貿易統計にみる輸出はそろそろ回復に向かうか?
本日、財務省から11月の貿易統計が発表されました。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインとなる輸出は前年同月比▲4.1%減の4兆9839億円、輸入額は+0.8%増の5兆9373億円、差引き貿易収支は▲9534億円の赤字となりました。まず、統計の概要を報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
貿易収支は9534億円の赤字 11月、12年の年間赤字は最大に
財務省が19日発表した11月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が9534億円の赤字となった。赤字は5カ月連続で、11月として過去最大となる。日本車の買い控えが続く中国向けで赤字が拡大した。1-11月累計の赤字額は6兆2808億円で、2012年は年間ベースで過去最大の赤字になることがほぼ確実になった。
赤字額は市場予想(約9800億円)をやや下回ったが、単月では過去3番目の大きさ。対中輸出が落ちこんだ今年1月(1兆4814億円)や、リーマン・ショック後の09年1月(9679億円)に次ぐ規模だ。年間での赤字は1980年の2兆6128億円がこれまでの最大だった。
輸出は前年同月比4.1%減の4兆9839億円で、6カ月連続の減少。船舶が落ちこんだほか、自動車(5.2%減)や建設用・鉱山用機械(29.1%減)が中国向けを中心に減った。輸入は0.8%増の5兆9373億円で、2カ月ぶりに増えた。中国や韓国からスマートフォン(スマホ)を含む通信機が72.0%増えたほか、液化天然ガス(LNG)も49.1%増えた。
地域別の収支をみると、対中赤字は5474億円で、赤字額は68.6%増えて11月として最大となった。輸出は14.5%減の8586億円で6カ月連続の減少。自動車(68.6%減)や自動車部品(43.5%減)を中心に落ち込んだ。財務省は「反日感情の高まりで日本車の買い控えが続いているが、自動車の落ち込みは前月から和らいだ」と分析している。
米国向けは輸出が5.3%増の9337億円と13カ月連続で前年同月を上回り、11月としては4年ぶりに中国への輸出額を上回った。自動車や自動車部品が伸びている。対米黒字は4538億円で前月から拡大した。景気低迷が続く欧州連合(EU)向けは輸出が14カ月連続で減り、対EUの貿易赤字は1264億円と過去最大を更新した。
次に、いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフでプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
予算の季節に歳出と歳入の差が広がって行く「ワニの口」型の折れ線グラフを見かけますが、ここ1年ほどは貿易統計の輸出入でも輸出が右肩下がりで輸入が右肩上がりとなる「ワニの口」のグラフになっています。引用した記事にもある通り、今年は過去最大の貿易赤字を記録しそうです。季節調整していない原系列では、今年に入って2月と6月に貿易黒字となっていますが、基調を示す季節調整系列では昨年2011年3月の震災の発生した月から連続で20か月を超えて一貫して貿易赤字を記録しています。
輸出について詳しく見ると上のグラフの通りです。上のパネルは輸出の金額指数の前年同月比を数量指数と価格指数の寄与度で分解しており、下のパネルは輸出の数量指数の前年同月比とOECD先行指数の前年同月比に1か月だけリードを取ったものをプロットしています。ここ数か月で下のパネルにプロットされた両指標に乖離が生じているように見えるのは、OECDに加盟していない中国の影響と受け止めています。
輸出は総額ベースでしか季節調整された統計が発表されていませんので、同業者のエコノミスト諸氏からちょうだいしているニューズレターの季節調整値なども参考にしながら、足元の輸出の動きについて考えると、輸出は減少傾向が続いているものの、まず、製品別には輸送機械や電機で持直しの動きが始まっています。米国のハリケーン・サンディに起因する自動車などの不規則な動きは見られる一方で、中国向け自動車などについて、いわゆる不売運動は一巡したと考えるべきです。次に、国別・地域別の動向では、引き続き米国向け輸出は底堅く推移しており、アジア向けも中国を除けは前年同月比ではプラスに転じています。中国における不売運動はすでにピークを越え一巡したと見られます。米国のいわゆる「財政の崖」については、可能性が低いとしか想定していませんが、リスクとしてはもう少し残る可能性も否定できません。ただし、欧州については引き続き弱い動きとなっており、当面、回復の見込みが立たないと覚悟すべきです。S&Pがギリシア国債の格付けを5ノッチ引き上げてもB-なんですから、本格的に回復軌道に戻るのはまだ先といわざるを得ません。
もっとも、これらの輸出の動向については、11月半ばからの為替の円安方向へのシフトにより大きく絵柄が変わる可能性があります。何といっても、強烈な円高により競争力にダメージを負った産業や製品に競争力が戻り、マクロの輸出が減少傾向から円高により増加に転じる可能性が十分あると期待しています。加えて、欧州はまだまだ回復には遠いものの、「財政の崖」を別にすれば米国経済は底堅いと考えられますし、中国経済もそろそろ回復に向かう可能性があります。今夏を底に世界的にPMIが上向きとなっており、我が国の輸出の増加に結び付く可能性が十分あると私は期待しています。
バブル経済崩壊以降くらいの景気循環局面では、景気の谷はいわゆる公共事業などの政府支出ではなく、輸出により景気が反転しているケースが多くなっています。2013年の年明け後に輸出増により我が国も景気後退局面から脱する可能性が高いと、来年のことをいって鬼に笑われながら大いに期待しています。
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