一気に発表された政府統計から景気の現状を占う!
今日は3月の最終営業日の閣議日であり、いくつか重要な政府統計が発表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、さらに、総務省統計局から消費者物価指数が、それぞれ発表されています。いずれも2月の統計です。まず、各統計のヘッドラインを報じた記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
2月の鉱工業生産、3カ月ぶり悪化 スマホ関連不振
経済産業省が29日発表した2月の鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整値)は89.0となり、前月比0.1%低下した。悪化は3カ月ぶり。中国で生産されるスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向けの電子部品が減産となったためで、輸送機械や一般機械は改善傾向にある。3-4月の予測調査では指数が再び上昇に転じる見込みだ。
2月の生産指数は全16業種のうち10業種が前月を上回り、1月時点の7業種から増えた。経産省は「生産は下げ止まり、一部に持ち直しの動きがみられる」と基調判断を前月から据え置いた。
2月の指数は市場予想(2.5%上昇)を下回った。電子部品・デバイスが5.0%減と3カ月連続でマイナスとなったのが響いた。半導体集積回路や液晶素子など中国などで組み立てられるスマホ向け部品が落ち込んだ。窯業・土石製品も中国の春節(旧正月)による生産減でファインセラミックスなどが減り、0.5%減だった。
一方で輸送機械は北米や国内向けの自動車が堅調で1.8%増え、3カ月連続で改善した。一般機械も米国や台湾向けの半導体製造装置を中心に1.3%のプラスだった。
同時に発表した製造工業生産予測調査は3月が1.0%増、4月が0.6%増を見込む。一般機械が北米向け輸出や復興関連の需要増を見込むほか、電子部品も輸出の増加でプラスに転じる予測となっている。
2月失業率、2カ月ぶり悪化も「職探し活発化」
総務省が29日発表した2月の完全失業率(季節調整値)は前月比0.1ポイント上昇の4.3%となった。2カ月ぶりに悪化したが、総務省は「景気回復への期待感で、職が見つからないと諦めていた人も求職を始めたため」とみている。厚生労働省が同日発表した2月の有効求人倍率(同)は0.85倍で横ばいだった。
職探しをしていない失業者にあたる非労働力人口は前月比13万人減。一方で、就業者数は9万人増で、職探しを経て仕事に就く人は増えた。安倍政権の経済政策「アベノミクス」による景況感の好転を背景に、職探しを始める人が増えている。
完全失業者の失業理由をみると、「新たに求職」をあげた人は4万人増え、80万人となった。増加幅は、1月の2万人増から倍増した。リストラなど「非自発的な離職」が7万人減って99万人になったのとは対照的だ。厚労省は「雇用情勢は緩やかに持ち直している」との基調判断を据え置いた。
職探しを始めた人が増えた結果、非労働力人口は減った。減少した人数のうち、約8割は女性だった。就業者数が前年同月と比べ増えている医療・福祉業や宿泊・飲食サービス業などが雇用の受け皿になっているとみられる。女性の失業率は求職者が増えたので、0.1ポイント上昇の3.9%となった。
2月の新規求人は前年同月比4.7%増えた。卸・小売業(10.4%増)、教育・学習支援業(11.7%)など、求人も女性が多く働くサービス業を中心に増えた。復興需要が底堅い建設業も6.5%増えた。一方、製造業は8.9%減り、9カ月連続で減少した。
消費者物価0.3%下落 2月、テレビ値下がり
総務省が29日発表した2月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きが激しい生鮮食品を除いたベースで99.2となり、前年同月比で0.3%下落した。マイナスは4カ月連続で、下落幅は前月よりも0.1ポイント膨らんだ。テレビなど家電製品の価格下落が響いた。
項目別に見るとテレビはマイナス28.9%と、前月のプラス6.2%から一転して低下に転じた。昨年2月にテレビの調査対象を変更したことで価格が押し上げられた影響が、はげ落ちたことが主因だ。ルームエアコンも23.9%低下し、家電製品の値下がりがデフレをけん引する構図が続いている。
一方、電気代は電力会社の値上げを反映して3.5%上昇した。ガソリン価格の上昇で自動車等関係費も上がった。
全国指数の先行指標となる東京都区部の3月のCPI(中間速報値)は、生鮮食品を除くベースで98.7となり前年同月比0.5%下がった。テレビやエアコンの値下がりが主因だ。
いつもの通り、いずれもよくまとまった記事でした。続いて、鉱工業生産指数のグラフは以下の通りです。上のパネルは2005年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。毎度のお断りですが、このブログだけのローカル・ルールで、直近の景気循環の山は2012年3月、さらに、景気の谷は2012年11月であったと仮置きしています。
鉱工業生産は当然プラスの増産との市場の事前コンセンサスだったんですが、何とわずかながら減産に転じました。基本的には中国の春節効果によるスマホの影響であって、生産が回復基調にあることに変わりないと私は受け止めています。引用した記事にもある通り、増産業種は増えており、幅広い産業で生産を増加させる動きが広がっています。これも記事にある通り、生産予測は3月も4月もプラスを示しています。特に、、鉄鋼業、一般機械工業、電子部品・デバイス工業に関しては3月、4月ともに増産を見込んでいます。もっとも、情報通信機械工業は3月、4月とも減産を見込み、必ずしも、一本調子での増産ばかりが予想されているわけではありません。従来からの見方と同じなんですが、生産の先行きに関しては輸出の動向が気にかかるところです。今年前半くらいまでは、企業部門ではなく家計部門が景気を引っ張るような気がします。上のグラフの下のパネルでも、耐久消費財に比べて資本財の出荷が伸び悩んでいるのが見て取れます。
上のグラフは上から失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済の系列です。雇用については、引用した記事にある通り、景気が悪かった時に労働市場から退出した人が戻りつつあるように見えます。アベノミクスによる景気の回復基調の強まりとともに、特に、女性を中心に労働市場への参入が進み、結果として、失業率や有効求人倍率などの改善テンポがさらに緩やかになる局面に入った気がします。失業率は一進一退で推移していますし、2月の有効求人倍率は前月から横ばいでした。しかし、決して悪い兆候ではないと私は受け止めています。今後は、量的な雇用の拡大が緩やかになる一方で、企業業績に応じた賃金の上昇がどのくらい実現するかの質的な雇用の動向にも目を向けたいと思います。
消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。青い折れ線が全国の生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率となっており、積上げ棒グラフがその寄与度を表しています。赤い折れ線グラフは食料とエネルギーを除く全国の総合で定義されるコアコアCPIの、グレーの折れ線は東京都区部のコアCPIの、それぞれ前年同月比上昇率です。物価は下落率が拡大したというものの、生鮮食品を除くコアCPI上昇率は市場の事前コンセンサスでは▲0.4-0.5%でしたので、結果としては、実績はこれを上回ったことになります。1月のエアコン、2月のテレビが銘柄改正などの影響により、昨年上昇を示したため、その反動が今年になって出ています。もっとも、物価でプラスを示しているのはエネルギーくらいなんですが、今年の年央から後半にはコアCPI上昇率はゼロ近傍からプラスを望めるんではないかと私は予想しています。もちろん、日銀の金融政策に依存する部分が大きいのはいうまでもありません。
今日発表された政府統計は、アベノミクスによる景気回復が必ずしも一本調子に景気を上向かせるだけではなく、そろそろ回復や拡大が緩やかになる可能性を示唆していると私は受け止めています。しかし、我が国の景気が回復基調にあることは何ら変わりなく、期待やマインドに支えられた景気が実体的な裏付けを持つに至るかどうかに注目が移りつつあるように見受けられます。
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