いっせいに発表された政府統計に見る日本経済の現状やいかに?
今日は月末の閣議日で政府統計がいっせいに発表されました。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数が、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局から消費者物価指数が、それぞれ発表されています。いずれも今年4月の統計です。まず、長くなりますが、各統計のヘッドラインについて報じた記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
4月鉱工業生産指数1.7%上昇 5カ月連続、車伸びる
経済産業省が31日発表した4月の鉱工業生産指数(2005年s=100、季節調整値)速報値は91.9と前月に比べて1.7%上がった。北米向けの乗用車や国内向けの軽乗用車が増え、生産指数は5カ月連続で上昇した。先行きは円安が輸出の追い風だが、予測の指数によると5月の生産は前月比横ばいで6月に減少する。企業は慎重な生産計画をたてている。
経産省は基調判断を「緩やかな持ち直しの動きがみられる」とし、3月の判断を据え置いた。前月比で見た指数の伸び率が4月まで3カ月続けて大きくなったが、先行きの指数が低下していることなどを考慮した。
4月は自動車などの「輸送機械工業」が前月比11.8%増えた。北米に輸出する乗用車などの生産が増えた。アジアで生産されるスマートフォン用の半導体や、大型の液晶テレビに使う電子部材の増産も生産指数を押し上げた。
ノートパソコンがふるわなかった「情報通信機械工業」は前月比20.5%減少した。「一般機械工業」も2.8%減。工作機械の受注減が響いているという。出荷指数は同1.1%の上昇、在庫指数は同0.6%の上昇だった。
一部の企業を対象に生産の先行きを聞く「製造工業生産予測調査」は、5月の生産が前月比横ばい、6月が同1.4%の低下となった。4月に好調だった自動車が2カ月続けて減る予測となっており、「大きく伸びた反動が出そう」(経産省)という。5月と6月の生産が予測通りとなれば、4-6月期は前期比2.0%増となり、生産は2四半期続けて増加することになる。
4月の有効求人倍率、0.89倍 4年9カ月ぶり高水準
厚生労働省が31日発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は0.89倍で、前月比0.03ポイント上昇した。2カ月連続で改善し、リーマン・ショック直前の2008年7月以来4年9カ月ぶりの高水準となった。総務省が同日発表した4月の完全失業率(同)も前月と横ばいの4.1%で堅調に推移したため、厚労省は雇用情勢の基調判断を3カ月ぶりに引き上げた。
厚労省は雇用情勢の判断を「依然として厳しい」から「緩やかに持ち直している」に上方修正した。新規求人数は前年同月と比べ建設業が17.1%増、宿泊・飲食サービス業が15.8%増など大幅に増えた。製造業は2%減で11カ月連続で前年同月を下回ったが、下げ幅は縮小している。
4月の完全失業者数は271万人で、前月比4万人増えた。景気が回復局面を迎えたことで、仕事が見つかる可能性が高まっていると考え、労働市場に参入する人が増えたからだ。
男性は仕事が見つかり就業者が8万人増えたが、女性は「4月は足踏み状態」(総務省)で、5万人減った。男性の失業率は4.3%で0.2ポイント改善したが、女性は0.3ポイント悪化して3.8%だった。
15-64歳の就業率は4月に71.6%となり、比較可能な1968年1月以降過去最高を記録した。女性のみでも62.5%と初めて62%を超えた。夫の収入が伸び悩むなか、家計を補助するため働きに出る女性が増えていることが背景にある。
消費者物価4月0.4%下落 都区部5月速報はプラス
総務省が31日発表した4月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きが激しい生鮮食品を除いたベースで99.8となり、前年同月比で0.4%下落した。下落は6カ月連続。マイナス幅は前月より0.1ポイント縮小した。先行指標となる東京都区部の5月中間速報は生鮮食品を除く総合指数が09年3月以来4年2カ月ぶりにプラス圏に浮上した。
全国の指数を項目別に見ると、4月はテレビが前年同月比16.4%の下落となり、全体の数字を押し下げた。前月に比べて下落幅は縮小してきたものの、なお2ケタの下落が続いた。ガソリンも前年に高騰した反動で、前年同月比2.0%下落した。一方、電気代は電力各社の値上げを反映して4.2%上昇した。
全国の動きに先行する東京都区部の生鮮食品を除く総合指数の5月中間速報値は、99.2と前年同月比0.1%のプラスとなった。前月のマイナス0.3%から0.4ポイント上昇した。電気代やガス代の上昇のほか、テレビが06年1月の前年同月比の公表開始以来初のプラスに転じたことが背景にある。
いつもの通り、いずれもよくまとまった記事でした。記事の引用だけでおなかいっぱい、という感じがしないでもないんですが、次に、鉱工業のグラフは以下の通りです。上のパネルは2005年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。ただし、毎度のお断りですが、このブログだけのローカル・ルールで、直近の景気循環の山は2012年3月、さらに、景気の谷は2012年11月であったと仮置きしています。

