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2012年11月30日 (金)

月末の政府統計の集中発表日に景気動向を見極める!

今日は、月末の閣議日で政府統計がいろいろと発表されました。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数が、総務省統計局から失業率、厚生労働省から有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局から消費者物価指数が、それぞれ発表されています。いずれも10月の統計です。鉱工業生産は季節調整済みの系列で前月比+1.8%の増産となり、失業率は4.2%で前月と変わらず、有効求人倍率は0.80と前月からやや悪化し、消費者物価上昇率は生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率がゼロに達しました。まず、とても長くなりますが、各統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

10月鉱工業生産、4カ月ぶりプラス スマホけん引
低下判断は維持

政府が30日発表した10月の鉱工業生産指数は前月比1.8%上昇し、4カ月ぶりにプラスに転じた。各社の計画に基づく年末までの生産予測も増産を見込む。ただ消費支出は弱い動きが続き、有効求人倍率も0.80倍と2カ月連続で悪化した。景気は4月から後退局面に入ったとの見方が多いが、年末から年明けにかけて底入れを探る展開となりそうだ。衆院選後の新政権は景気の後押しも課題となる。
経済産業省が発表した10月の鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整値)は88.1となり、事前の市場予測(2.2%低下)を大きく上回った。中国などアジアで生産するスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向けの部品が好調。電子部品・デバイスは14.7%増となり、比較可能な1998年1月以降で最大の伸びだった。
10月実績は事前に各業界に実施する予測調査を27カ月ぶりに上回った。経産省は「エコカー補助金の終了による反動減が一服するなど、低水準ながら底堅さが見えてきた」としている。ただこれまでの低下が続いた反動という面もあり、基調判断は「低下傾向にある」と前月から据え置いた。
生産指数は全16業種のうち8業種で上昇した。輸送機械も1.1%増と6カ月ぶりにプラスに転じた。新型車が投入された効果で軽自動車が増え、北米向けの普通自動車も堅調だった。
製造工業生産予測調査は11月が0.1%のマイナスだが、12月が7.5%の大幅プラス。12月は電子部品・デバイスと輸送機械がともに2ケタの増産を見込む。予測通りになれば、10-12月期の生産は前期比0.8%増と3四半期ぶりのプラスになる。生産は底入れを探る動きが出てきた。
減速が続いていた中国経済も、在庫調整の進展などで回復を示唆する指標がある。ただ電子部品は需要や生産の振れが大きく、スマホ頼みの生産回復にはやや危うさも残る。
消費と雇用の先行きは見えない。総務省が同日発表した10月の家計調査では、2人以上の世帯の消費支出は1世帯あたり28万4238円となり、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比0.1%減少した。減少は2カ月連続。消費の基調判断を前月に続き「弱含みとなっている」としている。
厚生労働省が発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は前月より0.01ポイント低い0.80倍となり、2カ月連続で悪化した。製造業では新規求人が5カ月連続で前年同月を下回った。
総務省が発表した10月の完全失業率(季節調整値)は前月比横ばいの4.2%だったが、求人減が失業率に波及する懸念もあり、厚労省は雇用の基調判断を「持ち直しの動きが弱まっている」と19カ月ぶりに下方修正した。
民主党や自民党は衆院選後に景気対策のため大型の補正予算を編成する考えを表明している。日銀を含めた政策対応も今後の景気動向のカギを握る。
10月の消費者物価、前年同月比で横ばい ガソリン高が押し上げ
総務省が30日発表した10月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は生鮮食品を除く総合が99.8と前年同月と比べて横ばいだった。エネルギー価格の上昇にけん引され、下落率は前月から0.1ポイント縮小。5カ月続いたマイナスが一服した。
項目別にみると、高止まりが続くガソリンは4.2%上昇し、灯油も4.9%上がるなどエネルギー全体では4.6%上昇した。テレビなど教養娯楽用耐久財は6.6%下がったが、前月からは下落率が縮小。食料とエネルギーを除くベース(欧米型コア)でみても0.5%下落の98.5と、前月から下落率が0.1ポイント改善した。
一方で、生鮮食品を含む総合は0.4%下落の99.6と、下落率は前月から0.1ポイント拡大。豊作の影響で値下がりしている白菜など生鮮野菜が押し下げた。
総務省は足元の物価動向について、ガソリン価格に左右される動きが続いているため、「横ばい」との見方を維持した。
先行指標とされる東京都区部の11月のCPI(中旬の速報値、10年=100)は生鮮食品を除く総合が99.1と0.5%下落し、下落率は10月から0.1ポイント広がった。電気代や都市ガス代などの上昇幅が縮小した。テレビやルームエアコンなど耐久財も値下がりが続くなど、依然としてデフレ基調は根強い。

続いて、いつもの鉱工業生産指数のグラフは以下の通りです。上のパネルは2005年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。なお、このブログだけのローカル・ルールですが、直近の景気循環の山は2012年3月であったと仮置きしています。この点については、昨夜の商業販売統計を取り上げたエントリーのグラフと同じです。

鉱工業生産指数の推移

引用した記事にもある通り、市場の事前コンセンサスは前月比で▲2%を超えるマイナスでしたので、プラスの増産は驚きをもって受け止められています。主たる要因はスマートフォン関連の生産増です。エコカー補助金の終了に伴って減産が続いていた輸送機械も10月はわずかながらプラスに転じています。予測指数は11月はマイナスですが、12月には大きなリバウンドの可能性を示唆しており、中国経済の回復とともに我が国経済も景気後退期を脱する動きが始まりそうな気もします。ただし、出荷については資本財や耐久消費財は10月も引き続き減少を続けており、本格的な生産の回復は年明けになる可能性が十分あると考えるべきです。統計作成官庁による基調判断は据え置かれましたが、もう少し時間がたって生産動向の上向きがハッキリすれば、基調判断も上方修正されるものと私は予想しています。

雇用統計の推移

雇用については、遅行指標である失業率こそ上がらないものの、先行指標である新規求人数はもちろん、一致指標の有効求人倍率も、いずれも雇用指標は景気後退期入りにふさわしい動きを示しています。失業率についても新規求人が減少しており、電機などの製造業のリストラが本格化する年明け以降は上昇の可能性が排除できません。一昨年の震災の影響もありましたが、雇用についてはリーマン・ショック後に本格回復に至らず腰折れしていた可能性があります。

消費者物価上昇率の推移

消費者物価 (CPI) はエネルギー価格にけん引されて下落幅を縮小し、生鮮食品を除く総合のコア消費者物価の上昇率はゼロに達しました。しかし、食料とエネルギーを除くコアコアCPIは依然としてマイナスのままであり、エネルギー価格に左右されつつデフレが続く状態は変わりありません。来年で任期を迎える白川総裁が失敗した本格的なデフレ脱却は次期の日銀総裁に託されることになりそうです。

今日発表された政府統計は押し並べて現下の景気後退局面と年明けくらいの底入れを示唆しているように見受けられます。もっとも大きなリスクは為替ですが、総選挙後の政府の経済政策も今後の議論に上るものと考えています。

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2012年11月29日 (木)

商業販売統計に見る政策効果に翻弄される消費

本日、経済産業省から10月の商業販売統計が発表されました。季節調整していない原系列の小売業販売額は前年同月比で▲1.2%減の10兆8710億円となり、季節調整済みの指数では前月比+0.7%増を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の小売業販売額、3カ月ぶり減少 エコカー補助金終了響く経済産業省が29日に発表した10月の商業販売統計(速報)によると、小売業の販売額は10兆8710億円で前年同月に比べ1.2%減った。マイナスは3カ月ぶり。エコカー補助金の終了で自動車販売が落ち込んだほか、テレビの販売不振が続いたことが大きな要因だった。
自動車小売業は3.5%減で2カ月連続の減少。テレビなどの機械器具小売業は5.8%減で、15カ月連続のマイナスだった。
百貨店とスーパーを含む大型小売店は2.4%減の1兆5676億円、既存店ベースは3.2%減で7カ月連続のマイナス。うち百貨店は2.2%減、スーパーは3.7%減だった。中旬まで気温が高めに推移したことで秋物衣料が振るわなかったほか、野菜の価格下落や昨年に比べて土日が2日少なかったことが影響した。
コンビニエンスストアは2.2%増の8057億円。ファストフードの販売が好調だった。一方、既存店ベースは来店客が伸び悩み2.0%減と5カ月連続のマイナスだった。

次に、いつものグラフは以下の通りです。いずれも卸売販売と小売販売の推移なんですが、上のパネルは季節調整していない原系列の前年同月比を、下は2005年=100となる季節調整指数を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期です。なお、このブログだけのローカル・ルールですが、直近の景気循環の山は2012年3月であったと仮置きしています。

商業販売統計の推移

上のグラフで、季節調整していない原系列の前年同月比の上のパネルでも、季節調整済みの系列をプロットした下のパネルでも、かなり明瞭に今年3月をピークとする景気後退局面を示していると受け止めています。10月の統計を見ると、家電エコポイントと地デジ切換えを終えたテレビを含む機械器具小売業がマイナスとなっているほか、エコカー補助金が終了した自動車小売業もマイナスとなっています。ただし、自動車については、自販連の統計では10月は販売台数ベースで前年同月比2桁マイナスを記録した一方で、商業販売統計では▲3.5%減にとどまっており、ハイブリッド車などの単価の高い自動車が売れている可能性が示唆されています。いずれにせよ、消費を喚起するとの名目で、特定の業界に対する隠れた補助金の役割を果たしたものの、家電エコポイントやエコカー補助金が景気の振幅を大きくした可能性があると考えるべきです。従来からの私の主張ですが、期間を区切った特定の財への補助金ではなく、消費の喚起のためには雇用の改善がもっとも重視されるべきです。なお、先行きについて考えると、このブログでも11月14日付けのエントリーで取り上げた通り、年末ボーナスが減少する可能性が高いことから、今後の消費に明るい展望は描けません。

2012年ヒット商品番付

消費に大いに関係する点ですが、昨日、SMBCコンサルティングから2012年ヒット商品番付が発表されています。上の通りです。東京スカイツリーや東京駅などが上位に名を連ねており、何度かこのブログで主張しましたが、東京近辺の景況感を押し上げるようなヒット商品が目につきます。やや東京と地方の景況感に差を生じている可能性を危惧しています。

最後に、国立社会保障・人口問題研究所から平成22年度の「社会保障費用統計」が発表されています。社会保障費が100兆円を突破したとの報道を見受けました。明日は政府統計の集中発表日ですし、中身をよくチェックした上で、可能であれば、来週にでも日を改めて取り上げたいと思います。

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2012年11月28日 (水)

「OECD 経済見通し」 Economic Outlook No.92 を読む

昨日、経済協力開発機構 (OECD) から「OECD 経済見通し」 Economic Outlook No.92 が発表されています。我が国の来年2013年の成長率見通しは5月時点の+1.5%から+0.7%に引き下げられました。もっとも、日本だけでなく、米国も+2.6%から+2.0%へ、欧州にいたっては+0.9%から▲0.1%のマイナス成長に、それぞれ下方修正されています。
今夜のエントリーでは、プレスへのプレゼン資料から何枚かスライドを画像として取り出し、簡単に紹介したいと思います。まず、pp.2-3 の The outlook と Projections - OECD Big 3 は以下の通りです。クリックするとリポートの p.6 Summary of projections だけを抽出した pdf ファイルが別タブで開くようになっています。当然ながら、より詳細な見通しが示されています。

The outlook & Projections - OECD Big 3

下のパネルの折れ線グラフの四半期見通しで、緑色の日本の2014年4-6月期の成長率が大きく落ち込んでいるのは、言わずと知れた消費税率の引上げに起因します。さらに、下のテーブルは今回11月の成長率見通しと前回5月時点を比較したものです。初出の中国は比較のしようがありませんが、米欧日についてはカッコ内が5月時点の見通しです。2012-13年でみごとにすべて下方修正されています。

 201220132014
United States+2.2
(+2.4)
+2.0
(+2.6)
+2.8
 
Euro Area-0.4
(-0.1)
-0.1
(+0.9)
+1.3
 
Japan+1.6
(+2.0)
+0.7
(+1.5)
+0.8
 
Total OECD+1.4
(+1.6)
+1.4
(+2.2)
+2.3
 
China+7.8
(n.a.)
+8.5
(n.a.)
+8.9
 

上のテーブルにOECDに加盟していない中国が入っているように、今回の「OECD 経済見通し」のひとつの特徴として、新興国の経済見通しを明らかにした点が上げられます。ということで、プレスへのプレゼン資料から p.4 Projections - EMEs を引用すると以下の通りです。新興諸国の代表として、中国、インド、インドネシア、ロシアが取り上げられています。いずれの新興国もOECD加盟国の平均よりも高成長と見込まれています。

Projections - EMEs

次に、この見通しに対するダウンサイド・リスクを5点上げています。プレスへのプレゼン資料から p.6 Downside risks to the outlook を引用すると以下の通りです。

  • Euro area crisis is the largest downside risk
  • Excessive budgetary tightening in the United States (the "fiscal"cliff")
  • Geopolitical risk to oil prices
  • High unemployment undermining confidence
  • EMEs transition to domestic sources of growth

実は、まだリポートを読みこなしていないので、最後のポイントは私にもやや不明なんですが、アジア開発銀行 (ADB) が指摘している「中所得国の罠」Middle Income Trap なんだろうかと想像しています。自信はありません。また、米国の「財政の崖」が政治的に回避されつつある一方で、何といっても、最大のダウンサイド・リスクはユーロ圏諸国のソブリン危機の深化であることは衆目の一致するところです。ということで、その影響を盛り込んだ見通しが下の通りです。プレスへのプレゼン資料から p.18 Downside risks from intensification of euro area crisis を引用すると以下の通りです。

Downside risks from intensification of euro area crisis

プレスへのプレゼン資料からの引用は最後になりますが、11月13日付けのエントリー「OECDの超長期経済見通し Looking to 2060 を読む」でもお示しした長期のGDPシェアの推移について p.25 Long-term shift in the composition of global GDP を引用すると以下の通りです。我が国が徐々に世界経済でのプレゼンスを縮小して行くのは大方のコンセンサスかもしれません。

Long-term shift in the composition of global GDP

最後に、OECDの国別見通しのサイトから我が国の経済見通しの総括表を引用すると以下の通りです。

Japan: Demand and Output

先ほどのダウンサイド・リスクの最後の項目ではありませんが、何せ200ページを大幅に超える英文リポートですので、十分には読みこなしておらず、今夜は事情により少し遅くなったこともあり、図表の引用以外はかなり簡略かつ散漫な記事になり反省しています。

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2012年11月27日 (火)

企業向けサービス価格指数はふたたびマイナス幅を拡大

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (CSPI) が発表されました。10月の前年同月比は▲0.7%の下落と前月より下落幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格指数、過去最低を更新 10月は0.7%下落
日銀が27日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2005年=100)は95.5と、前年同月に比べ0.7%下落した。指数は1985年の調査開始以来の最低になった。テレビ広告や新聞広告が下落率を広げ、指数を圧迫した。情報通信も値下がりが続いた。
企業向けサービス価格指数は、輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を示す。マイナスは5カ月連続。下落率は9月(0.5%)より広がった。前月比は0.1%下落だった。日銀は「景気の先行き不透明感から企業が支出を慎重にしている」(調査統計局)とみている。
業種別では広告が前年同月比4.0%下落し、指数を最も押し下げた。電機や食品・飲料などの広告費が低迷した。情報通信は0.6%下落。競争激化で市場調査などが弱めとなり、下落率を広げた。一方、運輸は円安を主な要因に下げを縮めた。

次に、企業物価の国内指数と企業向けサービス価格指数 (CSPI) の前年同月比上昇率の推移は下のグラフの通りです。念のためのご注意ですが、企業物価指数は2010年基準に移行していますが、企業向けサービス価格指数は2005年基準のままです。基準年から離れた分だけラスパイレス指数の上方バイアスが大きくなっている可能性があります。

企業物価上昇率の推移

9月の前年同月比▲0.5%から下げ幅を拡大して10月は▲0.7%の下落となりました。引用した記事にもありますが、テレビや新聞などの広告とソフトウェア開発などの情報通信が9月から下落幅を拡大している一方で、貨物用船料や国際航空貨物輸送などが、引き続き前年と比べて下落しているものの、下落幅を縮小しています。前者の広告やソフトウェア開発は競争の激化により下げ幅を広げている一方で、後者の運輸は円安により下げ幅を縮小しているようです。CSPI は需給ギャップに敏感な指標なんですが、もちろん、それだけではなく、円安による価格上昇効果も見込めます。最近の市場動向に見られる通り、円安は株価の上昇だけでなく、デフレ脱却にも役立つと考えるべきです。従って、円安を目指した金融緩和に日銀がより積極的に取り組むべきであることはいうまでもありません。

なお、本日、経済協力開発機構 (OECD) から「OECD 経済見通し」 Economic Outlook No.92 が公表されています。まだフルリポートを入手していませんので、出来るだけ早く取り上げたいと考えています。

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2012年11月26日 (月)

鈴木準『社会保障と税の一体改革をよむ』(日本法令) をオススメします!

