川村元気『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス) を読む
川村元気『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス) を読みました。話題の本です。今年の本屋大賞にもノミネートされています。この本屋大賞はかなり評価が定まっており、2012年度大賞の『舟を編む』以下10位に入った10冊、すなわち、ノミネートされた10冊のうち、私は何と7冊まで読みました。現段階では、今年のノミネートのうち、読んだのは『光圀伝』と『ソロモンの偽証』に続いてまだ3冊目なんですが、たぶん、もう少し読むような気もします。ということで、ものすごく長くなりますが、出版社のサイトからストーリーと目次を引用すると以下の通りです。
ストーリー
地方都市で郵便配達員として働く30歳の僕。猫と2人暮らし。そんな僕がある日突然、余命わずかであることを宣告される。僕が絶望的な気分で家に帰ってくると、自分とまったく同じ姿をした男が待っていた。
「はじめまして! アタシ悪魔っす!」
その(ずいぶんと陽気な)男は自分が悪魔だと言い、奇妙な取引を持ちかけてくる。
「この世界から何か1つを消すごとに、あなたの命を1日延ばしてあげましょう」
何かを得るためには、何かを失わなくてはならない。半信半疑ながらも、僕はこの取引を受ける。
僕と猫と陽気な悪魔の摩訶不思議な7日間がはじまった。
悪魔は世界からモノを消し、僕の命を1日ずつ延ばしていく。電話、映画、時計……僕の命と引き換えに、世界から本当にモノが消える。世界から何かが消える度に、僕の中の常識や価値観が大きく変化していく。
電話が消えた世界。映画が消えた世界。時計が消えた世界。失われてみて、はじめて感じるそのモノの意味や価値。そして僕は何かが失われていく世界の中で、愛猫と触れ合い、初恋の人と再会し、無二の親友と出会い、亡き母のこと、そして長い間断絶状態にある父のことを想う。そして自分が死に、消えた後の世界を想像する。僕の葬式に集まるのはどんな人たちだろうか。そのなかで僕の死を心から悲しんでくれる人は何人いるのだろうか。僕について、彼らはどう評し、どんな思い出を語るのだろうか。
そして金曜日、悪魔は告げる。「世界から猫を消してください」と。
苦悩の絶望の中、僕は猫を探して走り回る。走っても、走っても、猫は見つからない。
だがそのとき僕はまだ、のちに訪れる奇跡的な結末を想像だにしていなかった―――。
目次
- 月曜日
- 悪魔がやってきた
- 火曜日
- 世界から電話が消えたなら
- 水曜日
- 世界から映画が消えたなら
- 木曜日
- 世界から時計が消えたなら
- 金曜日
- 世界から猫が消えたなら
- 土曜日
- 世界から僕が消えたなら
- 日曜日
- さようならこの世界
まず、万人受けはしないかもしれません。人によって評価が分かれる可能性があります。死を前にして、ここまで恬淡と、明るく軽く薄く過ごせるものかどうか。そこに、両親との関係、特にエディプス・コンプレックスと総称される父親と男の子との関係という極めて深くて重いテーマを忍び込ませる手法が受け入れられるかどうか、いろんな読み方が出来ます。逆に、軽く読んでしまえば、中学生どころか小学校の高学年の夏休みの宿題の読書感想文にも使えそうですし、もちろん、ヒマつぶしの軽い読み物にもなります。私自身はかなり高く評価できると受け止めています。すなわち、避けられない死を前にした猫と暮らす草食系男子の思考と行動をよく描写していると思います。ただし、作者のホームグラウンドであるビジュアル系の要素はそれほど強く押し出されていません。ある意味で、バランスが取れている印象を持ちました
少し前まで文学少女だった私の知り合いによれば、本屋大賞の有力候補は『楽園のカンヴァス』なんだそうです。別の中年男性の知り合いは『64』を強く推しています。でも、私自身は読んだ3冊の中では『ソロモンの偽証』に魅力を感じています。果たして、4月9日に発表される結果やいかに?
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