、演奏後もパラパラといった感じです。演奏者や演奏のレベルに比べて拍手が少ないということは、お客さんが余りいなかったんでしょうか。

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2012年10月13日 (土)

古屋晋一『ピアニストの脳を科学する』(春秋社) を読む

古屋晋一『ピアニストの脳を科学する』(春秋社)

古屋晋一『ピアニストの脳を科学する』(春秋社) を読みました。今年の話題の書のひとつではないでしょうか。まず、出版社のサイトから内容紹介を引用すると以下の通りです。

ピアニストの脳を科学する
10本の指を自在にあやつり、目にもとまらぬ超高速で1分間に数千個もの音符を打鍵するピアニスト。その超絶技巧と驚異の記憶力を支える脳の神秘のメカニズムとは? 医学博士にしてピアニストという異才が、最新の実験成果から明らかにします。

次に章別の構成は以下の通りです。

第1章
超絶技巧を可能にする脳
第2章
音を動きに変換するしくみ
第3章
音楽家の耳
第4章
楽譜を読み、記憶する脳
第5章
ピアニストの故障
第6章
ピアニストの省エネ術
第7章
超絶技巧を支える運動技能
第8章
感動を生み出す演奏

ピアニスト、それも一流のピアニストとそうでない人の間の差は運動能力や筋肉系で分類されるのではなく、脳の違いに起因することを分かりやすく解き明かしています。もっとも、学術論文に基づいた学説の展開ですから、直感的な技や巧みの世界ではなく、あくまで科学的かつ実証的な根拠に基づく記述となっています。データやグラフなども豊富に示されていますから、とても読みやすくて一気に読めます。一部に古い常識と異なる結果も示されていますが、おそらく、直感的にそうなんだろうと考えられていたことを科学的に裏付けた、という面の方が大きいように私は受け止めています。
例えば、一流であれば「省エネ」というより、効率的な演奏が出来ることは当然でしょうし、ショートカットする神経構造も考えられます。ピアニストだけでなく他の楽器演奏やスポーツにも通ずる部分が少なくありません。また、ピアニストのフォーカル・ジストニアがゴルファーのイップスと同じであり、「健常なピアニストに起こっている脳の回路の変化がさらに進んだ状態」という記述には大いに納得させられましたし、ジャズ・ピアノを愛聴するファンとして、譜面通りに弾かねばならないストレスが希薄で、かなり自由に improvise するジャズ・ピアニストには起こりにくいことも容易に想像できました。譜面通りに弾くクラシックのピアニストを対象としているので仕方ないんですが、自由なアドリブを繰り広げるジャズ・ピアニストももう少し取り上げて欲しかった気もします。

私自身、ピアニストになれずにエコノミストになってしまったのは、手が小さいのが原因と長らく考えていましたが、薄々気づいていたことも含めて、いろいろと面白く読みました。ただし、評価は分かれることとは思いますが、私の目から見て、プロのピアニストを目指す向きにどこまで参考になるかは疑問が残ります。F1のドライバーに内燃機関の物理学がどこまで有益か、というのと同じ気がしないでもありません。

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2012年10月12日 (金)

ロムニー候補とオバマ大統領のテレビ討論の結果やいかに?

去る10月3日に米国大統領選挙の候補者である現職の民主党オバマ大統領と共和党ロムニー候補の間で第1回の米国大統領選挙テレビ討論会がコロラド州のデンバーで開催されました。広く報じられている通り、オバマ大統領自身が負けを認め、ロムニー候補の印象がオバマ大統領を上回ったと受け止められています。いくつかのメディアも簡単な世論調査を実施し、例えば、CNN のサイトでは「67%がロムニー氏の勝利」と報じられ、また、ロイターのサイトでも「ロムニー氏の好感度上昇」と結論されています。メディアの簡略な調査結果ではなく、もっと詳細な分析を待っていたところ、米国の世論調査機関であるピュー・リサーチ・センターから10月8日に "Romney's Strong Debate Performance Erases Obama's Lead" と題する調査結果が発表されました。長くなりますが、まず、リポートの最初の4パラが概要になっていますので引用すると以下の通りです。

Romney's Strong Debate Performance Erases Obama's Lead
Mitt Romney no longer trails Barack Obama in the Pew Research Center's presidential election polling. By about three-to-one, voters say Romney did a better job than Obama in the Oct. 3 debate, and the Republican is now better regarded on most personal dimensions and on most issues than he was in September. Romney is seen as the candidate who has new ideas and is viewed as better able than Obama to improve the jobs situation and reduce the budget deficit.
Fully 66% of registered voters say Romney did the better job in last Wednesday's debate, compared with just 20% who say Obama did better. A majority (64%) of voters who watched the debate describe it as mostly informative; just 26% say it was mostly confusing.
In turn, Romney has drawn even with Obama in the presidential race among registered voters (46% to 46%) after trailing by nine points (42% to 51%) in September. Among likely voters, Romney holds a slight 49% to 45% edge over Obama. He trailed by eight points among likely voters last month.
The latest national survey by the Pew Research Center for the People & the Press, conducted Oct. 4-7 among 1,511 adults, including 1,201 registered voters (1,112 likely voters), finds that 67% of Romney's backers support him strongly, up from 56% last month. For the first time in the campaign, Romney draws as much strong support as does Obama.

ということで、次に、ここ1年ほどの支持率の推移のグラフをリポートの p.7 Romney's Favorability Improves, Matches Obama's から引用すると以下の通りです。

Romney's Favorability Improves, Matches Obama's

隠し撮りされたロムニー候補の「47%発言」のビデオが先月9月半ばに明らかにされ、失言により支持率を下げていたんではないかと我が国では考えられていたところ、米国内での受止めはまた違っていて、ピュー・リサーチ・センターでは Romney's '47%' Comments Criticized, But Many Also Say Overcovered との世論調査結果を明らかにしていたりしました。上のグラフからも明らかな通り、今年3月時点に今までで最大の差をつけて以来、ここ何か月かは10%ポイントくらいの差でオバマ大統領がリードしていたものの、今回の世論調査ではわずかながらロムニー候補が逆転しました。もちろん、テレビ討論会の結果だけが逆転の要因ではないでしょうし、調査時点が引用にもあるように10月4-7日で、失業率が大幅に低下した雇用統計発表の10月5日をはさんでいますので、わずかな差でもありますから、にわかにロムニー候補が有利になったとは断定できませんが、リポートのタイトル通り、今までの差がテレビ討論会で吹っ飛んだ可能性はあります。