鈴木準『社会保障と税の一体改革をよむ』(日本法令)

鈴木準『社会保障と税の一体改革をよむ』(日本法令) を著者からちょうだいしましたので、この3連休に読ませていただきました。今年夏くらいの時点、すなわち、いわゆる3党合意に基づいて消費税率引上げ法案が国会で可決したあたりにおける「社会保障と税の一体改革」について解説した本です。詳細な制度の内容を適確に紹介するとともに、社会保障や税制に関する専門家である著者の考えを余すところなく示しています。私と基本的な方向は同じであると受け止めています。ということで、まず、出版社のサイトから本書の内容紹介を引用すると以下の通りです。

三党合意で成立した一体改革法を中立・客観的にわかりやすく解説・評価!曲折の末、8月に成立した消費税率10%への引上げを柱とする「社会保障と税の一体改革」法を詳解。単に改正の内容の解説のみにとどまらず、成立への過程や社会・経済への影響まで冷静かつ多面的に分析し、評価すべき点と残された問題点を、一般読者にもわかりやすく独自の図表・資料などを交えて解説。今後の国民生活への影響とあるべき改革の姿を知るうえで必読の一冊!

次に、章別構成は以下の通りです。一体改革の全体像や著者の考えから始まって、年金、医療・介護、現役世代支援、税制改革、と続きます。

はじめに
 
第1章
社会保障と税の一体改革はなぜ必要なのか
第2章
一体改革における年金関連の改革項目の内容と評価
第3章
一体改革における医療・介護関連の改革項目の内容と評価
第4章
一体改革による現役世代支援、子育て支援関連項目の内容と評価
第5章
一体改革による税制改革関連項目と増税をとりまく議論
終章
一体改革を次のステージに進めるために何が必要か

まず、第1章では著者によって本書の基本的な考え方や方向性が示されます。すなわち、社会保障における年金の実質値は物価でデフレートさせるのではなく、現役世代の賃金との所得代替率により計測されるべきであること、従って、現役世代の賃金が下がり続けているのに、年金が増えているのは不合理であること、財政赤字は公共投資などの投資的支出ではなく、社会保障支出などの経常的な歳出により生じていること、などが示されます。その上で、社会保障を持続可能な制度とするため、給付削減の重要性が強調されています。第2章では年金に着目し、そもそものライフサイクルを考えれば、現役世代の時にある程度の貯蓄を行なって、引退世代になれば貯蓄を取り崩して生活することが予定されており、年金ですべての生計費をまかなおうとするがごとき議論に反論しています。この点は給付削減の強調と整合的です。第3章では医療と介護を取り上げ、高齢者医療支援金が現役世代の頭割りとなっている制度がほとんど知られていない点を紹介し、数理的な公正さの要求される社会保険制度と格差是正などを目的とした所得再分配の役割を持たせた税制の違いを認識する必要性を説きます。第4章では子育てなどの現役世代支援を紹介していますが、そもそも、「社会保障と税の一体改革」で大きく等閑視された分野ですから、本書でのページ数もかなり少なくなっています。しかし、私の見方と同じで、政権交代により実現した子ども手当は、少なくとも、「目を向けるきっかけになったという点での功績はあった」とポジティブに捉えています。第5章では世間一般でもっとも注目された税制、特に消費税率引上げに焦点を当て、弾力条項とデフレ下の増税、財政赤字の原因や霞が関埋蔵金に関する考え方などを展開しています。特に、本章の中の節のタイトルにしている「物価スライドはしてはならない」、「軽減税率は逆進性を緩和しない」などは、一般には奇異に感じられるかもしれませんが、まったく著者の主張通りだと私は受け止めています。終章では「最小不幸社会」を批判して、古典的かつベンサム的ながら「最大幸福社会」を提唱するとともに、最後のページで高齢化に伴って、また、1票の格差のために、民主主義に基づく選択にバイアスが生じている可能性を指摘しています。私がこのブログで「シルバー・デモクラシー」と名付けているものです。本書でも、社会保障に関する法律の本則に即していない運用について厳しく批判していますが、私の直感では、例えば、デフレ下での年金の物価スライドの停止など、ほとんどそのすべてが高齢の引退世代に有利になるように捻じ曲げられているんではないかと危惧しています。
ほとんどの論点で私の考えと一致しています。違いを探す方が難しいんですが、あえて指摘すると、私は社会保険制度も税制とともに所得再分配などの機能を持たせ、格差是正やほかの政策目的に活用することはOKと考えています。そのための制度的な枠組みのひとつが歳入庁構想なんだろうと受け止めています。本書は「社会保障と税の一体改革」の解説に徹していて、マイナンバーは軽く触れられていますが、社会保険料を受け入れる機関と国税庁を統合する歳入庁構想については何の言及もありません。もちろん、著者は歳入庁構想についてもそれなりの見識をお持ちだと想像しますので、本書ではなく別途の機会で、ということなんだと理解しています。

ご著書をご寄贈いただくくらいですから私は著者と面識があって、それなりのバイアスは否定しませんが、とってもいい本です。制度を詳細に解説するとともに、明快に著者の考える社会保障や税制のあるべき姿を提示しています。そして、それが適確かつ合理的です。昨日の日曜日に私が都立図書館の検索で調べた限り、まだ区立図書館で所蔵している館はないようですが、おそらく、多くの公立図書館で利用可能になることと思います。多くの方が手に取って読むことを願っています。

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2012年11月25日 (日)

惰性で見続ける朝の連続テレビ小説「純と愛」と期待高まる来年の大河ドラマ「八重の桜」

「純と愛」公式ポスター

10月から始まったNHK朝の連続テレビ小説「純と愛」を、私は明らかに惰性で見続けています。何の惰性かというと、当然ながら、今年度前半の「梅ちゃん先生」の惰性です。役所に9時に出勤しますので、今ではBSで朝7時半から見ています。その時間帯に朝の連続テレビ小説にチャンネルをあわせる習慣になってしまっている感じです。私は何故か昔から髪の毛の短い女性に対する評価が厳しいといわれたこともあり、何となく、ヒロインの純も前の堀北真希と比較して見劣りがすると感じてしまったり、相方の愛の「人の顔を見ると本性が見える」というのも、私の理解できないオカルト的な要素を感じたりしています。それにしても、昨日土曜日の回は「これは最終回なのだろうか」と思わせるような作りになっていて、少しびっくりしました。

「八重の桜」メインポスター

それよりも、先週11月21日、来年の大河ドラマ「八重の桜」のメインポスターやタイトルバックなどが公開されています。メインポスターは上の通りです。主演の綾瀬はるかの若武者を思わせる姿がとても凛々しくてカッコいいです。去年今年と私が見た綾瀬はるか主演の映画では、「プリンセス・トヨトミ」ではユーモラスな会計検査官を、「ホタルノヒカリ」では干物女を、それぞれ演じていましたので、見違えるようです。
山本八重は会津の出身かもしれませんが、京都人から見れば新島襄の妻であり、従って、同志社の創設家の1人です。私は京都出身ですので、京都府東京事務所の人が、時折、京都に関する情報を届けてくれたりしますが、最近では「新島八重と同志社」というパンフレットをちょうだいしました。同志社大学漫画研究会の「八重物語」がメイン・コンテンツとして収録されています。大河ドラマ1年分を見てしまったような気になりました。私はどこやらの知事さんといっしょで、現在放映中の大河ドラマ「平清盛」にはどうも興味が湧きませんので、来年の大河ドラマ「八重の桜」に大いに期待しています。

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2012年11月24日 (土)

寒くなって鍋ものの季節が始まる!

昨日は体重を気にした記事を書いたんですが、体重と大いに関係する料理について、この季節の料理では宴会も含めて鍋ものが多くなります。基本的には手がかからないからだと私は認識しているんですが、なぜか手を抜きたがる専業主婦のくせに、我が家では鍋料理がかなり少なくなっています。やや不思議な気はします。
街の噂では、今年は1人鍋が流行る兆しを見せているそうです。1人焼肉店や1人カラオケ店に加えて、1人鍋専門店が出来ていると聞き及びます。ということで、ネットリサーチ大手のネオマーケティングから「鍋料理に関する調査」と題するwebアンケートの結果を取りまとめた調査結果が11月22日に発表されています。まず、【調査結果概要】の下線部を引用すると以下の通りです。

【調査結果概要】
【1】ひとり鍋 男性 44.7% 女性 34.6% が経験
【2】ひとり鍋の理由は「調理が簡単なため」が1位
【3】今年ブレイクする鍋は 1位 塩麹鍋 2位 餃子鍋 3位 とんこつ鍋

誠に残念ながら、私は1人鍋の経験はありませんが、鍋好きの方々の中では決して少なくない比率で1人鍋の経験者がいるようです。その理由は「調理が簡単」に続いて、「鍋料理が好き」、「残り物の片付け」、「野菜不足解消」などが続いています。そして、私がもっとも興味深かったのは、「今年ブレイクする鍋」の結果なんですが、3位までは上の引用にあり、その後は以下のグラフの通りです。一部を除いて、まずまず、常識的な結果かもしれません。

今年ブレイクしそうな鍋

除かれた一部なんですが、申し訳ないながら、「スンドゥブ鍋」と「タジン鍋」はまったく知りませんでしたので、google に聞いてみました。「スンドゥブ鍋」は韓国の豆腐の一種を使った鍋で、「タジン鍋」は北アフリカのマグレブ地方のとんがり帽子のような形の蓋が特徴的な独特の鍋を使うそうです。勉強になったのか、ならなかったのか…

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2012年11月23日 (金)

映画「カラスの親指」を見に行く

映画「カラスの親指」ポスター

今日はかなり前からの天気予報でも雨ということで室内競技を志向し、映画「カラスの親指」を見て来ました。原作は芥川賞作家の道尾秀介です。一応、かなり前ですが、私は原作を読んでいます。面白かったと記憶しています。詐欺師が主人公です。少し前の10月下旬の東京国際映画祭で阿部寛と石原さとみがグリーン・カーペットの上を歩いていたのは、この映画の出演者とスタッフだったハズです。でも、東京国際映画祭で私がもっとも注目したのは吉田修一原作の「横道世之介」だったりしました。来年2月に封切られますので、ぜひ見たいと考えています。
ということで、映画「カラスの親指」なんですが、原作のプロットが秀逸だけに、原作に忠実に映画化するしかないわけで、映画監督としては解釈の余地が少なかった可能性はあります。でも、原作を読んでいる私なんかの場合、登場人物のホントの相関関係を知っているだけに、場面場面での映画の作りがやや雑かもしれないと気になってしまいました。もちろん、キャスティングについては、能年玲奈と石原さとみの姉妹はとってもよかったですし、影の主役である村上ショージも抑えた演技で好感が持てました。ただし、主演男優の阿部寛は「テルマエロマエ」や東野圭吾原作の加賀恭一郎役などの方がピッタリ感があるような気もします。
やや評価は分かれますが、道尾秀介の原作を読んでいない方が映画として楽しめる可能性があるような気もします。

BMI指数の推移

突然ながら、上のグラフは今年6月1日以降の私自身のボディ・マス指数 (BMI) の日々の推移をプロットしています。というのは、人類は恒温動物で温血のハズなんですが、私はどうしても夏の気温が高い期間は体重が減って、これからのように気温が低くなると皮下脂肪を溜め込んで体重が増えるサイクルがあります。私の周囲にもこういった年間の体重サイクルを持っている人が少なくありません。このところ、何とか肥満のひとつの目安である BMI=25 を下回っていますが、9月半ばくらいから基調として増加に転じたようにも見えなくもありません。特に、昨日はお酒を飲む機会があってスパイクしました。この先、苦手な忘年会シーズンが刻々と近づいており、BMI=25 以下をキープするため、今日は映画を見た後、近くの区営の室内プールで黙々と泳いで来ました。私のような太りやすい体質でこの年齢に達すると、体重管理だけでもひと苦労だったりします。私は入浴後に体重を測る習慣ですので、今夜の体重や BMI が気にかかるところです。

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2012年11月22日 (木)

ジェームズ・リカーズ『通貨戦争』(朝日新聞出版社) を読む

ジェームズ・リカーズ『通貨戦争』(朝日新聞出版社)

ジェームズ・リカーズ『通貨戦争』(朝日新聞出版社) を読みました。米国ではベストセラーになっているようで、なかなかにユニークな主張を展開していますが、私には少し奇異に感じられました。まず、出版社のサイトから本書の内容を引用すると以下の通りです。

通貨戦争
拡大する通貨戦争が世界経済を崩壊させようとしている。このままいけば、為替市場で始まった新しい危機がまたたく間に株式や債券、商品市場に波及し、パニックは世界中に広がるだろう。ドルは崩壊するのか。IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)が解決策となるのか。金本位制に復帰するのか。大混乱に陥り、悲惨な事態が続くのか。金融リスク管理の専門家が精緻なシナリオを描く。「ウォールストリート・ジャーナル」ベストセラー!

上の引用がよくまとめているんですが、一言で表現すれば、リーマン・ショック後の世界経済の低迷から近隣窮乏化政策的な「通貨戦争」が始まっており、このままでは米ドルが暴落して国際通貨体制が崩壊し、市場がパニックに陥るので金本位制に戻るべきである、という主張を展開しています。最後の「金本位制に戻るべきである」という部分は引用にないのでネタバレかもしれません。ご容赦ください。パニックを避けるべく、混乱の少ない順で、米ドル以外も含む複数通貨制、SDR、金本位制について国際通貨制の候補として考察が加えられますが、金本位制以外は私には理解が出来ない理由により却下され、最後に金本位制が残り、金本位制でなければという意味で、「混沌」も選択肢になっていたりします。パニック・シナリオとして示されている p.313 からのストーリーで数ページに渡って、日本政府や日銀に割り振られた役割はまったく何もなく、最近の世界経済における我が国の地位の低下が伺い知れたりして、とても興味深いものがあります。
シンクタンクなどの経済見通しを取りまとめた月曜日のエントリーでも、私は日本経済の最大のリスクは為替であるとの従来の主張を繰り返しています。日本の「ものつくり」が為替で犠牲になったのは、主力のテレビをはじめとする電機産業を見ていても明らかです。その意味で、衆議院解散後にゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのジム・オニール会長の "We Want Abe!" と題する11月16日付けの以下のリポートが注目を集めたのも当然といえます。リポートでは "They have a very overvalued exchange rate, a collapsing export sector, an unreformed domestic economy, a debt challenge that makes Greece's seem easy to solve, a central bank that doesn't try too hard - currently - to reach its inflation target and, once again, a very weak economy." と分析されています。"They have ..." で始まっていますが、日本のことを指しており、為替が日本経済の低迷の起点のひとつに見なされているのが読み取れます。

最後に、本書の中の p.260 においてナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』について、「一つのパラダイムを破壊はしたけれど、それに代わる新しいパラダイムを生み出しはしなかった」と批判していますが、同じような批判が本書にも当てはまるかもしれません。

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2012年11月21日 (水)

貿易収支は赤字が続くが、中国の反日感情はすでにピークアウトしたのか?

