« 景気ウォッチャーはさらに上昇して過去最高を記録し、経常収支はまたしても赤字に転じる! | トップページ | 先発能見投手の見事なピッチングでジャイアンツに完封勝ち! »

2013年4月 9日 (火)

西内啓『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社) を読む

photo

西内啓『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社) を読みました。まず、何はともあれ、出版社のサイトから本の内容紹介を引用すると以下の通りです。

内容紹介
統計学はどのような議論や理屈も関係なく、一定数のデータさえあれば最適な回答が出せる。そうした効能により旧来から自然科学で活用されてきたが、近年ではITの発達と結びつき、あらゆる学問、ビジネスへの影響力を強めている。こうした点から本書では統計学を「最強の学問」と位置付け、その魅力と可能性を伝えていく。

面白い本です。横断的な学問としての統計学を「最強の学問」と位置づけ、高給取りが延々と会議に費やして得た結論よりも統計的な推論の方が圧倒的に正確かつ安価であることを主張しています。その通りだと思います。マイケル・ルイスの原作がブラッド・ピットの主演で映画化された「マネーボール」についても本書で触れられていますが、基本的な思想はまったく同じと考えてよさそうです。もっとも、私は原作は読みましたが、映画は見ていません。ところで、私は官庁エコノミストらしく、というか、何というか、実は統計局に勤務していた経験があります。霞が関から遠く離れて新宿区の若松町に庁舎があったりします。悉皆調査の国勢調査は別にして、その他ほとんどのサンプル調査は国勢調査を基にしたランダム・サンプリングで作り上げたミニ・ジャパンをくまなく調査し、自動的にオール・ジャパンが推計されるという手法です。しかしながら、本書では、この政府統計や業界統計を活用するというよりも、自ら必要なランダム化した統計調査を行い、かつ、自ら評価することに主眼が置かれています。
統計的な調査と推論については、おそらく、本書はほぼ100パーセント正しいと私は受け止めています。そして、企業における利益の最大化や医療現場における致死率や罹患率の最小化など、明確に数字で規定できる目標に向かう上で統計学が「最強の学問」であることは疑いの余地はありません。困るのは数値化できない何らかの目標に対して統計学が必ずしも有効ではない可能性が残されていることです。「マネーボール」は実はその典型のひとつです。野球チームの勝率を目標変数にすれば統計学は「最強」かもしれませんが、野球としての面白さという数値化できない観点からは「マネーボール」的な野球は面白くない可能性が残されています。プロ野球チームの収益に対して勝率なのか、面白さに基づく観客動員数やグッズの売上げなのか、いずれが貢献するかは不明ですが、勝率が大きな要素であることは私も認めるものの、阪神ファンだからということも含めて、勝率がすべてと言い切る自信もありません。これは我々個々人の人生にも当てはまります。経済学では単純に生涯の消費流列の現在割引価値を最大化することを目標変数に据える場合が多いような気がしますが、それがすべてとも思えません。統計学の限界も知るべきかもしれません。他方、本書の最初の方でシニカルに取り上げられているビッグ・データはものすごく多くの変数をモデルに取り込んでものすごく多くのパラメータを推計することにより、この数値化できない目標という難題を解決してくれる可能性を秘めていると私は理解するんですが、著者のビッグデータに対する見方は冷ややかなようです。ということで、ビッグデータに関する著者の見方に同意できない点がいくつか残るものの、流行りの面白い本です。今年前半のビジネス書としては一番かもしれません。多くの図書館に所蔵されていることと思います。読んでおいて損はありません。

なお、アジア開発銀行 (ADB) から「アジア開発見通し」 Asian Development Outlook 2013: Asia's Energy Challenge が発表されています。早く目を通して近いうちに日を改めて取り上げたいと思います。

|

« 景気ウォッチャーはさらに上昇して過去最高を記録し、経常収支はまたしても赤字に転じる! | トップページ | 先発能見投手の見事なピッチングでジャイアンツに完封勝ち! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 西内啓『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社) を読む:

« 景気ウォッチャーはさらに上昇して過去最高を記録し、経常収支はまたしても赤字に転じる! | トップページ | 先発能見投手の見事なピッチングでジャイアンツに完封勝ち! »