世界のスーパーパワー米国について考える3冊の本
世界のスーパーパワー米国に関する本を読みました。以下の3冊です。とはいうものの、実は、3冊目の『かつての超大国アメリカ』はまだ読み終えていなかったりします。
- バリー・アイケングリーン『とてつもない特権』(勁草書房)
- イアン・ブレマー『「Gゼロ」後の世界』(日本経済新聞出版)
- トーマス・フリードマン 、マイケル・マンデルバウム『かつての超大国アメリカ』(日本経済新聞出版)
「超大国アメリカ」がまだ健在とするのは、米国という国そのものではなく、基軸通貨のドルの地位なんですが、揺るがないと結論したのは最初の『とてつもない特権』だけで、『「Gゼロ」後の世界』と『かつての超大国アメリカ』はタイトルから明らかなように否定的な見解を示しています。
まず、『とてつもない特権』の著者アイケングリーン教授は経済史が専門であり、19世紀の金本位制から英国ポンドが基軸通貨であった短い時代、最後に現在のドルが基軸通貨である国際金融体制を歴史的に鳥瞰し、米国ドルに続く次代の世界の基軸通貨について、その必要条件など考察を進めています。ただし、米国ドルの次に控える欧州のユーロ、中国の人民元、国際通貨基金の合成通貨SDRなどについて、基軸通貨として米国ドルに取って代わる可能性は否定的であるとの見解を明らかにしています。もっとも、大きな理由は消去法であって、まだ、基軸通貨としての米国ドルの優位を脅かすほどの国力がこれらの通貨のバックグラウンドにはない、という結論です。同じ出版社だからというわけでもないでしょうか、ジョン・アイケンベリー『リベラルな秩序か帝国か』と似通った結論だと受け止めています。繰返してクラリファイしますが、基軸通貨に必要なのは総合的な国力のバックグラウンドであって、経済力だけではありません。念のため。
次に、『「Gゼロ」後の世界』の著者はユーラシ・グループの代表であり、前著の『自由市場の終焉』は私も読みましたが、これよりもグッと出来がよくなっています。米国という超大国が後景に退いて世界のリーダーシップを執る国が存在しなくなった世界で危機が発生した場合、どのような混乱が生じ、どのような調整が可能かを考察しています。単に安全保障の議論だけでなく、食料や水、環境、サイバー空間、国際標準の設定などを巡る諸問題の解決が取り上げられています。この先は米中のG2ではなく、ましてや、G20は参加国が多過ぎて何も決められず、世界は「G0」に突入し、すなわち、米中が対立しつつ、米中以外は地域限定的な強みを発揮する分裂的な世界を提示しています。地理的経済的には極めて中国に近いにもかかわらず、あくまで米国に追随する日本の未来が気にかかるところです。日本は著者が提示する「ピボット国家」になるわけにはいかないんでしょうね。
最後に、『かつての超大国アメリカ』の著者のフリードマンはジャーナリストであり、私も『フラット化する世界』は読みましたし、『レクサスとオリーブの木』などもベストセラーになりました。マンデルバウム教授は政治学者です。まだ読了していない段階なんですが、世界の先進国が直面するグローバル化、IT化、税制赤字、地球環境などの諸問題を極めて幅広く取り上げ、米国のかつての強みであった教育、インフラ、研究開発などが相対的に低下していると説き起こしています。直感的に、米国を対象としている本ながら、超大国ではないものの、我が日本にも応用可能な分野が少なくないと受け止めています。読み進むのが楽しみです。
少し読んだ時期が異なるので、勝手ながら、ジョン・アイケンベリー『リベラルな秩序か帝国か』は取り上げませんでしたが、米国がリーダーとなって戦後に敷いたリベラルな世界秩序はそうそう簡単に崩れない、と結論していました。しかし、この結論に懐疑的な主張も少なくないわけで、経済だけでなく幅広い意味での今後の世界秩序がどうなるか、気にかかるところです。
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