本日、財務省から10月の貿易統計が発表されました。ヘッドラインとなる輸出は季節調整していないベースで前年同月比▲6.5%減の5兆1499億円、輸入も▲1.6%減の5兆6989億円、差引貿易収支は▲5489億円の赤字となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

対中自動車輸出82%減 貿易赤字、10月では最大に
財務省が21日発表した10月の貿易統計速報(通関ベース)によると、中国向け自動車輸出は前年同月から82.0%減少した。尖閣諸島の国有化をきっかけに日本製品の不買運動が広がった影響が出た。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4065億円の赤字となった。全体の貿易収支も、10月としては過去最大の5489億円の赤字となった。
中国向け自動車輸出の下げ幅は、小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝で反日感情が高まった2001年10月(88.3%減)以来、11年ぶり。中国経済が減速していた影響もあって、自動車部品(28.1%減)や重機用エンジンなどの原動機(42.7%減)も大きく下げた。
中国向け輸出は全体で11.6%減の9477億円となった。一方、中国からの輸入はスマートフォン(高機能携帯電話)など通信機器(23.5%増)を中心に増え、3.6%増の1兆3542億円。赤字額は今年1月(5895億円)以来の大きさだった。
全体の貿易赤字は4カ月連続で、赤字額は市場予想(3500億円)を上回った。
輸出は6.5%減の5兆1499億円で、5カ月連続の減少となった。自動車が中国や欧州向けを中心に12.3%減った。鉄鋼も中国や韓国の景気減速が響いて9.7%減と落ちこんだ。一方で半導体など電子部品は韓国などアジア向けが伸びて4.1%増と22カ月ぶりにプラスに転じた。
輸入は1.6%減の5兆6989億円。2カ月ぶりに減少した。サウジアラビアなどからの原油が19.6%減った。10月1日に石油石炭税の引き上げがあり、9月に燃料輸入が急増した反動が出た。中国や韓国からのスマホを中心に通信機器は29.6%増と高い伸びを続けた。
地域別の貿易収支をみると、米国向けは自動車を中心に輸出が3.1%増と12カ月連続で増え、対米黒字も4164億円と7.0%増えた。増加は2カ月ぶり。景気減速が続く欧州連合(EU)向けは輸出が13カ月連続で減少し、2カ月ぶりに貿易赤字に転じた。中国向けは8カ月連続の赤字で、中国を含むアジア向けの貿易黒字も20カ月連続で減少した。
先行きは「緩やかに景気拡大が続く米国向けの輸出が底堅く推移する」(大和総研)と、年明け以降に輸出が徐々に回復するとみる専門家が多い。ただ、中国での日本製品の不買運動の影響がどれほど続くかなどは見通しづらく、依然として不透明な面は大きい。

次に、いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフでプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

貿易統計の推移

季節調整していない原系列の貿易収支は4か月連続の赤字ですが、上のグラフから明らかなように、季節調整済みの系列では、震災発生の2011年3月から直近の2012年10月まで、2011年9月の例外を除いて、1年半余りに渡って貿易赤字が続いています。基調として貿易収支は赤字、というのが根付いた可能性があります。特に、10月統計で輸入が減少しましたが、引用した記事にもある通り、石油石炭税の増税前の駆込み需要の後の反動が出たものであり、特に石油価格が低下したわけでもなく、引き続き、発電向けの原油輸入は高水準にあります。

輸出の推移

上のグラフは特に輸出について詳しく見ています。いずれも季節調整していない原系列の金額ベースの輸出の前年同月比を寄与度で分解しているんですが、上のパネルは数量と価格に、下はアジア・北米・EUとその他の地域別に、それぞれ分解しています。上のグラフから、輸出の停滞は明らかに数量に起因し、地域別には北米が底堅く推移する一方で、欧州や中国をはじめとするアジア向けの輸出は減少を続けています。地域別の景気動向に合致した傾向を示しているわけで、特に、中国区向け輸出は景気動向に加えて領土問題が影を落としていると受け止めています。ただし、中国向け輸出は9月が前年同月比▲14.1%減だったのに対し、10月は▲11.6%減と減少幅を縮小していますので、貿易から読み取れる事後的な中国の反日感情は薄らいでいる可能性があります。領土問題が両国の貿易に及ぼす経済合理性がかなり小さいことは薄々気づいているんだろうと思います。

私は中国経済の専門家ではありませんが、中国の最大の輸出先は米国ではなく欧州であることくらいは知っています。ですから、ソブリン危機に伴う欧州の景気低迷は輸出を通じて日本以上に中国景気に悪影響を及ぼしている可能性があります。

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2012年11月20日 (火)

アジアの喫煙はいかにして減少させられるか?

先々週の終わりか先週の初めだったと思うんですが、アジア開発銀行 (ADB) から Tobacco Taxes: A Win–Win Measure for Fiscal Space and Health と題して、アジアの喫煙に関し既存研究に基づく簡単な試算を展開している興味深いリポートが発表されています。やや長くなりますが、このリポートから Executive Summary を引用すると以下の通りです。

Executive Summary
Two-thirds of the world's tobacco users live in just 15 countries, and 5 of these high-burden countries (People's Republic of China, India, Philippines, Thailand, and Viet Nam) are in Asia. This report aims to assess how changes in cigarette taxes can reduce consumption and save lives in these high-burden countries. In the absence of intervention, smoking will eventually kill about 267 million current and future cigarette smokers who are alive today in the five countries. We find that for all five countries, increases in cigarette prices (in the range of 25%–100%) effectively reduce the number of smokers and the number of smoking-related deaths, and generate substantial new revenues. In the five countries, a 50% price increase, corresponding to a tax increase of about 70%–122%, would reduce the number of current and future smokers by nearly 67 million and reduce tobacco deaths by over 27 million, while generating over $24 billion in additional revenue annually (a 143%–178% increase over each country's current cigarette tax revenue). The revenue increase, or "fiscal space," averages 0.30% of gross domestic product, with a wide range of 0.07%–2.52%. The poorest socioeconomic groups in each country bear only a relatively small part of the extra tax burdens, but reap a substantial proportion of the health benefits of reduced smoking. The ratio of health benefits accrued to the poor to the extra taxes borne by the poor ranges from 1.4 to 9.5. Thus, large increases in the cigarette tax in all of these countries are unusually attractive for public health and public finance, and are pro-poor in their health benefits.

要するに、アジアの中でも特に喫煙者の多い中国、インド、フィリピン、タイ、ベトナムの5か国について、タバコ税を引き上げてタバコの価格が上昇すれば、喫煙者を減らすとともに財政収入が増加する効果も期待できる、という一石二鳥の政策対応を試算しつつリポートしています。その結論となる Table 4 Changes in Cigarette Consumption and Deaths and Revenue with Various Price Increases をリポートの p.8 から引用すると以下の通りです。

Table 4 Changes in Cigarette Consumption and Deaths and Revenue with Various Price Increases

一番上の行の中国の例でこの表の見方を簡単に解説すると、50%のタバコ価格引上げにより、禁煙あるいは喫煙開始の防止で48.4百万人の喫煙人口が減少し、19.6百万人の死を回避することが出来る一方で、200億ドルの税収増加が見込める、ということになります。リポートの分析対象5か国全体では、同じく50%のタバコ価格引上げにより、禁煙あるいは喫煙開始の防止で66.5百万人の喫煙人口が減少し、27.2百万人の死を回避することが出来る一方で、247億ドルの税収増加が見込めます。なお、リポートでは喫煙の減少による医療費への効果は取り上げていませんが、喫煙が減れば健康の増進から医療費も低下する効果も見込めると私は考えています。ただし、長寿になる分、完備された年金制度があれば年金支給額は増えそうな気もします。でも、それはそれでご同慶の至りなのではないかと思わないでもありません。

習慣的に喫煙している者の割合の年次推移

上のグラフは、今年1月31日に発表された厚生労働省の「平成22年国民健康・栄養調査結果の概要」の p.22 から「習慣的に喫煙している者の割合の年次推移」を引用しています。この調査結果のうち、所得階層と生活習慣については、このブログでも2月2日付けのエントリーで取り上げています。上のグラフから読み取れますが、日本でもタバコの価格上昇が喫煙率の低下をもたらした、すなわち、2010年10月からかなり大幅にタバコが値上げされた結果、男女平均で▲3.9%ポイントの喫煙率低下につながった可能性が示唆されていると見ることも出来ます。もっとも、フォーマルな計量的検証はしていません。日本でもアジア諸国でも、いずこも同じで、タバコ価格を引き上げれば喫煙の減少につながるのは容易に想像できます。

タバコについてはついつい党派性が出て、このエントリーのような主張をすれば、喫煙擁護派から激しい反発を受けることもあるんですが、今夜取り上げたような科学的な分析に従えば、喫煙擁護派の多くの主張は根拠が怪しいと結論せざるを得ません。

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2012年11月19日 (月)

来年度の経済見通しやいかに?

先週月曜日11月12日に今年7-9月期のGDP統計1次QEが発表され、その後、シンクタンクなどからいっせいに経済見通しが発表されています。来月の2次QEの後にも改定見通しが発表されるんでしょうが、現時点で利用可能な情報に的を絞って、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。表に盛り込んだ年度のGDP成長率だけでなく、シンクタンクによっては四半期別の計数や成長率以外の物価上昇率や失業率なども発表している場合もあります。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名201220132014ヘッドライン
日本総研+0.7+1.1+0.52013年前半は自動車の反動減の影響が薄れるほか、海外景気も回復に向かうとみられるため、+1%台半ばの成長に復帰する見通し。このことから、わが国は今年の春以降に景気後退期に入った可能性が高いものの、比較的短期で後退局面を脱する見通し。さらに2013年度後半は、消費税率の引き上げを控え、耐久財消費や住宅投資などが増加する見込み。
ニッセイ基礎研+0.7+1.7▲0.5中国をはじめとした海外経済の持ち直しによって輸出が底入れする2013年1-3月期にはプラス成長に転じ、景気後退は比較的短期間で終了する可能性が高い。2013年度に入ると、個人消費、住宅投資で消費税率引き上げ前の駆け込み需要が発生し、高めの成長が続くだろう。駆け込み需要によって2013年度の実質GDPは0.7%押し上げられると試算される。ただし、2014年度は駆け込み需要の反動減に物価上昇に伴う実質所得低下の影響が加わるため、マイナス成長は避けられないだろう。
大和総研+0.7+0.9n.a.今後の日本経済のリスク要因としては、①「欧州ソブリン危機」の深刻化、②日中関係の悪化、③米国の「財政の崖」、④地政学的リスクなどを背景とする原油価格の高騰、⑤円高の進行、の5点に留意が必要である。
みずほ総研+0.8+1.1n.a.中国向けを中心とした輸出持ち直し、エコカー補助金の反動一巡で年明け後の景気は回復に向かうが、復興需要のピークアウトが予想される中で、2013年度前半は浮揚感の乏しい展開に。年度後半は消費税率引き上げ前の駆け込み需要により成長率ペースが加速。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+0.8+2.3+1.1世界経済の持ち直しに加え、13年初には、12年度補正予算の編成も想定しており、これらが景気を押し上げると予想している。13年度についても、復興事業が景気を下支えするほか、年度下期を中心に14年4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要の発生も見込まれる。また、設備投資の中期循環が上昇局面に転じるとみられることもあり、景気は堅調に推移しよう。一方、14年4-6月期には、駆け込みの反動に消費税増税の影響もあり、景気は一時的に弱含むものの、反動減の一巡後は、世界経済の堅調な推移、設備投資の中期循環の上昇などに支えられ、勢いを取り戻すことになろう。
三菱総研+1.0+1.5n.a.年内は海外経済の低迷や政策効果の剥落などを背景に内外需とも弱い状態が続くが、13年入り後は海外情勢の改善から輸出が持ち直し、さらに春以降は生産や内需にも波及するかたちで徐々に回復軌道に戻っていくと予想する。したがって、調整局面は比較的短期に止まるであろう。
第一生命経済研+0.8+1.3▲0.1足元の景気下振れを背景に成長率見通しを下方修正したものの、先行きについては悲観的な見方はしていない。12年3月をピークとして始まったとみられる景気後退局面は長期化せず、13年1-3月期以降には中国向け輸出の回復等を背景として景気は緩やかに持ち直すと想定している。その後、消費税率引き上げ前の駆け込み需要に伴って13年度後半にかけて成長率が高まるだろう(駆け込み需要によって13年度の成長率は0.5%ポイント程度押し上げられると想定)。一方、14年度には駆け込み需要の反動から景気は一時的に落ち込むことが予想され、年度全体でもマイナス成長になると予想する(再度の景気後退局面入りは予想していない)。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.5+1.0n.a.2013年度は、景気回復の動きが次第に確かなものになってくると予想される。年度末にかけては消費税率引き上げ前の駆け込み需要が加わるため、勢いに弾みがつくことになろう。公共投資のマイナス寄与が続くものの、輸出の持ち直しが続くことに加え、民需も底堅さを維持すると考えられる。ただし、回復力は弱く、期待される輸出の回復が遅れると、景気の底打ちのタイミングが後ずれする懸念がある。
みずほ証券リサーチ&コンサルティング+0.7+1.1n.a.日本経済は足元にかけて悪化しているが、海外経済の持ち直しに支えられて輸出が持ち直すとともに、自動車販売・生産の反動減も一巡してくるなかで、日本経済も持ち直しに転じていく可能性が高い。2013年度後半にかけては、消費税率の引き上げを控えた駆け込み需要が一時的に日本経済を押し上げることになろう。ただし、復旧・復興需要による下支えが次第に薄れていくとみられるなか、海外経済の回復が力強さには欠けると見込まれるとともに、民間需要の回復も緩慢なものに留まるとみられるため、基調として、回復ペースは緩やかなものに留まる可能性が高いと考えている。
伊藤忠商事経済研+0.9+1.6▲0.82012年後半の日本経済は民需と外需の低迷で極めて厳しい状況に陥り、景気後退局面。海外経済は2012年10~12月期から持ち直しも、日中間のトラブルが響き、その恩恵が日本に及ぶのは2013年以降に。2013年度の日本経済は、輸出の回復と消費税率引き上げ前の駆け込み需要により成長ペースが加速。しかし、2014年度は駆け込み需要の反動減でマイナス成長への転落を余儀なくされる見込み。
農林中金総研+0.8+1.3+0.7国内景気は2012年春ごろに「山」を通過、既に後退局面にある。復興に向けた公共事業は高水準で推移しているが、欧州債務危機や中国経済の減速、さらには日中関係の悪化などによる輸出の落ち込みやエコカー購入補助金制度終了後の乗用車販売の反動減などを相殺するには力不足であった。12年10-12月期もマイナス成長が続くと見られる。しかし、13年に入れば、徐々に世界経済の底入れの影響が出てくるものと思われ、国内景気も緩やかに持ち直し始めるだろう。さらに、13年度下期には消費税増税前の駆け込み需要も発生し、景気は一時的に押し上げられるが、14年度にはその反動減が出て景気は再び低調になると予想する。

