アジア開発銀行の「アジア開発見通し」 Asian Development Outlook 2013 のポイントやいかに?
昨日、アジア開発銀行 (ADB) から「アジア開発見通し」 Asian Development Outlook 2013: Asia's Energy Challenge が発表されています。もちろん、pdf の全文リポートもアップロードされています。今夜はリポートの中心となる第1章 Asia builds momentum amid global doldrums から図表を中心にいくつかピックアップして、簡単にリポートの経済見通しのさわりだけ振り返っておきたいと思います。
まず、ヘッドラインとなるアジア新興国・途上国の成長率は今年2013年+6.6%、来年2014年+6.7%と見込まれています。リポートから p.4 の 1.1.2 GDP growth and inflation, developing Asia を引用すると上の通りです。なお、大雑把に過ぎる気がしますので、上の画像をクリックするとリポート p.289 Table A1 Growth rate of GDP (% per year) だけを抜き出した pdf ファイルが別タブで開きます。国別成長率の詳細を見ることが出来ます。欧州をはじめとする海外経済の鈍化を主たる要因としてアジアの新興国・途上国の成長は2012年にはやや減速していましたが、今年から来年にかけて成長率が持ち直すとともに、成長率の上昇につれてインフレ率も緩やかに上昇すると見込まれています。
他方、アジア新興国・途上国は外需に依存した成長から消費などの内需に牽引された成長に移行する姿が予想されており、上のグラフの通り、経常黒字は徐々に縮小すると見込まれています。リポートから p.8 の 1.1.8 Current account balance, developing Asia を引用しています。ただし、引用はしませんが、その次のグラフ 1.1.9 World current account balance で示されている通り、中国や中国以外のアジア新興国・途上国も含めて経常黒字の世界シェアは、リーマン・ショック前に比べると低下しているものの、まだまだ高水準を維持しています。
適当なものがないのでグラフは引用しませんが、第1章で興味深いのは pp.18-24 の Managing capital flows under quantitative easing と題する節です。先進国の金融緩和、特に量的緩和がアジア新興国・途上国の経済や金融市場にどのような影響を及ぼすかについて、米国連邦準備制度理事会 (FED) による政策変更などのイベント・ダミーを用いたモデル分析を行なっています。例えば、2008年12月16日に連邦公開市場委員会終了後に量的緩和のステートメントが発表されると、日本を含むアジア諸国の通貨は中国と香港を除いて2-5%増価した、との結果が示されていますし、一般的に、米国の量的緩和策強化のイベントによる米国金利とVIX指数の低下はアジア諸国の金融市場の緩和につながった、と結論されています。常識的な結果だと思いますが、モデルで量的に確認した、といったところに意味があるのかもしれません。これらの分析を基に、先進国における金融の量的緩和に対して、以下の3点が政策対応として重要であると結論しています。
- Strengthened macroprudential policies.
- Improved monitoring of asset markets.
- Reserves maintained in line with increasingly volatile financial flows.
リポートでは pp.27-28 にかけて、Risks to the outlook として以下の4点を上げています。3点目には尖閣諸島や竹島も含まているんでしょうか。
- Unresolved fiscal drag in the US.
- Austerity fatigue in the euro area.
- Border disputes in Asia.
- Potential spikes in oil prices.
見通し編の第1章ではこの他に、アジア新興国・途上国の成長が1次産品に依存するようになっている事実に目を向けるよう促したり、東南アジアの経済統合を分析したり、「中所得国の罠」に陥らないように教育を重視する方向を打ち出したり、補論で先進国経済や商品市況を論じたり、さらに、分析編の第2章ではエネルギー問題を取り上げ、加えて、地域編の第3章では各国経済見通しを詳細に展開したりと、いつもの通りの詳細な内容を含んでおり、300ページを超えるリポートをこのブログで網羅的に報告することはとても出来ません。特に今夜は帰宅が遅くなり、このあたりで力尽きました。
最後に、昨日、国際通貨基金 (IMF) から「世界経済見通し」 World Economic Outlook の分析編が公表されています。インフレと低所得国の成長のダイナミズムを取り上げています。国際機関のリポートを取り上げるのが少しずつ遅れ始めましたが、日を改めて取り上げたいと思います。
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