Patterns of Voter Support, September - October

両候補の支持層が直近の9月から10月にどのように変化したかをリポートの p.10 Patterns of Voter Support, September - October から引用すると上の表の通りです。極めて大雑把にいって、もともと、オバマ大統領は女性、若年層、黒人、低所得者を支持層としていたんですが、10月になって一部に変化が見られます。すなわち、黒人と低所得層のオバマ大統領に対する支持は揺るがないものの、ロムニー候補は女性からの支持でオバマ大統領に並び、男性の支持をさらに積み上げる一方、50歳未満の若年ないし中年層でロムニー候補がオバマ大統領を逆転し、年収30,000ドル以上の中ないし高所得層でも同じくロムニー候補がオバマ大統領を逆転しました。コアなオバマ支持層を除いてロムニー支持に動いていると評価すべきか、反対から見て、コアなオバマ支持層は動かないと見るべきか、私は専門外なのでよく分かりませんが、全体としてロムニー支持が広がっているのは確かなようです。

Assessing the First Debate

結論として、第1回テレビ討論会の評価をリポートの p.11 Assessing the First Debate から引用すると上の表の通りです。政党支持別に見ても、ほぼ40-50%がテレビ討論会をすべて視聴し、一部を含めると60%超の国民が見たとの結果が示されています。おおむね「有益だった」と評価され、そして何よりも、70%を超える圧倒的な多数がロムニー候補の「勝利」と結論しています。共和党支持者はいうに及ばず、わずかな差ながら民主党支持者ですらオバマ大統領よりもロムニー候補の方が「勝利」したと受け止めています。これが支持率の逆転につながったのはいうまでもありません。

Biden's Unfavorable Rating Higher than Ryan's

最後に、米国時間の昨夜、ケンタッキー州のダンビルで副大統領候補によるテレビ討論会が行われました。メディアではほぼ互角と報じられています。ただし、これもピュー・リサーチ・センターの Biden Viewed Unfavorably, Divided Opinions about Ryan と題するテレビ討論前の事前の世論調査によれば、民主党のライアン副大統領候補の方が好意的に受け止められているようです。

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2012年10月11日 (木)

機械受注と消費者態度指数から先行き経済を占う!

本日、内閣府から8月の機械受注と9月の消費者態度指数が発表されました。いずれも先行指標であり、機械受注は設備投資の、消費者態度指数は消費の、それぞれの先行きを占う上で重視されています。いずれも季節調整済みの系列で見て、電力と船舶を除くコア機械受注は前月比▲3.3%減の7173億円、消費者態度指数も前月から▲0.4ポイント低下して40.1となりました。これまた、いずれも先行きに不透明感が漂っている気がします。まず、日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、3カ月ぶりマイナス 8月は3.3%減
内閣府が11日発表した8月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需(季節調整値)」は前月比3.3%減の7173億円となり、3カ月ぶりに減った。前月まで続いた大型案件がなくなり、製造業でマイナスとなった。海外経済の減速で不透明感が強まり、企業が設備投資に慎重になっている。
内閣府は機械受注の基調判断を「一進一退で推移している」として、3カ月連続で据え置いた。市場予想は2.3%減だった。
製造業は15.1%減と2009年11月以来の下げ幅になった。8月は100億円以上の大型受注がなく、内閣府は「けん引役が見あたらない」と指摘している。前月に大型の受注が入った鉄鋼業や石油製品・石炭製品が落ち込んだ。非製造業は船舶と電力を除くベースで3.6%増。金融業・保険業や運輸業・郵便業から電子計算機などの受注が増えた。
民需以外では外需が14.7%減と大幅なマイナス。6月末時点の7-9月は予測を大きく下回る可能性が高い。官公需も防衛省からの受注が減っており、8月の受注総額は12.6%減の1兆6573億円と、09年8月以来の低水準だった。
メリルリンチ日本証券の吉川雅幸氏は「中国経済を中心に外部環境が不透明になっており、企業は設備投資を手控えている」と分析。投資額がさらに減少する可能性は低いが、強い伸びも期待しにくいと予想している。
9月の消費者態度指数、2カ月ぶり悪化 企業の人員削減報道で
内閣府が11日発表した9月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は40.1と前月から0.4ポイント低下した。悪化は2カ月ぶり。調査期間中にあった大企業の業績不振や人員削減などを含む経営再建に関する報道が消費者心理に悪影響を及ぼした。
業績悪化を背景にした人員削減の動きが、大手電機メーカーに加えて大手小売りでも広がったとの報道を手掛かりに「雇用環境」は前月から1.0ポイント低下した。エコカー補助金が終了を迎えたことなどから「耐久消費財の買い時判断」も0.6ポイント低下した。
9月は残暑が続いたことで秋物商品の売れ行きは鈍く、「暮らし向き」は0.1ポイント低下と小幅に下がった。一方で、8月の現金給与総額が4カ月連続で増えるなど「収入の増え方」については0.1ポイント上昇した。
内閣府は消費者心理の基調判断を「弱含みとなっている」で維持した。しかし、活発な消費が一部にとどまるなど「消費者は生活防衛的になっている」といい、先行きに対しては慎重にみている。
1年後の物価見通しについて「上昇する」と答えた割合は62.3%と2カ月連続で増える一方、「低下する」と答えた割合も6.4%に増加した。ガソリン価格がにわかに上昇しているなか、豊作で生鮮食品価格の下落を反映したとみられる。
調査は全国6720世帯が対象。調査基準日は9月15日で、有効回答数は5032世帯(回答率は74.9%)だった。

次に、いつもの機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは電力と船舶を除く民需のコア機械受注とその後方6か月移動平均を、下のパネルは需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。

機械受注の推移

8月のコア機械受注は6-7月の前月比プラスの後のリバウンドという要素もあり、特に悲観する必要はないと思いますが、上のグラフを見ても、ほぼ横ばい圏内の動きを示しており、統計作成官庁である内閣府の基調判断「一進一退で推移」もうなずけます。大型案件が途切れたことと、すでに下降局面に入ったように見える製造業の引合いが大きく減少したことが直接の減少要因です。コア機械受注には入りませんが、先行指標である外需も世界経済の停滞のために今年に入ってから大きく減少して来ています。決して悲観する必要はないものの、グラフを見る限り、今年年央にコア機械受注はピークアウトした可能性すらあり、先行きが増加に転じる要素はほとんどないと考えるべきです。

機械受注(官公需)の推移

コア機械受注の外ながら機械受注のうち官公需の動きをプロットしています。上のグラフの通りです。引用した記事の「防衛省からの受注」に関して、私は疑問を感じており、詳細にな情報は入手していませんが、今年2012年3月から官公需の機械受注が急激に増加を示したのは復興需要であろうと私は考えています。そして、早くも復興需要に基づく官公需の機械受注がピークアウトした可能性が高いと受け止めています。最近のメディアの報道でも、復興予算が震災復興とは関係の薄い事業にも手当てされており、批判が高まっていることは周知の通りです。このブログでは、すでに、7月18日付けのエントリーで原田泰『震災復興欺瞞の構図』(新潮新書) を取り上げた際に、過大な震災復興予算について何らかの「役人の悪だくみ」と示唆していたりします。復興需要に基づく機械受注の官公需も先行き増加する可能性は低いと考えるべきです。

