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2013年3月14日 (木)

最近読んだ4冊の経済書に関する覚え書

ここ10日くらいで何冊か話題の経済書を読みました。キワモノっぽい本を含めれば以下で取り上げる4冊です。以前は経済書を読むのは官庁エコノミストの業務の一環であって、このブログで取り上げることはしなかったんですが、今では経済書も小説も、ほとんどを図書館で借りて読んでいますので我が家の本棚には残りません。せめて読んだことを忘れないように、このブログに簡単に論評して記録を残しておきたいと考えています。論評の順は読んだ順、すなわち、図書館で借りた順ですので念のため。

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まず、翁邦雄『金融政策のフロンティア』(日本評論社) です。『経済セミナー』に連載されていたものを改稿の上取りまとめています。著者は日銀を代表する論客であり、日銀擁護のためには「カラスは白い」と言いかねないのではないかと私は考えたことすらありました。でも、この本は中央銀行の実務を含めて、標準的・伝統的な金融政策論のテキストでは扱われていなかった量的緩和政策などを含めて、興味深い最新のトピックを取り上げています。もちろん、著者の志向する方向は遺憾なく発揮されており、例えば、第1章ではすでに日銀が採用したインフレ目標に対して否定的な論評を加えています。すなわち、「ターゲット」よりも「ゴール」の方が好ましいといった方向に誘導しようとするかのごとき議論を p.17 で展開しており、ターゲットは「迎撃ミサイルで撃ち落とすべき敵機」なんだそうです。この当時、著者は物価目標政策をターゲットに撃ち落とそうとしていたのかもしれません。日銀が新しい総裁の下で大きく方向転換すると仮定すれば、著者はどのように対応されるのか、日銀という組織に忠実なのか、旧来の日銀理論に忠実なのか、後者だと思うんですが、とても興味深いものがあります。

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続いて、櫻川昌哉・福田慎一編『なぜ金融危機は起こるのか』(東洋経済) です。日本金融学会の「金融経済研究」の特別号という位置づけとなっており、全9章をチャプターごとに一流のエコノミストが書いています。第1章の櫻川教授のバブルに関するモデル分析は多くのエコノミストが同意するところでしょうし、私も大学の紀要に何本か書いたペーパーでもティロル論文などを下敷きにしていましたので、部分的ながら共通する部分もあります。第2章のモデル分析もかなり標準的なものと受け止めています。金融危機の歴史や中小企業との関係など、私の専門外とする論文も多く含まれていますが、一読して、かなり水準の高い学術論文を集めた論文集ということが分かると思います。大学で経済学や金融論を履修した経験のないごく一般のビジネスマンにはやや敷居が高いかもしれませんが、各論文の最初の問題意識と最後の結論部分だけでも読んでおくといろいろと参考になるんではないかと思います。

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さらに、星岳夫・カシャップ『何が日本の経済成長を止めたのか』(日本経済新聞) です。総合研究開発機構 (NIRA) により実施された研究活動の成果を基に本を取りまとめています。星・カシャップですから、ゾンビ企業がひとつのメイン・テーマになりますが、著者ご本人方も自覚して書いているように、あるいは、吉川教授も著書の『デフレーション』で認めていた通り、世界的にも標準的なモデル設定の上で、これまた標準的な経済学の分析手法により日本経済の停滞ないし著しい成長の低下という怪奇現象を解明しようと試みています。特に、第3部の日本経済再生のための処方箋の中でも、p.181 からのデフレ脱却のための金融政策に関しては、現在のアベノミクスを予言したような内容になっています。

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最後に、小幡績『リフレはヤバい』(ディスカヴァー携書) です。私はこの著者とは浅からぬ関係があり、もう15年ほども前にそれぞれの所属する役所から派遣され毎週定期的に顔を合わせて共同作業を行った記憶があります。それはともかく、この著者の考えているモデルが私には理解できません。新書版ということもありますが、吉川教授の『デフレーション』とは大きく異なる点です。さすがにリフレ政策でハイパーインフレが起こるといったトンデモな主張こそ見られませんが、全体として整合的なモデルの中での理論分析になっているかどうかはやや怪しいと受け止めています。というのは、かなり初期の段階からじっくりと真面目に読むべき本ではなく、キワモノの雰囲気を大いに漂わせているからです。特に、p.208 からのリフレ派エコノミストとの会話なんか、どのように受け取るべきか戸惑う人もいるかもしれません。いずれにせよ、リフレ政策については理論モデルの解釈や、エコノミストの信念のぶつけ合いから、実行した上での成果の評価、あるいは、実証の段階に移行しているような気がしてなりません。アベノミクスがどのような成果を上げるのかを見極めることにより、自ずとリフレ政策の評価が定まるのではないかと思います。そして、吉川教授やこの本の著者のように、リフレ政策に反対していたエコノミストがどのような反応を見せるかは大いに楽しみです。

ということで、今夜のブログで取り上げた4冊の中では、圧倒的に星岳夫・カシャップ『何が日本の経済成長を止めたのか』(日本経済新聞) がオススメです。でも、きちんと批判的な読み方ができるのであれば、話題になった本が多いですから、ひと通り読んでおくのも一案かもしれません。

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