雇用統計と消費者物価と法人企業統計を見る
今日は、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI) が、それぞれ公表されています。いずれも1月の統計です。さらに、四半期の統計で財務省から昨年2012年10-12月期の法人企業統計も発表されています。まず、とても長くなりますが、統計のヘッドラインを報じる記事を3本まとめて日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
1月求人倍率0.85倍 リーマン前08年8月以来の水準
失業率は4.2%、3カ月ぶり改善
雇用情勢に改善の動きが出てきた。厚生労働省が1日発表した1月の有効求人倍率(季節調整値)は0.85倍となり、前月比0.02ポイント上昇した。改善は3カ月連続で米リーマン・ショック前の2008年8月(0.86倍)以来の水準。総務省が同日発表した1月の完全失業率(季節調整値)も前月比0.1ポイント低い4.2%となり、3カ月ぶりに改善した。
総務省が今回初めて集計した非農林業の有期雇用者数は1410万人で、全体の4分の1を占めた。
円安・株高で景況感が持ち直し、求人が増えた。厚労省は雇用情勢の基調判断を「緩やかに持ち直している」とし、8カ月ぶりに引き上げた。前月は「持ち直しの動きが弱まっている」だった。
1月の新規求人は前年同月比9.4%増えた。宿泊・飲食サービス業(14.2%増)、教育・学習支援業(13.7%増)など女性が多く働く業種で増えた。東日本大震災からの復興需要などで建設業も14.3%増加した。製造業は7.0%減だった。
完全失業率(季節調整値)は女性が3.8%となり、前月比0.2ポイント改善した。特に45-54歳の女性の改善が目立つ。女性の就業者の増加数は30万人と男性(5万人)を上回った。男性の失業率は4.6%と前月比0.1ポイント悪化した。
就業者数は宿泊・飲食サービス業と教育・学習支援業がそれぞれ13万人増、医療・福祉業は5万人増だった。製造業は1万人減と減少が続いた。
消費者物価0.2%下落 1月、3カ月連続マイナス
総務省が1日発表した1月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きが激しい生鮮食品を除いたベースで99.1となり、前年同月比で0.2%下落した。下落幅は前月から横ばいで、マイナスは3カ月連続となる。家電など耐久消費財を中心に物価の下落基調が続いている。
家庭用耐久財は全体で16.5%下落し、マイナス幅はエアコン(30.2%)や冷蔵庫(23.4%)などが大きかった。航空運賃も年末年始の割引が大きく、12.7%のマイナスになった。エネルギー価格は、原油高や円安による輸入価格の上昇が響いて3.9%とプラス幅は前月(3.4%)から拡大した。
物価の基調を示す食料とエネルギーを除いたCPIは、前年同月比0.7%下落しており、マイナス幅は2カ月連続で拡大した。エアコンの下落幅が調査対象の入れ替えの影響で前月まで実際より小さくなっていたためだ。2月のCPIは同じ理由でテレビの下落幅が大幅に拡大すると見込まれている。
設備投資は8.7%減 10-12月、前年の反動で落ち込む
財務省が1日発表した2012年10-12月期の法人企業統計によると、金融機関を除く全産業の設備投資は前年同期比8.7%減の9兆767億円となった。マイナスは5四半期ぶり。前年同期に東日本大震災からの復旧投資で大幅に伸びた反動もあり、製造業と非製造業がともに落ち込んだ。企業業績は固定費の削減と為替差益の押し上げで、減収増益だった。
設備投資は季節要因を除いたベースで7-9月期比で0.9%増と、4四半期ぶりにプラスに転じた。1月以降について財務省は「足元の景気は下げ止まっており、(円高是正による)輸出環境の改善や経済対策、景況感の持ち直しで回復に向かうことが期待される」と分析している。
設備投資の前年同期比の減少率は5四半期ぶりの大きさだった。製造業が9.6%減と大きく落ち込んだ。情報通信機械が受注減少で投資を抑制したほか、前年の反動減も響いた。鉄鋼や電気機械も需要低迷で投資を抑えた。
非製造業は8.2%減少。最大の押し下げ要因になったのはサービス業で、弁当や総菜などとの競争激化で、外食産業が新規出店を減らしたことが主因だ。情報通信業は前年同期にスマートフォンへの対応で基地局を大幅に増やした反動で落ち込んだ。建設業も大型案件の反動が響いた。
全産業の売上高は6.8%減の320兆9208億円。資源価格の下落で商社など卸売業・小売業が落ち込んだほか、自動車など輸送用機械がエコカー補助金終了や中国での日本製品の買い控えで減少した。欧州や中国向けの輸出落ち込みで、電気機械や運輸・郵便業が落ち込んだ。
一方、全産業の経常利益は12兆7901億円と7.9%増えた。マンション分譲や商業施設の好調で不動産業が好調だったほか、復興事業の押し上げで建設業も伸びた。情報通信機械は人件費を削減したほか、輸送用機械は原価圧縮と為替差益による押し上げで、ともに減収ながら増益を確保した。
