冲方丁『光圀伝』(角川書店) を読む
先週末の京都へのミニ旅行で、新幹線のお伴に持ち込んだ冲方丁『光圀伝』(角川書店) を読み終えました。水戸光圀の幼少期から隠居するまでの生涯を描き切った一代記であり、なかなかのボリューム感でした。まず、出版社の特設サイトから本の内容紹介を引用すると以下の通りです。
獣の宿命を背負った男─その名は光圀。
まったく新しい"水戸黄門"像の誕生!
なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのか─。老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかったその経緯を書き綴ることを決意する。
父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。荒ぶる血を静めるために傾奇者として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩藩主となった若き"虎"は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す─。
次に、同じく出版社の特設サイトから本の登場人物の相関図を引用すると以下の通りです。
水戸光圀の人物像については、どうじても長らくTBSのテレビ・ドラマで放映されていた「水戸黄門」のイメージがあり、助さんと格さんを従えて全国を漫遊しつつ、悪を懲らしめ弱きを助ける勧善懲悪の天下の副将軍、という捉え方をしてしまいがちで、当然ながら、史実とは大きく隔たったエンタメの世界の虚像だったんだろうという自覚くらいはありましたが、この作品も、どこまで史実に忠実かは私は専門外なので留保せざるを得ないものの、テレビ・ドラマとは大きく異なる世界が展開されています。まあ、当然です。
なんといっても、本屋大賞に輝いた前作の『天地明察』は私も原作を読んだ上に、最近、映画まで見ましたから、この作品『光圀伝』も大いに楽しみにしていて、期待は裏切られませんでした。通俗的な歴史でも、武断から文治に徳川幕府の支配体制が移行した17世紀半ばから後半にかけて活躍した人物ですから、治世のやり方の変化とともに文化事業にも多く携わります。山鹿素行や林家の読耕斎などとの交際、そして、歴史に名高い『大日本史』の編纂に進む歴史や史書への傾倒などに驚かされます。その中で、義を貫くために水戸徳川家を継がなかった兄の子を養子に迎えるなど、人間としてのスケールの大きさを示すエピソードにも事欠きません。ネタバレかもしれませんが、歴史を突き詰めて考えると大政奉還に行き着くというのは分かる気がします。
映画化されると聞き及んでいますが、光圀の正室である泰姫を誰が演じるのかがとっても楽しみです。文学作品だけではなく、映像作品のなかでは重要な役割を果たしそうな気がします。
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