消費者態度指数の推移

消費者態度指数のコンポーネントである暮らし向き、収入の増え方、雇用環境、耐久消費財の買い時判断の4項目のうち、特に雇用環境が前月から▲1.0ポイントと大きく低下しています。引用した記事にもある通り、シャープの業績不振や人員整理の報道が雇用のマインドに影響した可能性があります。消費は所得とマインドで決まる部分が大きいと私は考えていますが、消費者態度指数で見たマインドについてはほぼ横ばい圏内の動きといえます。統計作成官庁である内閣府も基調判断は「弱含み」で据え置いています。この先の消費が力強く増加する気配は感じられません。

私は今でも日本経済がこのまま景気後退局面に入るとは考えていませんが、先行きが明るいハズもなく極めて不透明な中、景気後退局面入りする可能性は高まっているのかもしれません。

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2012年10月10日 (水)

昨日発表された経常収支と景気ウォッチャー

昨日、財務省から経常収支などの国際収支が、また、内閣府から景気ウォッチャー調査の結果が、それぞれ発表されています。国際収支は8月、景気ウォッチャーは9月の統計です。経常収支は1年半振りに黒字幅が拡大した一方で、景気ウォッチャーの現状判断DIは2か月連続で悪化し、基調判断が下方修正されています。IMF「世界経済見通し」のために遅れましたが、まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

経常収支、1年半ぶり黒字幅拡大 8月4547億円
財務省が9日発表した8月の国際収支速報によると、モノやサービス、配当、利子など海外との総合的な取引状況を示す経常収支は4547億円の黒字となった。黒字額は前年同月比で4.2%増えた。黒字幅の拡大は1年半ぶりで、東日本大震災以降では初めて。
歴史的な円高を背景に輸出は依然低調だが、原油価格の下落に伴って輸入額が減少したことで、経常収支は改善した。
貿易収支は6445億円の赤字。赤字幅は前年同月に比べ縮小した。自動車や鉄鋼など欧州・中国向けの輸出が減り、全体の輸出額は5.3%減った。一方、輸入額も原油価格の下落を受けて5.4%減少した。輸入額の減少は2カ月ぶり。
旅行や輸送の動向を示すサービス収支は2225億円の赤字で、赤字幅が広がった。日本への外国人旅行者が回復基調にあることで旅行収支の赤字幅は縮小したが、外国の運送会社に支払う海上輸送運賃が増えた。収支全体を改善させる効果としては限定的だった。
一方、企業が海外投資から受け取る利子・配当などを示す所得収支は2.6%増え、1兆3890億円の黒字となった。
9月の街角景気、基調判断を下方修正 日中関係への懸念相次ぐ
内閣府が9日発表した9月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は41.2と前月から2.4ポイント低下した。悪化は2カ月連続。厳しい残暑で秋物商戦が不振だったほか、沖縄県・尖閣諸島の国有化を巡る日中関係の悪化を受け、景気への悪影響を懸念する声が目立った。
先行き判断指数は0.1ポイント低下の43.5と5カ月連続で悪化。現状・先行きとも好不況の分かれ目となる50を5カ月連続で下回った。内閣府は基調判断を「このところ弱まっている」へ下方修正した。判断を引き下げるのは3カ月ぶり。前月までの判断は「これまで緩やかに持ち直してきたが、弱い動きがみられる」だった。
現状の指数を構成する家計、企業、雇用の全ての部門で悪化した。家計動向に関しては「天候が不順で、特に残暑が厳しいため秋物の動きが悪く、売り上げがなかなか確保できない」(北陸の衣料品専門店)などの声が多かった。
日中・日韓関係を巡っては「(中国人)観光客が尖閣問題の影響で急に冷え込んでいる」(北海道の商店街)との指摘があった。「韓国への旅行は前年比で半減、中国行きは団体を中心にほぼ中止や延期となっている」(九州の旅行会社)といい、日本人の海外旅行にも変化が出ている。
企業動向でも「中国との物流が悪化している」(東海の輸送業)、雇用の先行きについても「中国へ進出している企業等への影響が出る」(九州の職業安定所)など、影響が広範囲に出ていることがうかがえた。
半面、9月下旬に終了したエコカー補助金については「懸念されたよりは影響は小さいようだ」(内閣府)という。「売れ筋の軽とミニバンがやや好調なことから、下げ幅はいまだ少ない」(東北の乗用車販売店)との指摘があった。
調査は景気に敏感な小売業など2050人が対象。3カ月前と比べた現状や2-3カ月後の予想を「良い」から「悪い」まで5段階で評価して指数化する。今回の調査は9月25日から月末まで。

続いて、下のグラフは経常収支の推移です。青い折れ線グラフで経常収支をプロットしてあり、その内訳が棒グラフで示されています。色分けは凡例の通りです。なお、上に引用した記事は季節調整していない原系列の統計について記述している一方で、下のグラフは季節調整済みの系列をプロットしていますので、少し印象が異なるかもしれません。

経常収支の推移

季節調整済みの統計で見た経常収支の動きは、ここ数か月と大きな違いはなく、報道にあるような季節調整していない原系列の動きと印象が異なります。ほぼ一貫して貿易収支は赤字が続いています。逆に、投資収益収支は大きな黒字を記録し続けていますが、全部ではないとしても一部に空洞化の結果ともいえますので、どこまで評価すべきかは疑問が残ります。

景気ウォッチャーの推移

景気ウォッチャーの現状判断DIは家計動向、企業動向、雇用の3つの項目から構成されていますが、いずれも悪化しました。特に、企業の悪化が大きくなっており、尖閣諸島や竹島などの領土問題の悪影響が出た形になっています。この結果、統計作成官庁の内閣府は先月の基調判断「景気は、これまで緩やかに持ち直してきたが、弱い動きがみられる」から今月は「景気は、このところ弱まっている」と下方修正しました。取りあえず、景気ウォッチャーに現れているのは旅行や観光の動向なんですが、製造業にも波及する可能性はかなり大きく、欧州のソブリン危機や米国の財政の崖とともに、先行きの懸念材料がまたひとつ増えたと受け止めています。

昨日発表された経済指標に関するエントリーで、しかも、長々とメディアの報道を引用して、気の抜けた記事になってしまいました。

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2012年10月 9日 (火)

IMF・世銀総会が開幕し、国際通貨基金 (IMF) 「世界経済見通し」見通し編を読む

今日から開幕したIMF・世銀総会に合わせて、国際通貨基金 (IMF) から「世界経済見通し」 World Economic Outlook 見通し編が、また、世銀から「東アジア太平洋データモニター」 East Asia and Pacific Data Monitor が、それぞれ発表されています。IMF「世界経済見通し」は日本時間の午前6時半というイレギュラーな時刻の公表ですが、地球は丸いですから何らかの事情があって、この発表時刻が選ばれたんでしょう。先週のうちに分析編は取り上げてありますので、今夜のエントリーでは IMF「世界経済見通し」の図表を中心に見通し編を簡単に取り上げておきたいと思います。特に、今年は総会が東京開催だからだと思うんですが、何と、英文のままの一部の図表を除いて第1章が丸ごと和訳され pdf ファイルでアップロードされています。英文リポートよりも、読み解くのは大幅にハードルが低くなっていたりします。