極めて大雑把に、本年度2012年度の成長率見通しは大幅に下方修正されるものの、ギリギリでプラス成長を確保し、来年度2013年度は▲0.3-▲0.5%くらいのかなり大きなマイナスのゲタを持ちつつも、世界経済の持直しに伴う輸出増や消費税率引上げ前の駆込み需要に支えられて潜在成長率をやや上回る成長を示す、というのがエコノミストのコンセンサスであろうと私は受け止めています。問題は2014年度で、上のテーブルに取り上げた機関がすべて2014年度まで見通しを発表しているわけではないので何ともいえませんが、少なくとも、エコノミストであればほぼ全員が2014年4月から消費税率が引き上げられると考えているように私には見え、景気条項で先送りされるとの説を取るのはエコノミストの中では超少数派と考えています。余りお付き合いがないのでエコノミスト以外についてはよく分かりません。その上で、消費税率が引き上げられるんですから、直前の駆込み需要の反動もありますし、2014年度は2013年度よりも大幅に成長率がダウンすることは明らかですが、プラス成長を維持するのか、マイナス成長に転ずるのか、また、マイナス成長に転ずるとすれば景気後退まで達するのかどうか、がポイントになります。結論として、私は2014年度はマイナス成長に転ずるものの景気後退には至らない、と考えています。そう思って見るせいか、エコノミストの中でも同様の見方が多いような気がしないでもありません。もっとも、上のテーブルでは2014年度見通しを明らかにしている6機関のうち、プラスとマイナスは半々だったりします。基本的には、消費税率引上げ直前の駆込み需要の大きさに依存し、駆込み需要が大きいと反動減も大きく、逆は逆ということになります。ただし、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は観点が異なり、設備投資の中期循環が上向きに転じることにより日本経済は力強い成長経路に乗る、との見方です。誠についでながら、先週、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の嶋中所長のお話を伺う機会があり、長期のコンドラチェフ・サイクルから始まって、クズネッツ・サイクル、ジュグラー・サイクル、キチン・サイクルまで4つの景気循環のサイクルがすべて上向きになる「ゴールデン・サイクル」に日本経済が入るとの見通しを明らかにされていました。何ら、ご参考まで。
見通しに対するリスクもいくつかあり、主として海外経済に起因します。多くのリポートで指摘されている3点を私の見方でショックが大きい順に並べると、第1に欧州ソブリン危機です。エコノミストの間でもギリシア財政の破綻はかなり「あり得る」likely と見なされている一方で、私はギリシアよりもさらに規模の大きなスペインを懸念しています。第2に中国経済のバブル崩壊です。市場経済的な見方を当てはめれば、中国経済は景気後退にあるような気もするんですが、マルクス主義経済学というのは景気循環をコントロールする目的で形成されていますから、それほど落ち込みは大きくないものの、先行きは不透明です。しかし、多くのエコノミストは中国経済については短期楽観・長期悲観なんだろうと私は考えています。第3の米国の財政の崖はほとんどのエコノミストが回避されると見込んでいるんですが、実際の議会と大統領府というか、政治レベルの進展がマーケットから見て遅いという不安は残り、無用のジグザグした動きが引き起こされる可能性は否定できません。しかし、私が従来からもっとも強く指摘しているポイントですが、日本経済の最大のリスクは為替だと私は長らく考えています。設備投資循環の先行きについてはブログというメディアですので詳しく取り上げませんが、たとえ企業のキャッシュフローが投資に向かうと仮定しても、為替次第で国内で投資されるか、海外で投資されるか、により国内経済には大きな違いをもたらすことは認識すべきです。我が国の企業は多国籍企業なんだということをもう一度思い出す必要があるのかもしれません。為替は輸出というGDP需要項目に影響をもたらすだけでなく、投資に対しても国内で投資するか、海外に漏れるか、という違いをもたらす可能性を忘れるべきではありません。

実質GDP成長率の推移(四半期)

最後に、上のテーブルに上げた中では、ニッセイ基礎研、第一生命経済研、伊藤忠経済研の結果が私の意見にかなり近いんですが、一例として、ニッセイ基礎研のリポートの p.7 の実質GDP成長率の推移 (四半期) のグラフを引用すると上の通りです。四半期別の見通しですから、消費税率引上げ前後の駆込みと反動もよく見て取れます。少し前まで実施されていた家電エコポイントやエコカー補助金などにより耐久消費財の買換えサイクルが変化したとか、2015年度の2段階目の消費税率引上げを見越してとか、駆込みと反動は大きくないとの意見もチラホラ見なくもないんですが、これだけ情報化が進展するとともに、デフレ下で消費者が価格に敏感になっていますから、消費税率引上げに伴う駆込みと反動はかなり大きいと私は考えています。

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2012年11月18日 (日)

再結成された Re-Trick の新しいアルバム 「re: Re-trick」 を聞く

re: Re-trick

再結成された Re-Trick の新たしいアルバム re: Re-trick を聞きました。最初に、「再結成』と書きましたが、ホントに再結成して活動を続けるか、このアルバムの録音のためだけの一時的な再結成なのか、私はよく知りません。週刊誌やスポーツ紙の芸能欄も興味ないので見ていません。まず、収録曲は以下の通りです。なお、オフィシャルウェブサイトでは7曲目がなぜか抜けています。ご愛嬌なんでしょうか、ボーナストラックなんでしょうか。不明です。

  1. Decadence
  2. Yaya's Song#2
  3. Picasso
  4. Viridian Dance
  5. Beautiful Black (beyond description) feat, Kayo Aoyama
  6. Interlude
  7. Regeneration
  8. Song for BS
  9. Sketch
  10. Unreel
  11. State of Mind

私は実はこのピアノ・トリオのアルバムは Colors of Agenda しか聞いたことがありませんが、日本のジャズといえば、その昔のナベサダに代表されるようなメインストリームのジャズではないものの、人気の高いグループであり、私は決して嫌いではありません。わずかにCD300枚くらいしか入らない16GBの貧弱なキャパの私のウォークマンにも収録して普段から聞いています。なお、Picasso や Sketch などはどちらのアルバムにも収録されています。Re-Trick としては5枚目のアルバムであり、初めて青山佳代のボーカルがフィーチャーされています。私は概してボーカル曲は好きではないんですが、このアルバムの5曲目なんかは決して悪くありません。このアルバムもウォークマンに入れようかどうしようか迷っているところです。なお、国内のピアノ・トリオとしては、同じような雰囲気の演奏をするグループとして J.A.M が上げられます。アマゾンなどでいずれかのバンドのアルバムを検索したりすれば、もう一方のコンボも「この商品を買った人はこんな商品も買っています」に現れたりします。クオシモードもそうかもしれません。
最後に、以下の動画はオフィシャルウェブサイトにアップされている Picasso です。このピアノ・トリオで私のもっとも好きな曲のひとつです。

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2012年11月17日 (土)

岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿』(宝島文庫) を読む

岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿』(宝島文庫)

岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿』(宝島文庫) を読みました。上の画像に見る通り、『ビブリア古書堂の事件手帖』の2番煎じというか、2匹目のドジョウを狙った本であることは明らかです。もっとも、出版社は異なっています。まず、その出版社のサイトから本書の紹介文を引用すると以下の通りです。

珈琲店タレーランの事件簿
女性バリスタの趣味は――謎解き!理想の珈琲を追い求める青年が、京都の一角にある珈琲店「タレーラン」で、のっぴきならない状況に巻き込まれて……。魅惑的な女性バリスタが解き明かす日常の謎の数々。第10回『このミステリーがすごい!』大賞最終候補作に、全面的に手を入れて生まれ変わった、編集部推薦の「隠し玉」。

ハッキリいって、読み始めた当初、まったく面白くも何ともありませんでした。後の方は少しマシになった程度で、基本的に製本して売り出す内容ではなく、最初は同人誌のレベルと考えて読み始めたほうがいいです。でも、段々と面白くなることは確かで、すべてがすべて「同人誌」とはいいません。ただし、最後の終わり方は評価が分かれそうです。ついでながら、我が家ではおにいちゃんが私より先に読み終えたんですが、渡した時に栞を挟んでおいたにもかかわらず、栞は使わなかったというので理由を尋ねると「一気読みした」と答えたので、重ねて、そんなに面白かったのかと尋ねると、否定的な回答が返って来ました。分かる気がします。私は『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズは3作目まで読みましたが、少なくともミステリとしては格段に落ちます。珈琲店の女性バリスタがミルでコーヒー豆を挽きながら謎解きをするんですが、あとがきにもある通り、ミステリとしては詰めが甘い気がします。
作者は我が母校の京都大学の後輩ということで、私がよく読むところでは、貴志祐介、綾辻行人、法月綸太郎、平野啓一郎、万城目学、といったラインかもしれません。珈琲店タレーランは京都にあるということで、コーヒーと京都に関する蘊蓄が傾けられています。しかし、私はコーヒーの本場の南米やインドネシアにそれぞれ3年も駐在しながらコーヒーはまったく飲まなかったくらいですから、特にコーヒーには興味なく、大学を卒業するまで京都に暮らしていましたので、あるいは、ひょっとしたら、作者よりも詳しく知っている京都がありそうな気もしますので、いずれの蘊蓄話にも関心はしませんでした。ただし、私の場合は特殊な例外ですので、それなりにコーヒーが好きで、京都へは旅行だけという大多数の日本人には受けそうな蘊蓄話があるような気がします。ただし、登場人物の命名はセンス悪いと多くに日本人が感じるのではないかと受け止めています。

文庫本で安価だったとはいえ、買ったのはやや失敗だったかもしれないと反省しています。私独自の分類では買う本ではなく、明らかに借りる本です。

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2012年11月16日 (金)

宮本勝浩『「経済効果」ってなんだろう?』(中央経済社) を読む

宮本勝浩『「経済効果」ってなんだろう?』(中央経済社)

宮本勝浩『「経済効果」ってなんだろう?』(中央経済社) を読みました。著者は産業連関表分析を専門とするエコノミストで、長らく大阪府立大学に所属していたんですが、現在では関西大学に移っているらしいです。阪神タイガース優勝の経済効果などでお名前を伺った記憶があります。まず、簡単ですが、出版社のサイトから本の紹介を引用すると以下の通りです。

本の紹介
時折マスコミで取り上げられる経済効果。本書では、こんなものやあんなもの、この人やあの人の経済効果を計算してみました。楽しく読みながら、経済効果について考えてみませんか。

当然ながら、学術書ではあり得ません。一般書です。阪神タイガースの優勝やAKB48、東京スカイツリーや和歌山のたま駅長など数々の経済効果を詳しく記述した本です。最初のAKB48や東京スカイツリーの経済効果などで、シュンペーターのイノベーションを解説し、新しい商品、新しい生産方法、新しい販売先、新しい仕入れ元、新しい組織、の5点から、阪神の優勝やAKB48がシュンペーター的なイノベーションであることを確認した後は、ひたすら宮本教授が過去に推計した経済効果について詳しく羅列しています。誠に残念ながら、羅列としか私には見えません。ですから、本のタイトルは『「経済効果」ってなんだろう?』ではなく、『「経済効果」はどれくらいだろう?』の方が適当だという気がします。
読んでつまらなかったので批判になってしまいますが、改善点として以下の3点が考えられます。第1に、産業連関分析の基礎について分かりやすく解説すればどうでしょうか。波及効果については少し記述がありますが、産業連関表の逆行列などはすっ飛ばされています。ブラックボックスがあっては興味が湧きません。「経済効果」の解説が第7章の10ページ少々では物足りない読者もいそうな気がします。第2に、本書で取り上げたすべての「経済効果」を平板に羅列するのではなく、特定のトピック、例えば阪神の優勝とか、AKB48の経済効果だけについては、前提の置き方などを思いっ切り詳しく解説してみてはどうでしょうか。第3に、例外的なイベントもなくはないですが、本来の目的が別にある出来事については、きちんとした記述をすべきです。すなわち、「経済効果」はあくまで2次的な効果であることを認識していないような記述がいくつか見受けられます。大阪マラソンは経済効果だけを期待して開催されるわけではありませんし、世界遺産登録や各種の博覧会もそうです。
以上3点のほかに、最後にオマケで、改善点というよりも私の従来からの主張なんですが、経済効果については、ピンポイントで「xx億円」と有効数字5桁とか6桁で出すのは逆に信憑性に欠けます。というか、意地悪な見方をすれば、「お遊び」の雰囲気が出てしまいかねません。ですから、有効数字を絞るとともに、ある程度の幅を持って示すべきです。例えば、経済効果に関する予想の中央値か平均値かはピンポイントで「xx億円」と表現するとしても、95%の信頼区間で「±x億円」と但し書きをつけるとか、何らかの工夫が必要そうな気がします。おそらく、この信頼区間を出す方が難しいので中央値か平均値だけをピンポイントで示しているんだろうと想像しており、この点は政府統計や経済見通しなんかも同じなんですが、日銀などは工夫して見通しを提供し始めており、考えるべき点だという気がします。

著者も書いているうちに段々と興に乗って来ていて、私は経済効果はあくまで「推計」や「試算」するものだと考えていますが、「xx億円となった」という表現がやたらと使われています。「諸前提を置けばこうなった」という意味なんでしょうから、まあいいような気もしますが、中には、大阪マラソンの経済効果は「立証」にまで「神格化」されています。著者の表現の問題というよりも、編集者に人を得なかったのかもしれないと同情しています。5ツ星をフルマークとして、2ツ星は厳しいと私は考えます。せいぜい、1.5ツ星くらいでしょうか。

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2012年11月15日 (木)

国際エネルギー機関 (IEA) の「世界エネルギー見通し」World Energy Outlook 2012

このブログでのトピックのフォローがやや遅れ気味なんですが、今週に入って11月12日の月曜日に国際エネルギー機関 (IEA) から「世界エネルギー見通し」 World Energy Outlook 2012 が公表されています。全文資料は2年後に無料で提供されるようになるまで、現時点では有料で購入せねばなりませんので、エグゼクティブ・サマリーを参照しつつ、いくつかグラフをプレス向けのスライドから引用したいと思います。

Share of global energy demand

まず、Share of global energy demand は上のグラフの通りです。1975年から2010年、2035年にかけて、エネルギー需要が世界全体で大きく増加していることはもちろんですが、生活水準の向上に伴って、中国、インド、中東のエネルギー需要のシェアが高まっているのが見て取れます。当然のように、先進国で構成されるOECD諸国のシェアが低下しています。逆U字型を示す環境クズネッツ曲線がバックグラウンドにあるとことも推察されます。

Middle East oil export by destination

これも、新興国のエネルギー需要の増加を裏付けているグラフですが、Middle East oil export by destination ということで、原油輸出国の集中している中東からの石油輸出先の推移を2000年、2011年、2035年までの推計を示しています。Japan & Korea がいかにも環境クズネッツ曲線のようなシェイプを示していますが、特に注目すべきは米国の低下です。米国における石油・ガス生産は、軽質タイトオイル、シェールガス資源の開発・利用の進展から、2020年代半ばまでに米国がサウジアラビアを抜いて世界最大の石油生産国になるとともに、2030年ころに北米は石油の純輸出国となる可能性が指摘されています。この点を明らかにしたのが下のグラフ Net oil & gas import dependency in selected countries です。2010年から2035年への変化をプロットしています。米国の輸入石油への依存度が顕著に低下するとともに、ガスについては純輸出国に転じています。

Net oil & gas import dependency in selected countries

量的なエネルギー需要とともに価格も目配りされており、下のグラフは Average household electricity prices, 2035 が示されています。我が国の震災と福島第一原発の事故に伴って、発電分野において原子力が後退し、再生可能エネルギーがシェアを伸ばすのは、このリポートでも見込まれています。十分な電力が供給されるかという量的な面とともに、気にかかるのはコストですが、欧州や日本では電力価格は OECD 平均と比べても高いと見込まれています。

Average household electricity prices, 2035

最後に引用するグラフは、下の通り、Energy expenditure in 2035 compared with 2010 です。リポートでは、エネルギー効率の高い世界を実現するためのシナリオとして、中国におけるエネルギー原単位を引き下げ、単位GDP当たりのエネルギー消費を抑えるとともに、米国の自動車への新たな燃費基準の適用、欧州や日本における省エネルギーの進展などを想定しており、このシナリオが進めば、中国やインドでもエネルギーコストの上昇が抑えられ、先進国ではコスト増はかなりゼロに近づき、日本では2035年のエネルギーコストは2010年から低下するとさえ見込まれています。

Energy expenditure in 2035 compared with 2010

エネルギーのフローは世界でかなり複雑に絡まり合っており、常に一般均衡的に考えるべき課題であるとともに、食料や水資源もそうなんですが、単に経済的な観点だけでなく、安全保障の観点からも考慮する必要のあるテーマです。IEAの見通しが正しくて、米国が中東へのエネルギー依存を大きく低下させるとすれば、政治的に不安定な中東が何らかの影響を受けることは間違いありません。我が国に関しては、昨年から原子力発電の位置づけが大きく変化しつつあります。コチラも安全保障と無関係ではありません。

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2012年11月14日 (水)

今冬の年末ボーナスやいかに?