鉱工業生産は市場の事前コンセンサスで+0.5-0.6%くらいの増産と予想されていたところ、季節調整済みの前月比で+1.7%でしたから、5か月連続のプラスともあいまって、生産はそこそこ強い数字と受け止めています。昨年のミニリセッション後の回復は前月統計まで緩やかでしたが、単月の動きながら上のグラフを見ても回復が加速したようにも見えます。ただし、引用した記事にもある通り、先行きについて企業は慎重姿勢を崩しておらず、製造工業生産予測調査では2013年5月前月比0.0%の横ばい、6月は▲1.4%減となっています。4月実績の生産を業種別に見ると、輸送用機械工業が前月比+11.8%増と大きく上昇し、また、電子部品・デバイス工業が先月の予測と逆に上昇したことが増産に寄与しており、先月時点では弱気の生産予想だった素材業種に関しても、化学工業以外では前月から上昇しており、底堅い結果となっています。一方、先月時点でも大幅な減産を見込んでいた情報通信機械工業は前月比▲20.5%減と、計画通り大幅な減産を記録しています。先行きも業種別に見ると、鉄鋼業、非鉄金属工業などの素材業種の予想が減産気味となっている一方で、加工業種に関しては大雑把に持直しを見込んでいるものの、輸送用機械工業が5-6月とも減産を見込んでいます。我が国製造業は決して自動車のモノカルチャーではありませんが、かなり影響力の強い産業であることは確かですので、先行きが気にかかるところです。なた、下のパネルに見られる通り、資本財出荷が伸び悩む中で、耐久消費財出荷は順調に増加しており、堅調な家計部門と慎重な企業部門が対照的な動きを見せています。

上のグラフで示した雇用を見ると、失業率は前月と比べて横ばいだったんですが、景気回復が進む中で労働市場への参入が進んでいますし、有効求人倍率が大きく改善しましたから悪くない数字と受け止めています。もっとも、先行指標である新規求人数は連続して減少しているのが気がかりです。引用した記事にもある通り、男女別に見ると、男性では就業者が増加し失業率が低下する一方で、女性は逆の動きを示しています。賃金を見ることが出来る毎月勤労統計がまだ明らかでないので推測でしかありませんが、引用した記事の最後のセンテンスにあるように、「夫の収入が伸び悩むなか、家計を補助するため働きに出る女性が増えている」可能性は否定できません。とすると、雇用については量的な改善が進む一方で、賃金や正規・非正規などの質的な改善が進んでいない可能性が残されています。参考まで、総務省統計局の労働力調査結果によれば、4月の正規比率は64.2%と3月の63.3%から上昇していますが、季節的な動きなのかどうかは判断できません。

消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。4月の全国の生鮮食品を除くコアCPI上昇率は3月の▲0.5%から0.1%ポイント下落幅が縮小して▲0.4%となりましたが、自動車の自賠責保険料の引上げに伴う制度要因であり、4月まではほとんど物価の基調に変化はないと見るべきです。しかし、東京都区部に見られるように、5月はかなりマイナス幅が縮小する可能性があります。主たる要因はテレビの下落幅縮小とガソリンの値上がりなんですが、5月の全国コアCPIはかなりゼロに肉薄し、6月にはデフレを脱してプラス領域に入る可能性が十分あると私は考えています。その後、現在の景気回復に起因するGDPギャップの解消に加えて、電力料金の引上げに伴うエネルギー価格の上昇と円高修正に伴う物価上昇があり、コアCPIは緩やかに上昇するものと予想されますが、これはアベノミクスによる物価上昇なのかどうかは私は疑わしいと受け止めています。しかし、今年年央に物価がそのような動きを示す蓋然性は高く、日銀によるいわゆる「異次元緩和」の効果に見える可能性があります。
取りあえず、今週発表された政府統計からは、第1に、足元で景気が順調に回復を示していること、および、第2に、今日の鉱工業生産指数とともに一昨日の商業販売統計で示された通り、家計部門の堅調な動きに比べて、企業部門の先行き見込みが慎重であること、などが明らかになったと思います。あと1と月すれば6月調査の日銀短観が発表されます。それまでに円高修正や株価がどうなっているのかも含めて、先行き慎重な企業マインドの動向にも注目したいところです。
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