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2012年10月 5日 (金)

ビル・エモット『なぜ国家は壊れるのか』(PHP研究所) を読む

ビル・エモット『なぜ国家は壊れるのか』(PHP研究所)

ビル・エモット『なぜ国家は壊れるのか』(PHP研究所) を読みました。副題はやや無理やりに「イタリアから見た日本の未来」となっています。原書は米国のイェール大学出版部から出ており、英語の原題は Good Italy, Bad Italy: Why Italy Must Conquer Its Demons to Face the Future です。原題のままだと日本は何の関係もありません。『エコノミスト』誌を舞台に活躍したジャーナリストだった著者の出版物で私が読んだのは『日はまた沈む』と『日はまた昇る』だけだったりします。まず、出版社のサイトから解説を引用すると以下の通りです。

解説
21世紀の「国家の盛衰」を占うモデルに、『エコノミスト』前編集長のビル・エモット氏が選んだのはイタリアだった!
ユーロ加盟に伴い財政赤字比率を3%にまで減らしたが、少子高齢化と社会保障費の膨張、公務員天国という体質が復活。経済破綻の懸念が出ているユーロ圏第3位の経済大国。
「変革を拒まれる病」にもがき苦しみながらも、モンティ首相の強い意欲で新たな活力を見出そうと奮闘している成熟国でもある。その姿は日本を思い起こさせる。
2012年5月にイギリスで発売された英語版を翻訳し、緊急発刊した本書では、日本人向けの書き下ろし「特別章」がつけられ、本文中でも随所にイタリアと日本の対比が挿入され、衰退のメカニズムを分析している。
一方、活気を取り戻したビジネス都市・トリノを徹底レポート。経済ダイナミズム復活の7条件を見出しており、日本経済復活へのヒントに溢れる力作!

次に、章別構成は以下の通りです。

プロローグ
驚くほど重なる日本とイタリア
第1章
グッドな価値観 vs バッドな価値観
第2章
経済成長を阻害する多くの試練
第3章
トリノからのインスピレーション
第4章
既得権の誘惑の翻弄される企業
第5章
壁を壊して伸びるビジネス
第6章
全ヨーロッパの期待を担う改革

日本とイタリアがどこまで類似していて、イタリアの分析が日本経済の復活の参考になるかどうかは別にして、イタリア経済の特徴をよく把握していそうな気がしています。もっとも、私はイタリア経済の専門家ではありませんので詳細は不明です。バッドなイタリアとグッドなイタリアを対比し、例えば、正規雇用をすると解雇がとても難しく企業活動を拘束する労働法制、あるいは、新規参入者が自分の邪魔にならないよう既得権益を守るギルドのような仕組み、はたまた、メディアも政治も利権にまみれ、マフィアやヤクザのような反社会的な集団が裏の世界を牛耳る構図など、バッドなイタリアがある一方で、グッドなイタリアも忘れてはなりません。すなわち、旺盛な起業家精神と活力あふれる中小企業、決してハイテクではないもののデザインで勝負する力量、などなどです。特に、一時は衰退の危機に瀕していたにもかかわらず、活力を取り戻したビジネス都市トリノの詳細な取材に基づくリポートは、さまざまな企業の取材結果とともに、なかなかに読み応えがあります。逆にいうと、取材に基づかない理論的な整理は説得力が十分といえるかどうか疑問です。
全体として、既得権を有するグループも含めて、新規参入者か既得権グループかを問わずに、公平かつ公正な競争条件が整備された中で、努力が報われる経済社会が望ましい、とのメッセージは、私のように好意的かつ頑張って読みこなそうとするなら伝わります。他方で、イタリアの分析が日本を含む欧州などの先進諸国にどこまで応用可能かは大きな疑問が残ります。もっといえば、イタリアに関する幾つかのファクト・ファインディングには成功しているように見えますが、抽象度の高い水準で普遍的な真理の法則のようなものを見出すことに成功しているか、といわれれば疑問です。もっとも、学術書と違って一般書ですから、そこまで求めるものではないと考えるべきかもしれません。

市場原理主義とまではいわないとしても、かなり新自由主義的な傾向を持つ本です。競争、生産性、野心、イノベーション、グローバル化、などにフレンドリーです。他方、独占、既得権、障壁などには批判的です。最後にどうでもいいことですが、ベルルスコーニ前首相がこれほどまでに欧州で嫌われていることは、薄々は感じていましたが、ここまで明白に示されると今さらながらに少しびっくりしました。

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