先週半ばに最後のみずほ総研がリポートを出して、シンクタンクから冬季ボーナス予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因ですので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、日本総研と三菱UFJリサーチ&コンサルティングについては国家公務員を取っています。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研37.0万円
(▲0.7%)
56.3万円
(▲8.7%)
背景には、2012年度上期の企業収益の低迷。エコカー補助金効果や復興需要が下支えとなったものの、円高の長期化や海外景気の減速を背景として輸出が弱含み、製造業を中心に収益が悪化。また賞与額のベースとなる所定内給与も減少傾向が続いており、一人当たり賞与額の下押し要因となる見込み。
みずほ総研36.6万円
(▲1.7%)
70.3万円
(▲0.9%)
ボーナス査定の基礎となる所定内給与も前年割れが予想される。足元の所定内給与は建設業や個人消費関連の業種を中心に非製造業が底堅い動きとなっているものの、輸出の低迷などを受けて製造業が弱含んでいる。また、雇用構成の変化(相対的に賃金が低い飲食・宿泊業や医療・福祉のパート労働者の増加)も、引き続きマクロベースの賃金押し下げ要因となっている。
第一生命経済研36.7万円
(▲1.5%)
n.a.
(▲8.4%)
2012年冬のボーナスも減少が予想される。ボーナスの交渉は、春闘時にその年の年間賞与を決定する夏冬型、秋にその年の冬と翌年の夏の賞与を決定する冬夏型、賞与の度に交渉を行う毎期型などがあるが、大企業では夏冬型が最も多い。既に12年の春闘において、自動車など主要企業のボーナスは、悪化した11年度の業績を反映する形で軒並み前年水準を下回る形で妥結されているため、大企業では冬のボーナスも削減されるだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング36.7万円
(▲1.6%)
56.3万円
(▲8.8%)
2012年冬のボーナスは4年連続で減少し、過去最低水準をさらに更新すると見込まれる。ボーナス算定のベースとなる所定内給与の低迷が続いている上、ボーナスに反映されるであろう2012年度上期の経常利益は製造業を中心に伸び悩んだ可能性が高い。

あくまで一例ですが、上の4機関の冬季ボーナス予想のうち、最後の三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートから冬季ボーナスの推移をプロットしたグラフを引用すると以下の通りです。リポートの p.6/8 図表5. 冬のボーナス予測: 平均支給額(前年比)と支給月数を引用しています。もちろん、グラフ右端の「予測」は三菱UFJリサーチ&コンサルティングによるものです。

冬のボーナス予想

ということで、民間企業ボーナスの1人当たりの支給額については、企業収益の状況から昨年よりも減少するのはほぼコンセンサスのようです。賞与の統計については、1990年というバブル経済の最末期から統計が始まっており、統計が比較可能な範囲で最低の年末ボーナスとなるのかもしれません。公務員ボーナスについては、震災復興費用捻出のための「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」に基づく9.77%の減額措置により、大幅に前年から減少するものの、引き続き、民間企業と比べて高い水準にあります。なお、いつものお断りですが、みずほ総研の公務員ボーナスだけはなぜか全職員ベースなのに対して、ほかは組合員ベースの予想ですので、数字が大きく違っています。注意が必要です。
支給総額については、1人当たり支給額に支給対象人数を乗じて算出されるわけですが、上に取り上げたシンクタンクにより意見が分かれました。雇用者数の増加に伴う支給対象者が増加するのは各シンクタンクとも共通なんですが、支給者増が1人当たり支給額の減少を上回るかどうかで、日本総研は支給者増の効果が大きく支給総額は前年より増えると予想したのに対して、他のシンクタンクは1人当たり支給額の減少率が支給者の増加率を上回り、支給額は減少すると見込みました。従って、後者の支給総額減の方が多数派なんですが、そうだとすれば消費にマイナスの影響を及ぼしかねないのは明らかです。

私のような国家公務員は、そもそも赤字国債法案が成立しないと年末ボーナスが支払われないリスクもありました。額は大きく減るものの、何とかボーナスが出ることになって安心しております。

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2012年11月13日 (火)

OECDの超長期経済見通し Looking to 2060 を読む

やや旧聞に属する話題ですが、先週金曜日の11月9日に経済開発協力機構 (OECD) から「2060年の経済予想」 Looking to 2060 が発表されました。副題は Long-term growth prospects for the world となっています。まず、リポートの Abstract/Résumé を引用すると以下の通りです。

Abstract/Résumé
This report presents the results from a new model for projecting growth of OECD and major non-OECD economies over the next 50 years as well as imbalances that arise. A baseline scenario assuming gradual structural reform and fiscal consolidation to stabilise government-debt-to GDP ratios is compared with variant scenarios assuming deeper policy reforms. One main finding is that growth of the non-OECD G20 countries will continue to outpace OECD countries, but the difference will narrow substantially over coming decades. In parallel, the next 50 years will see major changes in the composition of the world economy. In the absence of ambitious policy changes, global imbalances will emerge which could undermine growth. However, ambitious fiscal consolidation efforts and deep structural reforms can both raise long-run living standards and reduce the risks of major disruptions to growth by mitigating global imbalances.

何しろ、約50年先までの超長期見通しなんですが、読む前から明らかな点もいくつかあります。例えば、後にグラフを示しますが、中国が世界一の経済大国になり、OECD加盟34国と主要新興国8国の購買力平価のGDP合計における日本のシェアが2010年の7%から徐々に低下します。多くの日本人が直感的にしろホンワカと理解している将来像にかなり近いという気がします。ということで、今夜のエントリーでは、リポートからいくつかグラフを引用したいと思います。

Contribution of drivers of growth to annual average GDP per capita growth 2000-2011

まず、p.12 Figure 1. Scope for catch-up in productivity and human capital in many countries の B: Contribution of drivers of growth to annual average GDP per capita growth 2000-2011 を引用したのが上のグラフです。タイトルの通り、2000年から2011年までの1人当たりGDPの成長に対する労働、資本、生産性の寄与をプロットしています。そもそも、この期間で日本は1人当たりGDPの成長が極めて小さいんですが、このグラフでも労働と生産性がマイナスの寄与を示している一方で、資本はプラスに寄与しています。特に注目すべきは、量的な労働はマイナスの寄与ながら、質的な人的資本はこのマイナスを打ち消すほどのプラスを示していることです。繰返しになりますが、このグラフは将来推計ではなく2000年から2011年の実績です。

Educational attainment will increase over time

次に、p.19 Figure 6. Educational attainment will increase over time を引用しています。すなわち、量的に労働が減少して行く中で、質的な人的資本により生産性を補うとすれば教育がひとつのキーポイントになるとい私は考えており、先ほどの成長率のグラフでは我が国はイタリアに次いでほぼ左端に位置していたんですが、上のグラフのように成人が学校に通う年数を1970年時点、2010年時点、2060年時点でプロットすると、日本は右から6番目に来ます。現在の文部科学大臣が大学の数が多過ぎると考えているかどうかは私には不明ですが、大学の質はともかく、一般論として、教育年限が長いことは生産性に何らかのプラスの効果を有する可能性が高いと考えるべきです。

Multi-factor productivity tends to converge across countries over 2011-2060

次に、p.21 Figure 8. Multi-factor productivity tends to converge across countries over 2011-2060 を引用しています。少し話が元に戻りますが、このリポートはいかにもバロー教授などが提唱したような「収れん理論」に基礎を置いています。すなわち、1人当たりGDPで代理させている所得水準が高い国では所得の伸びは低く、逆に、所得水準の低い国では伸びが高くなり、長い目で見れば世界各国の所得水準は一定の範囲に収れんする方向に向かう、との理論です。ということで、上のグラフのように、縦軸に生産性の伸びを取り、横軸に生産性の水準を取れば、右下がりの負の相関を有するグラフが現れます。このグラフの中の日本に位置を見ると、生産性の水準はそれほど高くないのに、伸びはかなり低い、というように見受けられます。

Convergence in GDP across countries is mainly driven by education and productivity improvements

さらに、p.22 Figure 9. Convergence in GDP across countries is mainly driven by education and productivity improvements を引用しています。先行きの2011年から2060年のシナリオにおける推計されたGDP成長率への労働と資本と生産性の寄与をプロットしています。またしても、日本は成長率が低いので左から3番目に位置しているんですが、生産性と人的資本による成長への寄与は他の先進国と比べても遜色ないことが読み取れます。資本蓄積は各国とも長期にはほぼ成長に中立でしょうし、労働、すなわち、人口の減少が我が国経済の最大のネックになっているのかもしれません。

There will be major changes in the composition of global GDP

ということで、メディアが大いに取り上げている結論となる p.23 Figure 10. There will be major changes in the composition of global GDP のグラフが上の通りです。最初に書いたように、OECD加盟34国と主要新興国8国の購買力平価のGDP合計における日本のシェアは2010年の7%から2030年4%、2060年3%と低下します。逆に、中国やインドはシェアを拡大します。直感的に多くの日本人が理解している将来像に近く、このGDPシェアの低下を何としても避けなければならないと考えている日本人は多くないと私は受け止めています。むしろ、1人当たりのGDPで代理されている所得の豊かさのような指標とか、このリポートではほとんど取り上げられていない幸福度などの指標が日本では政策目標のひとつに取り入れられるべきであると考える日本人は少なくないと想像しています。

Global imbalances are projected to rise over the next two decades

結論までたどり着いてしまったので、最後の上のグラフはオマケなんですが、p.27 Figure 14. Global imbalances are projected to rise over the next two decades を引用しています。国際的な対外不均衡は2030年まで拡大し、後に縮小に向かうと想定されています。世界に占める相対的な経済規模が縮小することもあり、日本の経常収支不均衡は、2020年以降、ほとんど世界に影響を及ぼさなくなります。日本が貿易摩擦などに巻き込まれるのは過去の20世紀的な出来事だったのかもしれません。

国際機関のリポートを取り上げるのは、このブログのひとつの特徴なんですが、今夜のリポートは余り新味もなく、日本人であれば直感的に思い描いている世界経済の将来像に近い姿を示しているのではないかと私は受け止めています。

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2012年11月12日 (月)

7-9月期GDP速報1次QEに見るマイナス成長はいつまで続くか?

本日、内閣府から7-9月期のGDP統計1次QEが発表されました。季節調整済みの系列で前期比成長率が▲0.9%、前期比年率で▲3.5%のマイナス成長を記録しました。ほぼ市場の事前コンセンサスにミートしました。復興需要に支えられた公共投資は増加したものの、消費、設備投資、外需などが軒並み減少しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を引用すると以下の通りです。

7-9月実質GDP、実質3.5%減 内外需ともマイナス
内閣府が12日発表した2012年7-9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.9%減、年率換算で3.5%減となった。マイナス成長は3四半期ぶり。海外経済の減速で輸出が細り、エコカー補助金の終了で内需も弱まった。景気がすでに後退局面に入ったとの見方を一段と強める結果となった。
マイナス成長の主因となったのは外需の落ち込みで、成長率を0.7ポイント押し下げた。これまで景気を支えてきた内需も0.2ポイントの低下要因となり、東日本大震災が起きた11年1-3月期以来で初めて内外需ともにマイナスとなった。
全体の成長率は市場予想(年率マイナス3.6%)とほぼ同じで、マイナス幅は11年1-3月期(年率マイナス8.0%)以来の大きさ。より生活実感に近い名目成長率はマイナス0.9%(年率3.6%減)だった。GDPは季節要因を除いた数値を過去にさかのぼって算出するため、昨年10-12月期が今回の改定でマイナス成長に転じた。
実質成長率の主要項目をみると、個人消費は0.5%減と2四半期連続のマイナスで、11年1-3月期以来の大きなマイナス幅となった。自動車販売を支えてきたエコカー補助金が9月21日に終了し、耐久財を中心に冷え込んだ。電気・ガスなどの光熱費を含む非耐久財も節電などの影響で2四半期連続で減った。
景気の先行き不透明感が強まり、企業の設備投資は3.2%減と2四半期ぶりのマイナス。マイナス幅は08年のリーマン・ショックの影響がまだ残っていた09年4-6月期以来の大きさとなった。
輸出は5.0%減と3四半期ぶりのマイナス。米国や欧州、アジアと主要地域向けがすべて減少した。輸入も0.3%減と5四半期ぶりに減少した。原油や天然ガスが減り、内閣府は「国内生産が弱含みで推移して燃料輸入が減った」と分析している。
堅調さを保っているのは復興需要だ。公共投資は東北を中心に4.0%増と3四半期連続でプラスだった。政府支出も少子高齢化に伴う医療費や介護費などの拡大で0.3%増と10四半期連続で増加。これらの公的需要は成長率を0.3ポイント押し上げた。
総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比0.7%のマイナス。季節調整値の前期比はマイナス0.02%。マイナス幅は4-6月期から縮小した。ただこれはGDPから除外される輸入品で特に原油価格の下落が顕著だったためで、緩やかなデフレ基調は変わっていない。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。

需要項目2011
7-9
2011
10-12
2012
1-3
2012
4-6
2012
7-9
国内総生産GDP+2.3▲0.3+1.3+0.1▲0.9
民間消費+1.6+0.5+1.2▲0.1▲0.5
民間住宅+4.2▲0.1▲1.1+1.5+0.9
民間設備+1.3+5.0▲1.9+0.9▲3.2
民間在庫 *+0.3▲0.4+0.3▲0.2+0.2
公的需要▲0.1+0.1+1.6+0.9+1.1
内需寄与度 *+1.5+0.5+1.1+0.2▲0.2
外需寄与度 *+0.8▲0.8+0.1▲0.1▲0.7
輸出+8.8▲4.3+3.3+1.3▲5.0
輸入+3.6+0.9+2.2+1.8▲0.3
国内総所得GDI+2.1▲0.3+1.0+0.1▲0.5
国民総所得GNI+1.9▲0.3+0.9+0.3▲0.5
名目GDP+2.1▲0.6+1.4▲0.3▲0.9
雇用者報酬▲0.4+0.7▲0.3+0.1+0.4
GDPデフレータ▲2.1▲1.8▲1.3▲0.9▲0.7
内需デフレータ▲0.7▲0.5▲0.4▲0.6▲0.8

さらに、テーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7-9月期の最新データでは、前期比成長率がマイナスであるとともに、それに寄与しているのが黒の外需と赤の消費と水色の設備投資であり、逆にプラスで経済を下支えしているのが黄色の公的需要であるのが見て取れます。

GDP前期比成長率と需要項目別寄与度の推移

先週11月7日の1次QE予想のエントリーで考えた通り、ほぼ私の予想と同じ前期比年率▲3%台半ばのマイナス成長となりました。季節調整済みの前期比成長率▲0.9%のうち、内需寄与度が▲0.2%、外需が▲0.7%ですが、内需には後ろ向きの在庫積上りが+0.2%含まれます。それでも、外需が主として成長の足を引っ張った形であることは変わりありません。もっとも、内需の中心である消費と設備投資はマイナスで、内需の中でも復興需要の公的需要が下支えしている姿となっています。要するに、景気後退局面にあることが確認された内容と受け止めています。
現在進行中の10-12月期については、世界経済が緩やかに持ち直しつつある中で我が国の輸出の増加が望める一方、消費や設備投資の復調はにわかには実現せず、前期比年率で▲1%くらいのマイナス成長が続くと私は想定しています。さらに、米国が財政の崖を回避し、中国が国境問題を先鋭化させないという大甘な前提が満たされるとすれば、来年1-3月期にはプラス成長に転じて、現下の景気後退局面からの脱却が展望できると私は考えています。
政策対応として、現在の景気後退局面やこの7-9月期のマイナス成長を見て、2014年度からの消費税率引上げを危ぶむ見方が一部のエコノミストやメディアなどから表明されています。私の見方からすれば、消費税率の引上げ見送りはまったく非現実的であり、3党合意の下でこの問題だけは大連立を組んだ形になっているわけですから、この程度の成長率の低下では消費税率引上げは何の問題もなく実行されると予想しています。

最後に、今回の景気後退局面入りは私にはかなり認定が難しかったです。単にエコノミストとしての力量が落ちている可能性が高いんですが、東京スカイツリーや渋谷ヒカリエや新宿ビックロなどの開業、10月のIMF・世銀総会の開催、果てはジャイアンツの優勝に至るまで、東京の景況感が全国平均に比べて特異に高くなっている可能性があります。地方の景況感はどうなんでしょうか。

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2012年11月11日 (日)

誠に残念、映画「悪の教典」は R15+ 指定で封切り!