Latest IMF projections

ということで、最初は成長率の見通し総括表です。IMF のサイトから引用していますが、邦文リポートの p.2 表1.1. 世界経済見通し1ページだけを抽出した pdf ファイルがブラウザの別タブで開くようになっています。見通しの中身は世界経済の成長率で見て、かなり下方改定されています。すなわち、今年2012年が+3.3%、来年2013年が+3.6%と、前回7月の見通しから、それぞれ、▲0.2%ポイント、▲0.3%ポイントの下方改定となっています。今年については先進国の下方改定幅が大きく、来年については途上国・新興国の方が大きくなっています。国別では、今年2012年はインドやブラジルが、来年2013年は欧州のユーロ圏諸国が、それぞれ下方改定が大きくなっています。

Figure 1.8. GDP Growth

上のグラフは邦文リポートの p.10 Figure 1.8. GDP Growth を引用しています。見れば分かりますが、地域別に年半期単位で年率成長率がプロットしてあります。インドの成長率が中国をずっと下回ることが見て取れます。また、いかにも日本のマクロ経済安定化政策が米国に比較して失敗していて、成長率の変動が激しいようにも見えます。ただし、これらの経済見通しにはとても重要な前提が2つあり、第1に欧州の金融ストレスがこれ以上高まらない、第2に米国の財政の崖は回避される、というものです。これらの前提が崩れれば、以下のリスク・シナリオが実現する可能性が高まります。

Figure 1.11. Risks to the Global Outlook

上のグラフは邦文リポートの p.14 Figure 1.11. Risks to the Global Outlook を引用しています。一番上のパネルはいわゆるファンチャートで、赤い点線で描かれた4月時点の90%信頼区間が今回はかなり下にシフトしたのが見て取れます。リスク要因としては株価の上昇が上振れ要因、石油価格の高騰が下振れ要因として試算されています。

Figure 1.12. Recessions and Deflation Risks

最後のグラフは邦文リポートの p.15 Figure 1.12. Recessions and Deflation Risks を引用しています。一番上のパネルは来年2013年1-3月期までに景気後退局面入りする可能性をプロットしていますが、アジア新興国がまったく景気後退の可能性なしなのに対して、日米欧で見ると、米国の景気後退確率がもっとも低くかつ今年4月の見通し時より下方改定されているのに対して、逆に、欧州はもっとも景気後退の確率が高くかつ4月から確率が高まっています。日本はその中間的な確率なんですが、クロノロジカルな方向性として欧州と同じように景気後退局面入りする確率が高まっていることは見逃すべきではありません。真ん中のパネルを見ても、2013年の10-12月期までデフレが続く確率がもっとも高くなっており、加えて、4月見通し時点よりもさらに高まっていることは明白です。なお、短期的なリスクとして、リポートでは先に上げた欧州の金融危機の深まりと米国の財政の崖のほか、石油価格の上昇を上げています。

今日は、仕事で午後から日比谷と丸の内に出かけたんですが、IMF・世銀総会の開幕でとても警備が厳しくなっていた気がします。また、財務省から国際収支統計が、内閣府から景気ウォッチャー調査結果が、それぞれ発表されているんですが、後日に取り上げることにして今夜のエントリーでは割愛します。

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今季最終戦、金本選手の引退試合を白星で締め括る!

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今シーズンの最終戦、金本選手の引退試合を我がタイガースは白星で飾り、2012年のシーズンを終えました。借金20の5位ということで、クライマックス・シリーズへの進出もかなわず、誠に不甲斐ない不本意なシーズンでした。悔しい思い出ばかりが募りましたが、来季への糧としたいと思います。
引退の金本選手をはじめ、監督・コーチ・選手などの労をねぎらい、1人のファンとして大いに感謝したいと思います。

金本選手の引退セレモニーの挨拶にあった通り、来年こそ優勝目指して、
がんばれタイガース!

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2012年10月 8日 (月)

京都大学山中教授のノーベル賞受賞を祝す!

Nobel Medal

iPS細胞の研究により京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞しました。同時に、英国ケンブリッジ大のジョン・ガードン教授にも授賞されています。

誠におめでとうございます。

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映画「天地明察」を見に行く

映画「天地明察」ポスター

連休の最終日に、映画「天地明察」を見に行きました。「おくりびと」の滝田洋二郎監督作品です。原作はいうまでもなく同じタイトルで冲方丁作品です。2010年第7回本屋大賞受賞作です。私のこのブログでは2年余り前の2010年8月14日に読書感想文をアップしています。
原作を読んだ時と同じ感想ですが、主人公は唐の時代の宣明暦から貞享暦(大和暦)への改暦作業を行うわけで、その途中段階で、元の授時暦を検証することなく持ち出して大失敗し、関孝和から怒鳴り散らされる場面が私にはもっとも印象的でした。主演の岡田准一、宮崎あおいもさることながら、関孝和役の市川猿之助の存在感が光っていました。ただ、原作にあった暦を司ることによる経済的な利益などはすっ飛ばして構わないんですが、笠原秀幸が演じる土御門泰福が京都の朝廷の中で唯一、主人公の安井算哲の暦を支持したのかをもう少し詳しく描いて欲しかった気もします。でも、20年近いタイムスパンを描き切ったいい映画でした。私の知り合いに3度も見た人がいるんですが、分かる気がします。

エンドロールの出演者に原作者の名前がありました。どこでご出演なさっていたのでしょうか。私は見つけられませんでした。

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2012年10月 7日 (日)

楡周平『修羅の宴』(講談社) を読む

楡周平『修羅の宴』(講談社)

楡周平『修羅の宴』(講談社) を読みました。バブルの期間の大阪の銀行や商社を舞台にした経済小説です。最後のページの参考文献にはイトマンの本が何冊か上げてあります。まず、出版社のサイトから本書の内容紹介を引用すると以下の通りです。

内容紹介
「この城は俺の物。絶対に渡さない」
時代が人を狂わせるのか、人が時代を狂わせるのか。
高卒銀行マンは禁断の“錬金術”に手を出した――。

バブル期に大銀行から出向し、専門商社社長になった高卒の男。その城に居座るには結果を出し続けるしかなかった。未踏のビジネスを開拓し、頭取からの汚れ仕事を引き受け伸し上がる。地価も株価も天井知らずな狂乱の時代に蠢く、金だけを追い求める修羅たち。その宴は次第に、決して招いてはいけない男たちに巣くわれていく。
楡周平ならでは筆致で迫る、剥き出しの人間ドラマ。

