日米の流行ミステリ作家ジェフリー・ディーヴァーと高村薫のシリーズ最新作を読む!
日米流行ミステリ作家の最新作を読みました。ジェフリー・ディーヴァー『バーニング・ワイヤー』(文藝春秋) と高村薫『冷血』上下巻 (毎日新聞社) です。
ジェフリー・ディーヴァー『バーニング・ワイヤー』は四肢麻痺の犯罪科学者にして、NY市警の元科学捜査本部長だか元鑑識部長か何かだったリンカーン・ライムのシリーズです。私はシリーズを全部読んでいると思うんですが、『ボーン・コレクター』、『コフィン・ダンサー』、『エンプティ・チェア』、『石の猿』、『魔術師 (イリュージョニスト)』、『12番目のカード』、『ウォッチメイカー』、『ソウル・コレクター』に続いて最新作の『バーニング・ワイヤー』は9作目です。本作でも『ウォッチメイカー』ほど出番はありませんが、この作者のもうひとつの人気シリーズの主人公であるキャサリン・ダンスがチラリと登場します。このブログで取り上げるのは初めての気もしますので、簡単にこのシリーズを解説しておくと、主人公が四肢麻痺ですから、典型的なアームチェア・ディテクティブ、安楽椅子探偵のミステリです。派手な撃合いやカーチェイスはライムの第1の弟子に当たるサックスにお任せです。犯人や関係者の供述はあまり信用せず、もっぱら物的証拠の収集と分析から事件の解決を目指します。なお、シリーズ第1作の『ボーン・コレクター』が映画化された際に、デンゼル・ワシントンがライム役を演じ、ファンの間でライムは黒人なのかという疑問が上がりましたが、作品中ではライムが白人なのかアフリカ系なのかについては何の言及もありません。しかし、前作『ソウル・コレクター』でいとこのアーサー・ライムが逮捕された際に、アーサーは白人である旨の記述がありましたから、リンカーン・ライムも白人と解釈するのが妥当と多くのファンは考えています。私は過去のシリーズの中では『ウォッチメイカー』が最高傑作だと考えていたんですが、やっぱり、本作『バーニング・ワイヤー』が最高です。このシリーズも世間の流れに沿って前作でデジタルな世界に踏み出したんですが、再びアナログの世界に戻り、本作では電気を使った犯罪を取り扱います。『ウォッチメイカー』以来の宿題のような課題も解決し、ライムは犯人逮捕後の本作最終パートで新たな境地に達します。おそらく、次回作以降はまったく違ったライムの姿が見られそうです。そもそもミステリとして5ツ星の第1級の作品ですし、その上、私のようなディーヴァーのファンなら必ず読んでおくべきです。
ディーヴァーのリンカー・ライムのシリーズに対向するわけでもないんですが、高村薫の合田雄一郎のシリーズ最新刊が『冷血』上下巻です。合田雄一郎は警視庁の刑事で、本作ではほとんど登場しませんが、前妻の兄は検察官をしています。前妻は米国において2001年9月11日のテロで死亡しています。私はコチラも『マークスの山』から始まって、『照柿』、『レディ・ジョーカー』、『太陽を曳く馬』と本作と、シリーズすべてを読んでいたりします。『レディ・ジョーカー』がシリーズ最高傑作だと考えており、最新作である本作を読んだ後もその考えは変わりありません。なお、高村薫の作品はあまり読んでいませんが、現時点でもデビュー作の『黄金を抱いて翔べ』が私の読んだ高村作品の中では最高傑作だと思っていたりします。シリーズ前作の『太陽を曳く馬』では元オウム信者でてんかん患者の僧が禅寺から抜け出して交通事故で死亡するという事件で、仏教用語がふんだんに盛り込まれましたが、本作では歯科医一家4人皆殺しの強盗殺人事件で、単なる空き巣狙いの犯人の意図から、どうして4人もの殺人まで至ったか、30過ぎのいい年齢に達した大人が恨みもない一家4人を場当たり的に殺したのか、を解明しようと合田刑事が取り組みます。従って、通常のミステリは犯人が明らかにされるところで終了する作品も少なくないんですが、本作では犯行と犯人逮捕は上巻で終わってしまい、下巻では延々と殺人まで犯行が進んだ謎を合田刑事が問い詰めます。その謎の解明が成功しているかどうかは読者の判断に委ねられているんだと思います。なお、追加情報を2つだけ簡単に記しておきます。まず、トルーマン・カポーティが同名のノンフィクション・ノベルを書いていますが、まさに彷彿とさせるものがあります。次に、私はそこまでは思わなかったのですが、一部に、この作品は生と死を見つめるという意味でとても高い評価を得ており、「週刊朝日」の書評では「日本語で書かれ2012年に刊行された書物のなかで最高の作品」と絶賛されていたりします。
今週はゴールデンウィーク前半の3連休を前に、いくつかの図書館からいろいろと本を借り出す予定です。ジェフリー・ディーヴァーのもうひとつの人気シリーズであるキャサリン・ダンスを主人公にした最新作『ロードサイド・クロス』もすでに手元にあったりします。もっとも、買ってあって積読になっている本も何冊かあります。
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