映画「悪の教典」ポスター

この週末から映画「悪の教典」が封切られています。しかし、誠に残念ながら R15+ の指定となっており、原作を読んだ我が家の下の子は見ることが出来ません。怪物教師が同僚の教師や教え子である生徒を殺害しまくるんですから、映画ではそれなりに生々しいシーンが現れるんでしょう。下の子と協議しましたが、さすがに年齢指定されると手も足も出ない、という結論に達しました。1人で見てもしょうがないので、私もこの映画は諦めることにします。

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今日は我が家の結婚記念日!

今日は、私と女房の結婚記念日です。上の子が高校生ですから、結婚式は20年近く前のことになります。めでたいとお考えの向きは、このブログ恒例のジャンボくす玉を割ってやって下さい。

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2012年11月10日 (土)

11月15日の解禁前にボジョレー・ヌーヴォーに関するアンケート調査結果を見る

一昨日11月8日にネオマーケティングから「ボジョレー・ヌーヴォーに関する調査」と題するアンケート調査結果が発表されています。ボジョレー・ヌーヴォーが11月15日に解禁される直前のタイミングを捉えて公表されています。私は晩酌はまったくしませんのでサッパリ分からないんですが、それだけに、こういったお酒を飲む人の心理というのは興味があります。まず、リポートから【調査結果概要】の下線部だけを引用すると以下の通りです。

【調査結果概要】
【1】家飲み派が1位の87.7%
【2】購入場所1位は「スーパーマーケット」の64.3%
【3】一緒に飲みたい芸能人 1位「黒木瞳」 2位「杉本彩」 3位「藤原紀香」

まず、ボジョレー・ヌーヴォーをどこで買ってどこで飲むか、というエコノミスト的な観点も入りそうな質問については、上の【調査結果概要】にもある通り、「スーパーで買って家で飲む」というのが圧倒的な多数派を占めます。リポートの解説にもある通り、その昔は、気合を入れて着飾ってフランス料理のフルコースでも頼んで高級ワインを楽しむ、という成金ニッポン的なパターンもあるにはあったのかもしれませんが、私は飲まないのでよく知らないものの、今や、ペットボトルや紙パック入りのワインもあるらしく、ボジョレー・ヌーヴォーなどの手ごろなワインは安く売っているスーパーやディスカウント店で買って、自宅で気軽に飲む、という方向に変化しているようです。容器の廃棄の際もエコなのかもしれません。

いっしょにボジョレー・ヌーヴォーを飲みたい有名人

3番目の問い「いっしょにボジョレー・ヌーヴォーを飲みたい有名人」に対する回答のグラフが上の通りです。上位は女性が占めています。有名人に対する好みに大きく左右されるので何ともいえませんが、少し前まで日経新聞のwebサイトでイヤになるくらいコマーシャルを見かけた「眞鍋かをりと田崎真也が語り合うワインとチーズとヨーロッパの旅」の眞鍋かをりは選に漏れたようです。リポートでは「ワインの似合う大人っぽい女性が選ばれた」と解説されていましたが、上位3人を見ても、上位5人まで広げても平均年齢は40歳を超えているように見受けられます。日本全体の高齢化の進展とともに、こういった場面で選ばれる有名人の年齢もジワジワと上がっているように感じるのは私だけでしょうか。

あるエコノミストの意見ですが、日常的な娯楽について考えた場合、どう考えても期待値が大きなマイナスになるパチンコや競馬といったギャンブルは論外ですし、極めて高率の税が課されている酒・タバコも、とても合理的とは考えられません。だからというわけでもないんですが、私の場合、図書館で無料で貸してくれる本の読書をはじめとして、ほかにジャズと映画の室内競技に加えて、マイカーより格段にコストの低い自転車と公営のプールも少なくない水泳といったスポーツを余暇活動の中心にしています。でも、高校生と中学生の子供達が何年かしてお酒を飲める年齢に達したなら、たとえ高率の税が課されているとしても、お正月やボジョレー・ヌーヴォーの解禁などの折に一家で少しお酒も飲んでみたい気もしています。

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2012年11月 9日 (金)

消費者態度指数に見る消費者マインドやいかに?

本日、内閣府から10月の消費者態度指数が発表されました。昨日の景気ウォッチャーが供給サイドのマインドであるのに対して、コチラは典型的に需要サイドのマインドを示す指標です。前月から▲0.4ポイント悪化して39.7となりました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の消費者態度指数、前月比0.4ポイント低下の39.7
内閣府が9日発表した10月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比0.4ポイント低下の39.7だった。悪化は2カ月連続。前年同月と比べると1.4ポイント上昇した。
内閣府は消費者心理の基調判断を「弱含みとなっている」に据え置いた。
態度指数は消費者の「暮らし向き」など4項目について今後半年間の見通しを5段階評価で聞き、指数化したもの。全員が「良くなる」と回答すれば100に、「悪くなる」と答えればゼロになる。

次に、消費者態度指数の季節調整済み系列のグラフは以下の通りです。影をつけた部分は景気後退期です。

消費者態度指数の推移

引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府が基調判断を「弱含み」に据え置いたからでもないんですが、2か月連続の低下とはいえ、今年に入ってほぼ横ばい圏内の動きが続いていると私は受け止めています。昨日発表の景気ウォッチャーが特に雇用指標を下げたのに対し、消費者態度指数はほぼ均等に下げています。すなわち、季節調整済み指数の前月との差で見て、「暮らし向き」▲0.5、「収入の増え方」▲0.2、「雇用環境」▲0.5、「耐久消費財の買い時判断」▲0.4、となっています。景気ウォッチャーと違って、雇用や収入が極端に10月から悪化したという実感は消費者マインドにはないことが確認されました。しかし、企業などの供給サイドのマインドは、9月半ば以降、尖閣諸島における中国との国境問題から一気に悪化しており、一定のラグを伴って消費者サイドに波及するのは時間の問題と私は受け止めています。すなわち、目先のモメンタムとして消費者マインドの先行きは悪化の方向にあることは認識すべきです。特に、消費者態度指数は8月に例外的に猛暑でマインドが改善したものですから、その後も下げ渋っている面があるのではないかと私は受け止めています。

夏以降の東京ではIMF・世銀総会やテレビをはじめとする耐久消費財価格が全国平均よりも速いペースで低下するなど、東京の景況感と全国の平均で乖離を生じている可能性があると私は考えています。いつも話題になりますが、景気が下降する局面で東京と地方の格差がどのようになるかも注目すべきであろうと思います。

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2012年11月 8日 (木)

本日発表の機械受注と景気ウォッチャーと国際収支を振り返る

本日、内閣府から機械受注景気ウォッチャーが、また、財務省から経常収支などの国際収支が、それぞれ発表されています。機械受注と経常収支は9月の、景気ウォッチャーは10月の統計です。いずれも、少しびっくりするくらいに弱い数字が出ています。景気後退はいよいよ確定なのかもしれません。まず、長くなってしまいますが、いつもの日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じた記事を引用すると以下の通りです。

9月機械受注、2カ月連続減少 10-12月は3期ぶり増加見通し
内閣府が8日に発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の受注額(季節調整値)は前月比4.3%減の6862億円だった。電気機械など製造業からの受注が少なく、2カ月連続でマイナスとなった。
機械受注統計では製造業や非製造業(船舶・電力を除く)を別々に季節調整しているため、単純合計が全体の受注額と合わないケースがある。このため製造業が2.8%増、船舶・電力を除いた非製造業は1.3%増と、ともにプラスとなった。
2カ月ぶりにプラスとなった製造業では、その他輸送用機械業からは航空機などの受注が増えた。一方、電気機械業から半導体製造装置の受注が減少。一般機械や自動車及び付属品業からは工作機械の受注が減った。非製造業では、運輸業から鉄道車両が受注されるなど100億円を超える大型案件が押し上げた。
7-9月期の実績は前期比1.1%減の2兆1456億円だった。内閣府が8月にまとめた見通し(1.2%減)を上回ったものの、2四半期続けてマイナスとなり、受注が活発とは言えない。
10-12月期は5.0%増と3四半期ぶりのプラスを見込む。製造業が6.9%減と落ち込む一方で、電子通信機械や鉄道車両の受注が見込まれる非製造業では14.3%増と比較可能な2005年以降で最大の伸び率が見込まれている。
内閣府は機械受注について「足元は弱い動きもみられるものの」との文言を加えたが、10-12月期が好調を維持される見通しから「基調としては一進一退で推移している」と判断は据え置いた。
船舶・電力や官公需を含む9月の受注総額は前月比9.6%増の1兆8160億円と3カ月ぶりのプラスだった。電力業からボイラーや原子炉設備の受注が増えたこともあって民需は15.4%増。海外経済の減速を受けている外需もほぼ横ばいだった。外需の10-12月期の見通しは前期比1.8%増と3四半期ぶりのプラスが見込まれている。
街角景気、3カ月連続で悪化 判断「さらに弱まっている」に修正
内閣府が8日発表した10月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は前月比2.2ポイント低下の39.0と、3カ月連続で悪化した。指数が40を下回るのは2011年5月(36.0)以来、1年5カ月ぶり。内閣府は基調判断を前月の「このところ弱まっている」から「さらに弱まっている」へ下方修正した。判断を引き下げるのは2カ月連続。
沖縄県・尖閣諸島の国有化を巡る日中関係の悪化懸念が一段と強まった。中国や尖閣問題に関連するコメント数は83と、9月調査の59から増えた。「海外旅行は急激に落ち込んでいる」(近畿の都市型ホテル)、「中国への販売が厳しくなっている」(北陸の精密機械器具製造業)など声が相次いだ。
エコカー補助金終了に関しては「来店客数・販売台数とも激減している」(四国の乗用車販売店)といい、反動減の影響がみられ始めた。世界経済の減速を背景に「製造業の求人意欲が相変わらず鈍い」(中国の人材派遣会社)と指摘があった。
先行き判断指数は1.8ポイント低下の41.7と6カ月連続で悪化。現状・先行きとも好不況の分かれ目となる50を6カ月連続で下回った。全国的に景況感が悪化するなか、近畿の先行き判断指数は改善した。阪急百貨店うめだ本店の増床開業などで「年末にかけて徐々に活気を取り戻す感じがする。年賀状印刷の受注も昨年を上回っている」(コピーサービス業)という。調査は景気に敏感な小売業など2050人を対象と、3カ月前と比べた現状や2-3カ月後の予想を「良い」から「悪い」まで5段階で評価して指数化する。
9月経常収支、5036億円黒字 黒字額は7割減、所得黒字も縮小
財務省が8日発表した9月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は5036億円の黒字だった。貿易収支が赤字に転落したほか、所得収支が3カ月ぶりに黒字幅が縮小したため経常黒字幅は前年同月比68.7%減と大幅に減った。8カ月連続で黒字だったが、季節調整済みでみると経常収支は1420億円の赤字。統計として連続性のある1996年以降で初の赤字に陥った。
財務省によれば9月は輸出額が多い特徴があり、季節調整済みは月ごとに出やすい特色によるずれを一定の計算式で修正して算出している。連続性を考慮せずデータをさかのぼると81年3月に記録して以来の赤字になった。
貿易収支は輸送の保険料や運賃を含まない国際収支ベースで4713億円の赤字。赤字は6カ月連続。欧州連合(EU)や中国向けの輸出が減少した。輸出額は5兆1045億円で10.5%減。4カ月連続の減少だった。さらに原油や液化天然ガス(LNG)の輸入が増加し、輸入額は2カ月ぶりに増加。4.5%増の5兆5758億円だった。
旅行や輸送動向を示すサービス収支は2801億円の赤字。輸送収支の赤字幅拡大が響き、赤字幅は1897億円拡大した。
所得収支は6%減の1兆3098億円の黒字。債券利子の受取額が減ったため黒字幅が3カ月ぶりに縮小した。
併せて発表した4-9月期の経常収支は2兆7214億円の黒字。経常黒字は前年同期比41.3%減で、4期連続で黒字額が縮小した。上半期としては85年以降で過去最小の黒字額で、半期ベースでみると90年度下半期(90年10月-91年3月)の2兆1932億円に次ぐ小ささだった。所得収支は直接投資による再投資収益の受取額増加が寄与し、4期連続で拡大したが貿易収支の赤字幅拡大が響いた。
貿易収支は2兆6191億円の赤字で、比較可能な85年以降で貿易赤字は過去最大だった。米国や東南アジア諸国連合(ASEAN)に対して輸出額を伸ばしたが、欧州連合(EU)や中国向けが落ち込んだ。商品別では自動車や自動車部品の輸出が好調だったが、半導体電子部品や船舶が不振だった。一方、輸入はLNGや原油などが増えた。

続いて、いつもの機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは電力と船舶を除く民需で定義されるコア機械受注とその後方6か月移動平均を、下のパネルは需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。

機械受注の推移

9月のコア機械受注は2か月連続の前月比マイナスを記録し、横ばい圏内から下降線をたどり始めた雰囲気も見えます。基調判断も「一進一退」とはいいつつも、「足元は弱い動きもみられる」との文言を加えて、半ノッチ下方修正されたと受け止めています。ただし、先行きについては、四半期別のコア機械受注は4-6月期▲4.1%減の後、7-9月期も▲1.1%減を記録したものの、10-12月期は+5.0%増が見込まれています。私は機械受注の先行きが増加に転じる要素はほとんどないと考えていますが、この10-12月期の受注増見込みを受けて、グローバルPMIの回復とともに我が国の機械受注も緩やかに復活するシナリオを描くエコノミストも少なくありません。ということで、以下に機械受注に対する悲観論と楽観論をそれぞれサポートするグラフを取り上げます。

機械受注(官公需)の推移

まず、悲観論を代表して、官公需のピークアウトの可能性を示唆するグラフです。官公需は「電力と船舶を除く民需」で定義されるコア機械受注の外数であり、GDPベースの民間設備投資につながるわけではありませんが、上のグラフに見る通り、復興需要に伴う官公需はピークアウトした可能性があります。今後は、被災地とは関係なく機械受注の増加にもつながらない復興予算の消化が増加する可能性があると覚悟すべきです。

コア機械受注達成率の推移

楽観論としては達成率の向上が上げられます。上のグラフの通りです。ジワジワと低下傾向を示して、景気後退期入りの経験則である90%ラインを4-6月期は割ったんですが、7-9月期は再び上昇して92.1%となりました。基本的には、7-9月期のコア機械受注の前期比の実績が▲1.1%減ながら、見込まれていた▲1.2%を上回ったことに起因しますが、少なくとも力強い増勢とはとてもいえません。

景気ウォッチャーの推移

景気ウォッチャーの推移は上のグラフの通りです。現状判断DIは3月をピークに、先行き判断DIは4月をピークに、下降傾向にあります。基調判断は「さらに弱まっている」へ明確に1ノッチ下方修正されました。景気ウォッチャーは家計・企業・雇用の3指標から構成されていますが、10月の現状判断DIでは特に雇用の悪化が大きくなっています。現状判断DIのうちの雇用関連DIは、昨年半ばから1年半余りにわたって50を超えていたんですが、9月の50.8から10月は一気に44.3まで低下しました。企業関連において、エコカー補助金の終了に伴う自動車販売の反動減に加え、海外景気の減速や尖閣諸島問題の影響による輸出の減少があり、雇用関連も製造業を中心に雇用調整の動きが見られたと報告されています。

経常収支の推移

経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線で経常収支の収支尻をプロットした上で、その内訳を積上げ棒グラフで示しています。色分けは凡例の通りです。最初に引用した記事にもある通り、「超々」がつくくらい久し振りに単月で季節調整済みの経常収支が赤字に転落しました。貿易・サービス収支が大きくマイナスに落ち込んでいるのがグラフから見て取れると思います。貿易収支の輸出は世界経済の停滞とともに欧州や中国向けが2ケタ減となった一方で、輸入は発電向けなどの原油やLNGが増加し、季節調整値で見て、輸出入の差額の貿易収支は1兆円近い赤字を記録しました。経常収支の赤字は一時的なものであり、何か月も連続するとは考えていませんが、現下の日本経済の象徴的な受止めがなされる可能性がありますし、何よりも長期的には我が国の高齢化のいっそうの進展に伴う貯蓄率の低下とともに経常収支が赤字化するのは確実ですので、例外的な出来事で済ませるには抵抗があります。

Inside Obama's Victory

最後に、我が国の経済指標から離れて、米国大統領選挙の出口調査の結果がピュー・リサーチ・センターのサイトで公表されています。上の表を見れば明らかですが、オバマ大統領の再選をサポートしたのは、男性よりも女性、白人よりも黒人やヒスパニック、年齢層では引退世代よりも若い勤労世代ということになります。最後の年齢層だけを取り出すと、日本の年齢構成ではロムニー候補が当選していたかもしれないと勝手に想像しています。

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2012年11月 7日 (水)

来週発表の7-9月期GDP統計1次QEは大きなマイナス成長か?