面白かったです。第1に、バブル経済について実にリアルに描写しています。バブル経済を知らない若い学生諸君に、私はこれまで2007年公開の映画「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」をオススメしていたんですが、この本がいいです。地上げや狂乱状態となった不動産価格、NTT株の公開などの経済現象のほか、ディスコで踊り狂うようなワンレン、ボディコンの女性、タクシーがつかまらないなどの社会現象まで、幅広くムリなく取り込んでいます。第2に、高卒と大卒の軋轢が見事に描かれています。私が属している政府ではキャリアとノンキャリアというように試験区分で分類される一方で、民間会社では学歴で区分する場合が多く、キャリアの公務員である私が言うのもナンですが、高卒と大卒の役割分担と高卒から見た不公平感は永遠のテーマかもしれません。それが物語にムリなく取り込まれています。

経済小説のジャンルでは、最近は、『下町ロケット』で直木賞を受賞した池井戸潤さんの作品をかなり読んで、楡周平さんの作品は初めて読みました。他の作品も初期のピカレスク小説『Cの福音』くらいしかタイトルを知りません。たしかにこの作品は面白かったですが、この先もこの作者の作品を読むかどうかは微妙なところです。

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2012年10月 6日 (土)

米国雇用統計のグラフィックス

昨日、米国の労働省から9月の米国雇用統計が発表されました。ヘッドラインとなる非農業部門雇用者数は季節調整済の系列で前月から+11.4万人増、失業率は3年半振りに7.8%に低下しました。まず、Wall Street Journal のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を最初の4パラだけ引用すると以下の通りです。

Unemployment Rate Falls to 7.8%
The nation's unemployment rate fell to its lowest level since January 2009, suggesting job growth picked up over the summer and shifting questions in the presidential race about which candidate can best fix the nation's ailing economy.
The unemployment rate slid to 7.8% in September, falling below 8% for the first time since President Barack Obama's inauguration, the Labor Department said Friday. Employers added a seasonally adjusted 114,000 jobs last month, a tepid pace that was countered by the fact that figures for previous months were boosted above initial estimates. Those figures reflected that the nation added 181,000 jobs in July and 142,000 jobs in August, showing that job growth in the third quarter was far higher than in the spring.
The unemployment rate and the number of jobs are obtained from separate surveys and don't always align to convey the same picture of the labor market. That was the case this month. Overall, the report suggested the labor market-while stronger than it was during the spring-remains sluggish. The big drop in the jobless rate was in part due to workers settling for part-time jobs because they couldn't find full-time work.
Some economists said the decline in the jobless rate likely occurred over a longer period than the report indicates, because the way the government calculates job growth and the jobless rate can be flawed and lead to artificial jumps that are later revised.

次に、いつもの米国雇用統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。

米国雇用統計の推移

引用した記事にある通り、非農業部門の雇用者はダウ・ジョーンズの事前予測で+11.8万人増でしたから、+11.4万人増はほぼ市場の事前コンセンサスにジャストミートしました。8月の統計も当初の+9.6万人増から+14.2万人増に上方改定され、3か月連続で+10万人を超えたことになります。ヘルスケアや輸送部門の雇用が好調で製造業のマイナスを補っている形です。他方、失業率は2009年1月以来の7.8%を記録し、びっくりするくらい大きく低下したと私は受け止めています。これも引用した記事にある通り、ダウ・ジョーンズの事前予測では8月と同水準の8.1%でした。報道を見る限り、involuntary な part-time job が少なくないとの意見も強いんですが、大統領選挙を前に、民主党のオバマ陣営からは雇用の増加を強調する主張が高まっているのに対して、共和党のロムニー陣営からは「労働市場からの退出がなければ実際の失業率は11%に上る」との批判も出ているようです。

米国雇用・人口比率の推移

先々月から登場したマンキュー教授のブログのマネをした雇用・人口比率のグラフは上の通りです。かなり長期のデータをプロットしています。最初のグラフと同じで、影をつけた部分は景気後退期です。サブプライム危機後の現在の景気回復局面では、この雇用人口比率がほとんど上向いていないのが見て取れます。

米国時間当たり賃金上昇率の推移

最後に、デフレとの関係で私が気にしている時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ほぼ底ばい状態が続いていて、サブプライム危機前の3%台の水準には復帰しそうもないんですが、日本のようにゼロやマイナスをつける可能性は小さそうです。

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2012年10月 5日 (金)

いよいよ今年も残りあと1試合!

  HE
ヤクルト001000010 261
阪  神000000000 031

レギュラーシーズンも今夜の試合が終われば、いよいよ火曜日のDeNA戦を1試合残すばかりです。岩本投手がよく投げて、打線は相変わらず打てず、クライマックスシリーズに向けて調整に余念のない東京ヤクルトに負けました。最後までゼロ行進を続けたりするんでしょうか?

月曜日の最終戦は、
がんばれタイガース!

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ビル・エモット『なぜ国家は壊れるのか』(PHP研究所) を読む

ビル・エモット『なぜ国家は壊れるのか』(PHP研究所)

ビル・エモット『なぜ国家は壊れるのか』(PHP研究所) を読みました。副題はやや無理やりに「イタリアから見た日本の未来」となっています。原書は米国のイェール大学出版部から出ており、英語の原題は Good Italy, Bad Italy: Why Italy Must Conquer Its Demons to Face the Future です。原題のままだと日本は何の関係もありません。『エコノミスト』誌を舞台に活躍したジャーナリストだった著者の出版物で私が読んだのは『日はまた沈む』と『日はまた昇る』だけだったりします。まず、出版社のサイトから解説を引用すると以下の通りです。

解説
21世紀の「国家の盛衰」を占うモデルに、『エコノミスト』前編集長のビル・エモット氏が選んだのはイタリアだった!
ユーロ加盟に伴い財政赤字比率を3%にまで減らしたが、少子高齢化と社会保障費の膨張、公務員天国という体質が復活。経済破綻の懸念が出ているユーロ圏第3位の経済大国。
「変革を拒まれる病」にもがき苦しみながらも、モンティ首相の強い意欲で新たな活力を見出そうと奮闘している成熟国でもある。その姿は日本を思い起こさせる。
2012年5月にイギリスで発売された英語版を翻訳し、緊急発刊した本書では、日本人向けの書き下ろし「特別章」がつけられ、本文中でも随所にイタリアと日本の対比が挿入され、衰退のメカニズムを分析している。
一方、活気を取り戻したビジネス都市・トリノを徹底レポート。経済ダイナミズム復活の7条件を見出しており、日本経済復活へのヒントに溢れる力作!

