最近読んだ経済書からオススメと残念な本
先週末の記事ではとうとう「読まなかった本」について書いてしまいましたが、今日は、まじめに、読んだ本について紹介したいと思います。よかった本2冊とオススメ出来ない本1冊です。
まず、イアン・エアーズ『ヤル気の科学』(文藝春秋) です。コミットメント契約という行動経済学の新たな概念を導入し、ダイエッットや禁煙などを成功させる方法について論じています。私はこのエアーズ教授の前著である『その数学が戦略を決める』も読んでいて、それなりにビッグデータに対する関心をかき立てられたんですが、エアーズ教授の学問領域の広さには驚きました。ただし、私の理解が及ばないだけかもしれませんが、コミットメント契約とインセンティブの違いについては定かではありません。非常に原始的に、ヘーゲル哲学のエンゲルスによる解釈である「量的変化が質的変化に転化する」のようなものであると受け止めました。違っているかもしれません。行動経済学の最新の議論の一端に触れたような気になれますのでオススメです。
続いて、ブルーノ S. フライ『幸福度をはかる経済学』(NTT出版) です。経済学や心理学の面からの幸福度研究については、ノーベル経済学賞を授賞されたカーネマン教授が第一人者であることは衆目の一致するところですが、この本の著者のフライ教授もディーナー教授、イースタリン教授、ブランチフラワー教授、オズワルド教授、ローウェンスタイン教授、などとともにトップクラスの研究者といえます。ただし、私は前著の『幸福の政治経済学』は読んでいません。この前著はスタッツァー教授との共著です。「イースタリンのパラドックス」として有名な所得と幸福の関係、失業と幸福、結婚と幸福、自営業者やボランティアはなぜ幸福度が高いか、などなど、最新の経済学が展開されます。特に、スイスの研究者らしく、直接民主制は幸福度を高めると結論しています。これまた、最先端の経済学に触れた気になれますのでオススメです。
最後に、オススメ出来ないのがジョン・モールディン、ジョナサン・テッパー『エンドゲーム』(プレジデント社) です。政府債務残高がサステイナブルではないんではないかという、かなり通俗的かつ前ケインズ的な経済学を展開しています。ほとんど感情に訴える以外の根拠はありません。訳者の山形浩生さんがあとがきで酷評していますが、それなら、翻訳を請け負わなければいいのにと思わないでもなかったです。訳者あとがきを先に立ち読みしてから読むかどうかを判断するようオススメします。
オススメの2冊の行動経済学と幸福度研究は共通点があり、どちらも伝統的な新古典派経済学の前提、すなわち、合理的選択や効用最大化などに対する疑問から出発し、より現実の人間の経済行動に近い前提条件から経済現象を解き明かそうとしています。いずれも最先端の経済学を知る良書だと思います。
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