来週月曜日11月12日に2012年7-9月期期GDP速報1次QEが内閣府より発表されます。必要な経済指標がほぼ出尽くし、各シンクタンクや金融機関などから1次QE予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。可能な範囲で先行きについて言及した部分を中心に取っているつもりです。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.8%
(▲3.1%)
10-12月期を展望すると、海外経済の減速感がやや和らぐとみられるため、輸出や設備投資の一段の下振れには歯止めがかかる見込み。もっとも、エコカー補助金終了による自動車販売の反動減が引き続き影響するほか、中国での反日デモ以降の日中摩擦の高まりに伴い対中輸出も当面下振れる懸念大。以上を踏まえると、成長率は引き続きマイナス成長となる可能性も。
大和総研▲1.0%
(▲4.1%)
7-9月期のGDPは、エコカー補助金の終了に伴う個人消費の減少と、海外経済の減速に伴う輸出の減少が主因となって、5 四半期ぶりのマイナスとなる見込みである。個人消費、輸出は当面の間低調な推移が続くとみられており、経済の本格的な持ち直しは、海外経済の回復を待つ必要がある。
みずほ総研▲0.8%
(▲3.2%)
足元で中国の国内需要が投資を中心に持ち直す兆しがみられるが、過剰在庫の調整が進むまでは日本からの輸出が本格的に回復するには至らないであろう。特に日本製品については、尖閣諸島問題を契機とした不売運動の影響も予想される。欧米向け輸出も力強さを欠き、輸出は10-12月期も減少が続きそうだ。
国内需要については、復興需要の執行に伴う公共投資の拡大が引き続き下支えとなる見通しである。しかし、エコカー補助金が終了したのが9月下旬であるため自動車販売の水準は一段と下がり、個人消費は10-12月期も減少が続くことが想定される。7-9月期に大きく落ち込んだ設備投資も、景気の先行きに対する不透明感が強い中で、急回復は見込みがたい、現時点では、輸出・国内民間需要の低迷により10-12月期もマイナス成長になると予測している。
ニッセイ基礎研▲1.0%
(▲4.0%)
7-9月期のGDP統計は、日本経済が2012 年春頃をピークに景気後退局面に入っていることを裏付けるものとなるだろう。当面は内外需ともに低調な動きが続くため、10-12月期も小幅ながらマイナス成長となるが、海外経済の持ち直しに伴う輸出の回復を起点として2013年1-3月期にはプラス成長に復帰することが見込まれる。
現時点では、10-12月期は年率▲1%弱のマイナス、1-3月期は年率1%台半ばのプラス成長を予測している。この予測に基づけば、2012年度の実質GDP成長率は1%程度となり、政府見通し(2.2%)はおろか、昨日(10/30)公表されたばかりの日銀展望レポートにおける政策委員見通しの中央値(1.5%)も大きく下回ることになる。
第一生命経済研▲1.0%
(▲3.9%)
2012年7-9月期のGDPは大幅なマイナス成長が見込まれ、日本が景気後退局面にあることが改めて意識される可能性が高い。今後、景気に関する議論は、「減速か後退か」というテーマから、「後退の深度・期間」というテーマへとシフトしていくと思われる。
10-12月期についても状況は厳しい。特に個人消費については、自動車販売の減少が足を引っ張るだろう。7-9月期の時点で既に自動車販売は落ち込んでいるが、9月の販売水準が大幅に低下して発射台が下がっていることや、需要先食いの反動が出ることを踏まえると、10-12月期には減少幅がさらに拡大するだろう。個人消費は7-9月期に続いて10-12月期も減少する可能性が高い。また、輸出については、中国経済に持ち直しの兆しが出ている点や米国景気が緩やかに回復している点は好材料だが、一方で日中関係悪化に伴って輸出が下振れるリスクにも警戒が必要であり、10-12月期にプラスに転じるかどうかは微妙だ。景気の牽引役は今のところ見当たらず、GDP全体でも2四半期連続のマイナス成長となる可能性は十分ある。
なお、仮に7-9月期のGDPが筆者予想通りに大幅悪化となり、10-12月期もゼロ%程度になった場合、日本銀行が展望レポートで示した2012年度の成長率予想(+1.5%)は、実現がほぼ不可能な数字になる。出たばかりの展望レポートではあるが、来年1月の中間評価において、見通しは下方修正を迫られる可能性が高いと思われる。
伊藤忠経済研▲0.9%
(▲3.4%)
世界経済減速と日中間のトラブルを受けた輸出減少に加え、個人消費や設備投資の民需も低調に推移し、7-9月期の日本経済は前期比▲0.9%・年率▲3.4%の大幅なマイナス成長に陥った見込み。10-12月期も、個人消費の落ち込みと輸出環境の好転の遅れによりマイナス成長が続く可能性大。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券▲0.9%
(▲3.7%)
先行きについては、世界経済の持ち直しを受け、12年度秋から年末にかけ、景気は回復に転じるとの見通しに変更はない。目先、復興需要の景気押し上げ効果は縮小し、公共投資の落ち込みが懸念されるが、12年末から13年にかけて赤字国債法案の成立や補正予算の編成が見込まれるほか、13年度についても、復興事業の予算措置が講じられ、公共投資の大幅な落ち込みは回避されよう。一方、14年4月の消費税率引き上げを控えた、駆け込み需要の発生が、13年度下半期を中心に予想される。景気回復は13年度を通して続くとの見通しを維持している(消費税率引き上げ後も景気後退局面入りするとはみていない)。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.7%
(▲2.9%)
マイナス成長の最大の原因は輸出の大幅な落ち込みである。この結果、輸入が小幅の減少にとどまったこともあって、外需寄与度は大幅なマイナス寄与となった。内需では、公共投資、政府消費の官公需が増加基調を維持しているものの、個人消費、設備投資がともに前期マイナスに転じるなど民需の弱さが目立つ。
三菱総研▲1.1%
(▲4.5%)
2012年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比▲1.1%(年率▲4.5%)と予想する。5四半期ぶりのマイナス成長であり、その減少幅は東日本大震災時(11年1-3月期)以来、最大となる可能性が高い。
みずほ証券リサーチ&コンサルティング▲1.1%
(▲4.2%)
復興事業による下支えはあるものの、海外経済の減速を受けた輸出の減少や個人消費の増加基調が一服したことなどから、5四半期ぶりかつ大幅なマイナス成長となる見通し。

あくまで一例ですが、ニッセイ基礎研のリポートから予測のグラフを引用すると以下の通りです。もちろん、グラフ右端の「予測」はニッセイ基礎研によるものです。GDP成長率への寄与度を需要項目別にプロットしており、7-9月期の予想では復興需要に支えられた公共投資などの公需がプラスに寄与するものの、外需、消費、設備投資などが軒並みマイナスとなって成長の足を引っ張ると見込まれています。なお、プラスに寄与する紫色の「その他民需」は在庫と住宅です。多くのエコノミストのコンセンサスに近いと私は考えています。

実質GDP成長率の推移

ほとんどの機関が、季節調整済みの前期比年率で見て▲3%を超えて、場合によっては▲4%も超える大きなマイナス成長を見込んでいます。私の見方としては、数字的には伊藤忠経済研くらいの前期比年率で▲3%台半ばを予想しているんですが、その中身の解釈についてはニッセイ基礎研や第一生命経済研に近いと受け止めています。すなわち、第1に今年3-4月くらいからの景気後退局面入りが確認され、第2に10-12月期もせいぜいがゼロ成長か、おそらくマイナス成長が続き、政府や日銀の経済見通しは大幅な下方修正を余儀なくされる一方で、第3に来年1-3月期はプラス成長が見込め、景気の踊り場か景気後退かは議論の余地あるものの、いずれにせよ停滞は長く続かない、という3点、7-9月期のマイナス成長を含めれば4点、が多くのエコノミストのコンセンサスに近いと私は考えています。
エコノミストの間で見方が分かれる可能性があるのは復興需要です。私の見方は、復興予算には被災地に関係ない予算がかなり含まれており、それゆえに、一定の景気拡大効果がある、というものです。おそらく、復興需要が景気の下支えに一定の役割を果たす点については幅広い合意がありますが、復興予算に被災地外の部分がどのくらい含まれるかについては意見が分かれる可能性があります。私はかなり大量に被災地外の予算が盛り込まれていて、コトの良し悪しは別にして、その分、景気への効果があるとの見方です。

接戦が報じられていた米国の大統領選挙は、報じられている通り、現職のオバマ大統領が再選されました。景気転換点を超えたかもしれない日本経済はどちらに向かうんでしょうか。

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2012年11月 6日 (火)

景気動向指数から足元の景気と景気転換点を考える!

本日、内閣府から9月の景気動向指数が発表されました。ヘッドラインとなるCI一致指数は前月から▲2.3ポイント低下して91.2となりました。CI先行指数も低下しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気、すでに後退局面か 9月の一致指数低下
6カ月連続でマイナスに 自動車関連落ち込む

内閣府が6日発表した9月の景気動向指数(CI、2005年=100)速報値によると、景気の現状を示す一致指数は前月比2.3ポイント低下の91.2だった。マイナスは6カ月連続。内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「足踏み」から下方修正し、東日本大震災直後の昨年5月以来となる「下方への局面変化」と表現した。
「下方への局面変化」は「景気の山が、それ以前の数カ月前にあった可能性が高いことを示す」と定義され、「既に景気後退局面に入った可能性が高いことを暫定的に示している」と位置付けられている。一方、内閣府は政府による景気後退の判断は「月例経済報告で示される」と述べるにとどめた。
一致指数を下押ししたのは自動車関連の出荷や生産の落ち込みだ。海外景気の減速で輸出が停滞するなか、エコカー補助金終了によって国内の自動車販売額も減少し、出荷や生産が停滞した。生産の落ち込みは、製造業を中心に所定外労働時間の減少につながるなど雇用にも波及している。
数カ月後の先行きを示す先行指数は1.5ポイント低下の91.7と2カ月ぶりに低下した。国内の生産活動が停滞していることを受けて、最終財や鉱工業生産財の在庫が増えたことが主因。製造業での新規求人数が減少していることも指数を押し下げた。内閣府は先行きについて「世界経済のさらなる下振れや輸出の減少を注視していく必要がある」と警戒した。
雇用指数の悪化などを受けて、景気に数カ月遅れる遅行指数は0.6ポイント低下の86.7と2カ月ぶりに低下した。
指数を構成する経済指標のうち、3カ月前と比べて改善した指標が占める割合を示すDIは一致指数は10.0%、先行指数が33.3%だった。

次に、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数、下はDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期です。

景気動向指数の推移

統計作成官庁である内閣府による景気動向指数の基調判断については、上で引用した記事がとても的確に取りまとめていますので、私から繰返すことはしませんが、時折、同業者と意見交換するエコノミストの実感として、時々刻々とまでは言わないものの、週が明けるごとに月が替わるごとに「すでに日本経済は春ころを山として景気後退局面に入っている」という意見が増えているような気がします。10月10日に発表された9月調査の「ESPフォーキャスト」では「景気転換点(山)は過ぎた」が12名、「過ぎていない」が28名だったんですが、明後日発表の10月調査では多数派が逆転して、すでに景気後退に入っていると考えるエコノミストが過半を占めている可能性が大きいような気がします。「過ぎた」か「過ぎていない」かについて、私も半々から少し前までは「回復派」だったんですが、今日の景気動向指数を見て「景気後退派」に傾きつつあります。景気動向指数のCI一致指数を見ても、鉱工業生産指数を見ても、景気の山は2012年3月のようですが、4月の両指数も3月と大きな差はありません。もしも、景気転換点を過ぎていると仮定すれば、基本的に3月が景気の山だったように見えますが、他の指標も総合的に見て4月が山と判定される可能性も残されていると私は受け止めています。もはや、「景気後退派」の発言のように聞こえるのは気のせいでしょうか。なお、ついでながら、来週の月曜日11月12日には7-9月期のGDP速報、エコノミストの業界でいうところの1次QEが発表されます。景気後退期入りを確認する内容になっているかもしれません。

本日、米国大統領選挙の投票が始まっています。我が国の景気にも大きな影響を及ぼす可能性があり、多くのエコノミストも注目していることと思います。

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2012年11月 5日 (月)

ノルベルト・ヘーリング、オラフ・シュトルベック『人はお金だけでは動かない』(NTT出版) を読む

ノルベルト・ヘーリング、オラフ・シュトルベック『人はお金だけでは動かない』(NTT出版)

ノルベルト・ヘーリング、オラフ・シュトルベック『人はお金だけでは動かない』(NTT出版) を読みました。副題は「経済学で学ぶビジネスと人生」となっています。まず、出版社のサイトから本の内容を引用すると以下の通りです。

この本の内容
最新経済学ではこんなことまで研究されている!