次に、章別構成は以下の通りです。

プロローグ
驚くほど重なる日本とイタリア
第1章
グッドな価値観 vs バッドな価値観
第2章
経済成長を阻害する多くの試練
第3章
トリノからのインスピレーション
第4章
既得権の誘惑の翻弄される企業
第5章
壁を壊して伸びるビジネス
第6章
全ヨーロッパの期待を担う改革

日本とイタリアがどこまで類似していて、イタリアの分析が日本経済の復活の参考になるかどうかは別にして、イタリア経済の特徴をよく把握していそうな気がしています。もっとも、私はイタリア経済の専門家ではありませんので詳細は不明です。バッドなイタリアとグッドなイタリアを対比し、例えば、正規雇用をすると解雇がとても難しく企業活動を拘束する労働法制、あるいは、新規参入者が自分の邪魔にならないよう既得権益を守るギルドのような仕組み、はたまた、メディアも政治も利権にまみれ、マフィアやヤクザのような反社会的な集団が裏の世界を牛耳る構図など、バッドなイタリアがある一方で、グッドなイタリアも忘れてはなりません。すなわち、旺盛な起業家精神と活力あふれる中小企業、決してハイテクではないもののデザインで勝負する力量、などなどです。特に、一時は衰退の危機に瀕していたにもかかわらず、活力を取り戻したビジネス都市トリノの詳細な取材に基づくリポートは、さまざまな企業の取材結果とともに、なかなかに読み応えがあります。逆にいうと、取材に基づかない理論的な整理は説得力が十分といえるかどうか疑問です。
全体として、既得権を有するグループも含めて、新規参入者か既得権グループかを問わずに、公平かつ公正な競争条件が整備された中で、努力が報われる経済社会が望ましい、とのメッセージは、私のように好意的かつ頑張って読みこなそうとするなら伝わります。他方で、イタリアの分析が日本を含む欧州などの先進諸国にどこまで応用可能かは大きな疑問が残ります。もっといえば、イタリアに関する幾つかのファクト・ファインディングには成功しているように見えますが、抽象度の高い水準で普遍的な真理の法則のようなものを見出すことに成功しているか、といわれれば疑問です。もっとも、学術書と違って一般書ですから、そこまで求めるものではないと考えるべきかもしれません。

市場原理主義とまではいわないとしても、かなり新自由主義的な傾向を持つ本です。競争、生産性、野心、イノベーション、グローバル化、などにフレンドリーです。他方、独占、既得権、障壁などには批判的です。最後にどうでもいいことですが、ベルルスコーニ前首相がこれほどまでに欧州で嫌われていることは、薄々は感じていましたが、ここまで明白に示されると今さらながらに少しびっくりしました。

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2012年10月 4日 (木)

アジア開銀「アジア開発見通し改定」 Asian Development Outlook Update を読む

昨日、アジア開銀から「アジア開発見通し改定」 Asian Development Outlook Update が公表されています。私のこのブログの大きな特徴のひとつながら、国際機関のリポートを取り上げるのが3日連続になってしまい、ややためらったんですが、今夜のエントリーでは第1章の Dimming global growth prospects を中心にアジア新興国・途上国の経済見通しを簡単に取り上げておきたいと思います。まず、ヘッドラインとなる成長率見通しは以下の通りです。なお、このままでは見にくいと思いますので、画像をクリックするとリポートから成長率とインフレ率の見通しの2ページだけを抽出した pdf ファイルがブラウザの別タブで開くようになっています。

Growth rate of GDP (% per year)

見れば明らかですが、今年4月の「アジア開発見通し」からほぼ軒並み下方改定されています。例外的に上方改定されているのは、今年2012年の東南アジアなどの一部の国だけです。特に下方改定が大きいのは中国です。地域別などでもう少し詳しく改定状況を見るため、リポートの 1.1.2 Revised GDP growth forecasts, 2012 and 2013 と1.1.3 GDP growth, ADO 2012 forecast versus year-to-date growth と 1.1.4 Revised GDP growth forecasts by subregion を一気に引用すると以下の通りです。

1.1.2 Revised GDP growth forecasts, 2012 and 2013

下方改定の地域別の要因につき、さらに詳しく見ると、リポートの Box 1.1.2 Factors underlying growth projection revisions に従えば、アジア域内では途上国よりも新興国の方が成長率の下方改定幅が大きく、上の表ではアジア新興国・途上国の2012年の成長率見通しの下方改定幅は▲0.8%ポイントですが、新興国だけながら外的ショックとしては▲1.8%ポイントになると指摘されています。予測に用いられている経済モデルの地域別にショックの大きさを探ると、▲1.8%ポイントのうち、米国が▲0.1%ポイント、欧州が▲0.3%ポイントの下方改定要因となっているほか、日本は逆に+0.1%ポイントの上方改定要因であり、商品価格の上昇が▲0.6%ポイントに上ります。しかし、もっとも大きな地域的な下方改定要因は、実は、アジア新興国自身であり、▲0.9%ポイントとほぼ半分のショックの寄与を示しています。要するに、中国経済の下振れがアジア域内に大きな影響を及ぼしていると考えるべきです。

1.2.1 Alternative scenarios: effect on emerging Asia

アジア途上国の域外からリスクとしては2点上げられており、米国のいわゆる「財政の崖」と欧州の金融ストレスの高まりです。日本はリスク要因として上げられていません。上のグラフは、リポートの 1.2.1 Alternative scenarios: effect on emerging Asia を引用しており、それぞれのリスク・シナリオの場合の成長率とインフレ率の下振れの見込みをプロットしています。アジア地域は域内貿易比率も高く、かつての日本について「米国がくしゃみをすれば、日本が風邪をひく」といわれたほどの大きな影響は、欧米から受けることはないように私は受け止めています。もちろん、米欧経済のショックも一定の下振れ要因となるのは間違いありませんが、むしろ、中国経済に要注意なのかもしれません。また、直接投資などの資本流入についてもリスクとなる可能性が論じられています。
最後に、これらの経済見通しと下振れ要因の可能性に対して、アジア開銀は政策対応として、特に、マクロ安定化政策の発動の必要性は高くないと見込んでおり、アジア新興国・途上国は必要とあらば金融政策も財政政策も十分な余裕を持って発動できる条件があると見なしているようです。すなわち、以下の3点を上げています。

  • Developing Asia currently has no urgent regionwide need to pursue countercyclical macroeconomic policies.
  • Most economies in the region have ample room to use monetary and fiscal policy tools if needed.
  • Weakness in major industrial countries and decelerating growth in the region's two giants point to a less-favorable future growth environment.

