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2013年2月25日 (月)

瀬名秀明『大空のドロテ』(双葉社) を読む

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瀬名秀明『大空のドロテ』(双葉社) を読みました。3巻からなる大作で、『パラサイト・イヴ』などをものにした作者のネームバリューからすれば、もっと注目されて然るべきと思うんですが、サッパリだった気がします。私はすべて図書館で借りたんですが、昨年2012年10月ころからの発売ですから、私のような出遅れ気味の人間には人気本なら半年やそこらは予約が回って来ないんですが、この本は3冊とも実にスンナリと貸してくれました。まず、ごく簡単に出版社のサイトから本の紹介を引用すると以下の通りです。

本の紹介
あの日、サーカスは空からやってきた! ルブランが生んだ怪盗ルパンの数々の冒険譚を下敷きに、瀬名秀明が長年の取材を重ねて遂に完成させたもうひとつのルパン! 20世紀初頭のヨーロッパを舞台に活躍する少女ドロテと、少年ジャンの物語。

私はやや志向する分野が違うので、この作者の作品はホラー小説大賞を受賞した『パラサイト・イヴ』とSF小説の『ブレイン・ヴァレー』しか読んだことがありませんが、日本SF作家クラブの会長であり、それなりのビッグ・ネームであるとは認識しています。それにしては、繰返しになりますが、この作品は注目度が低かった気がします。考えるに、この本の人気が出ない大きな要因は、第1に、全3巻Ⅳ部構成のうち、第Ⅰ部と第Ⅱ部はやや退屈です。第Ⅲ部から緊張感が高まってスピード感あふれる展開になるんですが、そこまでたどり着かずに放棄される可能性もあります。第2に、ストーリー展開やプロットとともに使っている漢字も難しいです。少なくとも義務教育くらいの少年少女向けではありません。第3に、質的な難しさとともに量的にも膨大なページ数があります。900ページ近いんではないでしょうか。
ということで、この作品は第1次世界大戦終了直後の1919年のフランスと後々フランスに植民地化されて行く北西アフリカを舞台に、怪盗アルセーヌ・ルパンに関する冒険物語となっており、主人公の少女ドロテは12歳、少年ジャンは14歳です。当時はめずらしかったであろう飛行機が大いに活躍します。その意味で、時代背景と欧州の地理的な広がりに飛行機と来て、もちろん、フランスとイタリアの違いはありますが、私は何となくジブリの「紅の豚」を思い出してしまいました。「紅の豚」は1992年の公開で、私はこの年1年365日まったく日本にいませんでしたので、帰国してからビデオで見た記憶があります。話を本に戻すと、とても大きなスケールでストーリーが進みます。第1次世界大戦後の欧州情勢に北西アフリカの植民地も加えて世界情勢が大きく流動化する中で、スーパースターたる怪盗アルセーヌ・ルパンが祖国フランスのために一大帝国を築き上げます。いったい、ルパンは何人いるのか、ルパンを取り巻く重要人物は生きているのか死んでいるのか、フランス大統領や警視総監は何を考えているのか、プランタジネット王家に伝わる大量破壊兵器は存在するのか、生き残った敗戦国ドイツの諜報機関の動きやいかに、等々、読みこなせばとても面白い小説です。

繰返しになりますが、少年少女向けの小説ではありません。作者は十分に認識しているハズです。それにしては装丁が子供っぽいんですが、この作者の小説で感じる下調べや準備がちゃんと調っていることが伺われて、ペダンティックな小説をお求めの向きにもピッタリです。

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