法人企業統計は国内総生産(GDP)を算出するための基礎統計の1つ。内閣府は今回の結果を踏まえて8日に10-12月期のGDP改定値を発表する。
いつもながらとてもよくまとまった記事です。次に、雇用統計のグラフは以下の通りです。上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数のグラフとなっています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。何度も繰り返していますが、直近の景気の山は2012年3月、谷は2012年11月と仮置きしています。以下、四半期データをプロットしたものを含め、すべてのグラフで同様です。
引用した最初の記事の冒頭にある通り、雇用情勢に改善の動きが出て来たと私も考えています。上のグラフにも見られる通り、遅行指標の失業率こそ一進一退を繰り返していますが、一致指標の有効求人倍率と先行指標の新規求人数は明らかに昨年末くらいから改善を示していますし、もともと、この2指標は景気後退期と認定されるかどうかは別にして2012年中の停滞期間にもダメージは少なかったようにグラフからは読み取れます。量的には雇用は改善の方向に向かい始めた可能性が十分あります。問題は雇用の質です。
やや単純化が過ぎるかもしれませんが、雇用の質のひとつの指標として正規と非正規の比率を見たのが上のグラフです。メディアによっては、総務省統計局が新たに統計として取り始めた有期雇用の方に注目していたところもあったんですが、私はこの正規・非正規の月別データの方が気にかかります。すなわち、2002年から四半期で調査されて来たデータが2013年1月から月次の調査が始まりました。上のグラフは四半期データと月次データを無理やりに結合しています。四半期調査の始まった2002年ころには70パーセントを超えていた正規比率は2013年1月には65パーセントを割り込むくらいまで一直線に低下しました。この正規・非正規の雇用形態と賃金の上昇が、今後の景気の回復・拡大局面でどのように動くかにも注目すべきです。
さらに雇用の質を見る一環として、産業別の雇用者数の推移を見たのが上のグラフです。季節調整していない原系列の雇用者数を前年同月と比較して、前年との差を青い折れ線で示した上で、産業別の内訳を積上げ棒グラフでプロットしています。緑色の医療・福祉がほぼ一貫して雇用者数を増加させており、逆に、水色の製造業がマイナスを続けています。情報通信業も最近はマイナスを示しています。雇用として質の高い高賃金の正規雇用者の産業が減少して、低賃金の非正規雇用者の比率の高い産業が雇用者を増やしているようにも解釈できます。
アベノミクスで注目度をアップさせたインフレ率に目を転じると、消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。青い折れ線が全国の生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率となっており、積上げ棒グラフがその寄与度を表しています。赤い折れ線グラフは食料とエネルギーを除く全国の総合で定義されるコアコアCPIの、グレーの折れ線は東京都区部のコアCPIの、それぞれ前年同月比上昇率です。国際商品市況と円高修正に起因するエネルギー価格の高騰に伴って、相対価格の変化は生じているようですが、いまだ一般物価水準の変化には至っていないように見受けられます。特に、1月はエアコン、2月はテレビ、といった耐久消費財の価格動向が重しになって物価が下方に引っ張られると多くのエコノミストに予想されており、今月に日銀総裁・副総裁が新たに任命され、金融政策が大きく緩和された上で、さらに、その波及ラグを経るまで物価はそれほど急には動かない可能性があります。
最後に、法人企業統計をみると、ヘッドラインとなる売上、経常利益、設備投資のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列をプロットしており、季節調整していない原系列の前年同期比で論じている引用記事と少し印象が異なるかもしれません。足元の2012年10-12月期では、売り上げが前期比で落ちたにもかかわらず経常利益は増加し、設備投資も増えています。より細かく見ると、賃金などの固定費負担が減少して、売上減にもかかわらず利益を出すようになったともいえます。しかし、設備投資の増加も極めて小幅であり、2月14日に発表された10-12月期のGDP1次QEと同じで、10-12月期の企業活動はまだ低水準にあったと私は受け止めています。11月半ばからの円高修正と株高により、足元では10-12月期よりも企業活動は上向いていると想像していますが、統計で確認で来るのはもう少し先になりそうです。ただし、来週発表の2012年10-12月期のGDP2次QEは上方修正される可能性が高いと私は受け止めています。
最後の最後に、法人企業統計から擬似的に計算できる労働分配率と損益分岐点のグラフは上の通りです。2012年中に労働分配率はやや低下しましたが、この先の動向が気にかかります。
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