経済見通し以外に、今回の「アジア開発見通し改定」では、第3章で Special theme として Services and Asia's future growth にスポットライトを当てています。アジア新興国・途上国の成長に従って製造業からサービス産業へのシフトが見込まれるとし、サービス産業における生産性向上のため、規制の適正化、インフラの整備、人的資本の改善などを提言しています。

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2012年10月 3日 (水)

世銀「世界開発報告」 World Development Report を読む

昨日のエントリーでも触れましたが、東京で開催される来週のIMF・世銀総会を前に、一昨日10月1日、世銀から「世界開発報告」 World Development Report が公表されています。今年は雇用 Jobs に焦点を当てています。私の関心分野である開発経済学の視点から重要な文献ですが、何分400ページほどの英文リポートですので、すべてを網羅的に取り上げることはかなわず、今夜のエントリーでは40ページ余りの Overview からいくつか図表を紹介しておきたいと思います。

FIGURE 1 A job does not always come with a wage

まず、上のブラフはリポートから FIGURE 1 A job does not always come with a wage を引用しています。タイトルを直訳して「雇用は賃金を伴うとは限らない」と受け止めるより、地域別に農業従事者と自営業者と雇用者の比率を比較していると考えるべきです。二元的なルイス・モデルの世界をイメージすれば分かりやすいと思います。すなわち、グラフで wage employment とされているのがルイス・モデルの capitalist sector に当たリ、もっといえば、この賃金雇用の部分を拡大させるのが開発にほかならないと私は解釈しています。ちなみに、私は、ジャカルタにいた10年ほど前に、"A Note on a Theoretical Model for Economic Development: Mathematical Representation of Lewis Model," TSQ Discussion Paper Series 2002/2003-No.9, March 2003 というディスカッション・ペーパーを書いて二元的なルイス・モデルを数学的に展開しており、中国人民大学の先生の論文で引用されたりしています。

FIGURE 5 Jobs provide higher earnings and benefits as countries grow

私の研究成果の自慢話から世銀「世界開発報告」の本筋に戻って、雇用が所得と社会保障の拡充をもたらすというのが上のグラフです。リポートの FIGURE 5 Jobs provide higher earnings and benefits as countries grow を引用しています。当然ながら、世銀が目指す貧困削減のために雇用はダイレクトに所得をもたらすといえます。ただ、リポートでは雇用は所得だけでなく精神的・身体的な健康といった他の側面でも影響を及ぼし、無職であることは満足感や幸福度を損ねると実に的確に指摘しています。見れば明らかですが、グラフでは平均賃金や社会保障の普及率と1人当りGDPの間には正の相関があることが示されています。

FIGURE 12 Some jobs do more for development

ということで、途中の分析を大幅に端折って、雇用が開発をどのようにサポートするかのイメージを示したのが上の画像です。リポートの FIGURE 12 Some jobs do more for development を引用しています。雇用が開発を支える柱は3本あって、生活水準の上昇、生産性の向上、社会的結束の強化、となっています。ただし、国や文化により、個人的な価値観と社会的な貢献度合いが一致しない場合があると警告し、公務員・医師・農民・商店主・教員の5つの職種について、中国、エジプト、コロンビア、シエラレオネの例を分析しています。

その昔、我が国の東海道新幹線や東名高速道路が世銀の開発援助も含めた資金で建設され、重要なインフラとして我が国の経済発展に寄与したのは戦後史でも有名な事実です。日本は援助される国から経済大国となり、バブル経済期には世界トップの援助国となりました。バブル崩壊とともに援助額は減少しましたが、豊かな日本の国民として、それぞれの立場から世界の貧困を撲滅すべく、私は出来る限りの貢献をしたいと考えています。

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2012年10月 2日 (火)

国際通貨基金 (IMF) 「世界経済見通し」分析編を読む

やや旧聞に属する話題ですが、東京で開催される来週のIMF・世銀総会を前に、先週9月27日に、国際通貨基金 (IMF) から「世界経済見通し」 World Economic Outlook の 分析編 Analytical Chapters の第3章と第4章が公表されています。第3章で政府赤字を、第4章で新興国経済を、それぞれ取り上げています。タイトルは以下の通りです。

Chapter 3
The Good, the Bad, and the Ugly: 100 Years of Dealing with Public Debt Overhangs
Chapter 4
Resilience in Emerging Market and Developing Economies: Will It Last?

実は、昨日、世銀から「世界開発報告」 World Development Report も公表されているんですが、今夜のところは IMF「世界経済見通し」分析編の第3章と第4章につき、図表を中心にして簡単に取り上げたいと思います。世銀「世界開発報告」については日を改めて取り上げるかもしれません。もっとも、取り上げないかもしれません。

Figure 3.1. Public Debt in Advanced Economies

まず、上のグラフはリポートの Figure 3.1. Public Debt in Advanced Economies を引用しています。上のパネルから明らかなように、先進国のグロスのGDP比で見た債務残高は2011年で第2次世界大戦直後の水準にかなり近づいています。平時としては最近100年余りで例を見ない水準といえます。特に、リーマン・ショック後はさらに急ピッチで債務残高が累増しています。下のパネルでは国別に見ていますが、ソブリン危機にあるギリシアを凌駕し、我が日本の債務残高はGDP比で200パーセントを超え、先進国の中でも飛び抜けていることが読み取れます。当然ながら、政府財政のサステイナビリティに対して強い疑問が生じ始めています。

Figure 3.6. Debt-to-GDP Dynamics after Crossing the 100 Percent Threshold

次に、上のグラフはリポートの Figure 3.6. Debt-to-GDP Dynamics after Crossing the 100 Percent Threshold を引用しています。最近100年でGDP比100パーセントを超える債務残高を記録した国は IMF のデータベースにある限りで22か国のうち14か国に上りました。上のグラフはそのうちの6か国についてプロットしています。第1次世界大戦後の英国を超える最大の債務残高を記録したのは現在の日本だったりします。もはや政府債務残高がGDP規模を超える現象はめずらしくもないといえるかもしれません。上のグラフに取り上げられた国のいくつかについて簡単に見ると、1920年代の英国では財政において大きなプライマリー・バランス黒字を志向したにも関わらず、緊縮財政と金融引締めを政策的に追求したため、経済の縮小から債務問題の悪化を招いています。1980年代のベルギーと1990年代のカナダでは構造的・制度的な政策が効果を上げた一方で、1990年代のイタリアでは経済成長なしで赤字の縮小に成功しています。日本に対しては金融セクターの脆弱性に配慮せず、日銀が財政赤字削減をサポートするような金融政策を取らなかったことから、1997年からの財政再建策が失敗したと結論しています。その結果、ということで、リポートの Figure 3.9. Japan: Lost Decade を引用すると以下の通りです。

Figure 3.9. Japan: Lost Decade

次に第4章に入り、新興国経済の分析を振り返ります。なお、以下のいくつかのグラフでは国別グループとして、AEs = advanced economy; EMDEs = emerging market and developing economy; EMs = emerging market economy; and, LICs = low-income country の略語を用いています。念のため。

Figure 4.5. Along Which Dimensions Has Emerging Market and Developing Economy Growth Improved?

まず、上のグラフはリポートの Figure 4.5. Along Which Dimensions Has Emerging Market and Developing Economy Growth Improved? を引用しています。戦後の約60年で時を経るに従って、特に1990年代以降は、先進国がほぼ一貫して景気拡大期が短くなり、景気拡大期の平均成長率が低下し、景気後退の規模が大きくなっているのに対して、新興国・途上国では特に1990年代以降で見て景気拡大期が長くなり、成長率は先進国を上回り、景気後退の規模は小さくなっています。世界経済の主役が1990年ころを境にして先進国から新興国・途上国に入れ替わったように見受けられます。

Figure 4.6. Why Have Emerging Market and Developing Economies Become More Resilient?

