ロバート C. アレン『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』(NTT出版) を読む
ロバート C. アレン『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』(NTT出版) を読みました。著者は英国のオックスフォード大学経済学部で経済史担当教授を務めています。現在の世界的な経済格差につながる産業革命期くらいからの経済史をひも解いています。まず、出版社のサイトから本の内容紹介を引用すると以下の通りです。
本の内容紹介
グローバル経済の格差の原因を、世界史のなかに探る。
なぜ世界には、豊かな国と貧しい国が存在するのか? 世界各国間の貧富を決める要素は何だったのかを、歴史、地理的側面、技術変化、経済政策、制度などを通して検討する。成長に寄与する要因を、歴史資料を駆使して分析し、今日の格差の原因を概観する。
次に、章別構成は以下の通りです。
- 第1章
- 大いなる分岐
- 第2章
- 西洋の勃興 - 最初のグローバル化
- 第3章
- 産業革命
- 第4章
- 工業化の標準モデル - ドイツとアメリカ
- 第5章
- 偉大なる帝国 - インド
- 第6章
- 南北アメリカ
- 第7章
- アフリカ
- 第8章
- 後発工業国と標準モデル - 帝政ロシアと日本
- 第9章
- ビックプッシュ型工業化 - ソ連・戦後日本と東アジア
ということで、産業革命前夜の大航海時代から産業革命にかけての時代を始点とし、その後の構成は時代を下るのではなく地域別に記述を進めているのは一目瞭然だと思います。なお、英語の原題は Global Economic History なんですが、著者の問題意識を汲み取って邦訳のタイトルとしたらしいです。しかし、イングランドで始まった産業革命については、どうしてイングランドで始まったかというと、高賃金のために労働節約的な技術革新へのインセンティブが高かったとしか解明されていない気がします。すなわち、イングランドはもともと豊かだったので産業革命によりさらに豊かになった、ということなのかもしれません。最後の方の章では開発経済学の視点からビッグプッシュ型の工業化により一気に先進国の仲間入りして高所得国になるモデルが提示されます。開発経済学の唯一でもなければ典型的なモデルでもないんですが、サックス教授などを含めて、十分に適用可能なモデルと考えられています。現に、日本や中国を含めてアジアはこのビッグプッシュ型の工業化により、いわゆるテイクオフを果たし国が少なくなく、ラテン・アメリカや特にアフリカとの大きな違いとなっていることは確かです。
トインビーから始まった産業革命研究は、マントゥの悲観論やアシュトンの楽観論など、経済史家からいろんな見方が提示されています。途上国の経済開発についても、ルイス型の2元モデルをはじめ、ビッグプッシュ型のほか、これまた、いろんな議論が展開されています。この本はおそらく大学1-2年生の学部に上がる前の教養部くらいから、レベルの高い高校生を対象にしている気がしますが、社会人でも十分に楽しめます。西洋経済史の教養を身につけたい方には特にオススメです。
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