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2012年10月16日 (火)

内館牧子『十二単衣を着た悪魔』(幻冬舎) を読む

内館牧子『十二単衣を着た悪魔』(幻冬舎)

内館牧子『十二単衣を着た悪魔』(幻冬舎) を読みました。21世紀の現代人の大学を卒業したばかりのフリータの男性が『源氏物語』の中にスリップしてしまうというストーリーです。なかなかのエンタメ度でした。まず、出版社のサイトから簡単にあらすじを引用すると以下の通りです。

あらすじ
光源氏を目の敵にする皇妃と、現代から源氏物語の世界にトリップしてしまったフリーターの二流男が手を組んだ……。著者の偏愛の全てを込め、女性の本質を描き切った源氏エンターテインメント。

タイトルはワイズバーガー『プラダを着た悪魔』The Devil Wears Prada に由来し、ズバリ「十二単衣を着た悪魔」とは『源氏物語』の中の登場人物である弘徽殿女御のことです。その他も含めて、設定はまことに面白いです。スリップするフリータは眉目秀麗かつ成績優秀な弟にコンプレックスを持っており、光源氏という弟に比較して見劣りする弘徽殿女御の実子である一宮、後の朱雀帝との対比もなかなかの趣向です。フリータが21世紀の現代から『源氏物語』そのものではなく、「あらすじ」を持って物語にスリップし、高麗で修業した陰陽師と称し、物語の先行きをズバリと言い当てたり、製薬会社のアルバイトの現場から持ち出した薬で平安時代の登場人物の病気を治したりして、弘徽殿女御の絶大なる信頼を得て、専属の陰陽師となるあたりはムリなく読み進めます。なお、『源氏物語』全54帖のうち、第12帖「須磨」、第13帖「明石」のあたりで主人公は現代に戻って来ます。
もちろん、『源氏物語』にスリップして物語の中に入り込んでしまうというのは今までもいくつか試みられていますし、特に新規な設定ではないですし、加えて、『源氏物語』的な平安時代の人物からすれば、確かに、弘徽殿女御は現代的かつ戦略的な人生観を持っているのは確かですが、現代人的な観点からそれほどびっくりする考え方とも見受けられません。もっと極端でエゲツない生き方や処世術を取り上げてもいいんではないかという気もします。というのは、私自身は円地文子現代訳の新潮文庫で『源氏物語』を読んでいるんですが、この作品を読んで『源氏物語』に対する見方は変化ありませんでした。私の想像ですが、『源氏物語』に対する見方が変わるのは、読んでいない人ではないでしょうか、という気がします。でも、『源氏物語』にスリップするという試みの中ではもっとも成功した作品のひとつではないかと思わないでもありません。

我が国の女性作家は年齢とともに『源氏物語』か『枕草子』に親しんで行く、という仮説を持った知り合いがいます。ひょっとしたら、そうなのかもしれないと思わせる作品です。ほぼ万人にオススメ出来ますが、誠に失礼な見方ながら、『源氏物語』を通読していない人の方が面白く読める可能性があります。

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