同じことはリポートの Figure 4.6. Why Have Emerging Market and Developing Economies Become More Resilient? を引用した上のグラフでも確認でき、新興国・途上国では平均的な成長率 (Steady-State Growth) は1990年以降に大きく高まり、成長率のばらつきは減じて、従来に比べて安定的な成長が達成されるようになっています。

Figure 4.9. Emerging Market and Developing Economies: Effects of Structural Characteristics on Expansion Duration and Speed of Recovery

続いて、上のグラフはリポートの Figure 4.9. Emerging Market and Developing Economies: Effects of Structural Characteristics on Expansion Duration and Speed of Recovery を引用していますが、新興国・途上国の景気拡大期と回復期における特徴的な構造要因を分析しています。見れば明らかなんですが、拡大期と回復期を通じて直接投資が景気をけん引し、拡大期には所得の不平等性が低下する一方で、回復期には新興国・途上国間での輸出や資本勘定の開放性などが景気回復の要因として上げられています。

Figure 4.13. Contribution of Shocks, Policies, and Structure to the Length of Expansions in Emerging Market and Developing Economies

最後に、上のグラフはリポートの Figure 4.13. Contribution of Shocks, Policies, and Structure to the Length of Expansions in Emerging Market and Developing Economies を引用しています。新興国・途上国の景気拡大の期間の長さに寄与した要因を定量的に分析し、政策立案能力の向上と政策遂行の余地の拡大が新興国・途上国の経済パフォーマンスの改善の大きな要因と分析しており、次いで、ショックの頻度の減少が上げられています。

今回の分析編では特に目新しい分析結果が提示されたわけではなく、従来から多くのエコノミストのコンセンサスに近い共通認識が定量的に分析された、と私は受け止めています。金融危機に関する分析が一段落して、地に足着いた落ち着いた分析編であると評価できるのかもしれません。

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2012年10月 1日 (月)

日銀短観に見る企業マインド悪化は景気後退局面入りの前触れか?

本日、9月調査の日銀短観の結果が発表されました。統計のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは6月調査の▲1から▲3に悪化しました。3期振りの悪化です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

景況感3期ぶり悪化 日銀9月短観、外需関連冷え込む
日銀が1日発表した9月の企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業製造業の景況感は3四半期ぶりに悪化した。企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業でマイナス3になり、6月の前回調査から2ポイント悪化した。一方、大企業非製造業の業況判断DIはプラス8で、前回調査から横ばい。海外経済の減速で自動車など輸出企業の悪化が目立った一方、内需関連企業は底堅さを保った。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値。企業からの回答の基準日は9月11日で、同日までに7割弱が答えている。尖閣諸島の国有化を巡って9月中旬から激化した中国の反日デモの影響はあまり反映されていない公算が大きい。
大企業の業種別の業況判断DIをみると、全28業種中、12業種の景況感が悪化した。製造業では自動車が前回よりも13ポイント低いプラス19と大幅に悪化した。エコカー補助金による政策効果の息切れや輸出減速を反映したとみられる。生産用機械、鉄鋼も2ケタの悪化幅になるなど、輸出企業の悪化が目立った。
一方、非製造業は東日本大震災の復興需要を背景に、建設が7四半期連続で改善したほか、不動産や宿泊・飲食サービスも改善。足元の内需の底堅さを裏付けた。
業況判断DIの3カ月先の見通しは、大企業製造業が今回調査から横ばいのマイナス3を予想。大企業非製造業は3ポイント低いプラス5と、6四半期ぶりの悪化を見込んでおり、個人消費など内需の持続力にやや不安を残す内容になった。
2012年度の設備投資計画の前年度比増減率は、製造業、非製造業ともに前回調査からほぼ横ばい。大企業製造業は前回調査から0.1ポイント下方修正されて12.3%増と、9月調査時点で6年ぶりの高い伸びを維持した。非製造業は0.3ポイント上方修正の3.3%増だった。

続いて、いつもの産業別・規模別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。

日銀短観業況判断DIの推移

日経QUICKによる市場の事前コンセンサスはヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが▲4でしたので、ほぼジャストミートしました。また、先行きは予想が▲5だったところ、実績では▲3と出ました。実績がやや強めに出たわけですが、ひとつには中国要因が十分に織り込まれていなかった可能性があります。すなわち、調査基準日が9月11日の尖閣諸島の国有化当日でしたので、その後の大規模なデモなどが明らかになる前に回答した企業が多い可能性が高いんではないかと考えられます。いずれにせよ、想定の範囲内の景況感の悪化、ないし、心配していたほど悪くはないが、決して楽観できる内容ではない、との評価になろうかと私は考えています。復興需要による下支えはあるものの、世界経済の減速から輸出が低迷し、国内でもエコカー補助金の終了により政策効果が剥落しますから、当然ながら、製造業をはじめとして、足元から目先の企業マインドは緩やかに悪化する方向にあることが統計的に確認されたと私は受け止めています。日本経済が踊り場入りすることは確実な一方で、このまま景気後退局面に入るかどうかはそれほど確率は大きくない、と見込まれます。

日銀短観設備・雇用判断DIの推移

上のグラフは生産・営業用設備判断DIと雇用人員判断DIをプロットしています。設備判断はほぼ改善がストップしました。他方、雇用判断は大企業では過剰感の払拭にブレーキがかかりましたが、中堅・中小企業では相変わらず雇用不足感が出始めており、大企業も含めて、雇用意欲は決して低くないと私は受け止めています。ただし、雇用の質については明らかではありません。パートや派遣などの非正規雇用に不足感が出ているのかもしれません。

日銀短観設備投資計画の推移

上のグラフは2007年度以降の設備投資計画について調査時点でソートした推移です。9月調査では6月調査の+6.2%とほぼ同水準の+6.4%と集計されました。設備判断DIがまだ10を少し超えるくらいの水準で推移しているにもかかわらず、わずかとはいえ設備投資計画が上方修正されたのは利益計画に起因すると私は受け止めています。すなわち、大企業全産業で見て経常利益は昨年度の▲9.1%の減益から今年度はゼロに戻し、当期純利益では+43.2%の大幅な増益が見込まれています。

もうすぐ東京で開催される IMF・世銀総会を前に、国際通貨基金 (IMF) から「世界経済見通し」 World Economic Outlook の 分析編 Analytical Chapters の第3章と第4章が公表されています。第3章では財政赤字に、第4章では新興国経済に、それぞれ焦点を当てています。国際機関のリポートに着目するのは、私のこのブログの特徴のひとつなんですが、今日は帰りが遅くなったこともあり、日を改めて取り上げたいと思います。

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