円高修正と株高はいまだ雇用の質には波及せず
本日、厚生労働省から1月の毎月勤労統計が発表されました。統計のヘッドラインとなる賃金は季節調整していない原系列の前年同月比+0.7%増でした。また、景気に敏感な所定外労働時間は季節調整済みの系列で前月比▲0.6%と減少しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
給与総額9カ月ぶり増 1月、特別給与が急増
厚生労働省が5日発表した1月の毎月勤労統計調査(速報)によると、残業代やボーナスを含む給料の総額は27万1450円となり、前年同月比で0.7%増えた。増加は9カ月ぶり。冬のボーナスを遅れて支払った企業があった影響で、特別給与が23.3%増えたためだ。賃金の本格回復を実感させる基本給の「所定内給与」は前年同月水準を下回っている。
調査は従業員5人以上の企業が対象。所定内給与は24万233円で、0.1%減った。残業代など「所定外給与」も1.5%減り、1万8419円となった。
きまって支給する給与(所定内と所定外の合計)は0.2%減の25万8652円だった。減少は8カ月連続。厚労省は「正社員より賃金が安いとされるパート労働者の割合が増えていることが原因」とみている。
就業形態別にみると、フルタイムで働く一般労働者の給与総額は前年同月比1.3%増えた。増加は3カ月ぶり。パートタイム労働者の給与総額は0.6%減で、2カ月連続で減った。常用労働者のうちパートで働く人の割合は2012年1月の28.69%から29.05%に上昇した。
足元の景気動向を示すといわれる製造業の所定外労働時間は前年同月から6.6%減り、6カ月連続で減少した。前月と比べると0.4%増とわずかに増えたが、12年末からの円安・株高による好転はまだ見られない。
安倍晋三首相はデフレ脱却のため、13年の春季労使交渉で産業界に賃上げを要求している。産業界はボーナスの上積みには前向きだが、月例賃金の引き上げには慎重姿勢を崩していない。
いつもながら、とてもよくまとまった記事でした。続いて、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、下は賃金の季節調整していない原系列の前年同月比を、それぞれプロットしています。賃金は現金給与総額と所定内給与です。
アベノミクスによる円高修正と株高はまだ雇用の質には波及していません。すなわち、現金給与総額は季節調整していない原系列の前年同月比で見て+0.7%増となったものの、引用した記事にもある通り、昨年12月支給のボーナスが後ズレしただけであって、所定内給与は▲0.1%の減少を示しました。恒常所得仮説の示す通り、消費は所定内賃金との相関が高く、しかも、賃金増が暮れのボーナスの後ズレとあっては、決して評価できません。賃金水準は非正規雇用の割合の増加によりジワジワと減少する傾向から脱していないと考えるべきです。
雇用の量に関しては、常用雇用が前年同月比で+0.5%増となったものの、この増加はすべてパートタイム労働者が増加したためであり、パートタイム以外の一般労働者は前年と同水準でした。また、景気に敏感な所定外労働時間を季節調整済の前月比で見ると、さすがに円高修正の恩恵が大きい製造業は+0.4%増を示したものの、非製造業も含めた調査産業計でみると▲0.6%の減少を記録しました。繰返しになりますが、アベノミクスによる円高修正と株高は雇用の量にまず好影響を及ぼしているのは確かな一方で、ヘーゲルの弁証法にいうところの量的変化が質的変化に転化する段階には達しておらず、雇用の質の改善にはまだ波及していないように見えます。
先週金曜日の3月1日に発表された失業率や有効求人倍率などの雇用統計は今までとはかなり違った印象を与えてくれましたが、毎月勤労統計に示された賃金や労働移動などの雇用の質的な指標はまだ改善に達せず、今後の課題として積み残されているように見えます。賃金は上がるんでしょうか?
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