ジョン・ル・カレ『われらが背きし者』(岩波書店) を読む
ジョン・ル・カレ『われらが背きし者』(岩波書店) を読みました。作者は言わずと知れたスパイ小説といえば、第1に指を屈すべき巨匠です。出版社の岩波書店というのは少し違和感を覚えましたが、新しい試みかもしれません。まず、その出版社のサイトから本書のあらすじを引用すると以下の通りです。
ジョン・ル・カレ『われらが背きし者』
カリブ海の朝七時,試合が始まった――.一度きりの豪奢なバカンスが,ロシアン・マフィアを巻き込んだ疑惑と欲望の渦巻く取引の場に! 恋人は何を知っているのか,このゲームに身を投げ出す価値はどこにあるのか? 政治と金,愛と信頼を賭けた壮大なフェア・プレイをサスペンス小説の巨匠ル・カレが描く,極上のエンターテインメント.
オックスフォード大学でチューターをしている青年と恋人がバカンスの先のカリブ海の島で、ロシアン・マフィアのマネー・ロンダラーとテニスをし、このロシアン・マフィアをマフィアに関する情報を持って英国に亡命させる、というストーリーです。何といっても、ル・カレの作品ですから、相変わらず、スパイ小説でも 007 シリーズのような派手な立ち回りはありません。スパイ個人とスパイ組織の悲しくなるくらいにパッとしない現状を明らかにし、クライマックスに向かって物語は進みます。細かな感情の動きやいろんな動作など、何ものもゆるがせにせず綿密に作品は構築されています。そして、最後にも悲しい結末が待っていたりします。
私は『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』、『スクールボーイ閣下』、『スマイリーと仲間たち』のいわゆるスマイリー3部作をはじめ、少なくとも、『リトル・ドラマー・ガール』と『パーフェクト・スパイ』の5作は読んでいるつもりなんですが、ソ連の崩壊と東西対立の解消の後、冷戦時代的なスパイ活動もなくなり、「ゴルゴ13」とともにスパイ小説からも遠ざかっていました。もう20年振りくらいにル・カレの小説を読みましたが、私自身が年齢を経たこともあり、ひとつ間違えば核戦争が起こりかねないような東西冷戦下のスパイ小説ほどのピリピリした緊張感は感じられません。もちろん、扱っているのは情報とともに作戦活動ですから、共通する部分はあります。何とも評価は難しいんですが、1980年代までの冷戦時代にル・カレのスパイ小説を愛読した者としては、少しだけ物足りない何かを感じざるを得ないのが正直なところです。
最後に、本書の雰囲気を動画で味わえる Penguin Canada 製作のトレイラーは以下の通りです。とってもカッコいいと思います。
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