労働市場や金融といった伝統的な分野だけでなく、文化、歴史、健康、幸福感、男女差、スポーツなどの分野にも経済学の研究が入り込んでいる。経済ジャーナリストがその最前線をわかりやすく解説する。

次に、章別の構成は以下の通りです。

第1章
人間――エコノミック・アニマルか?
第2章
幸福の追求
第3章
労働市場の謎
第4章
忘れさられつつある小さな違い
第5章
すべては文化次第
第6章
はかりとものさしの経済学
第7章
グローバル化の論理
第8章
金融市場――とことん効率的なのか、まるででたらめなのか
第9章
サブプライムの不意打ち――金融危機の構造
第10章
経営者も人の子
第11章
売り買いの高度な芸術
第12章
スポーツ選手をモルモットに――なぜ経済学者はスポーツが好きなのか
第13章
市場経済の暗がりで
第14章
最後の警告

上の引用にもある通り、著者のおふたりはドイツの Handelsblatt のジャーナリストとして活躍しており、特にヘーリング博士は学位も取得しているようです。最近の経済学が開拓しつつある新領域をかなり平易に解説しています。「平易」とはいっても、最新の文献に当たっており、定評のあるジャーナルだけでなく、最新のワーキングペーパーやディスカッションペーパーなどの未公刊論文まで含めて、かなり多くの献をサーベイした結果といえます。
目次を見れば分かりますが、ホモ・エコノミクスの合理性に対する疑問から始まって、人間の選択行動に及ぼす文化、中でも宗教の果たす役割、金融市場における合理的なバブルの可能性や「勝者の呪い」から最新のオークション理論まで、ホントに幅広い最先端の経済学的なトピックを取り上げ、しかも、分かりやすく解説しています。さらに、私が感心したのは、参考文献が充実している点です。この書籍の体裁からして、最新の経済学理論と実証結果をサーベイした学術書、とはいい難い気はしますが、特に、専門的な経済学の教育を受けていない読者には最新の経済学に触れるため十分な内容だと受け止めています。さらに、トピックが幅広いだけでなく、取り上げ方がバランスよく、特定の主張に傾斜していないように感じました。すぐれた最新経済学の入門書です。

私は大学生のころにウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読んだ記憶がありますが、"Was Weber Wrong?" なんて論文が2009年に発表されており、プロテスタントの宗教的倫理観ではなく、プロテスタント教会の学校教育に対する熱心さとその結果としての識字率の高さが高い生産性をもたらしたと結論しています。恥ずかしながら、まったく知りませんでした。

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2012年11月 4日 (日)

子供達といっしょに一橋祭に行く

今日は、朝からいいお天気で風も弱まり、私が子供達を連れてお出かけしました。どこへ行ったかというと一橋大学の国立キャンパスで開催されている一橋祭です。「いっきょうさい」と読みます。一応、念のためですが、先週のブログにある通り、私は京都大学で学び、長崎大学で教えた経験はありますが、一橋大学とは何の関係もありません。もちろん、長らく官庁エコノミストをしていますから、何度かキャンパスを訪れたことがあり、先生方で顔見知りの方も何人かいらっしゃいます。でも、それだけです。
大学祭は、我が家の子供達が小さかったころ、幼児教育課程のある女子大に何度か遊びに行った記憶はありますが、ホントに久し振りです。一流の経済学部を擁する大学の大学祭なんですが、明らかに幼稚園児から小学校の低学年を対象にしたフィールド企画もありますし、大量にいた女子大生は一橋大学だけではなくて津田塾大学あたりからも来ているんではないかと想像しています。でも、大学祭は久し振りでおもしろかったです。我が家の子供達はすでに十分大きいので、小遣いを与えた上でほとんど自由行動としましたが、期せずして3人ともお昼はヤキソバを食べたようです。国立駅南口からの大通りで市民祭りをやっていて、お天気にも恵まれ、キャンパス内もものすごい人出でした。
写真は、上から、一橋祭の入り口の横断幕、これは西キャンパスの方です。次に、キャンパスマップ、これは東キャンパスです。そして、キャンパスの中で特徴ある建物として、兼松講堂とともに目立っている図書館の時計台。最後に、いかにもありそうな一橋大学と津田塾大学の合同のサークル活動のうち、もっとも立て看板が立派だった美術部です。

一橋祭の入り口の横断幕

一橋大学キャンパスマップ

一橋大学図書館の時計台

一橋・津田塾大学美術部の立て看板

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2012年11月 3日 (土)

「坂道のアポロン」サウンドトラックを聞く

「坂道のアポロン」サウンドトラック

「坂道のアポロン」サウンドトラックを聞きました。一部のジャズファンに話題になっていたアルバムです。漫画の原作がアニメ化され、今年の4-6月にフジテレビの深夜に放送されていたらしいんですが、そのサウンドトラックです。アニメでは、いずれも高校生のピアノの西見薫とドラムスの川渕千太郎のデュオを中心として「アポロン」と名付けられたコンボがジャズを演奏します。ピアノとドラムスのデュオだけでなく、もちろん、ベースが加わったトリオ、さらにトランペットが加わったカルテットの演奏も収録されています。ということで、このアルバムに収録されているのは以下の曲です。サントラですから大量の曲が入っています。

  1. KIDS ON THE SLOPE
  2. Chick's Diner
  3. Moanin'
  4. Bag's Groove
  5. Blowin' The Blues Away
  6. Satin Doll
  7. YURIKA
  8. Rosario
  9. Curandelo
  10. Transparent
  11. Run
  12. But not for me
  13. My Favorite Things
  14. Equinox
  15. A Piece Of Blue
  16. Lullaby Of Birdland
  17. Jazz For Button
  18. Four
  19. Easy Waltz
  20. float
  21. Milestones
  22. Apollon Blue
  23. Kaoru & Sentaro Duo in BUNKASAI (Medley: My Favorite Things/Someday My Prince Will Come/Moanin')
  24. Someday My Prince Will Come

薫のピアノは松永貴志です。文句なく一流のジャズ・ピアニストといえます。千太郎のドラムスは石若駿なんですが、私はこのドラマーは知りませんでした。でも、プレイは松永貴志のピアノに負けていません。十分な力量といえます。上の曲目リストの中にフォントを大きくした曲があるのが一目瞭然なんですが、私のオススメです。基本的にアポロンが演奏しています。小さいフォントは、いわば、高校生活のシーンでBGMとして流されたものが中心です。ただし、手嶌葵の歌う16曲目の「バードランドの子守唄」はなかなかのものです。コルトレーンがジャズの世界に導入した My Favorite Things は13曲めと23曲めに2度現れますが、歌があるのとないのの違いもありますが、およそ同じ曲には聞こえません。ピアノのレベルが違い過ぎます。ということで、ピアノが松永貴志なのか、BGM担当の菅野よう子なのかで、まったくジャズとしてのレベルが違います。誠に残念な限りですが、曲のカップリングに失敗したアルバムといわざるを得ません。私はアニメを見ていないので、どのくらいの曲数があるのか、何ともいえませんが、せめて2枚組にして、松永貴志のピアノとそれ以外に分けられなかったものでしょうか。特に、7-11曲めがCDで音楽として聞く分にはレベルがかなり低いといわざるを得ません。要するに、アポロンのコンボが高校の文化祭などの場でギンギンにジャズを演奏している音楽と、高校生活のヒトコマのBGMで流れる音楽をいっしょくたに聞かされるのは困りものだということです。音楽に込められた緊張感というものがまるで違います。
最後に、YuoTube にアップされているアニメ第7話の演奏シーンです。聞けば分かりますが、ピアノとドラムスのデュオで、My Favorite Things/Someday My Prince Will Come/Moanin' をメドレーしています。横断幕に「学園祭」の文字も見え、すなわち、アルバムに収録されている23曲目であろうと思います。BGMで流すんではなく、気合を入れて正面から聞くことに専念すべきジャズです。

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米国雇用統計のグラフィックス

昨夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が発表されました。ヘッドラインとなる非農業部門雇用者数の前月差は季節調整済の系列で+171千人、同じく季節調整済の失業率は前月から上昇したものの、7.9%となりました。まず、New York Times のサイトから記事の最初6パラを引用すると以下の通りです。

U.S. Added 171,000 Jobs in October
In the last assessment of the job market before the presidential election, the Labor Department announced Friday that the nation's employers had added 171,000 positions in October. The unemployment rate rose to 7.9 percent, from 7.8 percent in September.
The report showed persistent but modest improvement in the American economy. It was based on surveys conducted too early in the month to capture the work stoppages across the East Coast from Hurricane Sandy.
The biggest gains were in professional and business services, health care and retail trade, the department said. Government payrolls dipped slightly.
Job gains in previous months were revised to show even bigger gains. September's 114,000 new jobs were revised to 148,000, and August's 142,000 was revised to 192,000, the government said.
There have now been 25 straight months of jobs gains in the United States, but the increases have been barely large enough to absorb people entering the work force. A queue of about 12 million unemployed people remain waiting for work, about two out of five of whom have been out of a job for more than six months.
That is in addition to more than eight million people who are working part-time but really want full-time jobs.

次に、いつもの米国雇用統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。

米国雇用統計の推移

非農業部門の雇用者増は市場の事前コンセンサスでは12-13万人でしたし、雇用改善のひとつの目安となる10万人を4か月連続で超えましたので、まずまずいい数字と受け止めています。ただし、引用した記事にもある通り、ハリケーン・サンディの影響は含まれていません。ホントの11月の足元の雇用はこれよりも悪い可能性が高いと考えるべきです。さらに、引用した記事の6番目のパラにある通り、フルタイムの職を求めながらパートで就業したのが800万人を超えるわけですから、量的に雇用は改善しているものの、質的には不十分との批判は残ります。でも、大統領選挙前の最後の雇用統計ですから、現職大統領に追い風となる統計ではないかと考えられます。

米国雇用・人口比率の推移

少し前から登場したマンキュー教授のブログクルーグマン教授のブログのマネをした雇用・人口比率のグラフは上の通りです。かなり長期のデータをプロットしています。最初のグラフと同じで、影をつけた部分は景気後退期です。サブプライム危機後の現在の景気回復局面では、この雇用人口比率がほとんど上向いていないのが見て取れます。

米国時間当たり賃金上昇率の推移

最後に、デフレとの関係で私が気にしている時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ほぼ底ばい状態が続いていて、サブプライム危機前の3%台の水準には復帰しそうもないんですが、底割れして日本のようにゼロやマイナスをつける可能性は小さそうです。

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2012年11月 2日 (金)

冲方丁『光圀伝』(角川書店) を読む

冲方丁『光圀伝』(角川書店)

先週末の京都へのミニ旅行で、新幹線のお伴に持ち込んだ冲方丁『光圀伝』(角川書店) を読み終えました。水戸光圀の幼少期から隠居するまでの生涯を描き切った一代記であり、なかなかのボリューム感でした。まず、出版社の特設サイトから本の内容紹介を引用すると以下の通りです。

獣の宿命を背負った男─その名は光圀。
まったく新しい"水戸黄門"像の誕生!

なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのか─。老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかったその経緯を書き綴ることを決意する。
父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。荒ぶる血を静めるために傾奇者として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩藩主となった若き"虎"は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す─。

次に、同じく出版社の特設サイトから本の登場人物の相関図を引用すると以下の通りです。

『光圀伝』登場人物紹介

水戸光圀の人物像については、どうじても長らくTBSのテレビ・ドラマで放映されていた「水戸黄門」のイメージがあり、助さんと格さんを従えて全国を漫遊しつつ、悪を懲らしめ弱きを助ける勧善懲悪の天下の副将軍、という捉え方をしてしまいがちで、当然ながら、史実とは大きく隔たったエンタメの世界の虚像だったんだろうという自覚くらいはありましたが、この作品も、どこまで史実に忠実かは私は専門外なので留保せざるを得ないものの、テレビ・ドラマとは大きく異なる世界が展開されています。まあ、当然です。
なんといっても、本屋大賞に輝いた前作の『天地明察』は私も原作を読んだ上に、最近、映画まで見ましたから、この作品『光圀伝』も大いに楽しみにしていて、期待は裏切られませんでした。通俗的な歴史でも、武断から文治に徳川幕府の支配体制が移行した17世紀半ばから後半にかけて活躍した人物ですから、治世のやり方の変化とともに文化事業にも多く携わります。山鹿素行や林家の読耕斎などとの交際、そして、歴史に名高い『大日本史』の編纂に進む歴史や史書への傾倒などに驚かされます。その中で、義を貫くために水戸徳川家を継がなかった兄の子を養子に迎えるなど、人間としてのスケールの大きさを示すエピソードにも事欠きません。ネタバレかもしれませんが、歴史を突き詰めて考えると大政奉還に行き着くというのは分かる気がします。

映画化されると聞き及んでいますが、光圀の正室である泰姫を誰が演じるのかがとっても楽しみです。文学作品だけではなく、映像作品のなかでは重要な役割を果たしそうな気がします。

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2012年11月 1日 (木)

世界のスーパーパワー米国について考える3冊の本

バリー・アイケングリーン『とてつもない特権』(勁草書房) とイアン・ブレマー『「Gゼロ」後の世界』(日本経済新聞出版) とフリードマン&マンデルバウム『かつての超大国アメリカ』(日本経済新聞出版)

世界のスーパーパワー米国に関する本を読みました。以下の3冊です。とはいうものの、実は、3冊目の『かつての超大国アメリカ』はまだ読み終えていなかったりします。

「超大国アメリカ」がまだ健在とするのは、米国という国そのものではなく、基軸通貨のドルの地位なんですが、揺るがないと結論したのは最初の『とてつもない特権』だけで、『「Gゼロ」後の世界』と『かつての超大国アメリカ』はタイトルから明らかなように否定的な見解を示しています。
まず、『とてつもない特権』の著者アイケングリーン教授は経済史が専門であり、19世紀の金本位制から英国ポンドが基軸通貨であった短い時代、最後に現在のドルが基軸通貨である国際金融体制を歴史的に鳥瞰し、米国ドルに続く次代の世界の基軸通貨について、その必要条件など考察を進めています。ただし、米国ドルの次に控える欧州のユーロ、中国の人民元、国際通貨基金の合成通貨SDRなどについて、基軸通貨として米国ドルに取って代わる可能性は否定的であるとの見解を明らかにしています。もっとも、大きな理由は消去法であって、まだ、基軸通貨としての米国ドルの優位を脅かすほどの国力がこれらの通貨のバックグラウンドにはない、という結論です。同じ出版社だからというわけでもないでしょうか、ジョン・アイケンベリー『リベラルな秩序か帝国か』と似通った結論だと受け止めています。繰返してクラリファイしますが、基軸通貨に必要なのは総合的な国力のバックグラウンドであって、経済力だけではありません。念のため。
次に、『「Gゼロ」後の世界』の著者はユーラシ・グループの代表であり、前著の『自由市場の終焉』は私も読みましたが、これよりもグッと出来がよくなっています。米国という超大国が後景に退いて世界のリーダーシップを執る国が存在しなくなった世界で危機が発生した場合、どのような混乱が生じ、どのような調整が可能かを考察しています。単に安全保障の議論だけでなく、食料や水、環境、サイバー空間、国際標準の設定などを巡る諸問題の解決が取り上げられています。この先は米中のG2ではなく、ましてや、G20は参加国が多過ぎて何も決められず、世界は「G0」に突入し、すなわち、米中が対立しつつ、米中以外は地域限定的な強みを発揮する分裂的な世界を提示しています。地理的経済的には極めて中国に近いにもかかわらず、あくまで米国に追随する日本の未来が気にかかるところです。日本は著者が提示する「ピボット国家」になるわけにはいかないんでしょうね。
最後に、『かつての超大国アメリカ』の著者のフリードマンはジャーナリストであり、私も『フラット化する世界』は読みましたし、『レクサスとオリーブの木』などもベストセラーになりました。マンデルバウム教授は政治学者です。まだ読了していない段階なんですが、世界の先進国が直面するグローバル化、IT化、税制赤字、地球環境などの諸問題を極めて幅広く取り上げ、米国のかつての強みであった教育、インフラ、研究開発などが相対的に低下していると説き起こしています。直感的に、米国を対象としている本ながら、超大国ではないものの、我が日本にも応用可能な分野が少なくないと受け止めています。読み進むのが楽しみです。

少し読んだ時期が異なるので、勝手ながら、ジョン・アイケンベリー『リベラルな秩序か帝国か』は取り上げませんでしたが、米国がリーダーとなって戦後に敷いたリベラルな世界秩序はそうそう簡単に崩れない、と結論していました。しかし、この結論に懐疑的な主張も少なくないわけで、経済だけでなく幅広い意味での今後の世界秩序がどうなるか、気にかかるところです。

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