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2012年12月17日 (月)

アベノミクスをどう評価するか?

総選挙結果が出ました。自公両党で衆議院の 2/3 を押さえ、参議院で法案を否決しても衆議院で再可決できる多数を確保したことになります。しかしながら、来年4月の日銀総裁人事は衆議院の優越がありませんので、これについては参議院がネックになる可能性があります。といったような前置きはともかく、先月14日の党首討論の場における解散表明以降の株価と為替の推移は以下のグラフの通りです。「解散こそが最大の景気対策」という意見もありましたが、市場はそれをサポートしたのかもしれません。

最近の株価と為替の推移

来週の首班指名では自民党の安倍総裁が総理大臣に指名されることは確実で、憲法改正や国防軍創設などは専門外ながら、エコノミストとしては経済政策、アベノミクスが気にかかるところです。まず当面の焦点は金融政策に対する政府の対応です。というのも、金融政策は政府から独立した中央銀行に委ねられており、政府としてはどこまでコミットするかは何ともいえませんが、圧力のかけ方にも何通りか考えられます。中央銀行の独立性を認めつつ、人事権を行使してリフレ派の日銀総裁を送り込む、とウワサされていますが、それ以外にも、第1に、インフレ・ターゲッティングを2%として何らかのアコードを結ぶ、第2に、日銀法を改正して中央銀行の独立性を弱める、といったことが考えられます。しかし、第2の点については最近のハンガリーの例もあり、私も含めて、多くのエコノミストはオススメ出来ないと考えています。ということで、インフレ目標を2%に引き上げた上で、何らかのアコードを結ぶことになるのではないかと私は想像しています。アコードを結ばないまでも、経済財政諮問会議を開催して日銀総裁の出席を求めれば、かなりの程度の日銀のコミットを求めることにもなる可能性があります。実は、今日、勤務している役所の方で講演会を開催しました。とある東大経済学部教授をお招きし、講演会の場やその後のご懇談でも、「CPIの計測誤差もあるので、インフレ目標は最低でも2%必要」といった旨のご意見を拝聴したばかリです。
次に、金融政策からさらに財政政策まで視点を広げれば、短期的に目先の経済対策として補正予算によって公共事業を実施して需給ギャップの縮小を図った上で、中期的に来年4月から、そしてその先も含めて消費税率引上げにより財政収支の改善を図る、という方向性は評価できると思います。ちょっと見には、リフレ的な金融政策と消費税率引上げの組合せは、一見して矛盾した経済政策のポリシー・ミックスに見えかねませんが、財政のサステイナビリティの観点だけでなく、円安を誘導するという意味も含めて、拡張的な金融政策と緊縮的な財政政策は、変動相場制下のマンデル・フレミング・モデルに照らし合わせれば、もっとも望ましいポリシー・ミックスと考えるべきです。もちろん、短期的に金融緩和と財政出動で需給ギャップの縮小を目指すのが消費税率引上げの前提になっていることは忘れるべきではありません。という意味で考えると、上のグラフで示した為替と株価の方向は、一時的には反転したり巻き戻したりする可能性は否定できないものの、アベノミクスの金融政策と財政政策のポリシー・ミックスは理論的にかなり正鵠を射ており、次の総選挙までくらいを考えた中期的に実効性が高いと評価すべきです。

先々週に京都大学経済学部の同級生とお話する機会がありました。製造業にお勤めで米国に留学してMBAも取得した秀才で、その友人とお話していて、為替が金融政策で決まる点についてはビジネスマンの間でもかなり理解が広まったとの感触を持ちました。私が民主党の経済政策でもっとも違和感を覚えたのが、為替介入政策を為替レートに割り当てたことです。「心ゆくまで介入」なんてピントの外れた発言をした財務大臣もいましたが、多くのビジネスマンの間で為替は金融政策次第で、円安になれば製造業だけでなく日本経済全体に景気拡大的な効果がある、というのは常識となりつつあります。解散発言以降の約1か月でこの点がさらに実感された気がして心強く感じています。

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